飲食の話
7/30 ●葉生姜とキャベツ



 私は葉生姜に味噌をつけて喰うのが好きだ。関東ではふつうの食である。でもいちど北海道の友人があそびに来たときに出したら不思議がっていたから全国的ではないのかも知れない。「谷中生姜」というぐらいだから関東のモノなのだろう。そういえばTwitterで知りあった大阪のひとも食べたことがないと言っていた。

 妻が生姜好きの私のために栽培してくれた。来日時に私がそれをやっていたのを覚えていてくれたのだ。家の前の狭い畑で私のために栽培してくれた。家族も誰も食べないから、まさに私のための生姜である。



 この「畑の成立」にはちょっとした裏話がある。去年から今年にかけて、村を流れる幅6メートル程度の川(でも水量はたっぷりあり流れはなかなかに峻険だ。メナム川の上流になる)に堰を作り、その落差で集落に水路を廻すようにしたのだ。これは誰が思いついたのか知らないがなかなかのアイディアのように思う。これのお蔭で川から離れている水田もたっぷり水を引けるようになった。ずいぶんと便利になったように思う。

 そのことによって半端な細長い土地が各戸別に出現した。といっても、ものすごくちいさな部分である。家の周囲にコンクリート製の用水路が引かれ、田んぼとのあいだに、田んぼでも道路でもない、それこそ猫の額ほどの土地が出現したのだ。それはその家に属するらしい。するとみな熱心に、すぐにそこに土を持って即成の畑を作りあげた。いやそのまえに細かな石ころやガラスの破片を拾ったり、それなりにたいへんではあった。それまでは誰にも属さないゴミ捨て場のような役立たずの場所だったのだ。でもほんのすこしではあれ、日本的に言うと細長い六畳間ぐらいの広さだったが、みな自分の畑になるのならと熱心に作業した。我が家も同じ。妻も義母も真剣だったので、私も息子も手伝った。

 しみじみ思うのだが、この辺は土地が肥えているのだろうか、それとも植物が強いのだろうか、そのゴミ捨て場みたいだった土地を即製の畑にした、いわば畑もどきは、種をまけば力強く育ち、苗を植えればまたすぐに成育して、なんとも魅力的な畑に化けたのである。どの家も畑は遠いのだが、塀の向こうに、いくらちいさいとはいえそれが出来たのだから、かわいい。どこもかしこも大事にされるあいらしいちいさな畑となった。



 で、我が家の場合も、妻は私の好きな生姜やニンニクを作ってくれ、息子はなぜかさつまいもとカボチャの成育に燃え、義母はとうがらしを作り、それが上手なものだから、ちかくの市場で売り、よい小遣い稼ぎになるというめでたしめでたしの結論となった。

 と「生姜話」が「畑話」になってしまったが、取立の葉生姜を喰うのは格別だ。そしてまたこれは味噌がなければ始まらない。いや生姜だけじゃ意味がない。
 そこで役だったのが「味噌汁の素」だった。今回私は日本から味噌を持ってきていなかった。困った。それで思いついたのが、前回前々回と持参していながら飲んでいなかったインスタント味噌汁だった。それに附いている味噌である。写真。これがパックされているから日持ちもいいし、うまいし、最高だった。「味噌汁は躰にいい。毎日飲むべし」と思いつつ、あまり飲まないいいかげんさが、今回はいい方面に出た。これからもこのインスタント味噌汁は、味噌汁としてよりも、「ちいさくパックされた日持ちする便利味噌」として役立ちそうである。
7/31 ●新鮮でまずい豚肉












8/1 ●牛乳がない!

 これは前々から感じていたことだった。この地には牛乳がないのだ。ごく普通の、昔風のビンでもいいし紙パックでもいい。あのふつうの牛乳がないのである。見かけない。見たことがない。どういうことなのだろう。
 海魚がないのは内陸の奥地であるからわかる。だが牛乳は山奥でも牛を飼っていれば可能だろう。この辺で見かける牛は農耕用の水牛が中心だが、ふつうの肉牛もいる。見かけている。牛肉は出まわっている。水牛の肉も、普通牛?の肉も。
 ホルスタインは見たことがない。それが原因なのか。あるいは牛乳工場がないのか。とにかく牛乳がない。人ごみで賑わうタラート(市場)には肉から野菜、雑貨、何でも揃っている。発展する支那の底力をしみじみと感じる瞬間だ。モノが溢れかえっている。(ただし、安かろう悪かろうが多いが。)
 近年出来た大型スーパーには海魚まで出まわった。冷凍のイカを解凍して、こちらで初めてゲソ焼きを喰った感激は忘れない。しかし、そこまで充実していながら、いまだ牛乳がない。

 妻によると、小学校では、簡単な朝食としてパンと牛乳が出るらしい。なにしろ朝の6時半に登校する。登校してまずはみんなで掃除、7時に朝食となる。7時半から授業開始。その代わり昼食はみな帰宅して摂る。
 息子はその牛乳が大好物だという。もしもそれが本当なら大型スーパーに紙パック入りの牛乳がないはずがない。どういうことなのだろう。息子が学校で呑んでいる牛乳とはいかなるものなのだ。とにかく日本では、というかまともな先進国?では、どこでもふつうに入手出来る牛乳が「この国では」と言ったら語弊があるか、大都市では問題ないので、「この地域」では手に入らない。「この地域」がミャンマーにごく近い広大な中華人民共和国の中でも「辺疆」であるのはまちがいないのだが(なにしろミャンマーに行くのに簡単に発行される中華人民共和国国籍の少数民族用の通行証にも〝辺疆通行証〟と書かれている)、いろんなものがないのならともかく、なんでもあるのにごくふつうの牛乳がないのだから気になる。



 妻に相談してみたら、牛乳なんていくらでもあると言う。あんたも見かけているはずだ、と。いや、しかし、スーパーの冷蔵庫で冷えているジュース類は見かけたが牛乳はなかった。たしかになかった。
 ついでではあるがビールも冷やしていない。毎度書くが支那人にはビールを冷やして飲む習慣がない。冷たいものを腹に入れるのは躰に悪いのだ。まして酒である。冷やした酒なんて言語道断なのだろう。ジュース類が冷やされるようになっただけでも大変化だ。しかしこれもまだかなり変。でっかいスーパーの溢れかえっているジュース類の中の端っこに、ちいさな冷蔵庫がひとつあるだけ。ちいさな商店にある業務用の、あのコーラなんかがいれてあるヤツ。つまり「冷たい飲物が好きだという変人がいるらしいので、そいつらのために形だけ用意した」という感じだ。
 それらから推測するに、おそらく私の気づいていない場所に、あの「ロングライフ牛乳」のようなものがあるのではないか。断言できるのは、日本風の冷蔵庫に入れておかねばすぐに腐ってしまう生牛乳は売っていない。



 ということで数年前に開店した唯一の大型スーパーに行ってみた。これだって羊腸した細道を22キロ走るのだからたいへんなのである。どんなに急いでも40分はかかる。でも懸案の牛乳の件が解決するのかと思えば速断で動く。

 妻の後について行き、見つけたのは、やはりロングライフ牛乳だった。写真のようなごくふつうのロングライフ牛乳はごくわずか。ほとんどは砂糖が添加された「牛乳風飲物」だった。そしてそれらのほとんどは125mlというちいさなものだ。息子が学校で呑んでいるのもそれらしい。牛乳がない、という私の嘆きはやはり正しかった。
 写真は、砂糖などで味つけしていないごくふつうのロングライフ牛乳。賞味期限は3カ月となっている。

 そしておどろくべきことに、写真のコレ、250mlのロングライフ牛乳が1個6元(日本円で100円)するのである。1リットルなら400円になる。日本でこの値段だったら高級牛乳だ。私のいつも行くスーパーだと1リットル158円が最安値である。単純に物価を5倍6倍して考えれば、その異常さに気づく。紙パック1リットルの牛乳が2000円するのである。

 他の飲物と比較しても、ビール大瓶が4元(66円)である。そもそも4元で500mlの高粱酒、アルコール度数38度が買えるのだ。これで男ふたりベロベロに酔っ払える。アルコール度数が弱く、なかなか酔えないから1本4元のビールですら高級品である世界なのだ。なのにそのビールの半分以下の量でビールよりも高いのである。この支那の山奥の地で牛乳というものがどういう位置にいるかがよくわかった。



 ちょうどスーパーでは牛乳の売りだしをやっていた。この250mlの12パック、125mlの24パックが山積みされて売られている。しかし買うのはクルマをもっているような裕福な連中のみ。庶民はちかよらない。かくいう庶民の我が家でも、妻は、息子が学校で毎朝支給される125mlの牛乳もどきが大好きで、そのおいしさを口にし、自分が小柄な分、息子には長身になって欲しいと願っているから、牛乳は背を伸ばすのにはいいのだ、牛乳をいっぱい呑めと口にしつつも、今まで家庭で与えたことはなかったそう。それは私の仕送りの問題であり身につまされるのだが……。



 写真のロングライフ牛乳12パック入りを買ってきた。立派な箱に入っている。それだけで価値が判る。
 帰宅して、妻や息子が好むのは当然として、私の買ってくる物は好まない義父母まで大はしゃぎで呑んだのは新鮮な光景だった。義母は体が弱く、食べられないもの(ドクターストップ)も多く、また彼女自身もそのことにより偏食気味なのだが、大はしゃぎである。たまたま遊びに来ていた義父の姉(おばあさんと言っていい齢である)も、うれしそうに250mlをきれいに飲みほしていた。先日、牛乳を探していて見つけた瓶入りヨーグルト(これはごくふつうのヨーグルトで、とてもおいしかった)には、義父母は、酸っぱい、腐っていると眉をしかめた(笑)のに、えらいちがいである。



 結論として、雲南奥地の少数民族タイ族の連中は、老若男女牛乳が大好き、と知った。そして、それは高級品であり、毎日気軽に飲めるものではないのだと。たしかに、日本の生活で換算したら、1リットル2000円になるから、1日1パックでも毎月6万円の牛乳代となる。貧乏人に出せる金ではない。
 せめてせめて、帰国前にこの牛乳を3個月分買い溜めして、息子が毎日1コ飲めるようにして行きたい。



 なお、牛乳と卵というのは、庶民の台所の優等生というか、損な役回りというか、値段を抑えつけられている。
 日本の私のいつものスーパーだと成分無調整で1リットル158円というのが最安値だ。これは乳脂肪3.8パーセントが中心。私は乳脂肪を添加して8パーセントにした「濃厚牛乳」というのを愛飲している。これはいわゆる加工乳になり真の牛乳好きからすると邪道らしいが、その辺は気にしない。だって自分の舌が成分無調整よりもこっちのほうがおいしいというのだからそれに従う。いつもの例えになるが、果汁100%オレンジジュースよりも果汁0のファンタオレンジのほうがうまいというひともいる、麦芽100%のビールよりも発泡酒のほうが合うと言うひともいる。ひとそれぞれだ。それでいい。
 私はその成分無調整の、たとえば明治のヒット商品「おいしい牛乳」よりも加工品の「濃厚牛乳」のほうがうまいと思うのだから、自分の舌にしたがっている。
 うまいと思わないいつもの1リットル158円の安売り牛乳だが、こちらのこのロングライフ牛乳よりは遥かにうまい。それを確認した。早く日本に息子を呼んで、うまい牛乳をたっぷり呑ませたい。
 8/29 ●インチキマクドナルド体験



















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