2010年5月、妻と話していて、とんでもないことを聞いた。クイクイが死んだというのだ。しらなかった。

 近所の大型犬とケンカして噛み殺されたという。
 5歳になる息子は友人の死に泣きじゃくったとか。

 こどもに犬を奨める英国の格言は、初めてのともだちになる、から始まり、結びは、犬は最後にひとよりも早く死ぬことによって、こどもに死の意味を学ばせる、となっている。

 しかしそれは天寿を全うしたときの話。今回のそれは早すぎる。
 雲南に行く楽しみの何割かが失われてしまった。なんとも残念でならない。

 クイクイは犬嫌いの私に、犬のかわいらしさを教えてくれた最初の犬だった。








 ニワトリと闘うつもりのクイクイ。この辺の軽薄さも大好きだった。



 
 なんといってもクイクイの良さは、いかにも雄らしい雄だったことである。まず好奇心旺盛。どこにでも行きたがる。そしてスケベ。これまた雄らしくていい。男同士、気が合った。

 この当時、私はまだ自分だけの移動手段を持たない。数キロ離れた妻の親戚に出かけるときも、同じ方向の耕運機に載せてもらって移動した。
 クイクイは行くと言う。勇んで飛びのってくる。そして目的地に向かう途中、気に入った雌犬を見かけたらもう耕運機から飛びおりて追い掛けて行く。じつに好ましい好奇心、スケベ魂である。

 しかしさすがに心配にもなる。4キロほど離れた親戚の家で用事も済み、もどってくる。クイクイが飛びおりた2キロのあたりにさしかかる。自力で家にもどったらそれでいいが、だいじょうぶだろうか。
 するとしっかりその辺で待っていて、呼び掛けると耕運機に飛びのってくるのだった。いや正確には写真のように小柄な犬だからそこまでは出来ない。こちらが降りて抱き抱えて載せる。みなそこまで犬を可愛がったりはしない。それをやるのは日本人の私である。犬嫌いなのだが、あちらから見ると私はとんでもない犬好きの、あきれるほどの溺愛型に見えるようだった。

 

 同じ犬でもこちらの雌のニウニウはタイプがぜんぜんちがう。いわばクイクイが浮気男とするなら、こちらは良妻賢母型。きちんと庭という自分のテリトリーを護り、外に出ようとはしない。ほんとにしっかりしたいいコだ。

 ニウニウがきちんとしているからクイクイの奔放型も容認されていたと言える。




























2014年の【追記】──8/13

 2014年、ニウニウはまだ元気だ。バイクで買い物に行ったりしてもどってくると、必ず門扉のところまで迎えに来てシッポを振ってくれる。かわいい。いつも「ニウニウ、ただいま」と言ってアタマを撫でる。そんな習慣のないこちらでは、犬に話しかけ、挨拶をする私は、なんてこいつは犬好きなのだろうと、近所の笑い物になっているらしい。

 私は最初にクイクイと遊び始めたので、クイクイの印象が強烈だったのだが、妻によると、最初にニウニウを孟連の市場で30元で買ったのだとか。妻は容姿が気に入ったらしい。こどものニウニウはきっとかわいかったろう。いまはもう太ったおばさんだが。
 その後、クイクイは知りあいからもらったらしい。そして、ニウニウというのは同居している妻のおいっ子が附けた名前で、かわいい意味あいのようだ。ところがクイクイのほうは、最初に来たときから言うことも聞かず門扉をくぐって夜遊びに行って帰ってこなかったり、問題児だったので、どうやらクイクイというのは良い意味の名前ではないらしい(笑)。今回初めて知った。

 ニウニウはもう8歳になる。クイクイも生きていたら同い年だ。日本なら医者にかかったり虫下しを飲んだりして、8歳はまだまだ元気な齢である。しかしほったらかしのニウニウは、こちら感覚ならもうかなりの高齢だろう。私が一緒にいられるのも今年が最後かも知れない。そう思うと、みんなが寝しずまったあともひとりで毎晩パソコン作業をしているとき、いつも隣にいてくれるニウニウへのいとしさが待つ。(正確にはドアの向こうのコンクリートの三和土にいる。ニウニウは決して室内には入らない。むろん小犬のころは入ってきて叱られたらしい。叱られて分を知った。躾通りに生きている)

 日本からもってきたおつまみセット。私はビーフジャーキーは食べない。最初からニウニウ用。PCからのクラシック音楽を聞きつつのパソコン作業。ふと一息吐いたとき、カフェオレを飲み、見守ってくれているニウニウにもビーフジャーキーをあげる。憩いの時間。いつまで続くだろう。


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