北京天津秦皇島-日記


2003
               謝々、家来福!
      

       


 運良く連泊している旅社の近くにCarrefourがあることを知ったのは望外の喜びだった。フランス系資本の大型量販店である。二年前だったか、日本にも進出して話題になった。チェンマイにもある。私はロータス派(?)なのであまり行かないが。
 これさえあれば何でも揃う。ありがたい。万歳をしたい気分だった。
 いいよねえ、この当て字。「家・楽・福」である。実にめでたく愛らしい字だ。

 さすがに人口一千万を越す首都であり、マクドナルド(麦当蒡)やケンタッキーフライドチキン(肯徳基)もそこいら中で見かけていたから、この種の店があること自体は意外ではなかった。望外の喜びとは私たちの泊まっていた場所がそういうものとは無縁の場所だと思っていたからである。まさか歩いて行ける近くにあるとは思っていなかった。

 なにしろ私たちの泊まっていたのはホテルではなく「招待所」なのである。これ、中国人のための場所で以前は外国人は泊まれない所が多かった。むかしの日本語でいうなら木賃宿か。基本的には今も外国人は泊めない。今回も何カ所も断られ、正規の結婚証明書を見せたりしてやっと入れた。地方から首都に出てきた連中が泊まる場所である。風呂もトイレも共同だ。家族連れがお国訛り丸出しで賑やかにやっていて(賑やかすぎてちと困るが)フツーの支那人と接するには最高の所になる。私の場合は単に宿泊費を節約するためだけの選択で支那人と接したいなどと思っていないことは言うまでもない(笑)。腹立つのはさすがに首都の物価の高さで、そういう場所ですら雲南のバスタブ附き大満足ホテルより高いのである。その憤懣は別項でまとめよう。

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 「謝々、麦当蒡!」に書いたように、マクドナルドがあったことには心から感謝している。ほんとにあれで助かった。かといって昨夜のようにしょっぱくて食えないまずい中国飯に腹が立ち、夜八時にタクシーでマクドナルドを探し回るというのも惨めである。なにしろ広い北京のことであるからタクシー運ちゃんにどこでもいいからマクドナルドに行ってくれと言って走り出しても、いざとなるとなかなか見つからず運賃ばかりがかさんで行く。それに、どう考えてもマクドナルドはわざわざタクシーで乗りつける店ではあるまい(笑)。

 それでもハンバーガーやフライドチキンを大量に買い込みタクシー代を含めて100元の豪華な夕食(?)を取って満腹すると腹も心も落ち着く。しかし親しくなったけなげに働く旅社の娘が月給500元と知れば自分のやっていることの無茶に気づく。食堂で4品5品を並べ立てビール二本を飲んでも二人で40元程度なのだから(それですら贅沢だ)、現地感覚からすればこの100元がいかに狂っているかは言うまでもない。そういう愚行はほどほどにしたいと思っていた。

 なによりあと一週間ほどこの北京の街中で過ごすのに、スティックコーヒーを始めとする生活必需品が底をつき始めていた。カフーのような店に行く必要に迫られていたのである。といっても広い北京をまたタクシーで探し回る気にもなれない。さてどうしようかと思っていたときに歩いて数分の所にこの看板を見つけたのだからその喜びは大きかった。
 こじんまりとしたチェンマイでさえ大型量販店だから郊外にあり、とても歩いては行けない。まして大都市の北京であるからこれは探すのに苦労するだろうなと覚悟していたら、逆にまた大きな地であるから、大型量販店が街中にあるのだった。街中がみんな郊外みたいな(笑)だだっ広い街だから当然か。

 最初「Carrefour」の看板を見つけたとき、「まさか」と思った。その下の「家楽福」の文字をしげしげと見つめる。カフーだよな、あのカフーだよ、綴りがそうだし、あの家楽福ってのも当て字でカフーだろ、間違いないよな、と何度も確認した。
 わくわくしつつ駆け込んだ店内で、世界共通のまばゆいばかりの商品群に囲まれたときの満足感はなんとも言い難かった。まだ確認していない内から、ここなら私の欲しがっている物が揃っていると確信できた。

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 すこしわかりにくいが写っているのは白人である。支那人と支那語に囲まれていると、白人に出会い、英語を聞いただけでほっとする感覚が芽生える。思えばこれも奇妙なものだ。今の日本人には英語のほうが身近ということか。
 国産品、輸入品とあふれんばかりの品物がずらりと並び、いつものことながら圧巻だった。

 茉莉花茶(ジャスミンティー)を買った。私が外人だと解ると英語の話せる娘が出てきてくれた。カタコトだったけど十分に意思の疎通は出来て気持ちよく買い物が出来た。
 このカフーはいつ出来たのだと問う。開店した年月日だ。一年以上前だろうか。何度も訊くが英語では通じない。ひとりの娘がすばやくメモとボールペンを出した。機転が利く。さて、どう尋けばいい? 「開店」と問うたら朝の開店時間を教えてくれた。そりゃそうだ。これは私が悪い。それで「創業」と書いたら通じた。なんともう七年も前だそうな。おどろいた。となると日本への第一号店(いま何号店まで出ているのか知らないが)はほんの二年前だったから、フランスにとって日本はずいぶんと進出しにくい国だったのだろう。

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 なにがうれしいと言って、支那人がレジに一列に並んでいるのが感動的だ。この国の人達は、庶民的な場での買い物から、バス、汽車の切符、飛行機の切符、果ては銀行での大金の預金の場合でさえ、我がちにと割り込む。列を乱す。順番を守るということができない民族だ。そのすごさとだらしなさは呆れるとしか言いようがない。国民性なのだろう。
 それがここでは守っている。ほんと、こんなことですらこの国では感動的なのである。

 大勢の漢人が高級品を大きなワゴンに山盛り買っている。ずいぶんと豊かだなと思う。
 が一歩外に出ると赤ん坊を抱いた女や年寄りの乞食が寄ってくる。貧富の差を感じるときだ。中国は乞食でさえ積極的でしつこくてイヤになる。国民性とは大金持ちから乞食まで共通しているようだ。

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 「出前一丁」があったので買ってみる。日本の日清製粉の製品である。まがい物ではない。こちらの河北省で生産しているようだ。私はタイも中国もカップ麺はだめである。あの味つけが合わない。よって今回は非常用食料としてカップ麺を四個持参した。万が一のためにまだ一個残してある。
 現地生産だから支那人向けの味になっているだろう。期待はしつつも覚悟もしていた。でもこれ、かなり日本的な味だった。私でも食べられる。値段は日本円に換算して100円。だから現地価格としてはかなり高いことになる。

 お目当ての品であったスティックコーヒーを入手する。
 ネスカフェは漢字で「雀の巣」である(笑)。
 部屋にもどって早速飲んでみた。味はまともでおいしかった。タイ製のように甘すぎない。きちんと国によって味を変えていることが解る。これに関しては中国製を支持する。タイのはちょっと甘すぎる。
 11本入って10.5元。170円。30本入りもあったがこれにする。そこまでは飲まないだろうし、いくら安くても日本にもってゆくのも荷物になる。日本から持参した20本を緻密な計算の上で日割りしつつ飲んでいたが、これできょうから心おきなく好きなだけ飲める。「謝々、家楽福!」である。

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 写真の水は1.5リットル入りで1.9元。30円。中国でもやっと水の値段がまともになってきた。
 初めてこちらに来た頃、500cc入りが3元した。ビール大瓶が同じ値段だった。ビールはアルコール度が低い分、ちょいと高級な酒になる。酒とは飲んで酔うものだ。酔えないビールは高級果汁のようなものである。そのビールより水が高かった。

 高粱酒だと500ccで2元以下の物がいくらでもあった。それで酔うことが出来た。庶民の酒である。なのに水のこの値段。いかに「水を売る」ということが奇妙なことであり、まだ商売として未熟だったかである。ほんと、ここ数年の物価で、水の値下がりがいちばん印象的だ。そこいら中で見かけるようになり、誰もがペットボトルの水を持参するようになった。

 カフーであるからしてフランスからの輸入水もずらりと並んでいる。1本20元なんてのもあった。とんでもない値段になる。誰が買うのか。在中国フランス大使館の人なんてのは、フランスの水が恋しいのかも知れない。そんな人か。

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 このオレンジジュースはうまかった。味が濃く、甘く、なんとも濃密なうまさだった。GINを割ってもよし、朝の一杯もよしと満点である。無添加、無防腐剤である。2リットル入りで14元、日本円で200円だから高級品。うまくて当然か。要するに私は中国の味つけが合わないのであって、このように素材だけの物とは仲良くできるのだろう。

 カフーを歩いていると、新鮮でうまそうな魚介類が目立つ。それぞれにとれた地が書いてある。こちらに住んでいて自分で料理したならさぞかしうまいことだろう。よだれが出そうである。すばらしい素材だ。なのにこちらの味つけではまずくて食えない。食とのつきあいは難しいものだとしみじみと思う。

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 両親、姉、結婚に関して世話になった友人達への土産を買わねばならない。なにをどこで買うか悩んでいたがカフーで揃えることにした。一階は食料品や日用品、二階は電化製品、革製品、クルマ用品、旅行用品等が揃っている。
 妻に選ばせる。妻からの土産という名目だ。ありきたりだが父にネクタイとベルト、母にハンドバッグ、姉や友人達にはお茶で統一した。妻が「雲南でなら雲南名産品が買えたのに」と悔しがっていた。もうすこし早く送金して、妻にそれを任せればよかった。まあいずれにせよ品選びは似たり寄ったりだとは思うが。

 マクドナルドやカフーの存在に喜び、感謝し、生き返っているような自分を、あらためて旅の資質に欠けたつまらんヤツだとも思うが、これはこれで正直な気持ちであり、偽ってかっこつけてもしょうがないとより強く思う。そういう自分を貶めたり卑下する必要もないだろう。むしろ旅の昂揚感から自分を偽る(=偽っていることに気づかない)ほうが問題ありとワタシは思っている。だってほんとにまずいんだもん。(03/2/15 北京)

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 カフーはカルフール



 入手した日本語情報誌の地図を見ていたらカフーがショッピングポイントとして掲載されていた。そのことから自分たちのいる場所が北京全体のどのあたりになるのかやっとつかめた。どうやら北京にCarrefourは一店しかないらしい。そりゃそうだろう、あれだけの大型店だ。そうそう出せるものではない。とすると、このだだっぴろい北京市で、それが歩いて行けるほど近くだったのは幸甚だったことになる。
 また、空港への高速道路のすぐ近くであることも確認した。色々と不満もある宿だが、利便な点もプラスに解釈することにしよう。
 タクシーで探し回ったマクドナルドも逆方向のすぐ近くにあるのを発見した。方向音痴の頭の中に、やっと北京の地図が入りつつある。

 その日本語情報誌に「カルフール」とあるのを見て、我が身のタイボケを確認する。
 Carrefourは、フランス語読みだと「カールフール」になる。フランス語はしっかり末尾のRをルと発音する。それをすべて飲み込んでしまうタイ語では「カー(ル)フー(ル)」=「カーフー」になる。私はここで「カフー」と書いているが、それはタイ人にしか通じない表現だった。この日本語情報誌がそう書いているのだから、日本でも「カルフール」と言っているのか。そりゃそうだろね。カルフールなんだから。これなども典型的なタイボケ症状である。赤面ものだ。
  北京語で家楽福の発音は「ジアラフー」である(らしい)。
(2/16 北京)

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 17日(月曜日)に帰国してから13日(木曜日)に出た『週刊文春』を読みたくて探していた。何店もコンビニに寄ってみたがどこにもない。土曜にはもう返品してしまうのだろうか。きょう19日の水曜、明日はもう今週号が出るという日、やっと売れ残っていた一冊をを見つけた。置いてあった場所がへんだったから整理漏れだったのだろう。店員のだらしない田舎コンビニも吉と出ることがある。

 そこに《短期集中レポート「仰天・中国経済ナマレポート」》が載っており、カルフールのことが書いてあった。それによると「現在中国で38店舗、北京に4店舗ある」とのこと。一店だけではなかったようだ。とはいえ入手した市内中心部を描いた日本語情報誌の地図ではぼくの行った一店しか載っていなかったから、記載ミスでないなら、それがいちばん市街地にある店であるのは間違いないだろう。

 この週遅れ文春を読まなかったら、どなたか中国事情に詳しい人が指摘してくれない限り(そんな人がそうそういるとも思えない)、ずっと「北京にカルフールは一店のみ。そのすぐ近くに泊まっていた。ラッキー」と思いこみ、書き続けていた。たすかった。(2/20 日本)



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