秋



●景洪のインターネット

景洪の郵便局インターネット。今年(02)の正月、この一室に六台が並んでいた。
 支払いは20元(300円)のプリペイドカード方式だった。それで何時間分だったろう、一回切りの二時間ぐらいしか使わなかったのでまだあまっているはずだ。
 大学生っぽい連中が多く、タバコを喫うのもいず、雰囲気的にはよかった。客がいないのかなくなってしまったので貴重な写真となった。02年2月2日撮影。



中はこんな感じ。まだディスプレイは14インチの湾曲型だった。日本語での入力は出来なかったが閲覧は出来たので不便は感じなかった。
 小金持ちの娘のようなのが、英語の曲をダウンロードして、大きな音量で聞いていたのが印象的だった。
 プリペイドカード式なので、12桁のカード番号を打ち込み、その後にパスワードを打ち込むのが面倒だった。


ムンラーから景洪にもどってきた。田舎町だと思っていたムンラーは中国の諸都市と同じように再開発が進み新たな町に変身中だった。これは孟連もそうで、中国の昔風の町を見たい人は急いだほうがいい。今中国中に、古い家並みを壊し、道路を拡げ、どこもかしこも同じような街並みの没個性の町(=白タイルを基調にした四角張った町)にする運動が猛烈に進行している。ムンラーのそれでもまだ残っている数少ない古い街並みを撮れたのは幸運だった。

景洪にもどってきてから、毎日インターネット屋探しをやっていた。だいぶ歩き回った。見つからない。最悪の場合、なんて言いかたもヘンだが、今年の正月に行った郵便局がある。それが上記二枚の写真になる。なぜ最悪の場合なんて言うかというと、郵便局であるからして日中しかやっていない。こちらの郵便局は日本よりも遅くまで頑張っているが、それでも七時には閉まる。私の行きたいのは夜である。それと20元のプリペイドカード式もわずらわしい。自分でカード番号を入れ、暗証を入れて接続せねばならない。なにより場所が今泊まっているホテルからは遠い。あの田舎町のムンラーでさえあんな洒落た(?)ごく普通のインターネット屋が近くにあったのである。景洪なら至る所にあるはずと思っていた。

ない。初日、二日目はともかく、毎日二時間ぐらい町をブラついて探したが、三日目になっても見つからないとなるとさすがに焦ってくる。
 昨夜は邪道なのだが、一泊100ドル以上する高級ホテルに行ってみた。すると、毎度の信じがたいことだが、フロントの女が英語がぜんぜん出来ないのである。おもしろい。私の「インターネットはありますか」と言った英語に表情が凍り付いているのだからおかしい(笑)。妻が中国語で説明すると、ああそれのことかとわかったらしく案内してくれた。事務室のような所に一台だけパソコンが置いてあった。値段は1時間10元。市価の3倍から5倍だが高級ホテルだからそんなものだろう。しかしこれ、どんなモデムを使っているのか、CPUはセレロンの400Mhzだったが、遅くて話にならない。未だにアナログモデムを使っていてムンラーのインターネット屋が速いと感激している私が不満を言うのだから本当に遅いのだ。IEを表示するだけでいらいらしつつ待たねばならない。これじゃ連想ゲーム風にいくつものサイトから連結して行きたいところに行き着く私の場合、たどりつくだけで一時間経ってしまいそうである。5分ほどやったところで、遅くて話にならないので帰ると言った。料金を請求されたら、いつでもどこでも泣き寝入りの気弱な私も、さすがにまだ何もしていないから払わないと言おうと思っていたら、言葉の通じない外国人に事務室の中に入ってこられて(一応それは宿泊客用パソコン使用をとりつくろったビジネスルームだったのだが)戸惑っていた連中は、出ていってくれるのは大歓迎と気持ちよく(笑)無料で送り出してくれた。ほんとにもうホッとしているのが見えるのである。私が異形の白人だったらどうしたことか。ま、こういう世慣れしていない姿勢は好きなんだけどね。

このホテルにはボーリング場があった。10レーンぐらいか。誰も客がいないので係員が三人ぐらい飛んできて世話をしようとする。値段を訊いてみると、1ゲーム15元、靴代が5元。1ゲーム20元とすると350円ぐらいになるから日本並みである。やらなかった理由は二つ。ひとつはがら空きで係員が全員暇なものだから、初めてやる妻を誘ったら衆人環視になってしまい恥ずかしいだろう。もうひとつは、つい先日チェンマイで2ゲームだけ投げたのだが、見事に元の100点男にもどっていたこと。さすがに昨年夏にサトシ達と20年ぶりでやったときのガーター連発70点よりはましだったが、あれだけ日々精進して200点を何度も突破し、最高222点を記録し、アヴェレージ170ぐらいまでいった努力はなんだったのだろうと虚しくなった。妻は自分は見ているだけでいいからやれと言った。もしも200点台の力があったら(なくてもまだあると勘違いしていたら)、妻と中国人係員にいいとこ見せてやれとやったのではないか(笑)。下手なのをチェンマイで確認していてよかった。赤っ恥をかくところだった。冷や汗もの。

さあて困った。本格的に困った。高級ホテルに行くのは、あくまでも非常手段としてとりあえず見ておこうと思っただけで假に快適な環境だったとしてもやる気はなかったのである。ところがその非常手段ですらダメなのだ。どうしよう。
 ムンラーでのインターネットとの出会いが僥倖だったことをあらためて思う。さすがにそれはその時から気づいていた。だって偶然旅社の近くにあったあそこに気づかなかったら、ムンラーではインターネットは間違いなくやっていない。毎日町中を散歩したがそんなものはかけらもみていない。あんな高台の外れにある場所によくぞ偶然行けたものだと(単に旅社が隣だった地の利だが)今更ながら思う。

 その僥倖はそれはそれでいいのだが悪い作用ももたらした。ムンラーなんて田舎町で快適な速さでサンスポが読めたものだから大きな街の景洪では我慢が聞かないのである。元々あんなものは「ある」と思うから行きたくなり、「出来る」とわかっているからしたくなるのである。「ない」「出来ない」と確定していれば飢えるほどのものでもない。なにしろ日本じゃほとんどやっていないのだ。こうなったら最後の手段、郵便局だ。ムンラー程度の町でもあったのだから観光都市の景洪に、民間の安いインターネットカフェがないわけがないと執拗に探していたがもう諦めた。かつてしったる郵便局のインターネットに行こう。それでいい。

そう決めた。明日は日曜である。秋華賞がある。そこにファインモーションという秋になって彗星のごとく現れた4戦全勝のスターホースが出る。いやそりゃそんな凄い馬が突然現れるはずはなくデビュー前から話題になっていた逸材なのだが、とにかく競走馬はそんな形の話題馬はいくらでもいて、それが故障を克服して大舞台に臨んできた、ただそれだけでたいしたニュースなのだ。勝ちっぷりも3歳牝馬なのに夏の北海道で古馬を負かしたりして大物感たっぷりだ。そのレースの結果を知るなら月曜だが、なぜにそれを日曜に読みたいと焦るかというと、いかにファインモーションで盛り上がっているかを結果を知る前に読むのが楽しいのである。当然そこにはライバル陣営の強気のコメントもあったりする。今回は消しだなんて予想記者もいたりする。それらを結果が出る前に読むのが楽しい。それは大きな競馬の楽しみだ。


冒頭の写真と同じ郵便局。パソコンは撤去され、こんなふうな電話ブースになってしまっていた。あのパソコンはどこへ行ったのだろう。もったいない。電話ブースがパソコンに代わることはあっても、この逆方向はかなり珍しいのではないか。ともあれ、しみじみがっかりした瞬間だった。

日曜日。そうして最後の手段として郵便局に行った。散歩気分で歩いた。かなり遠い。すると、なくなっていた。パソコンが八台ほどおかれていたブースは、国際電話専用の部屋に衣替えしていた。それが上の写真。たいして儲からないとやめてしまったのか。困った。いよいよ困った。いざとなったらここがあると思っていたのだ。「ない」となると、益々やりたい気持ちが高じてきた。

 思うに、この手の町のインターネットとは、当初「白人観光客Hotmail用」として存在していた。チェンマイも飽和状態といえるぐらい普及して、今は中学生ぐらいの子供が通信ゲームをやったりしているが、初期は、どの店もHot mailをやる白人で占められていた。それを顧客の大半とするなら、景洪にはいま白人観光客はほとんどいない。寒い季節に来たときはそれなりに見かけたが、今はヨーロッパもいい季節だからか、まったくといっていいほど見かけない。これが大理なんかだと一年中見かけるのだが。やはり国際都市(?)昆明からバスですぐに行ける大理と比べたら、昆明からバスで一昼夜、あるいは飛行機を利用せねばならない景洪は外国人にはまだまだ遠い観光地なのだろう。欧州人は汽車旅行を好む。景洪はそれでは来られない地だ。観光客嫌いの私はそれで助かっているのだけれど。

 今回も白人観光客をまったく見かけていない。これじゃ「白人観光客Hot mail用インターネット」は成立しない。ここの郵便局でも、当初は何人かの外人と出会い、彼らは私が英語を話せるものだから珍しがり、ずいぶんと親しく話したものだった。彼らからすれば日本人も中国人も同じようなものであり、ハローも知らない中国人と同じ貌の私が英語を話すことはアメイジング(笑)だったのであろう。白人から中国人と間違われるとあまりいい気持ちはしない。同じ意味で、イギリス人をアメリカ人と思ってはいけないのだと反省する。
 なにがどうなったのか、景洪の白人観光客は増えていない。やがて誰も顔を見せなくなり閑古鳥が鳴いていた。つぶれて当然なのか。すべての物事には存在理由がある。こういう観光地のインターネットのそれは「白人観光客Hot mail用」だとするなら、それが成立しないなら、町中にないのは当然といえる。諦めるしかないのか。

熱烈歓迎国内外朋友。
 こんな垂れ幕のある一角で、インターネット屋がないと途方に暮れていた。国外から来た朋友は困っているぞ。たすけてくれい。












そうして、もうこりゃダメだと思いつつも、まだ諦めきれずしつこく歩いていたら、バシュン、ドキュン、グワシャンと、けたたましいゲーム機の音がする一角に来た。ゲームセンターが集まっているのか。覗いてみる。そこにあった。パソコンは百台ぐらい並んでいた。二十歳前後の若者を中心に全員が通信シューティングゲーム(RPG混じりね)をやっている。ムンラーでもそうだったが、中国ではインターネットは「ゲーム屋」として存在しているらしい。レーゾン・デートルはそこにあったわけだ。それはわかる。料金は1時間2元だ。日本の百円ワンコインのゲームがこちらでいくらかは知らないが、あれのあっと言う間に終ってしまう虚しさと比べたら、通信ゲームを1時間楽しむほうがずっと楽しく、かつ安いのは間違いない。
 すさまじいタバコの煙と爆発音の中で、やっと景洪のインターネットにたどりついたのだった。百人の中で、ゲーム以外のことをやっているのは私ひとりである。ゲームセンターだからして最高齢であることも間違いない。
 ファインモーション人気はいかほど高まっているだろうか。たしか武豊がフランスから乗りにもどってきているはずだ。日本語は使えない。アルファベットを駆使して、いくつものサイトを経由し、苦労して、やっとサンスポのサイトにたどりつく。この辺のテクニックはうまくなってきた。


ごく普通のサンスポの画面ですが、ツールボタンを見ると、そこはかとなく中国のかほりが……。

 異国の片隅でこういうのにたどり着き、日本語が表示されたときの感激は、日本でこのホームページを作ってくれている人にはわからないだろうなあ。この感激と感謝の気持ちを心からの御礼の気持ちを込めて報告したいです。ありがとう。感謝しています。




当てが外れてしまった。あまりにニュースが早すぎたのだ。接続したのはこちらの午後三時、日本時間の四時である。サンスポやニッカンに繋いで秋華賞の盛り上がりを堪能し、結果は明日知ろうと思っていた。なのに、MSNを出し、MSN-JAPANに繋ぎ、そこからサンスポに繋げて本番前の盛り上がりを読もうと思ったら、サンスポの一面でいきなり「速報 ファインモーション圧勝!」と出てしまったのである。早いわ。早すぎる。まだ知りたくなかった。レースが終ってまだ20分ぐらいしか経っていないはずなのに凄すぎる。早すぎる。やはり盛り上がりは前日の土曜に楽しむべきだったか。なにしろこういう速報は、結果だけ知らせて関係者のコメントなどはないから正に生殺しなのである。

 それにしてもフランスを本拠地にして、日本へは出張と言っている武豊はこれでダービー、スプリンターズS、秋華賞とGT三つ勝ちか。もっと? よくしらんけど。一年中日本にいる騎手の面目丸つぶれだ。だけどファインモーションは松永で勝たせたかったけどね。次はどこだ。ファビラスラフインのようにジャパンカップに行くか。としたら見に行かないとなあ。中山の天皇賞・秋とジャパンカップは見ておきたい。
 明日、武のコメントを読むのが楽しみだ。次走のプランも明言されるだろうし。

新日の健介が離脱らしい。長州の新団体に行くのは既成事実だったが、パンクラスの鈴木と出来ないから辞職願いを出したと涙ながらに語られたら鈴木のほうも困るだろうなあ。なんだかこの辺の理由つけはよくわからん。いや、理由つけじゃなくて「理由つけする感覚」が、よくわからん人たちだ。こういうのこそ打破しなければならない旧弊だな。14日は新日の東京ドームか。金髪の蝶野は女と一騎討ち。は〜あ、ストロングスタイル(笑)。
 でも15日にはこのうるさいゲーセンインターネットに来て結果を見ることになるだろう。

その後、讀賣とサンケイを読み、二時間4元でネットカフェ(ゲーム屋だよねえ)を後にした。バリ島での爆破テロが速報で流されていた。なぜバリ島なのだろう。
 ともあれ、インターネットに接続できてよかった。冷静になって考えて見ると、それほど焦って調べることなどなにもないのだが、「ある」はずなのに出会え「ない」ことに焦っていた。

 インターネット屋探しで思わぬ副産物があった。いつも行く「三鮮餃子館」という店がある。景洪賓館の真ん前にある。三年ほど通っていて、店主夫妻とももう顔なじみになり景洪でいちばんのお気に入りなのだが、宿を変ったので離れてしまった。一度だけタクシーに乗って食いに行っている。そこの支店を偶然見つけたのだ。今年の春に支店を出したことは知っていた。しかも裏道を通って行くと、現在宿泊している永盛賓館のすぐ近くだった。歩き回っているといいこともある。(02/10/13 永盛賓館)


 中国でのインターネットに関する不満は、日本語Viewが整備されてないから、いちいちそれをダウンロードせねばならないことである。容量は2.8メガで通信スピードは速いから(すくなくとも私の環境よりは)ほんの三分ほどで完了する。一時間3元(50円)ほどのインターネットで三分ほどの我慢だからたいしたことではないのだが。
 それでも、ムンラーでしても景洪に来るとまた新たにせねばならないし、そしてまた景洪でも、店が変われば新たにせねばならないし、店が同じでも、ダウンロードしたパソコンが使用中で、違うのを使う場合、また新たにせねばならない。さらには、そこからまた読みたい産經新聞やサンスポにたどりつくのがまた一苦労だから、けっこう面倒ではある。
 さいわいにもここ数日連続して通っている店では、「日語」をダウンロードし、産經やサンスポをお気に入りに登録した16番の機械が空いていることが多いので重宝している。もう一軒の店は、同じように自分用にした19番がガキンチョのゲームに使用されていることが多く、行かなくなってしまった。

 この店は、現在宿泊しているところから歩いて15分程度離れている。散歩がてらちょうどいいのだが、より近くにあればそれに越したことはない。近所を散策していたら、旅社から三分程度の所にインターネットを発見した。ちょっと気づきにくい場所だ。店も静だし、ガキはいない。なんとなくオトナっぽくていい。早速入り込んだ。
 しかしこの店、MSN-Japanに接続しようとすると、閲覧用に「日語」をダウンロードしろと出る。これはどこも同じなのだが、了解してダウンロードしようとすると、「不可」と出てしまうのである。何台かでやってみたが同じだった。店のあんちゃんも詳しくなく首をひねるばかり。
 よって15分歩いて行くいつもの店の16番に落ち着いた。22日に帰るまで毎日通いそうである。ローマ字しか書けないが、バンコクで働いているkiwiさんに連絡した。きょうは後藤さんがメイルをくれていたので返事を書いた。後藤さんは船戸与一の作品について質問してきていた。たどたどしくそれにローマ字で応えるのも苛立つものである。そのことに詳しいのでいくらでも教えたいのだが、百書きたいのに書き込む早さは一なのだから。

 尚、ゲーム専用機のようなものであるから、USBどころかフロッピーもCDプレイヤーもついていない。ここからホームページをアップするなんてのは夢のまた夢のようだ。(02/10/16 景洪)


 いつものインターネット屋。愛機の16番。kiwiさんにメイルで、「MS-IME Japan」のダウンロード先を教えてもらったのでやってみる。すると「不可」「非法」と出てしまいフリーズする。再起動である。もちろんOSは私の大嫌いな98だ。三度やってあきらめた。まあ日本語で文章を書く必要に迫られていないのでたいした問題ではない。

 今回の場合、日本語IMEとして、kiwiさんが作ってくれたフロッピー、親切にも後藤さんが田舎の家に郵送してくれた8センチCDがあったわけだが、どんなに便利なそれらも、接続できないパソコンでは役立たないのだと勉強になった。繰り返しになるが、フロッピーもCDプレイヤーもついていないのである。

 世界各地、どこにおいてもインターネットカフェは、その名の通りインターネット用に存在するのだろうが、中国の場合は、あくまでも通信ゲーム用ゲームセンターであり、インターネット接続は傍流である。実際周囲を見てもそんなことをしているのは私しかいない。思いこみは禁物だ。

 16番の塞がっていて、どうしようかなと戸惑っていたら、経営者の若者が、使用している中国人若者に「この日本人のために機械を替わってくくれないか」と言ってくれた。彼は単にゲエムをしているだけなのでたいした問題ではない。気持ちよく替わってくれた。ありがたい。今回はすこし中国人を好きになるようなことがいくつかあってうれしい。
(02/10/18 景洪)


●日々の音楽

毎度おなじみの旅先での私の仕事環境、パソコンですが、前回とはスピーカーが替わっております。今回ののほうがデザインはいいですが、前回のもののほうが音はずっとよかったですね。替えたくはなかったんですが。
 リストパッドはなくても大丈夫なようだと判断して持ってゆきませんでした。


今回、上記写真のスピーカーを買うのにちょっと難儀した。といってもたいしたことではない。適正価格を知っているからボリ値段に納得出来ず、買うまで手間取っただけである。この問題は難しい。たいした金額ではないから、ついつい妥協してしまおうかと考え、それではいけないのだと思い直す。お金ではなく、旅に対する考えかたの問題になってしまうからである。
 
 購入した左記のものは40元(600円強)である。適正と納得して買った。景洪だった。
 妻の家に置いてあるものを、会うときにいくつか持ってきてもらう。今回唯一彼女が忘れてしまい困ったのがこれだった。一応スピーカーは持ってきてくれたのだが、それは能力が低く使い物にならない奴だった。値段が安いし、こういう性格だから、いいなと思うといくつでも買い込む。どれが私のお気に入りで能力が高いか妻はわからない。それはソニーの製品と同じぐらいの大きさで(小さい。写真の製品の半分以下)、デザインがよかった。それでついつい思いつきで買ったのだが(孟連)、考えてみたらただのスピーカーでありパワーアンプが附いてないのである。パソコンのイヤフォンジャックに差し込んでも音は大きくならなかった。今回、ムンラーで捨てた。

 ムンラー、景洪で、写真の製品と同じものを倍の80元で売られそうになることが多く断ってきた。これ、初めて買うなら80元でも1200円程度だから、なんて安いんだろうと喜んで買ってしまうだろう。でももうこの種の買い物に関して初心者じゃない私は、それが見かけは中国人でも話すとすぐに外人とわかる私にボってきた値段だとわかるのである。中国はボってくる。たぶん「だまされる奴がバカ」という解釈が正当に成立している国なのだろう。過日、シャツを一枚買ったが、店の人間は65元と言った。私は適正と思い買おうとしたが妻が交渉を始め、結局35元になった。こういうのを見ていると、言い値で買うのがバカらしくなる。といって私は値引き交渉は嫌いである。なによりめんどくさい。沢木さんの「深夜特急」に、インドで一時間も老人と値切り交渉をする場面がある。買う気など元よりない。値切り交渉そのものが楽しいのだ。これが私の言う「旅の資質」である。私にはない。

 正直に言って私はそういうことにものすごくいいかげんな男である。旅に詳しい人が「価格破壊」と日本人オヤジの言い値での買い物や、チップ乱発に怒ったりするが、私はそういうオヤジに近い。しかも、それが間違いとわかっていて、言葉も話せるのに、交渉が面倒だからとやってしまうのだから、何も知らずにだまされる人よりもっともっとタチが悪いかも知れない。

 これの場合もどうでもよかった。だってたかが1200円である。ムンラーで買いたかった。ムンラーの旅社でスピーカーから音楽が聴きたかった。ヘッドフォンに倦んでいた。大気を伝わる音楽が部屋に欲しかった。飢えていた。それでも私には珍しく、「後々の旅人のためにも、ここで妥協するのはよくないことだ」と80元を拒んだ。「よくやった」と誰でもいいから褒めて欲しいところである。ほんとに私にしては珍しかった。その時もうスピーカーで音楽を聴きたい欲求は極限まで来ていた。よくぞ断ったと、誰も褒めてくれないから自分で褒めてやろう。
 それをしたのは、ムンラーで日本人をまったく見かけなかったからだ。市場のおばばは私にどこから来たと問い、日本と聞いて、ラオスかと結論していた。田舎者日本人にとって白人は皆アメリカ人になってしまうように、彼らにとって異国とはまず隣のラオスになる。日本を知らない人も多かった。よっていい加減な私も、後々の日本人旅行者のために、ボり値段に納得せず頑張ったのである。

ところで、そのとき値引き交渉の出来る私の妻はどうしていたのかと問われそうだ。彼女が交渉出来るのは衣類や食品のような自分のわかるカテゴリーのみなのである。こんなまったく知らない電気製品になったら、たちまち彼女はボられる側に回ってしまう。私以下である。まったく頼りにならない。これの時も言われるままの値段に黙って納得していた。私がこれを高いと判断して拒んだのは適正価格でバンコクで買った経験があったからだった。バンコクで200バーツなのだから、中国元では40元のはずだった。なぜならこの種の製品は中国製が多いのである。中国が今、安物製品の「世界の工場」であることは間違いない。

 景洪にもどってきて、市場の何でも屋でこれを見つけた。訊くと50元だと言う。40元にしろ、だったら買うと言ったら喜んで下げたから本当はもっと値切れたのだろう。輸入品を売るバンコクで40元なら製造元のここなら30元のはずだ。こちらとしては80元の半分であり、バンコクとの比較で適正と思える値段で買えたのだから文句はないが。


左は、今回チェンマイで買ってきた違法コピーCD。KITAROは14枚アルバムが入っている。初めて買った。聞いたことはないのだが、太極拳をやる連中がBGMとしてよく流していたので(笑)、試しに買ってみた。午後の時間に、読書のBGMとしてなかなかよろしい。


チェンマイで。部屋でこれを流していたら、音楽をまったく知らないTさんが、シルクロードのテーマだねと指摘したので驚いた。ヴィデオを何度も見たのでBGMとして覚えたと言う。そんなに有名だったんですか。kitaroさん、お見それしました。


 隣のジプシーキングスは定番。「北陸ドライヴ旅行」で聞きたいと思いつつ聞けなかったので買った。アルバムは13枚入っている。共に120バーツ。バンコクなら100バーツだ。たまんないよねえ、これは。悪いこととは知りつつも……。

 これを假想CD-ROMにしてThinkPadに入れていった。スピーカーを買う前からヘッドフォンで聞いていた。なかなかいい感じである。でもやはりスピーカーを繋ぎ、空気中に音を流すと別格である。鳥かごの中の鳥と大空を自由に飛び回る鳥ぐらいの差がある。

 「究極のウォークマン」に、現在のノートであるThinkPadに、10枚前後の音楽CD-ROMを假想CD-ROMにして収めているかのように書いたが、事情は少し違ってきている。日々インストールするアプリケーションも増えるし、辞書類に加え、ホームページ用の素材CD等を假想CD-ROMとして収納するようになったので、音楽用のスペースは 20Gのハードディスクの内、2G程度、CD-ROM三枚分ぐらいしかない。実際問題として、パソコンで音楽聴く場合、CD収納専用80Gハードディスクのデスクトップで聞くことが多いので、ノートパソコンで音楽を聴くのは旅先の特殊な状況のみである。よって今回も、ThinkPadに入っている音楽は、急いでチェンマイで作った上記の2枚のみであった。それでもアルバム27枚が入っているのだが。
 今の私の懸案は、ThinkPadのハードディスクを40Gに換装することだ。


それだけじゃあ足りないから中国で買い求めることになる。
 左は景洪で買ったCD。毎度おなじみ定番のテレサ・テン(照笑)。何種類も揃っていて「亡国の頽廃的歌手」として大陸では発売が禁止されていた昔が嘘のよう。中国はずいぶんと自由になった。タイトルは「逝去的聲音」。テレサのCD、もう何枚買ったろう。
 私はテレサの声と歌唱力、中国語の歌が好きなので、こういう場合、知っている曲は聴きたくない。見知らぬ中国のヒット曲なんぞを聞いていい気持ちになっているところに、「北国の春」が流れてきたりするとしらけてしまう。中国語ではあるけれど。

 かといって知っている曲を歌われることに否定的なのではない。サントリーウーロン茶のCMにかわいい中国語で歌われる「鉄腕アトム」があった。あれはいいなあ。マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」篇てのもあった。あれなんか市販されていたらすぐにでも買う。テレサはやってないみたいだけど、中国の声のいい女歌手が、欧米のスタンダードナンバーを中国語で歌っているアルバムはあるのだろうか。今度探してみよう。ぜひ買いたい。


最近、日本でも二胡が「癒しの音楽」として話題になっている。これは当たりだった。

 擦弦楽器の音は撥音楽器と違って人声に近く感情に訴えてくると言われている。
 私は心寂しいとき(笑)、よくヴァイオリンを聞く。しかしヴァイオリニストのソロには、必ずと言っていいほど、これでもかというほどの速い情熱的なパッセージの曲が入っている。これはぬるい湯を長湯で楽しんでいたところにいきなり大量の熱湯が迸り始めたようなもので、まことによろしくない。
 その点この二胡のアルバムは、本来そういうタイプの楽器でもないのだろうし、これでそういう音楽にチャレンジすることにも意味がないのか、いかにもそれらしいゆったりとしたものばかりが集められていて実に好ましい。景洪の昼下がりに流すBGMとしては最適である。仕事をやる気にはならないが(笑)。でもいい。ブームであることが本当によくわかる。共に二枚組CD。ワンセットで24曲ぐらい。それが15元だから250円。ああ、物価が違うってことはなんてすばらしいんでしょ。


もう一枚、同じような癒し系と勘違いして「陳美」って名前の女ヴァイオリニストのアルバムを買ってみた。これはやはりかなり熱湯が入っているようなので、またの機会に聞くことにしよう。今は二胡ののんびりムードがいい。いや、書いていて思ったが、今の私はぬるま湯ではなく熱湯を被るべきなんだろうな。すこし反省。この女、どっかで見たような気もするが思い出せない。日本で聞いたことがあるのか?

後日註・
陳美ってヴァネッサ・メイだよね。なにボケてんだろう。今年いくつかな、24ぐらいか。美人でスタイル抜群の天才ヴァイオリニストとして有名な人だ。ロンドンフィルでの演奏は史上最年少だったか。シンガポール生まれの華僑の娘で現在は英国籍。しかしまあ判らなかったなんてほんと恥ずかしい。だけど陳美って名前で中国人ミュージシャンの棚に並んでいたから地元のミュージシャンなのだろうと勘違いしてしまった。それぐらいまあ深く考えずにいきとります。恥ずかしい。惚けてる。


これは妻が買って聞いていたもの。モーニング娘系の音楽。
 今アジアのこの種の文化伝播は非常に速く、韓国、台湾がすぐ真似るのはともかく、タイや中国もすぐに同じ流れになる。愕くほど似たようなことをやっている。これは三人娘のそれ風の音。「青春株式会社」ってタイトルが笑わせる。いきなり最初のちょいロック系の歌が聞いたことのあるメロディだなと思って考えたら、白鳥の湖」だった。あのメロディをロック調にして歌詞を当てはめていた。いやはやなんとも。
 一昨年、タイでも雲南でもあのポックリ厚底靴が流行ったが今は絶滅した。昨年の夏、チェンマイの女子大生がローライズジーンズを履いていて、早いなあと思ったものだったが、今年は雲南でもみなそうである。娘達のオシャレ感覚は同じだ。


タイや中国でイージーリスニング用にギターやピアノのCDを買うと、必ず「禁じられた遊び」や「エリーゼのために」が入っている。しかも真っ先に「入ってますよお!」と強調されているから、これを求める人が多いということなのだろう。今更聞きたくない私は鼻白んでしまう。日本でも「ギターの名曲→禁じられた遊び」って人は未だに多いのだろうが、ちょうどこちらは今、そういう時期のようだ。

 浜田光男と吉永小百合で映画化された「愛と死を見つめて」が映画化されたのは何年だったろう。昭和三十年代だよなあ、四十年にはなってないだろ。テーマ曲がレコード大賞を受賞したのは覚えている。あれが第一回だったか。いや違うな、第一回は「黒い花びら」だ。昭和34年か。「愛と死を見つめて」は何年だろう。帰国したら調べてみよう。顔面骨肉腫のミコのために、マコが公衆電話から弾いて聞かせるのが「禁じられた遊び」だった。名作映画「禁じられた遊び(1951年)」のテーマ音楽。正しい曲名は「愛のロマンス」。奏でるはナルシーソ・イエペス。私が一所懸命練習して弾けるようになったのは中学二年の時だった。

後日註・
愛と死をみつめて」がレコード大賞を受賞したのは昭和39年。東京オリンピックの年。歌手は青山和子。見事なまでのこれ一発の歌手。映画には関係なく、この受賞はTBSのテレビドラマ「愛と死をみつめて」(大空真弓、山本学主演)の主題歌とか。レコード大賞はTBS主催であり、当時は今よりももっともっと局の仲は険悪だった。他局のドラマの主題歌だったならどんなにヒットした曲でも受賞しなかったろう。映画も同年の作品。


 私がタイや中国の旅先で「禁じられた遊び」や「エリーゼのために」等を聞くことを嫌うのは、つまりそういうあまりに強烈な「時代の思い出」を持ちすぎているからである。旅先でそういう音楽を聴き、中学時代にもどっていてもしょうがない。空想の世界に飛び込んで小説を書こうと思っているときに、関係ない時代にレイドバックするのは障碍になる。いつの日か意図してもどりたくなったとき、一瞬にして時空を飛び越えられるアイテムとしてはまことに有効と言えるのだが。

その国の人のセンスってのはB級、C級のメディアにこそ現れる。タイのAVには、延々とその現場のBGMに「エリーゼのために」や「乙女の祈り」を流すモノがけっこうある。あとは「クラプトン」と「ケニーG」だ(笑)。あれじゃ勃つべきものも寝てしまう。そういうものがけっこうあることを知っているのは、よりけっこう観ているからであって、こういうのを語るに落ちたという(笑)。それはともかく、そういうださい感覚は日本の裏ヴィデオでも強かったから他国を笑うことは出来ないか。ヤクザの音楽センスってのは世界中あんなものなんだろう。

 とはいえ日本だって「ギターの名曲」「ピアノの名曲」で真っ先になにを思い出すかと街角でアンケートしたらまだまだ同じようなものなのかも知れない。でも全般的にタイ人は音楽のセンスは悪い。フィリピン人が優れているのと対称的だ。そこが愛しい。これは私がチェンマイを気に入ったのが、ゴーゴーバーで「ビーナス」やCCRを流していたってことに通じる。だから貶しているわけじゃない。

 帰国の日も迫ってきた。明日は、このゆったりした音楽ではなく、気分転換に、パッショネイティブなものを聞いてみよう。(10/19 景洪 永盛賓館)

「究極のウォークマン」



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