日記01夏


 
          (自転車と携帯電話。昆明の街角から)




昆明に着いたら、まずは中国銀行本店に行きキャッシングをして行動資金を作る。ぼくは今クレジットカードをダイナース一枚しかもっていない。圧倒的にVISAの強いアジアでは苦労するが最近頻繁に行く中国では意外に使える。

チェンマイ日記「クレジットカード雑感」

 ところが今年(2001)の六月、昆明の中国銀行本店に行き、いつものようカードとパスポートを提出してキャッシングしようとしたら係の男性行員から出来ないと言われる。ぼくの中国語ではうまく話が通じず、彼の英語もまた英語以前のしろものなので困っていたら、店の奥からひとりの女性を連れてきてくれた。彼女は英語が巧く、やっと事情を理解できた。

 雲南省でぼくよりも英語の巧い人に会ったのは初めてだった。これはぼくが英会話の達人であるという意味ではなく、中国雲南省の庶民的な場には、英語の巧い中国人はいないということ、そしてまた、ぼくなんかより巧い人はいくらでもいるだろうけど、そういう人と接する場所にぼくが行っていないということでもある。

中国口論「英語」


それがなぜなのかはわからないのだが、彼女が言うには「今年一月からダイナースカードでは店内でのキャッシングが出来なくなった。その代わり、表のATMで使えるようになった」らしいのである。
 これはすこし考えればヘンだとわかる。カードでキャッシングできていたものが、店内でパスポートも提出しないと出来なくなったというのならわかる。なんらかの問題が生じ、簡単が難儀になったわけだ。でも今まで難儀だったものが簡単になったことはわかるが、もとの難儀の方法では出来なくなったというのはおかしい。以前と同じようにパスポート提出でも出来るが、今は便利になってATMでも出来るようになった、でなければ筋が通らない。でしょ!? たとえば、店内でも自動販売機でも買えるジュースが、自動販売機では買えるが店内では売ってないってのはヘンだ。そんなもんである。

 しかも「いまATMは手直ししているので使えないが、明後日からなら確実に使える」と言う。なんか不安になる。
 ぼくは彼女に言った。「あなたの言うことが正しいのなら、私はあと二日この街に宿泊し、機械の直るのを待つ。それはそのATMでキャッシングするためだけだ。もしも出来なかったら、私はお金がなくて旅行できなくて困ることになる。本当に本当に、ATMでキャッシングできるのですね」と。
 彼女は絶対大丈夫、保証すると言った。それでぼくは居たくもない昆明に、あと二日間いることにした。

「昆明嫌いの西双版納好き」の理由は、昆明は漢民族の町であり、西双版納は泰族の町ということだ。
 ひとつ例を挙げると、昆明だと街角の庶民的食堂でビールを飲もうとすると、棚にあるホコリをかぶったビンが出てくる。もちろん生ぬるい。コップはなくて、代わりに欠けたドンブリが出てきたりする。昆明の街角でぼくはよくそれをやっていた。なにしろ三度の飯にお茶代わりにビールを飲む。
「あっ、そういうのもいいな」と思う人もいるかもしれない。ぼくも最初はそう思った。「ビールの本場ドイツやベルギー、イギリスにだって冷やさないビールはあるしな」と。ぼくはベルギーで百種類近くのビールを飲んでいる。ビールはベルギーなのである。ビール会社で何年かアルバイトをしていたこともあって、ビールにはうるさい。そういう観点からは、「雲南で欠けて黄ばんだドンブリでビールを飲む」なんてのも「世界ビール行脚」のフィールド・ワーク(?)のひとつになる。初めて行ったころはそんな環境にむしろはしゃいでいたぐらいだ。

 しかしねえ、バスト百、ウエスト百、ヒップ百のネーチャンも一回ぐらいは物珍しくていいかもしれないけど生涯連れ添うとなるとその趣味の人でないとちとつらいように、こういうの飽きてくるわね。いやんなってくる。キンキンに冷えたビールを、よく洗い乾かした透明に澄んだコップ(ビールのコップは拭いちゃダメね、逆さにして水切りするのが常識)で飲みたくなる。
 支那人は冷やしたものをお腹に入れない。それはそれで医に沿っている。よいことだ。
 タイ人は「暑いときには冷たいことこそ快感」の人たちである。だから漢人の町・昆明から泰族の町・西双版納に行くと、様相がガラリと変るのである。街角の安食堂でもビールが冷えているのだ。これには感激したっけ。ま、この辺のことに関してはまた書くこともあるだろう。


ぼくは銀行を出て、外にあるATMに行ってみた。なぜかきょうはダイナースは使えないらしいが、明後日には世話になるATMである。下見をしておこうと思った。それが下の写真。そしてこの小ネタのテーマである。

 銀行のATMの操作ボタン。

 更正はCLEAR。
 ENTERは輸入。


 日本語と感覚が違うのでぼくには新鮮だった。悪いことをした人が罪を償った後に、「更正しろよ」なんて言うが、あれは本家の感覚で言うと、「今までの人生をクリアしろよ」ということになる。CANCELの取り消しが日本と同じだったことから、よけいに印象的だった。
 昆明の中国銀行でお金をおろそうとして、手元のこれを見た。へえ、そうなのかと思って撮ったという、それだけの話なのだが。

おっかなびっくり、一度だけカードを入れてみた。経験のある人ならわかってくれると思うが、これ、かなり怖いのである。外国のATMは、カードを吸い込んだまま出てこなくなったりする。そして必死に抗議しても、二三日またされたりするのである。ぼくは過去にバンコク、チェンマイ、香港で経験している。かなり困った。腹だった。それでもそのころはクレジットカードを十枚以上持っていた。代わりがある。今はたった一枚だ。これがヘンな形で吸い込まれ、うんともすんとも言わなくなったら、とんでもないことになる。だから、使えるかどうか試さねばと思ってやったのだが、ほんとに怖かった。無事「現在このカードは使えません」という表示が出てカードが返ってきたからよかったものの、この状態ではやるべきではなかったように思う。
 写真には写ってないが、このATMに使えるカードの種類としてダイナースのロゴもあった。明後日にはなんとかなりそうだと期待した。

ぼくはこの後、茶花賓館で、この機械でキャッシングするためだけに、つまらない二日間を過ごす。ThinkPadがあったからなんとか過ごせたものの、実につまらない、空回りのようなもったいない時間だった。
 そして二日後、見事にキャッシングは出来なかった。いまさら抗議する気力もなく、ぼくは昨年(00秋)と同じように、東京に国際電話をかけて、出版社の友人に中国銀行への送金を頼んだのだった。
(01/7/29 )


チェンマイ日記「2K秋外伝-13.窮余の一策」



inserted by FC2 system