「ほう」と「かた」

日本語にあまり漢字を使うべきではないと言う高島さんの教えを忠実に守るように心がけている。とはいえ商業文では、私のような非力な物書きは出版者側の画一的方針に従わねばならないので、せめてものホームページでの憂さ晴らしでしかないのだが。

 それでも商業文においても、より読みやすい書きかたに関しては我を通させてもらおうと思っている。
 そういうこだわりをいくつか思いつくたびに書いてゆこう。とりあえず「ほう」と「かた」をまず取り上げることにした。漢字で書くと「方」である。

漢字であるから「方向」「方角」のような「ほう」はもちろん正しい。しかし「やり方」「言い方」「考え方」のような場合の「かた」と読ませるのは「和語の当て字」になるわけである。これは高島流に反する。
 よって使わないようにするのだが、こういう場合、「簡単な字なのにどっちにも読める」という問題のほうが重要だ。これは私にとって重要課題になる。たとえば「入る」に「はいる」と「いる」があるように。
 前記「問題のほうが重要だ」のような場合も、私はカナの「ほう」を使っている。これは「方はほう」としているのだから、「問題の方が重要だ」でいいのだが、どうもここに漢字を使うことを美しいと思えない。

 「方」の字は「ほう」に徹することにして、「かた」からは撤退してもらうことにした。
 「いいかた」は「言い方」を廃し、「言いかた」に徹底する。「言い方」とあった場合、まず誰もが「いいかた」と読むだろうから問題ないとしても、もしもこれが「良い方」だったら、これは「よいほう」「いいほう」である。
 でも、「あの方は良い方で」の場合は「かた」になる。この場合、私流だと「あのかたはよいかたで」になるが、すこしは漢字がないと読みづらいので、「あのかたは良いかたで」にする。ここがむずかしい。「よいかた」と書きたいのだが、いくらなんでもひらがなばかりになるのは問題だ。ハングル偏重主義を嗤えなくなる。

「方」は使い道が広い。『広辞苑』によると(と、ここのところ『広辞苑』からのコピィが多いので信者と思われそうだが無論そうではない。私はアンチだ。他に適当なのがないのだ。『大辞泉』の復活が待たれる)以下のようになる。

かた【方】
〓方位。方角。方向。方面。竹取「唐の―に向かひて伏し拝み給ふ」
〓所。場所。蜻蛉中「いかで涼しき―もやあると」
〓手段。方法。源若紫「ともかうも、ただいまは聞えむ―なし」。「無念やる―ない」
〓(動詞連用形について) しよう。しぶり。方法。また、すること。「話し―」「撃ち―止め」
〓仲間。組。源賢木「左右にこまどりに、―分かせ給へり」。「東―」「味―」
〓それに関係する人。それをする人。かかり。「寺―」「囃子(ハヤシ)―」
〓頃。時分。伊勢「神無月のつごもり―」「暮れ―」
〓人。敬意をもっていう時に用いる。「あの―」
〓住んでいる所。身を寄せている家。「何某―」


 いやいや小学館国語辞典だって使えるんだった。こっちにしよう。嫌いなんだから『広辞苑』はやめないと。

かた【方】

かたⅠ
1 方向を示す。①(その方向に存在する具体的な物の名などを連体修飾語として伴って)その方向。*古事記‐中・歌謡「はしけやし我家(わぎへ)の迦多(カタ)よ雲居立ち来(く)も」②方位。方位を示す修飾語を伴うことが多いが、陰陽道でいう場合などは、単獨で用いる。*竹取「此の吹く風はよきかたの風なり」*枕‐一六一「職の御曹司をかた悪しとて」

2 その場所や地点。①(人を表わす連体修飾語を伴って)その人のもと。*伊勢‐一九「昔、をとこ、宮仕へしける女の方に」②場所。*土左「霜だにも置かぬかたぞと言ふなれど」

3 二つに分かれたものの一方。①一方の側。人数を二組に分けたりする場合にいうことも多い。組。仲間。*万葉‐三二九九(或本歌)「此の加多(カタ)に我は立ちて」*源氏‐絵合「ひだりみぎとかた分たせ給ふ」②(その組、仲間の意から)味方。*毛詩抄‐一六「かまいて二心せいで武王のかたをせい」

4 抽象的に、ある方向をさし、その方面に関する事物を表す。連体修飾語を伴う①その方面。それらに関する点。*枕‐三三「烏帽子に物忌つけたるは〈略〉功徳のかたにはさはらずと見えんとにや」*更級「宮仕への方にも立馴れ」②そのような有様、様子、おもむき。*源氏‐帚木「おのづから軽(かろ)きかたにぞおぼえ侍るかし」③そのようなこと、もの。*枕‐一一九「思ひかはしたる若き人の中の、せくかたありて心にもまかせぬ」*徒然草‐七五「まぎるるかたなく」

5 方角を示すことによって、間接的に人をさしていう。敬意をもった表現で、方角、場所などを表わす連体修飾語や、その人の呼称を表わす語を伴ったり、敬意の接頭語が付いたりする。⇒おかた, おんかた。「あちらの方はどなた様ですか」

6 手段。方法。やりかた。「やる方なし」*宇津保‐吹上上「ゆく春をとむべきかたもなかりけり」

7 (時間的な方向の意から)頃。時節。*枕‐三〇一「いかにして過ぎにしかたを過ぐしけん」

Ⅱ 〔接尾〕
1 方向を表わす。「いずかた」「ことかた」など。

2 名詞や、動詞の連用形などに付いて、ある一方の側、またそれに属する人たちを表わす。「売りかた」「買いかた」「相手かた」「母かた」など。⇒方(がた)2。

3 他人の氏名などにつけ、その人のもとに身を寄せていることを表わす。

4 名詞の下に付いて、それをする係りであることを表わす。主として近世に使われた表現で、敬意は含まない。「まかないかた」「会計かた」「衣装かた」など。

5 人を数えるのに用いる。現在ではきわめてていねいな、改まった表現で、「一(ひと)」「二(ふた)」「三(さん)」に尊敬の意を表わす接頭語「お」をのせた形にだけつく。「おひとかた」「おふたかた」「おさんかた」など。

6 数量などを表わす名詞に付いて、だいたいそのくらいの意を表わす。⇒方(がた)4。「デパートより二割かた安い」

7 動詞の連用形に付いて、それをする方法の意を表わす。「書きかた」「作りかた」「教えかた」「買物のしかた」など。

8 動詞の連用形、また動作性の漢語名詞に付いて、それをすることの意を表わす。「打ちかたやめ」「事件の調査かたを頼む」

晢あく 陰陽道で、方塞(かたふたがり)が除かれる。
晢が付(つ)く 物事の処理が終る。落着する。きまりがつく。「事件のかたが付く」
晢が塞(ふた)がる  1 陰陽道で、その方位が塞がりとなる。 2 その方向へ行けなくなる。不義理や仲違いなどをして、その人の所へ行きにくくなる。
晢を付(つ)ける 物事を処理する。きりをつける。
晢を塞(ふた)ぐ  1 陰陽道の方塞(かたふたがり)となる方向に来る。 2 その方向へ行けないようにする。不義理や仲違いなどをしてその人の所へ行きにくくする。
国語大辞典(新装版)小学館 1988.

 私の場合、「あのかた」のように経緯を持って人を表す場合の「かた」はかなで書くということである。その他、自分なりに徹底しようと思っているのが、上記「7 動詞の連用形に付いて、それをする方法の意を表わす。「書きかた」「作りかた」「教えかた」「買物のしかた」など」である。これを「書き方」「作り方」「教え方」のように「かた」の読みに使わないことは徹底したい。

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 思いつくたびに補完してゆく予定。(06/4/22)






 なにがあったのか……
 これは05年春に書いた文だったのだが、チェックしていたら消えていることに気づき書き直した。どこでどうなったのか。とりあえず補修した。







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