まずは『週刊アサヒ芸能』の「人馬往来」に書いた以下の文章を読んでください。


■不粋
 中山競馬場の男子トイレの床は、アイボリー地にピンクを散らした模様だ。専門紙を読みながら入ったりする私は、未だに(しまった。女子トイレに入ってしまった)と慌てることがある。

 公共施設において、男子トイレがブルー系、女子トイレがピンク系というのは常識である。男子トイレがピンク系なら、じゃあ女子トイレはどうなっているのだと入り口を覗いたら、あちらはピンク地にアイボリーを散らしてあるようだった。なんとしてもピンクにこだわりたいらしい。

 それで、あの薄気味悪いピンク色は、中山競馬場のシンボルカラーであるらしいと気づく。アルミ製の灰皿やゴミ箱にもあの半端な色がラインとして入っているからだ。

 それはまあそちらの自由だが、だからといって男子トイレの床にまでピンクを散らす必要はあるまい。なぜに男性用はアイボリー地にブルー、女性用はアイボリー地にピンクという常識的なデザインが出来ないのだろう。神経を疑う。
 もしもこれがデパートや図書館のような公共建築物だったなら、非常識な色使いに苦情が殺到し、業者は即刻手直しさせられただろう。競馬ファンはおとなしい。もっと怒るべきなのだ。中山のあの細くて不便なエスカレイターで列待ちをしつつ、いつもそう思う。

 かつて千葉県松戸市は「すぐやる課」を作り、市内の諸問題に敏速に対応した。創設者は時の市長・松本清氏であった。今話題のマツモトキヨソの創業者である。

 競馬会も「競馬すぐやる課」を作るといい。改正すべき細々とした缺陥は場内の到るところにある。男子トイレの床なんて、他場開催時に簡単に改装できることなのだ。(以下略)




 というものだった。これを書いたのは2000年の春である。その前にも「亀造競馬劇場」というので触れたことがあった。とにかくもうほんとに気分が悪いのである。もちろん私ごときが書いたところでなにも変わらない。有名芸能人が高視聴率バラエティ番組ででも発言したなら(私のように男女のトイレを間違えてしまったなどと)すぐに変るだろう。世の中そんなものである。

 先日、このホームペイジに載せる写真のためにデジカメをもって競馬場に行った。百聞は一見に如かずである。競馬ファンはもちろん競馬を知らない人にもこの実態を見てもらおうと思い、このピンクのタイルを撮ってきた(笑)。どうでしょうか。

 

 これが男子トイレなのである。ここに踏み込んでしまった私が(しまった、女子トイレに!)と思う気持ちをわかってもらえるだろう。こんな男子トイレ見たことない。世界にはなにがあるかわからないが、すくなくとも日本の公共物にこんな非常識な色合いはありやしない。この競馬場だけである。




 これが文中に出てくるゴミ箱。
 このピンクのラインが中山競馬場のシンボルカラーであるらしく、もういたるところにある。
 好きになれない色だがそれはデザイナーの権限だから我慢するとしても、なにも男子トイレの床までこの色で統一する必要はない。




 この競馬場の設計はクロカワキショーセンセーである。こういうシンボルカラーもセンセーが決めるのだろうか。だとしたらセンセー、そうとうセンスが悪い。いやこんなこと以前に、この中山競馬場ってのは競馬を全然知らないヤツが競馬ファンの人の流れを考えずに設計したとんでもなくひどい競馬場なのだが。出来て十年か。

 とにかくまあ有名建築家に頼めばいいやとクロカワセンセーに頼む競馬会も競馬会なら、なにもかんがえず自己満足だけの建築物を造るセンセーもセンセーである。この競馬場、一見かっこいい。でも競馬ファンの心理なんてなにも考えずに設計されているから、肝腎の人の集まる場が不親切になっていて、たいした人出でもないのにエスカレーターに行列が出来ている。かと思うと、レースもパドックも見えず競馬ファンの行くはずもない場所にたっぷりとスペースがとってあったりして、身動きできないほど混雑している日でもそこはがらんがらんだったりする。おそろしく効率が悪い。その後もぞくぞくと改装されている新競馬場も、すべて同じである。
 結局、私のようなのが「もうこの世界はいいや……」と愛想を尽かして去ってゆくのはこういうことが原因になる。それに気づかないのをお役所仕事というのだろう。




 中山で一杯飲んだ帰り、JRの船橋法典駅でトイレに入り、ふと気づいて思わず撮ったのが以下の写真。

 男子トイレ入り口


 女子トイレ入り口


 実に正当な、一目瞭然のブルー系男子トイレ、ピンク系女子トイレである。こうでなくちゃいけません。いや、これが常識なのだ。
 もういちど上記のピンクのタイルを見てほしい。ひどい話である。

 しかしまあ映像ってのは大きい。私はこの写真をここに載せることにより、ずいぶんと苛立ちが治まった。何十万部も出ている雑誌に書いても治まらない苛立ちが、何人読むかわからないこのマイナーなページに写真附きで書いただけでスッと治まるんだから、ホームペイジってのはええですなあ(笑)。人間が円くなれるかな。

 上記の「不粋」がどこかにいってしまい探し出すのに苦労した。というのは、この話は「不粋-共同通信杯00」というファイルにあったわけだが、「変節-高松宮記念99」「降雪-ダイヤモンドS00」のような似たものがいっぱいあり、どこにトイレの話を書いたかわからなくなっていたのである。探し出すのがちと面倒だったが、スッキリしたのでよしとしよう。まあトイレの話だ。この件は水に流す。いや、流さないけどね、こんなことに腹を立てるのはもうやめました。競馬をやめたほうが手っ取り早い。
(01/12/13)



inserted by FC2 system