人馬往来的中抄



■休日-マイルチャンピオンシップ99


 昭和五十年代末の三年間、一年365日競馬場に通い詰めた。土日が府中・中山、平日が南関東四場である。毎日、第一レースからだ。馬券で食えるかどうかを確かめようと思った。小人閑居して不善を為すの典型例である。

 より正確にいうと毎日ではない。競馬場で馬を観て馬券を買うことが基本だったので夏競馬の時期は中央を休み地方競馬場に日参した。当時の南関東四場は〃ギャンブルホリデー〃と称して土曜日が休日だった。よって夏場の土曜日が一年の内で数少ない休日となった。夏競馬が始まり「明日は土曜日。競馬が休み」と思うと浮き浮きした。朝早くから競馬場に行かず、昼まで寝ていてもいいんだと思うと心が和んだ。

 本末転倒である。遊びであるはずの競馬が苦痛になっていた。主題であった馬券で食えるかどうかの結論だが、人それぞれの才能や稼ぎ高によるにせよ、私は可能であると思う。ただしそこに楽しみはない。何事も仕事にしようと思ったら、そこにあるのは忍耐と辛抱、惰性と苦痛だけである。私は中央の大レースを楽しみに待つ普通の競馬ファンにもどった。

 その頃の体験談を書いたことがきっかけとなり私は競馬文章を書くようになる。週末は競馬場にまた皆勤するようになった。もっともこれは好きでやっていることで、競馬物書きでも競馬場に来ない人はたくさんいる。私の場合は競馬=競馬場なので、可能な限り通っていないと自分の競馬が縮んでしまうのだ。そうして通っていると今度は、毎週週末を競馬に縛られることが煩わしくなってくる。なにしろ田舎から片道四時間を掛けて競馬場に通うのだ。金曜に夜更かしした時などは、このまま昼まで眠り、午後からの競馬中継を観られたらどんなに楽しいだろうと思ったりする。

 今年から関西でGTのある週だけは場外で馬券を買い競馬場に行かないことにした。土曜に上京して前売りを買い田舎とを日帰り往復する。

 日曜は昼からビールを飲みつつテレビ観戦だ。テレビのカメラワークが不満だが、自分の家で寝転がって競馬を観ることには、競馬場に通うのとはまた違った楽しみがあるのだとあらためて知った。

 さてマイルチャンピオンシップ。日本一固いGTだったこのレースも、最近では中穴を狙えるようになった。
 本命はエアジハード。天皇賞でのあの3着は力がなければ出来ない芸当だ。対抗は順当にブラックホークだが、これは元取りとして、もう少しつくところで勝負したい。

 
◎エアジハード
○ブラックホーク
▲ビッグサンデー
△ニッポーアトラス
△キングヘイロー
△ダイワテキサス



■結果
1着 エアジハード
2着 キングヘイロー
3着 ブラックホーク

1110円。的中。

★附記
《対抗は順当にブラックホークだが、これは元取りとして、もう少しつくところで勝負したい。》ということで現場では第一本戦をキングヘイローにして儲けた思い出のレースになる。
 この日、なぜか新橋の場外で馬券を買ったことを覚えている。
 エアジハードの馬名で「ジハード=聖戦」ということばを覚えた競馬ファンは多い。2年後、それは悪魔のことばとなる。

============================================


inserted by FC2 system