2008
3/24

 
 ウォーエンブレムの価値

 今週の土日はウォーエンブレム産駒が主役だった。

 土曜阪神10レース、注目の若葉ステークス。断然人気、単勝1.8倍のキングスエンブレムが勝ち、武豊騎乗でクラシックに登場すると思っていた。負ける。8頭立て5着。2番人気のアンカツ騎乗のモンテクリスエス(シンボリクリスエス産駒)も4着に負ける。この2頭はクラシック候補だと思っていたので落胆した。

 土曜中山メイン。フラワーカップ。こちらは1番人気のブラックエンブレムが勝つ。逃げ切りの形になった。松岡が、そういう予定ではなかったが、行ってしまったので行かせた、と語っていた。乗り方のむずかしい馬のようだ。

 日曜中山メイン。スプリングステークス。締め切り間際にサダムイダテンを逆転してショウナンアルバが1番人気になる。3着。引っかかっていた。これまた乗り方がむずかしいようである。それでも3着は力があるのだろう。

 このキングスエンブレム、ブラックエンブレム、ショウナンアルバがウォーエンブレム産駒。産駒数から見たら信じがたい活躍だ。

※  ※  ※

 社台がサンデーサイレンスの後釜として輸入した米二冠馬ウォーエンブレムは種付けが嫌いだった。限られた牝馬にしか興味を持たない。関係者は頭を抱えたことだろう。シンジケート解散時には保険の問題も生じたようだ。


 初年度は7頭にのみ種付け、産駒は4頭。
 こういう形の種牡馬はいる。GⅡを勝っただけなのに、誰かが血統に惚れ込み種牡馬にしたりする。先日、ローマンエンパイアが引退し、種牡馬になると発表されたが相手がいるのか心配になる。
 ブラックタイドは種馬になるのだろうか。なったとして、ディープにつけられない生産者のあいだでそれなりの人気になるのだろうか。

 ウォーエンブレムはこれとはちがう。そうそうたる名血牝馬が花嫁候補として揃えられているのだが、彼が種付けに興味を持たない。勃たない。好みの牝馬以外には欲情しないのだ。なんとも生き物として美しいではないか。人間がいじくりまわす血統という「あそび」を拒んでいる。

 二年目の産駒は4頭が中央に登録され、4頭とも勝ち上がった。これがいかにすごいことであるか。
 関係者の愛情で種牡馬になったそこそこの成績の内国産種牡馬は、5頭10頭の産駒を出すが、どれも勝ち上がれず、やがて廃用になって行く。それと比すと4頭が4頭とも、はすごい。
 とはいえウォーエンブレムの場合は、相手がみな一流だ。比較にはならないか。それでもやはりすごいことではある。鳴り物入りで輸入され、一流牝馬を相手に毎年100頭以上もに種付けしつつ、活躍馬が出ず消えてゆく種牡馬は多い。

 三年目は彼なりにがんばったのか33頭が競走登録された。それが今年の馬である。先日チューリップ賞を勝ったエアパスカルもウォーエンブレム産駒だ。
 この産駒数でこの活躍は、確率的にとんでもないことになる。さすが二冠馬であり、強い血脈なんだなと感心する。視点を変えると、「ぜんぶ好きな相手とのあいだに生まれた仔」になる。だったら活躍して当然か。馬に「ぼくは(わたしは)おとうさんとおかあさんがあいしあって生まれた仔なんだ」という誇りがあるとするなら。

 来年は5頭のみ。翌年からはいない。馬は若く元気なのだがやる気がないので仔がいない。今年が勝負だ。

 私は昨夏のクランエンブレムからウォーエンブレム産駒を応援している。今年は有力馬がそろったので応援のしがいがある。限定されているので応援もしやすい。ほんの数年だけだ。
 この血を途絶えさせてはならない。牝馬が充実しているのでそっちは大丈夫と思うが、やはり父系が大事だ。キングスエンブレムやショウナンアルバにはGⅠをとって種牡馬になって欲しいと願っている。それともまだ隠し球があるか!?
 若葉ステークスのキングスエンブレムの敗退は期待が大きかっただけにきつかった。

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【附記】
 サダムイダテンをサダムフセインと誤記していたのに気づいた。直した。初めて馬名を見たときからそんな人がいるかもと思っていたが、まさか自分がやるとは思わなかった。
 同じく初めて見たそのときから、キリスト教国家アメリカの属国であるこの国で大成する馬名とは思えないと感じた。どうやらその流れにあるようだ。

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 2008年秋、ブラックエンブレムが秋華賞を勝ち、見事にウォーエンブレム産駒として初のGⅠを勝った。おまけに3連単配当が1千万円を超えて話題になる。牡馬はウォータクティクスが活躍している。ダートだが。
 サイアーラインの継続のため、なんとしても牡馬のGⅠ馬が欲しい。

 

3/28
 験担ぎの感覚──その一

 馬券を買う前には普段気にしない細かいことが気になる。

 今日、出先のコンビニで専門紙を買った。もちろん出先だから初めての店である。いらっしゃいませもありがとうございましたも言わない無愛想な女店員に当たってしまった。ついてない。
 こういう不愉快な気分で買った専門紙で的中するとは思えない。それだけでもう暗い気分になる。

 帰り道、住まいの近くのいつものコンビニで夕刊紙を買う。必要はないのだが、やり直しの気分である。顔なじみの店員から「ありがとうございました」を聞いた。機嫌が直る。明日はこの夕刊紙で予想しよう。専門紙が無駄になったけど、あの無愛想な店員から買った新聞では当たる気がしない。

 以前、そんな感覚はなかった。黒猫に前を横切られると縁起が悪いと気にする博奕打ちのこだわりが不思議だった。今はわかる。


3/29
 験担ぎの感覚──その二

 スーパーで買い物をする。ざっと暗算して2000円弱と読む。1800円ぐらい。しかしレジで2050円と言われる。オーバーしたかと2100円を出す。50円おつりをもらう。
 袋詰めのとき、何気なくレシートを見る。1850円とある。私の暗算のほうが正しかった。200円損した。初体験である。こんなこともあるのか!? もうレジを離れているから文句は言えない。レジ係に「わたしは250円おつりをわたした」と主張されたら終りだ。あきらめる。この辺は馬券売り場においてさんざん経験しているので慣れている。現場を離れたらもう抗議は出来ない。

 このレジに並ぶとき、いやな予感はあった。二十代前半のいかにもアルバイトという青年。しかももっさりした鈍そうなヤツなのだ。いつもの神業のように素早い作業をするヴェテランおばちゃんのところに並ぶべきかと迷った。いま思えば、おばちゃんのところに何人も並んでいて、そいつのところにすこししかいなかったのは偶然ではあるまい。みなわかっていて避けているのだ。たぶんそいつがひとりこなすあいだに、おばちゃんは三人ぐらいこなすのだろう。

 言いたいのは小銭を損した話ではない。このことの悪影響だ。月曜火曜ならまだいい。だが金曜日の夕方だったりすると、「だめだあ~」と絶望する。こんなついてないことに遭遇するのでは明日の馬券など当たるはずがないと思ってしまう。

 なんといってもまず、そのことにより予想に力が入らないのがいたい。あんなついてないことに出逢うのだから馬券など当たるはずがないと予想に集中できない。

 馬券の楽しみとは何だろう。いちばんは的中しての大金払い戻しだが、これは的中したときしか味わえない。その点、「もしもこの予想が当たると、これだけの払い戻しがあって」とほくそ笑むことは毎回可能だ。とくに今は3連単があるから、「これとこれだと200倍だけど、これにこれが来たりしたら4千倍だ」と都合のいい夢を見られる。この幸福感(笑)。自分で予想すること、的中したときの喜びを想像すること、それが馬券の最大の楽しみになる。

 私が宝くじを買わないのはこのリクツによる。あれにはこの予想の楽しみがない。あるのはせめて「よく的中者が出る売り場で買うこと」ぐらいだ。それと比すと馬券の予想行為はずっと複雑で楽しい。
 もしも宝くじで1億円当たったらびびる。怖くていられない。人生の運を使い果たしてしまったと。ここで「怖くていられないけどそれでも当たりたい」と書いたほうが文章としてはおもしろくなるのだが、いやほんと、宝くじには当たりたくない。運は定量だと考えている。そんなことに使いたくない。

 馬券は1億円払い戻しを受けてもまったく平気である。それは予想行為に努力してきた私に対する正当な報酬でしかない。まあそれ以前に預けていたものを返してもらっただけだから気楽である。これは切実に返して欲しいと思っている。

 避けていた験担ぎも、的中したら逆になる。
 うすのろ店員にレジでよけいに金を取られた翌日、百万馬券でも当てたなら、翌週からはそのうすのろを探すことになる。彼のレジに並び、なんとかまたまちがって金を餘分に取ってくれないかと願うようになる。験担ぎなんてそんなものだ。

 てなことを考えつつ、200円餘分にとられた悔しさを紛らわす春の夜。

4/1
 ペリエの本を読む

 ペリエの本を読んだ。
 大好きな騎手なので楽しめた。ペリエを嫌いな人でも楽しめるかはわからない。まあ嫌いな人は手にしないか(笑)。

 私は彼を初来日以前からロンシャンで見て、すごい騎手だと思っていたから、日本で見られることはうれしかった。しかも短期免許で乗るのだ。
 外国の有名馬にJCで乗ってもたいしたことではない。そういう形の有名騎手はそれまでにも見ていた。最終レースの条件戦の日本馬に乗ったりするのだ。あのオリピエ~が。
 日本人ではペリエと呼ぶがフランスではオリビエと声がかかる。それがなぜか伸び気味でいい。オリビエ~。

 と書いて考えてみるに、私が日本で定期的に乗ってくれたらいいなと思った外国人騎手はペリエだけだった。あとはデットーリだが、これはJCで凄味を知ったひと。ルメールも同じ。ペリエは特別な存在になる。

 パントレセレブルの凱旋門賞も見ているから、理想の馬と言い切る彼の語り口には胸が熱くなった。

 シンボリクリスエス、ゼンノロブロイ、ジャングルポケットという一流馬に関する話はもちろんだが、初めてグレードレースを勝たせてくれたワコーチカコの話などが微笑ましい。

 雨の日のダートレースは、顔に泥が当たって痛いのでイヤだ、というのも興味深かった。彼はダートレースは日本で初体験か?

 しかし残念ながら最も知りたいことには触れていない。たとえばそのひとつが「藤沢調教師との確執」である。昨年からまた藤沢厩舎の馬にも乗るようになったから「仲直り」したのだろう。そこに触れていないのは不自然だ。

 あれさえなかったらペリエはいまも関東が主戦場だった。もしもそうだったなら、どれほど関東の競馬が盛り上がったことか。いまも残念というか悔しいというか。
 それは専門紙やスポーツ紙にたまにのるデータを見ても一目瞭然だ。府中や中山の芝××メートルの連対率上位騎手、ここ10年、騎乗数××以上、のようなデータには、必ず武とペリエが登場する。関西の騎手なのに関東のその種のデータに登場する武もすごいが、出稼ぎ外国人騎手で載るペリエはもっとすごい。

 調教師との確執、日本競馬で戸惑ったこと、不満、そのへんのことから逃げていてはペリエ本の価値は半減する。最初に身元引受人になってくれた武邦彦と藤沢の名前が出てくるだけだ。それも名前だけ。人柄などには触れていない。避けているのが見え見えだ。
 伝え聞くところによると藤沢師とのもめ事はペリエのほうに問題があったそうだから、書けないのだろうか。

 ペリエファンの私には楽しい一冊だった。しかし読み終えて今、内容が物足りないという気持ちがふつふつと湧いてきている。
 極端な話、これは私でも書ける本だ。有馬記念がいかにすばらしい企劃、レースであるかという礼賛、ペリエコールをされたときの感動、日本の競馬ファン気質、凱旋門賞に対するフランス人の誇り、騎手としての栄誉、ets、彼になった気分で簡単に書ける。思い出の各馬の乗り心地など、彼しか知らないことを1時間もインタヴュウしておけば、あとはすいすいと書き上げられる。まさかそんなふうにしてゴーストライターが書き上げたとは思いたくない。
 楽しい本だが薄味だ。

 二月末に発売されていたと初めて知った。ペリエのブログで。
 ペリエのブログがあることも初めて知った。私は大相撲が大好きだけれど力士のブログに興味がない。同じく騎手のブログにも興味がないので読んだことがない。まさかペリエが日本語のブログをやっているとは知らなかった。誰が代理でやっているのだろう。もちろん日本のエージェントだろうが。

 いまは帰国しているので更新はないようだ。むしろフランスでの競馬の話を書き込んでくれたらうれしいのだけれど。

 おどろいたのは出版社が馬券本の東邦出版だったこと。
 あれだけの騎手だからもっとメジャなところだと思った。
 これはこの写真をAmazonからもらってくるときに気づいた。東邦出版とは思いもしなかった。
 あやしい馬券本を出している会社だったのに(今もだしているが)、淘汰の中を生き残り、こんな本まで出すようになったのだからたいしたものだ。すなおに敬意を表したい。

 ペリエは日本での騎手免許をもっと長期間認めて欲しいと言っている。
 長期間免許が降りるなら、春秋のヨーロッパ競馬のシーズンでも、一週だけ乗りにくるようなことも可能になろう。
 ペリエの来日が待ち遠しい。秋まで無理か。

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【附記】──このタイトルはなに?

 この「野望ありマス」というタイトルはなんなのだろう。商売でもやっているようなこのマスは(笑)。
 日本に始めてきた騎手が、日本のGⅠを勝ちたいというのならわかるが、日本人騎手でさえ誰もやっていない有馬記念3連覇を成し遂げているペリエである。「野望」ってなんなんだ? ヨーロッパのオンシーズンには向こうで仕事をして来日しないが、假にやってきて日本のダービージョッキーになりたいと願ったとしても、そんなの「野望」でもなんでもない。

 なにが目的でこんなタイトルを付けたのか、編輯者の感覚を疑う。ごく素直に、「日本の競馬、大好きです」とでもしたほうがまだましだろう。
4/4


 フジキセキの日

先週、高松宮記念の日は、フジキセキの日だった。

ドバイ・シーマ・クラシック(首G1、芝2400m)をミナミアフリカのフジキセキ産駒・Sun Classique(牝4)が勝ち、高松宮記念はフジキセキ産駒のワンツーだった。

高松宮記念はサンデー産駒が絶対的に強い。今回も孫のワンツーで3着が息子だった。

万能のサンデー産駒も短距離とダートは苦手だ、というのが、つい昨日のことのように思える。

むしろビリーブあたりから競馬を始めた若者は、「サンデーは短距離」だったりして。

高松宮記念の翌日、スポーツ紙を読んでいて次の表記におどろいた。

種牡馬年数で父を超えているフジキセキだが……

4歳(いまだと3歳)春、三月に引退して、その年の春から種付けを始めたフジキセキが、サンデーの種牡馬年数を超えたということは、サンデーが死んでからそれだけ時間が経ったってことか。これまた亡くなったのをつい昨日のことのように覚えているので……。

今後のためにも書いて覚えておこう。サンデーサイレンスの命日。

2002年8月19日──16歳

もう亡くなって6年になるのか。だったら3歳から種牡馬になったフジキセキは父より長くなる。

こんな偉大な種牡馬はもう出ない。

フジキセキの朝日杯3歳ステークスがサンデー産駒最初のGⅠ制覇だった。ファーストクロップである。
でもやはり同い年でクラシックを勝ったジェニュインやタヤシツヨシのほうが印象深い。タヤスツヨシは一緒に走り負かしているのだが。

馬券生活者・梶山徹夫さんが、日曜昼の上岡龍太郎の番組に出て、ダービーの馬連(当時は馬連までしかなかった)ジェニュイン・タヤシツヨシを百万円一本勝負をしたのがこの年だった。

これは上岡が「そんなもんあるかいな」と、世のあれこれにケチをつける番組で、そのひとつとして「馬券で食っている? そんなもんいるかい」が取り上げられたのだった。
馬券生活者を嘲笑した上岡に憤慨し、テレビカメラの前で百万束を放り投げて見せたのだから、あのころの梶山さんも若かった(笑)。5.9倍、的中。

ダンスインザダークが菊花賞を勝ち、早々とサイアーとして三冠を達成したサンデーだが、三冠馬を出すまでは長かった。

ディープ三冠達成のとき、私が真っ先に想ったのは「よかったね、サンデー」だった。

私の書く競馬文章には「偉大な種牡馬サンデーサイレンスが唯一達成していない三冠馬の父という称号」のような言いかたがよく登場し、そのことにあまり興味のない編輯者からは奇妙がられた。
私はブライアンズタイムが実現している「三冠馬の父」にサンデーがなっていないことが不満だった。すべての三冠馬の父がサンデーより劣る。なんとしてもサンデーに三冠馬の父になって欲しかった。だから私のディープに対する第一印象は「親孝行息子」なのである。

フジキセキは弥生賞を勝って4戦4勝。脚を痛めてそのまま引退した。
馬格から長距離はどうかと思われたが、後に角田に尋くと問題ないと一笑にふしていた。とにかくたいへんな怪物だったそうだ。あんな馬には出会ったことがないと。このことを角田に尋いたのはジャングルポケットの取材のとき。そのあと彼はダービージョッキーになる。

無敗馬は夢が広がる。
フジキセキとアグネスタキオンがあのまま走っていたらどうだったろう。
私はアグネスタキオンには母系からくる距離の限界があったように思うのだが……。
それとも2頭がディープより先に「無敗の三冠馬」になっていたのか。

日本発の初めての「サンデーサイレンス系」という血統が世界に広がりそうだ。
これは競馬ファンの夢である。
デルタブルースもオーストラリアで血を拡げるといい。メルボルンカップを勝った馬だ。大切にされるだろう。

南アフリカの競馬場で出馬表を手にすると、父親の欄にFujikisekiとあるのだ。想うだけでいい気分になる

4/13


 桜花賞敗戦記──惜しかった、ハートオブクィーン!

いやあ惜しかった、ハートオブクィーン。

3番手で先行し、前の馬、先行した馬、すべてつぶれる中で、ただ1頭抜け出して、あわやの場面。

外から来たレジネッタ、エフティマイアに交わされ、ぎりぎりでソーマジックにも交わされて4着になってしまった。ソーマジックの追い込みをしのいで3着に粘ると、3連単1899万馬券だった。惜しい。この記録を見たかった。

 といって、3着に残ったとしてももちろん私はかすってもいない。レジネッタもソーマジックも買っていたが、とにかくエビナが嫌いなので、彼の来るGⅠは私は当たらないことになっている。ましてエフティマイアの近走の成績では、特別な思い入れのある人でなければエビナファンでもあの馬は買えない。

 友人のYさんはエフティマイア、シャランジュで決まった新潟2歳ステークスで3連単百万馬券を取っているのだが、買っただろうか。

 配当は、そこそこ人気のソーマジックがいるから、「3連単200万馬券」と読んでいたら、配当が発表になったらしい阪神のどよめきが聞こえてきた。それでもそれぐらいの配当だろうと思っていた。こちらでも発表になり700万と知る。
 結局誰もが三強の1頭は絡ませていたということか。

 大混戦低レベルの前評判だったが、丁寧に成績や時計をチェックしていったら、5枠の2頭が残り、堅い桜花賞と思えた。馬券も正当に堅いところで勝負した。

 大波乱のゴールを見て笑ってしまった。負けたのだから笑っちゃいけないし、笑える懐状況にはないのだが、すなおに笑えた(笑)。
 ここまで負けると潔くて気分がいい。

 去年の皐月賞は、サンツェッペリンも松岡も前々から好きだったし、ヴィクトリーも気性以外は血統も成績も優秀で買える馬だったから、ものすごく悔しかった。なぜ思い切った馬券が買えないのだと自分の小心さを詰った。
 その点今年のこれは、まったくダメージがない。

 それに、これは案外重要なことだが、もしも皐月賞をヴィクトリーとサンツェッペリンで当て儲けたとしても、その後の彼らのレースでぜんぶ吐き出していただろう(笑)。
 なにが福になるかは最後までわからない。

 岩田の初GⅠ制覇。これでまた一皮剥けるだろう。
 武豊のいなかった桜花賞。
 オークスがまったく見えない。
 オークスのオッズは荒れるだろうな(笑)。

 ともあれ、ダメージの残らない敗戦はいい。

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 日本有数の早さ

 この文章をブログにアップしたのは午後4時35分。桜花賞をテレビで見終わってすぐに書き始め、この時間にアップした。早さでは日本有数だろう(笑)。ほとんど読まれてないのがもったいない(笑)。

4/14


 桜花賞感想──大荒れでも荒れてないものもある

700万馬券の大荒れ桜花賞だが、馬主・生産者の視点で見るとまったく荒れてない。

レジネッタは馬主社台RH、生産者は善哉さんの三男晴哉さんの追分けファーム。エフティマイアは馬主吉野英子さん、生産者は次男勝巳さんのノーザンファーム、ソーマジックは馬主吉田照哉さん、生産者は照哉さんの社台ファーム、と、吉野英子さん以外はすべて社台一色。種馬も順にフレンチデビュティ、フジキセキ、シンボリクリスエスと、みな社台スタリオンステーション繋養馬である。(シンボリクリスエスはシンボリが半分もっているけれど。)

優勝馬のレジネッタはサンデー肌にフレンチだから純社台の馬だ。

どんな大荒れ、意外な結果になろうと、社台という枠の内であることにかわりはない。

だからこそ馬主も生産者も血統も、すべてがマイナであり、社台とは無縁の地方競馬出身馬ハートオブクィーンに、ソーマジックに抜かれることなく3着に粘って欲しかった。それで1900万馬券なら意義がある。
でも、結果は社台内に収まった。あんな完璧な競馬をしたハートオブクィーンがソーマジックに交わされてしまうのが現実か。

そう考えると、社台の重力圏から飛び出した価値ある大事件として、浦河の弱小牧場が生産したテイエムオペラオーが、いかにすごいことであったかをあらためて感じる。テイエムオペラオー全盛時代、あのサンデー産駒が脇役に押しやられた。

同じくメイショウサムサン、外国産馬のシンボリクリスエス、タップダンスシチー。ナリタブライアン以降の社台と無関係の大事件はそれぐらいか。

外国産馬はどうでもいいので国内産に限ると、大社台帝国に一矢報いたのは、種牡馬オペラハウスだけであることがわかる。

ラムタラの失敗も大きい。

人気馬3頭も社台系、それらが負けて大荒れになった結果も社台系。すべてこの磁場内の出来事。

4/15


 テスコガビーの桜花賞を観ていたら泣いてしまった

仕事で昭和50年のカブラヤオーとテスコガビーのことを書いていた。
この時点では映像を見たいとは思っていない。
それはもう心に焼きついていることだから、あえて映像は必要としていないのだ。

神戸に住んでいる年下の友人のさとしにメールを書く。
「もしもタイムマシンがあったなら、昭和50年の桜花賞を一緒に観たいものだ」と書き、さとしに観てもらいたいとネットで映像を探した。さとしはかなりの競馬ファンだからとうのむかしに観ているかもしれないが。

{Youtube}にはオークスしかなかったが(これがまたすごいのだが)、さがしたらニコニコ動画にあった。伝説の桜花賞である。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm2751621

さとしにURLを送るために、観るともなく観る。

私はこのとき春休みのバイトで、枚方市の飯場に住み込んでいた。
なぜか飯場の近くの公園に「街頭テレビ」があり、それでこの桜花賞を観た。

ひさびさに観たら、背筋がぞくぞくし、次第に涙が出てきたのにはまいった。ゴールのあたりは涙でかすんで見えない。

杉本さんが、逃げるテスコガビーを「貯金を貯めているのか」と言っているのが笑える。逃げ馬が、直線で追いつめられるまでに、せっせと貯金を貯めているという解釈だ。まだその程度の馬と思っていたのだろう。腹の中で、「バカヤロー、テスコガビーはそんなもんじゃねえぞ」と毒づいたものだった。

貯金どころか、直線にむくとぐんぐんと離し始める。この強さを観て欲しい。テレビカメラが、もうこれ以上引けないというところまで引く。
ゴールするときの杉本さんのことばは、「おそれいった」から、「これは恐ろしい馬だ!」になる(笑)。
「おそれいりました」は数年に一度出るのだが、「恐ろしい馬だ」は聞いたことがない(笑)。

私は杉本さんの大ファンであり、初めてお会いしたときはあがってしまったほどだが、この当時はけっこう批判的だった。というのは、このひとはもうとんでもない関西贔屓だったからである。実況アナにあるまじき私情いりまくりの偏見実況だった。
だからこそ、とんでもなく強い関東馬に、こんな「おそれいった」が出ると溜飮がさがった。「恐ろしい馬だ」には笑ってしまったが。

この年の12月。阪神3歳ステークス。7馬身ちぎるテンポイントに、杉本さんは「観てくれ、この脚、これが関西期待のテンポイントだ!」と叫ぶ。その裏には、カブラヤオーとテスコガビーでクラシックを独占された悔しさが込められていた。
カブラヤオーは故障して菊花賞には出られなかったが、それも関東の二線級のコクサイプリンスが勝っている。今では信じられないほど東高西低だった。

テスコガビーは悲劇的な最後を迎える。
それはWikipediaに書いてあるので読んで欲しい。

カブラヤオーとテスコガビーの春は永遠だ。

4/19


 マイラーズカップ的中記──弱気が裏目に……

 勝つのはカンパニーだ。横山がそのためにわざわざ阪神まで行く。前走、脚質を変えて前に行き、完勝した。あれは横山の手柄である。本人も感じるものがあったのだ。皐月賞前の土曜日に、このためにだけに行く。コース実蹟もある。確勝だろう。なにより横山がいま乗れている。
 
 2着候補に大好きなキングストレイル。アンカツ初騎乗。どう乗るか楽しみだ。
 昨年の勝ち馬のコンゴウリキシオー。前走大敗だが逃げ馬はそれを気にする必要はない。
 エイシンドーバー。思えばダイワメジャーが勝った去年の安田記念で、3連単の相手2着候補に、コンゴウリキシオーを選ぶかエイシンドーバーを選ぶかで最後まで迷い、エイシンドーバーに決めたらコンゴウリキシオーに粘られて外れたのだった。因縁の2頭だ。

 もう1頭。ニシノマナムスメ。8番人気。桜花賞馬ニシノフラワーの娘は昨年秋から充実著しい。今回は休み明け2戦目。前走は1番人気で4着。今回は来る番だ。牝馬はただ1頭。
 そして、この裏事情は知らないのだが、吉田隼人が乗る。騎手が充実している関西だからか、エージェントの問題なのか、他の乗鞍はない。栗東河内厩舎の馬に、なぜ吉田がわざわざ出かけてゆくのか。しかも初騎乗。
 このレースにだけ乗りに行く1番人気馬カンパニーの横山が表の勝負馬なら、人気薄のこの馬にだけ乗りに行く吉田ニシノマナムスメは裏の勝負馬だ。

 馬券の中心は、カンパニーの頭は堅いと思うが、明日の資金作りのためになんとしても負けられないので、3連複にする。カンパニーとキングストレイルの2頭軸、カンパニーとニシノマナムスメの2頭軸、も考えた。結論としてカンパニーの1頭軸にする。2頭軸の方が点数が少ないから、その分賭け金が増え、当然当たったときの配当も大きいのだが、負けたくない、負けられないの意識が強く、根性が縮んでいる。

 3連単を組んでみる。カンパニー1着、キングストレイル2着、3着候補に、ニシノマナムスメ、エイシンドーバー、コンゴウリキシオー、いらないと思うけど来たら怖いので2番人気のドリームジャーニー。4点。
 もうひとつ、カンパニー1着、2着にニシノマナムスメ、3着キングストレイル、エイシンドーバー、コンゴウリキシオー、ドリームジャーニー。の4点。合計8点。

 選択が終り、金額を指定し、送信しようとして、不意に不安になる。弱気な馬券師によくあるパターン(笑)。
 3連単は無理ではないかと。カンパニーは二番が効かない。大崩はしないが連勝がない。今回も3連複は鉄板だろう。だけど勝てるか? もし2着ならどうする。それに、いくらなんでも5番人気のキングストレイルと8番人気のニシノマナムスメの2着固定3連単には無理があるのではないか。せっかくその2頭が来ても3着が荒れるかもしれない。来ても3着かもしれない。これはドブに金を捨てるようなものではないのか。明日のために必勝態勢だというのに。

 私は送信ボタンを押すばかりになっていたIPATから、3連単の8点を削除した。これって一気に消せないので、一件ずつ削除せねばならない。8回の選択と削除を繰り返しつつ、「当たったらもったいない」「いや、ここは慎重に」が交互に浮かんでくる。
 自分を臆病でつまらないやつだと思う。でも負けられない。遊ぶ餘裕がない。だけど完全撤退も悔しい。そこで、カンパニー1着から、2着にニシノマナムスメ、キングストレイル、エイシンドーバー、コンゴウリキシオーに流す馬単4点を買い足した。

 臆病な自分にうんざりしていたが、これを購入していくらか気分が楽になる。

 結果、カンパニー、ニシノマナムスメ、エイシンドーバーで決まる。3連複4030円、馬単4250円を的中した。3連複と馬単で勝負して、両方とも当たったのだから、それはもう万歳を叫ぶべき大的中だ。特に馬単4点買いで42倍はありがたい。だが、3連単21710円が8点買いで当たっていたんだなあ、おれって、いつもこれだなあと、うつむくことになった。これが日曜のあとのない大勝負レースなら、馬券も太く行き、ひさびさの完全的中に酔えたところだった。しかし資金を絞っての資金増やしのレースだった……。

 でもまあ世の中こんなものだ。もしもエイシンドーバーが4着のハイアーゲームに捕まっていたら(半馬身あったからこんな假定は無意味だけど)3連複も3連単も外れていた。おけらだった。馬単にしておけばと頭をかきむしっていたはずだ。馬単は基本だ。馬単を当てたことを喜ばねばならない。3連単なんてのはその附録に過ぎない。

 気を取り直そう。明日は皐月賞だ!

4/21  皐月賞的中記──その他のことあれこれ




 枠順の謎

 桜花賞の枠順を見たとき、誰もがまず思ったに違いない。「5枠か」と。1番人気トールポピーと2番人気リトルアマポーラが5枠に同居した。枠連しかない時代だとがっちがちの軸になる。3番人気オディールのアンカツは3枠5番。

 そして結果はこの3頭がみんな消え、1着⑮レジネッタ、2着⑱エフティマイア、3着⑬ソーマジックで、3連単700万馬券となったのだった。



 皐月賞の枠順を見た人は脊髄反射(笑)で思ったはずだ。「桜花賞と似ている」と。

 1番人気馬マイネルチャールズと2番人気ブラックシェルが5枠に同居している。これまた5枠から行け、である。
 この場合素直に「桜花賞は5枠から行って外れた。その分、今度は5枠からで、取り返させてくれるというJRAの温情」と考えるのが正しい。

 しかもアンカツが同じ5番にいるではないか!
 これか、来るのは!

 ということで、⑤⑨⑩の3連単ボックス6点は必須になる。



 が、この枠順で桜花賞はあの700万馬券だったのだ。とすると、勝つのは⑮レジネッタ=サブジェクト、2着エフティマイア=ショウナンアルバ、3着ソーマジック=ドリームシグナル、となるのではないか。この⑮⑱⑬は買わねばならない。「なんだよ、桜花賞と同じだ」になり、もしかしたら「着順が違うだけじゃねーか」の可能性もある。⑱⑮⑬のように。よし、念のため⑬⑮⑱のボックス6点だ。



 以上、皐月賞の枠順を見て真っ先に感じたこと。実際私は⑤⑨⑩のボックスはふつうに買った。さすがに⑬⑮⑱のボックスは100円である。笑ったのは、これが売れているのだった。特に⑮⑱⑬は、前後の売れ具合や流れからして、どう考えても40万ぐらいつくはずなのに、12万という低さだった(笑)。同じ事を考えたひとがいかに多かったかだ。こういうのって、そういうことに気づくひとが早めに買い、オッズが低くなり、まともなひとがどんどんまともな馬券を買って、まともなオッズになる。最終的にはどれぐらいになったのか。とにかくどれぐらいだろうと私が確認したときにはたった1200倍だったのでおどろいた。

 土曜日にマイラーズカップを当てて資金が出来たので、その時点で上記の馬券を買った。それから本気で考える。

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 さて、本気予想

 好きな馬は決まっている。



 皐月賞最年少記録が和田なのを忘れていた。
 フローラステークス敗戦記






天皇賞──とりあえず──的中記








5/11
 NHKマイルカップ敗戦記──点数にこだわるな!

 ディープスカイで勝ち、検量室に引きあげてきた四位が馬上で両手を挙げたら、そのまま転げ落ちた。下はコンクリートだから馬場で落ちるより痛いだろう。
 馬券が外れたショックを一瞬忘れて笑った。ビートたけしのギャグ「いま、鍼治療が流行ってましてね、歯が痛いときは目に鍼を打つといいんです。目の痛みで歯の痛み忘れますから」を思い出した。四位の落馬で馬券の痛みを忘れた。

 この前にも、ウイニングランでゴール地点まで戻ってきたとき、そこでディープスカイが止まってしまい、四位が動けと腰を振っていた(笑)。どうもディープスカイはあまり四位を評価していないらしい。



 勝利ジョッキーインタヴュウで、アナが真っ先にそのことを尋いたので、また笑った。無神経だ。最初に尋くことではない。ふだんはフジ系のアナだが、あれはNHKマイルカップなのでNHKアナだったのか? あきれた。おどろいた。四位は努めて平成を装っていたが。
 どうやら両手をあげて万歳をしたときに、関係者が拍手し声を挙げたらしく、それにおどろいたディープスカイが四位を振り落としたらしい。いろいろあろうが、でもやっぱり恥ずかしい(笑)。そしてあのアナは無神経だ。

 私なら、ディープスカイの強さを称え、仕掛けのタイミングの感想などを聞いたあと、最後の最後に遠慮がちに「検量室前で落馬したみたいでしたけど、ケガはないですか」と尋く。ひととして、まず誰もがそれぐらいだろう。真っ先にそれを、しかも笑いを噛み殺したような感じで尋いた、あのアナが失礼だったことはまちがいない。実際四位はあの落馬で手首を捻挫しており最終レースを乗り替わったのだから。

 そのアナの態度が関係あったのかどうか(関係あったような気もするし、四位はもともとあの程度の男だとも思うし、どっちだ)、四位のインタヴュウの応答は、とても誉められたものではなかった。品性のない男である。三十を過ぎた男として恥ずかしい。まあ以前から私はあの手の顔は好きではないので、失望した、ということはない。「やっぱり」であり「あいかわらず」である。
 騎手として、その技術が後輩から尊敬されていると言う。きっと技術はあるのだろう。なら私が好きでないのは、ひととしての直観的なものになる。



 府中の最終は、四位から後藤に乗り替わった8番人気のリオサンバシチーが3着に来て、3連単14万馬券の片棒をかついだ。もう一方の波乱の立て役者である勝ち馬の7番人気ケアレスウイスパー(ワムですな)は、連闘であり私の本命だった。2着は3番人気のメンデル。
 NHKマイルカップを外し、金がなくなったので買わなかったが、買っていたらどうだったろう。1着と2着は確実に買う。馬単と馬連は獲れた。3連単のリオサンバシチーを買っただろうか。後藤は大好きな騎手だ。買ったように思う。四位が乗っていたら買わなかった。そしてきっと、3連単勝負をして外れていた……。馬単ならと臍を噬むいつものパターン。
 なんだか馬券の勝敗もあざなえる縄の如しである。

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 アメリカのピーターパンステークスをカジノドライブが5馬身半差で勝った。これが血の力なのか。感動である。
 これはあとでニコニコ動画で見た。ベルモントステークスが楽しみだ。兄と姉に続けるか!? 武が勝ったらこれまたすごいことになる。まだこのクラスの外国GⅠは勝っていない。

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 京都の最終ではひどい落馬事故が起きた。北村と武のケガが心配だ。ひさびさに寒気のするような直線での落馬事故だった。
 これは深夜、JRAのパトロールビデオで見た。

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 さてNHKマイルカップの反省。
 勝つのはディープスカイ。これはすんなり決めていた。毎日杯の時計はバケモノだ。あれはすごい。掛け値なしにスゴい。

 府中の1600の前に阪神の1800というのもいい。それぐらいこなせなきゃ府中のマイルは勝てない。逆にファリダットは強い競馬をしたが、あの阪神の1400の強さを府中の1600では出せまい、と軽視。この馬スプリンターなのではないか。母からの単純な推理ではあるが。
 思いきって無印にしたいぐらいなのだが、武好きと憶病でそれもまた出来ない。

 ディープスカイ1着固定の3連単を組む。相手は内からサトノプログレス、ブラックシェル、ゴスホークケン、ファリダット、エイシンフォワード。これで30点。
 買いたい馬があと3頭もいる。いつみても馬体が大好きなレッツゴーキリシマ。これは買いたい。重が巧くマイラーのサダムイダテン。こういう人気を裏切ってきた馬は必ず一発がある。正に今回は絶好の舞台だ。追い切りが抜群でパドック気配も最高のダノンゴーゴー。この馬の追い切りは本当にすばらしかった。皐月賞前のあの"伝説の"ダイワメジャーを思い出したほどだ。しかしこれらを買ったら56点にもなってしまう。それはちょっと……。

 悩んだ末、レッツゴーキリシマ1頭だけを入れて36点買い。買わずに負けたときの痛みは、好きな馬を買わなかったときがいちばんきつい。



 結果。ディープスカイは見事に勝ち、2着もブラックシェルだったが、消したダノンゴーゴーが3着に来てハズレ。56点買っても11万ついたのだから御の字だった。いやそもそも配当は最低でも100倍以上あったのだから、点数を絞る必要はなかった。かっこつけたことが裏目に出た。

 平然と126点ぐらい買えるようになりたい。なのにカッコワルイと足が止まってしまう。誰が見ているわけでもないのに。
 大穴は当てたい。でもそれは300点買ったから当たる、10点では当たらない、というものではない。当たるときは10点買いで100万馬券だって当たる。そこのところの美学?にこだわっているのだが、それじゃいつまで経っても負け組か?

 天皇賞を馬連中心に買って20倍を当てた。あまり儲からなかった。やはり儲けるなら3連単勝負と方針変更したらこのザマである。
 馬単6点勝負で36倍を太く当てれば上々の馬券。それでいいのだ。3連単をやるなら、大穴狙いで100点でも200点でも買え。行くなら迷うな。なにもかもがちぐはぐ……。



 それでも、馬上から転げ落ちた四位のお蔭で落ちこまずにすんだ(笑)。
 四位、ありがとう。

 これから私が馬券を外したときは、勝ち馬の騎手はみな転げ落ちることを希望する。

5/25
 オークス敗戦記──満点の予想、零点の結果




 今年はオークス前に「平成のオークス」という仕事があった。平成の19年間のオークスに関してまとめるのである。これはもう最高の事前勉強になった。
 ふだんからその種の勉強が好きなのだが、毎年やろうと思いつつしないまま当日を迎えてしまう。結果が出てから、「ああ、このデータでこうなるとわかっていたのに」と後の祭りをやっていた。
 その点今回は仕事絡みでたっぷりともう4月から調べものをしていた。調べものとデータの勉強としては完璧と言える。

 今になって悔やむ。なぜそれをブログで事前発表しなかったのだろう。私にはぜったいに当たらないオークスではあったが、私のデータを読んだ人は、ほとんどのひとが当てられたはずである。なぜ発表しなかったのか。悔やまれる。発表していれば今ごろ何人ものひとから感謝のメールをもらっていたはずだ。



 といって、とんでもない大発見があったわけではなく、今までわかっていたことをあらためて確認したに過ぎない。とはいえこの確認は「スポーツ紙を読んだりしてなんとなく確認」とはぜんぜん違う。19年分の単勝人気と結果、逃げ馬、差し馬の展開、優勝馬のその後など、仕事として、詳細に調べて書いたのだ。ここから出る結論は、なんとなくするジョギングと、全身筋肉痛の徹底的サーキットトレーニングぐらい違う。
 あまり頼りにならない私だが、それでも「今回はここまで調べた。自信を持って言いきれる」と書けば、信じてつきあってくれる友人もいたろう。事前に書かなかったことは悔やまれる。

 そこから出て来たオークスというレースは。
 ①ここで燃えつきるような人気薄の馬が勝つ。
 ②桜花賞組が強い。

 であり、この②はさらに、
 A=桜花賞出走組が強い。桜花賞上位組が強い。
 と共に、
 B=桜花賞上位人気で惨敗した馬の復活。
 のふたつがある。

 これらのデータを19年分の仕事をした私はたちどころに並べられるのだけれど、それは二重手間になるのでしない。
 ひとつだけあげるなら、印象的な例が今年と似ている「ファイトガリバーの桜花賞」だろうか。勝ったのは桜花賞に出られなかったエアグルーヴ。2着が10番人気で桜花賞を勝ったファイトガリバー。4番人気。そして3着が桜花賞1番人気で大敗したリトルオードリーなのである。8番人気だった。



 そのことから今年のオークスを読むと、軸馬は簡単に撰べる。桜花賞馬レジネッタと、桜花賞を1番人気で敗れたトールポピーである。

 桜花賞1、2着のレジネッタ、エフティマイア。
 桜花賞を1、2番人気で裏切ったトールポピーとリトルアマポーラ。

 この4頭がオークス3着以内最有力馬だ。



 さて私は、勝ち馬として、内から、内田の乗るトライアル勝ち馬レッドアゲート、ウォーエンブレム産駒がGⅠを取るときは馬券を当てると決めているのでブラックエンブレム、桜花賞組の逆襲があるだろうと桜花賞単勝1、2番人気のトールポピーとリトルアマポーラの4頭を撰んだ。ここからどれを頭にするかである。

 騎手の魅力としてはレッドアゲート。好きな馬ではブラックエンブレムである。
 逆に、騎手が武幸四郎なので一枚割り引くのがリトルアマポーラ。馬に運がないように感じてランクを下げるのがトールポピーになる。
 ところがここからひねくれ者の血が騒ぎだし、私はへんなことをする。



 水曜日だったか、サンスポにトールポピーを推す記事が載っていた。それが都合のいいことばかり書いている。父のジャングルポケットは東京が大の得意だったとか。まあそれはいいとして、不吉なことに一切触れていないのは片手落ちだ。不吉なこと、すなわち全兄のフサイチホウオーのことである。
 4戦4勝でクラシックに臨む。関西馬なのに4勝の内3勝が府中。父はジャングルポケット。まるでデビュー時からダービーを取るためのローテーションである。皐月賞は目の覚めるような追いこみで差のない3着。鞍上はアンカツ。当然ながらダービーは断然1番人気。だがダービーどころか、先日引退するまで勝つことすら出来なかった。掲示板にすら載れなかった。

 トールポピーはそのフサイチホウオーの全妹である。だったらジャングルポケットのこと以上に、それに触れねば嘘だ。兄の不運についてだ。不運だけで果たして片付けられることなのかどうか。トールポピーもクラシックには縁がないだろうと、関係者には失礼でも触れるのが【データ】である。だがこのサンスポの記事はそんな兄はいないかのような作り方だった。
 ずいぶんといいかげんな記事だと私は憤慨した。



 ところが、それから毎日オークスのことを考え、どこから行くかと思っていたら、日増しに「トールポピーで勝負したい」という気持ちが強くなってきたのである。不思議なものだ。
 兄はダービー1番人気でボロ負けした。妹も桜花賞1番人気でボロ負けした。兄はその後勝てなかった。妹もそんな運命のもとにある。だからこそひねくれて、トールポピー本命で行こうではないか、と。
 おそらく負ける。そういう不運な家系のところに馬券下手の私が乗っかったらマイナスの二乗だ。でもマイナスかけるマイナスはプラスだからなあ。

 土曜日は友人のIさんとの絡みで川口オートに行った。開催は船橋。川口は場外である。
 ものすごいマニアックな人達の中で初心者以前の私は居場所がない。
 ここでモツヤキを1本食いつつ飲んだ生ビールはうまかった。
 大雨になり、午前様で帰宅するころはびしょ濡れになった。



 日曜日。まだ迷っていた。決めたこともあった。3連複だ。どうしても相手を絞りきれない。3連単は無理だ。
 1枠のシャランジュやハートオブクィーンが大穴を開ける気もする。アロマキャンドルも不気味だ。友人のK君はポルトフィーノの馬主となり、北海道や阪神まで応援に行って燃えていた。なのに不運が続いて不出走。その彼がもう1頭もっているのがアロマキャンドル。代わりに出て来たこちらにK君の運を任せてみるのも楽しい。

 ムードインディゴは忘れな草賞勝ち馬。
 今回、いくつもの予想を読んでいておもしろかったのは、「桜花賞はレベルが低い。よって別路線から撰ぶべき」という論調が多いことだった。その代表がレッドアゲートとムードインディゴだ。清水成駿はムードインディゴを本命にして、そういう主張をしていた。
 私にもそういう感覚はいくらかはあったが、だが発走が近づくほどに、「桜花賞組ではないのか」という気持ちが強くなっていった。



 桜花賞組で高い評価を得ていたのはソーマジック。そりゃ唯一3着という馬券圏内に来たのだから当然だ。
 私はむかしから堅実な馬が好きである。たとえば10戦5勝着外5回、のような馬より、10戦2勝2着5回3着3回のような馬が好きなのだ。いわゆる条件戦でもグレードレースでも3着であり、抽籤で出られたGⅠでも3着するような馬である。むかし好きだったアイフルなんてのがこのパターンだった。でもこれもあまり趣味は良くない。バクチ上手はみな、勝つか負けるかの前記の馬を撰び、こういう馬は嫌っていた。まあこのことからも私がバクチに向いてないことが判る。

 ソーマジックは出走馬中唯一全戦3着以内の馬だ。3連複の軸にするならこの馬が最適だ。なのになぜか私はこの馬に魅力を感じなかった。

 3連複1頭軸勝負。軸は内田のレッドアゲートかトールポピー、ふたつにひとつ。相手はたっぷり撰んで45点勝負。でもまずぜったいこれ以上の馬券になる。最低でも4倍になる自信はあった。結果600倍の馬券になるのだが。



 最後の決め手はマイナスデータだった。「2歳チャンピオンは全滅」。フジテレビがこれを言っているのをワンセグで見たとき、私は全兄の不運と2歳チャンプは全滅というマイナスに乗っかってみることにした。トールポピー軸の3連複勝負。さらに、トールポピー1着固定の3連単。3連単は絞りきれないと書いたが、それはあちこちに気があるフォーメーションだからであり、1着固定ならなんとかなる。勝とうが負けようが(あまり勝てる気はしないが)とにかく方針は決まった。
 それが私の「今年のオークス」だった。



 予想は百点。勝ち馬を当てている。単勝で行けば快哉を叫べた。
 しかし勝負馬券3連複45点の中に2着エビナはいなかった。

 桜花賞を1番人気で負けた馬が勝ち、2着に桜花賞2着馬、3着に桜花賞馬。それで馬連240倍、馬単390倍。3連複6万、3連単44万。エビナ……。
 このままゆくとゲジゲジマユのワラ人形を作って五寸くぎを打ちそうだ……。

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 しかし、じつはそれほどのことでもない。外れたのは悔しいが、さほどの痛手ではない。
 なぜなら額面がちいさいからである。
 むかしのように10万単位で馬券を買っていたら、あまりの口惜しさに目から血を噴いている。私は無理矢理かきあつめた分不相応の大金勝負が外れて、何度か競馬場で腰が抜けたことがある。腰ってほんとに抜けるんですよ(笑)。おどろきました。
 それと比べたら、こんなしょぼい勝負、なんてことはない。負けのうちにはいらん。オークスという演劇を上席で見せてもらった観劇料として、ちと高め、ぐらいの負けでしかない。

 どこかで3連単を一発当てれば、一気に一年分のマイナスが取りもどせる時代。
 それがどこになるかだが(笑)。



 後味のよくないレース結果だったが、それはまた別項にしよう。
「Net Keiba」で柏木さんがきちんと書いていた。私ごときが意見を言う必要もない。
 だがいつまでも「ひとは騎乗停止、馬の着順は変らず」では通用しない。いつまでごまかすつもりなのか。日本の競馬ファンはおとなだ。失格になっても暴れたりはしない。
 なのにしないなら、有力馬主、有力牧場への気づかいと取られてもしょうがない。

 しかしあれでトールポピーを降着にしたら、どんな順位になったのだろう。3頭の馬に迷惑を掛けている。それらの下の着順になるのか。優勝馬はどうなる? 繰りあがり? エフティマイア、レジネッタ、ブラックエンブレムになるの? なんだかよくわからんけど、エフティマイアを買ってない私が当たることはない(笑)。

 新潟で牡馬を破って2歳チャンプになりながら、その後の成績不振で桜花賞は低人気だったエフティマイア。桜花賞2着なのに、それでもオークスでも人気のなかったエフティマイア。
 桜花賞2着、オークス2着から、今度こそ人気になるだろう。そしてESP炸裂! だと思うけどね(笑)。

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 Yさんの外れかた

 友人のYさんは、昨年の新潟2歳ステークス「エフティマイアとシャランジュの3連単120万馬券」を取ったひとである。3連単120万馬券を1着固定たった12点買いというのがすごいではないか。当たるときはこんなものである。

 桜花賞は「エフティマイアとソーマジックで行ったがレジネッタを無視して外した」と言っていた。
 今回はどうだったかとメールしたら、「レジネッタ本命、エフティマイア対抗で行ったが、調教等からトールポピーを無視して外した」とのこと。こういうひともめったにいないよねえ(笑)。外しかた、外れかたにもいろいろである。




 2008競馬メモ

○騎手

 落馬負傷があったがリーディング・ジョッキーはなんとかがとった。143勝。武にとってはいい年ではなかった。中央のGⅠ勝ちはヴァーミリアンのフェブラリーステークスとウオッカの天皇賞(秋)のみ。武にしてはすくない。悔やまれるのはウオッカのヴィクトリアマイルと落馬で乗れなかったJCDか。JCDのヴァーミリアンは武なら勝っていた気もするが、それよりも岩田に勝たれていたらより面目をつぶしていた。あれは岩田が下手騎乗の3着で御の字だったか。
 ポルトフィーノの落馬のときは、きれいに受身が取れているようなので心配しなかったが、そのあとの落馬は心配した。無事復帰できてうれしい。来年はさらなる活躍を願う。



 賞金獲得額は岩田が1位。綜合では118勝の4位。今年はアドマイヤジュピタで天皇賞(春)。ウオッカで安田記念、ブラックエンブレムで秋華賞、セイウンワンダーで朝日杯FSか。たいしたもんだ。みな印象的な好騎乗である。
 岩田を凄いなと思うのは昨年のアドマイヤムーンに代表されるように、任されたことを確実に遂行することだ。誇り高い武にとって乗り馬を下ろされるのは屈辱だが、自分が下ろされた馬で岩田が勝つことはそれ以上だったろう。断然人気のウオッカでヴィクトリアマイルを負ける。岩田に乗り替ったウオッカは安田記念を快勝する。2センチ差で天皇賞(秋)を勝ったからいいようなものの、あれを負けていたら最悪の年越しになっていた。

 {Youtube}にアドマイヤグルーヴの優勝パーティの模様がアップされている。そこでは武とアドマイヤのオーナーは蜜月関係で、武が抱きついてほっぺにキスしたりしている。離婚した夫婦の新婚熱々時を見ているようで複雑な心境である。アドマイヤベガ、アドマイヤグルーヴで武は結果を出してきた。だがアドマイヤムーン、アドマイヤオーラと牡馬クラシックで惜敗が続く。そんな状況からのバトンタッチなのに岩田は見事にアドマイヤムーンで宝塚記念、JCを勝った。たいしたものである。それだけアドマイヤムーンは強い馬でもあるのだが。
 あれで負けていたら岩田の価値は落ちていた。プレッシャーはたいへんなものだったろう。さらにはアドマイヤジュピタで天皇賞(春)まで勝った。岩田の勝利によって、武降板劇は馬主の感覚が正しいとなった。王者の武の尻に火を点けたのだから岩田はえらい。



 武ファンの私は朝日杯FSでも、この一鞍のために武が復帰してきたのだからとブレイクランアウト1着固定で行き玉砕した。悔いはない。大好きな武豊が落馬骨折からあの馬のために早期復帰してきたのだ。戸田調教師との「間に合わないようならそれまで待つから(=武が復帰できないなら出走を見送ってもいい)」という話もよかった。ましてレースはまだ勝っていない数少ないGⅠの朝日杯だ。ここで武の単勝を買わずしていつ買うのだ。
 朝日杯FSとマイルチャンピオンシップの武の単勝は買わねばならない。1着固定3連単をマルチにしていれば簡単に取れた170倍だったが、それでは意味がない。頭固定だ。ブレイクランアウト自体はそれほど強いと思っていなかったので、我ながら無茶気味の馬券だったが引っこみがつかなかった。あれでいい。そういや同じ発想で「桜花賞の岡部」を買い続けてひどい目に遭った。でもこれまた悔いはない。岡部が桜花賞を勝って八大競走制覇を成し遂げるとき、なんとしても単勝を持っていねばならなかった。
 勝ち鞍では1位になったが賞金獲得額では岩田に負けた。武は悔しいはずである。奮起を願う。



 賞金獲得額2位は安藤勝己。順位は119勝で3位。今年はGⅠ勝ちなしだったが、暮れになってブエナビスタで阪神JF、ダイワスカーレットで有馬記念と連勝して武を抜きさった。これまた武は屈辱だろう。まあ騎手の勝利は馬との縁であり、2頭とも抜けて強い馬だから岩田や武が乗っていても勝っただろうけど。

 安藤の「振り返り」「横見」は問題だ。逃げ馬アイネスフウジンでたびたび後ろを振り返る中野栄治に、ダービー前、作家吉川良さんが「振り返るな、栄治!」という檄文を送ったことがあった。中野は振り返らずにダービーを逃げきった。騎手は振り返ってはならない。まして天下一品のアンカツである。失礼ながら中野とは腕が違う、実績が違う。振り返ったり横見をする必要などないのだ。アンカツのその癖に対しては雑誌で対談していたデムーロとルメールも苦笑していた。彼らから見ても異常らしい。
 まことにもって信じがたいことだが、あの歴史的名勝負天皇賞(秋)、今年のベストワン確定のあのレースでも、ゴール前、アンカツは何度も横をチラチラと見ている。3着になるディープスカイの四位が真下を向き、一心不乱に馬を追っているのとは対象的だ。ウオッカの武も追いこんできたカンパニーの横山もみな懸命に馬を追っている。アンカツだけチラ見なのだ。それはまるで「ほらほら、おれの馬に勝てるかな」という餘裕のようでもあり、邪推すると「なんだよ、ウオッカが勝つんだろ、このままじゃ俺が勝っちゃうよ」と言っているようですらある。とにかくあの激闘なのに、ゴール前、チラチラと他馬を見ているアンカツは不自然だ。何度も何度もヴィデオを見たが見るたびにそう思う。
 来年はブエナビスタで牝馬二冠は確定だ。ブエナビスタはダービーに行くなんて話もある。ダイワスカーレットはどんな路線を歩むのか。



 誇り高い武が気にするニュースとしては、その他にも三浦皇成の新人最多勝があった。三浦の才能と河野調教師の献身的な応援で成し遂げた大記録である。100勝を期待したが残念ながら91勝だった。それでも綜合9位は見事。松岡が三浦の順位を意識した発言をしていた。結果は同じ91勝だが2着の差で10位。
 それまでの記録は、加賀武見が昭和35年に58勝、それを27年ぶりに破ったのが昭和62年の武豊の69勝だから、21年ぶりのこの91勝がいかにたいしたものであることか。永遠に破れないであろうと思われた「武豊伝説」の一角に風穴を開けたのである。
 三浦が競馬関係の出身でないことが新鮮だ。今までの最多勝や最短記録を持っている武は武一族のエリートだし、福永の場合も「洋一の息子」として厩舎関係者が全面的に応援した。その点、三浦と河野調教師のタッグによるこの快挙は、なにより西高東低の関東で成し遂げた記録だから価値がある。(ところで今、Yahoo競馬を見たら三浦が「フリー」になっていたのでおどろいた。デビュー1年目の見習騎手、河野厩舎所属だろ。こんなまちがいもあるのか。)

 三浦が武の記録を抜き70勝をあげたとき、武はniftyの日記で祝福しつつ、それが福島の第1レースだったことに触れ「そんな地味では困る」と書いた。これからの競馬界を背負って立つジョッキーなのだからもっと派手な場で達成して欲しいと。負けず嫌いの武の悔しさの発露と言われた。それも事実だろうが、地味だったのも確かだ。出来るならメーンレースで派手派手に達成して欲しかった。可能なら中央の表舞台で。でも武の大記録を抜くために、河野調教師が乗り馬を確保し、裏開催の福島で騎乗と、なりふり構わぬ戦略だったから、達成できただけでたいしたものだ。いいことのなにもない関東の厩舎には爽やかな新風だった。

 武嫌いのいっせいちゃん(かなざわいっせい氏)は三浦の出現がうれしく、なんとしても新記録の70勝目の単勝を買うのだと勇んでいたが福島第1レースで買えなかったらしい。ああいうふうに人を興奮させるのだから三浦の擡頭はすばらしい。

 アドマイヤベッカムの一件も衝撃だった。もちろん私は三浦と河野調教師全面支持である。不謹慎な表現ながら、今後のいいドラマの伏線になるだろう。(ここを読む人ならだれもが知っていると思うので書きませんが、もしも知らなかったらぜひ調べて下さい。)

 三浦の勝負は来年だ。武は二年目に菊花賞を勝った。しかもそれは「騎手になって初めて惚れた馬」のスーパークリークでである。私はこの話を当時武本人から聴いている。いい話だった。菊花賞と春秋の天皇賞を勝ったスーパーホースのスーパークリークだが、重要なことは、この菊花賞前は地味な馬だったことである。血統も見た目も悪い馬だ。だがその長距離適性を信じた伊藤修司調教師はデビュー戦から一貫して芝2000㍍以上を使ってきた。本来自分の持ち馬ではなかったが、乗ってみて武豊もその乗り味に惚れた。なんとしてもこの馬で菊花賞に出たいと思った。そして自分の馬を引っこめて、この馬に出走の道を開く岡田繁之さんの存在。あれこれドラマがある。そうして花開いた武豊初のGⅠ制覇だった。
 三浦にもそんなドラマを期待したい。派手に、初のGⅠはいきなりクラシック制覇とでもやって欲しいが、さてどうなるか。



 内田博幸の活躍は、そりゃあ大井の3千勝ジョッキーであり、中央でもすでに実績があったから確信はしていたが、期待以上のうれしい驚きだった。GⅠがエイシンデピュティの宝塚記念、オウケンブルースリの菊花賞。勝ち星が関東1位、綜合2位の123勝。3月デビューだからまともなら武の143勝を抜いて1位になる可能性もあったことになる。来年、武はうかうかしていられない。以前リーディングでなかった年はフランス遠征を中心にした年だった。王者となってからの武豊は日本で本気になって騎乗してリーディングでなかった年はない。来年はその可能性が出て来た。内田はその牙城を揺るがす。

 内田の存在がいかに関東の競馬をおもしろくさせてくれたか。語りつくせない。
 関西の競馬ファンには「武豊と闘う」というテーマがある。武好きでも嫌いでも、それは競馬の重要な要素だ。武は人気馬に乗り、きっちりと勝つ。しかし時には負けて大穴の原因となる。いかにしてそれを見抜くか、読みきるか。武豊との闘いである。関東にはそれがなかった。本来なら横山とか柴田、蛯名にそういう核になって欲しかったが、残念ながらそうはならなかった。彼らはただの騎手だった。
 一時期私を燃えさせてくれたペリエがいたが、彼も関西所属になってしまった。関西は武、岩田、安藤と三強がいて、次いで福永、藤岡、浜中、川田の若手、今年は小牧も活躍した。そしてペリエ、ルメールである。なんともはや充実している。何事に関しても私はひとを羨むことはないのだが、この騎手の充実ぶりには関西の競馬ファンを羨んだ。だからここに書いた競馬文章にも、「土曜日なのに関西の一流ジョッキーがみな関東で騎乗している。うれしくてたまらない」のようなのがある。

 内田が中央のジョッキー、関東所属となって、やっと関東にも核が出来た。ありがたい。関東にもやっと信頼に足る中心ジョッキーが誕生した。内田を中心として、後藤、松岡、吉田隼人が私の信じられる騎手になる。実績のある馬が内田騎乗で人気になる。そこから行く。たいがいは期待に応えてくれるが、負けても悔いのない騎乗を内田はしてくれる。
 総合順位7位95勝の横山だが、彼は彼の美学に殉じた騎乗に撤しているのだろう、わたし的には信じられる騎手ではない。同じ事を口にする馬券ファンは多い。まあもう彼はヴェテランだしそれでいいのだろう。

 誰もが内田に対する熱い想いは同じである。内田の乗る馬はそれだけで人気になる。そして彼はそれを持ってくる。だがいつもいつもそうは行かない。よってここで「内田との闘い」が生まれる。
 これは関東においては「岡部との闘い」以来になるのだろうが、私にはそうではない。岡部という人は私の感覚では今の横山的な人だった。あるいは今の横山の美学は岡部を意識したものなのかも知れない。
 この種のことに関してよく言われたのが「武邦彦と福永洋一」だ。武は勝てないと思ったらすぐにあきらめた。だが洋一は5着よりも4着、4着よりも3着とすこしでも順位を上に馬を持ってくると。カンパーリのダービーに代表されるように、それは私も身に染みて知っている。
 私の感覚で言うと、岡部や横山は武邦彦的、そして内田は待望の福永洋一的な騎手なのである。
 内田が中央入りしてくれて、関東所属になってくれて、ほんとうによかった。

 順位6位105勝に中舘がいる。まったく印象にない。もう関東の騎手じゃないのだろう。勝ち星さえ挙げればいいというものではないことがよくわかる。
 デビュー一年目で裏開催騎乗も多く、ひのき舞台には立っていないのだからしかたないのだが、91勝の三浦も、中央場所の後半レースを楽しんでいる私には、勝ち星ほどの思い出はない。来年はぜひとも大レースで活躍して欲しい。海外遠征をするという。すると目先の勝ち星にはこだわらず、より大きな未来を見つめるということか。それはそれで立派だが、かといって来年勝ち星が激減したらがっかりする。

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○種牡馬

2008年種牡馬ランキング↓
 リーディング・サイアーは13年連続のサンデーサイレンスに替って息子のアグネスタキオンがなった。またサンデーの「13年連続GⅠ勝ち」も途絶えた。それもあって有馬記念のマツリダゴッホには期待したのだが。
 でもまあそれを阻んだのが自分の息子だから本望か。
 亡くなったのが2002年。それから6年、よくぞがんばった。マツリダゴッホの世代が最終クロップだから来年ももう無理だろう。日本競馬史最強の種牡馬サンデーサイレンスの時代がついに終った。
 これからサンデーはブルードメア・サイアーの時代になる。スクリーンヒーローセイウンワンダーも、グラスワンダーの仔というより、私には母父サンデーの印象の方が強い。

 ブルードメア・サイアーは長年ノーザンテースト時代だった。昨年やっとサンデーになっている(中央競馬のみでは2006年から)。だってそれはサンデーが種牡馬として君臨していたのだから当然だ。
 しかしこれからリーディングサイアーの方はサンデーの息子達が上位を席巻する。いやもうすでに席巻しているのだが、今後ますますその傾向に拍車が掛かるだろう。となるとサンデーのブルードメア・サイアー首位は安泰ではないのだろうか。ノーザンテーストが1990年からずっと1位だったのは、その後の活躍種牡馬であるトニービンやサンデーをつけられたからだ。むろんそういう戦略の元に社台は種牡馬を仕入れているわけだが。
 今後のリーディングサイアー上位がサンデーの息子達であるなら、それをつけられないサンデーのブルードメア・サイアー首位はあぶないのか? むしろサンデーの息子達の肌馬になれるノーザンテーストの巻き返しがあるのか。いやでもノーザンテーストの娘達ももう齢だしそんなことはないか。
 となると、サンデーの息子達をつけたトニービン肌とか、そんなのが伸びてくるのか。この辺ブルードメア・サイアーの順位の金額差を知らず感覚のみで書いているのであやふやだが。



2008年ブルードメア・サイアーランキング
 2007年の記録を調べてみたら2歳のブルードメア・サイアーランキングでは2位トニービンに倍以上、3位のノーザンテーストに4倍以上の差をつけている。全馬の順位でも2位のノーザンテースト、3位のトニービン、4位のマルゼンスキーに大きく差をつけ、これらがみな年上でサンデーより先に活躍した馬なのだから、抜かれることはない。逆転などあるはずもない。バカなことを書いた。赤面。最初に書いたように「これからはサンデーがブルードメア・サイアーとして独走」でいいようだ。
 もうひとつ、私はサンデーのこどもたちがもっと種牡馬上位を独占していると思ったのだが、これからの流れを見ると、サンデー肌につけられるキングカメハメハ、クロフネ、シンボリクリスエス、アグネスデジタル、ジャングルポケット、タニノギムレット、ファルブラヴらの活躍が目立つ。活躍種牡馬が多岐に渡れば渡るほど受け皿として大きいサンデー肌馬の活躍の場は拡がる。この点からもブルードメア・サイアーとしてのサンデーの首位は磐石になる。むしろ「次ぎに抜かれるとしたら誰に!?」の方が興味深いか。
(上記、「2007年」とあるのは、この時点では2008年ランキングは発表になっていなかった。よって2007年の成績を見ながら書いたので誤りではない。その後、ここに掲載した2008年度が発表になった。文にあるように2007年度はマルゼンスキーが4位だった。2008年は着外に去っている。たった一年ではあるが時の流れを感じる。でもそうだよね、マルゼンスキーの娘はもうみんなおばあさんだろう。)



2008年2歳リーディングサイアー↓
 サンデーサイレンスのブルードメア・サイアーの地位を脅かすのに、 最も可能性のあるのはサンデーの初年度産駒として3歳で種牡馬入りし、今や父よりも長く種牡馬生活を送っているフジキセキか。しかし多くの牝馬に種付けしたフジキセキだが、基本は「高くてサンデーにつけられない人達のための種牡馬」でもあった。ほぼ同期の父サンデーの繁殖牝馬が山と居るのだから、中小牧場が高額の新種牡馬をつけて勝負する場合、サンデー肌がいたらそちらを優先するだろう。その点、分が悪い。フジキセキがこれから何年種馬生活を続け、どれぐらいの繁殖牝馬を生産するのかわからないが、ブルードメア・サイアーとして父を逆転するのはずいぶんと先になろう。いやもしかしたら父とあまりに時期がかぶさってしまっただけに一生ないのかも。いやいや、サンデーの次の次は知らないが、そのあいだに入るのはやはりフジキセキだろう。

 2007年、2008年の数字を見ると、最大のライバルはトニービンだが、サンデーより先に死んでいるし、肌馬の数でも落ちるから抜けないから逆転はないだろう。数字的にも倍以上離れている。ただこの2歳リーディングにずらりと並ぶサンデーの息子達から活躍馬が連続したら逆転の可能性もあるのか。いやいや息子達の活躍馬は母の父が散っている。その点サンデーの凄味は、意外な種牡馬から活躍馬が出て来て、母の父を見るとサンデーだという例が多い。やはり独走だろう。
 オペラハウスのひさびさの活躍馬オペラブラーボも母父はサンデー。菊花賞後2連勝のヤマニンキングリーも、父アグネスデジタル母父サンデーだ。こういうのもアグネスデジタルの良さを母父サンデーが活かしているように思えてしまう。
 フジキセキが父サンデーを抜いてブルードメア・サイアー首位になるまでサンデーの独走は何年続くのだろう。

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 柏木さんのコラムから

 柏木集保さんがコラムで、母の父サンデーに触れている箇所があったので引用。

最初のうち、その影響力はひょっとすると「母の父」としてはあまり成功しないのではないか、みんなそう考えた。

 ところが、ブルードメアサイアーとしてのサンデーサイレンスの影響力は、直仔の時代にも少し見劣らないのである。数の多さでブルードメアサイアー・ランキングの首位に立っただけではなかった。昨08年のサンデーサイレンスの母の父としての賞金獲得額は、未曽有の「60億円」を突破してしまったのである。


 なるほど、64億という数字は2位のトニービンの倍以上。トニービンの数字がまともで、サンデーの数字はとんでもないものなのだろう。




 今年の種牡馬アグネスタキオンの活躍はすごかった。皐月賞がキャプテントゥーレ、ダービーがディープスカイ、エリザベス女王杯がリトルアマポーラ、そしてダイワスカーレットの有馬記念である。吉田照哉さんは早くからサンデーの後継種牡馬としてアグネスタキオンの名を挙げていた。私はサンデーの息子種牡馬では、タキオンよりダンスインザダークスペシャルウィークの方が体型的に好きだったからその「後継はタキオンで決まり」のような言いかたには反撥していた。だが今年の成績を見せられたらまいりましたと言うしかない。
 アグネスタキオンにも産駒にも距離の壁があると思っていた。2000メートルまでだと思っていた。だからNHKマイルカップでは迷うことなく本命にして的中したディープスカイをダービーでは自信を持って消した。ディープスカイは見事にダービーを勝った。それでもはまだ疑っていた。ダービーはあくまでも同世代の争いだからと。だがJCでの強さを見ると頭を下げるしかない。アグネスタキオン産駒は2400をこなすようである。

 大好きなスペシャルウィークにも希望が出て来た。シーザリオの活躍でいい繁殖牝馬が集まり、来年の3歳世代が楽しみなのだ。ブエナビスタにリーチザクラウンと揃っている。
 好きだったネオユニヴァースも新種牡馬として早くもロジユニヴァースを送りだしてきた。これまた楽しみだ。来年はもっといい肌馬が集まることだろう。こうなるとゼンノロブロイも期待していいことになる。もちろんディープインパクトも。
 ステイゴールド産駒の活躍にはさすがサンデーの仔だと思う。2着病だったあの馬、7歳まで走り、ドバイと香港で勝たなかったら種牡馬にはなれなかった。ぎりぎりで種牡馬権利を得、そしてまた活躍馬を出すのだから血とはすごいものだ。

 クロフネジャングルポケット大活躍だし、右も見ても左を見ても社台系種牡馬ばかり。キングカメハメハはいきなり2歳リーディングをとった。そうか、グラスワンダー同様この辺の社台系種牡馬がつけられるからブルードメア・サイアーのサンデーは心配しなくてもいいのか。

 社台系の充実ぶりを思うほどに、サンデーの時代に、テイエムオペラオーとメイショウサムソンを送りだしたオペラハウスの偉大さを思う。そういう形で社台系種牡馬、サンデーの息子達を負かす日高系種牡馬からの逸材もまた楽しみなのだけれど、出るのだろうか、いまのところ話題の馬は社台系ばかりだ。
 ウオッカを出したタニノギムレットはあらためて誉めておくべきか。今年のGⅠ勝ち馬で日高系種牡馬はこの馬だけかな? 母父はクリスタルパレスだ。あの馬に期待が集まった時期を昨日のことのように思い出す。ウオッカの母父はルション、祖母のエナジートウショウはトウショウボーイだ。ウオッカが強烈だったのは成績ばかりではない。アンチ社台には胸がすくような快感をもたらしてくれた。
 アグネスデジタルの活躍もうれしい。マイネルの岡田さんが繋養しているこの馬が反社台の種牡馬一番手か。すべる可能性も大きいと心配したが見事なまでの大活躍だ。私の36年の馬券生活の中でもアグネスデジタルの異様な活躍は特筆ものになる。あんな珍スーパーホースは見たことがない。おかげで弟のジャリスコライトに入れこみひどい目に遭った。
 大好きなトウカイテイオーあたりに一発大物を期待したいのだが。(トウカイテイオーの供用が社台なのは知ってます。)
 メジロアサマ、メジロティターン、メジロマックイーンと続いてきたメジロの天皇賞物語も終っちゃったし。
 サクラユタカオー、サクラバクシンオーのテスコボーイの流れはどうなるだろう。
 ノーザンテースト、アンバーシャダイ、メジロライアンの物語もそろそろ終りだろうか。

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○その他

 その他の記録も思いつくままに書いておこうと思ったが、騎手と種牡馬以外は著しくモチベーションが下がるのでここまでにする。だって、社台の一人勝ちの時代にいまさら牧場の順位に触れたりしてもむなしいばかり。調教師順位もあまり興味ないし。
 なにかまた思い出したら書き足すことにしよう。



 11/12
 西山牧場売却の衝撃

98年菊花賞で、皐月賞に続く2つ目のクラシックタイトルを獲得したセイウンスカイ 98年皐月賞、菊花賞2冠馬セイウンスカイなどを輩出した日本を代表する生産ファーム、西山牧場の本場(北海道むかわ町)がダーレージャパンファームに売却されたことが11日、明らかになった。この日までに契約が交わされたもので、売却されたのは約400ヘクタールの敷地と厩舎などの建物。けい養馬は含まれない。

西山牧場は、1966年に先代の西山正行氏がむかわ町に開場。約400ヘクタールという単一場所としては日本最大の敷地面積を誇り、最盛期には250頭もの繁殖牝馬をけい養。年間約200頭を生産する日本最大の生産牧場となった。

73年にはキョウエイグリーン(スプリンターズS)などの活躍で、V10を続けていた社台ファーム(現社台グループ)からリーディングブリーダーのタイトルを奪取した。地方競馬でも、82年から5年連続でリーディングを獲得するなどその名をとどろかせた。

だが、その後は相次ぐ導入種牡馬の失敗などで次第に成績が落ち込み、90年代に入ると繁殖牝馬を削減して少数精鋭方式に方針転換。それでも、目立った成果は挙げられずに昨年はリーディング17位まで順位を下げていた(今年度は現在13位)。

ニシノフラワーなどけい養中の繁殖牝馬は、他牧場へ預託し生産を続けるが、西山牧場としての生産にはピリオドを打つ。北海道ひだか町富川の育成センター、茨城県阿見町、稲敷市の育成センターは存続する方針。

ドバイのモハメド殿下率いるダーレー軍団のグループ、ダーレージャパンファームは現在、廃業した牧場などを買い取り、6牧場に約50頭の繁殖牝馬をけい養して生産を行っている。JRA馬主資格の再取得、非居住外国人馬主が認可された後のダーレー本体の日本進出などに備えて、生産部門を一元化する土地を探しており、生産部門撤退の西山牧場と思惑が一致して今回の売買となった。現在の西山牧場本場の厩舎など建物は取り壊され、黒を基調にしたダーレーの新たな施設に生まれ変わる。

スポーツ報知
2008/11/12

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 西山牧場がそんなことになっているとは知らなかった。驚き、落胆した。すなおに残念である。

 私が鵡川の西山牧場を訪ねたのはもう二十年以上前になる。まだ「穴の西山」の時代でクラシックとは無縁の時代だった。
 当時西山牧場の種付けは、嘘か誠か、配合理論とかそんなことには関係なく、「発情した順につける」と言われていた。つまり春になって、やりたくなった牡馬と牝馬がいたらくっつけてやるのである。嘘か誠か、まあ嘘だと思うけど、この話を聞いたとき、私は「いい話だなあ」と思ったことを覚えている。

 こんなことをいい話だと思うようなやつは血統ファンから嘲笑されるだろう。でも私と感覚の通じる競馬ファンなら、人間が好き放題に血統をいじる競馬という遊びの傲慢さに疑問を持ったことがあると信じる。
 私が種牡馬ウォーエンブレムが大好きで、彼の産駒を応援しているのは、自分の好きな牝馬以外には勃たないという彼を好ましいと思うからである。それじゃビジネスとしては困るのだが、彼みたいな種牡馬がいてもいいだろう。



 さすがに西山牧場のそれは話半分だとは思うが、初めて訪れた午後の西山牧場はのんびりとした雰囲気で、なんとなくそれが本当であるかのように思えたものだ。

 私の知らない種牡馬が何頭も繋養されていた。それは私が血統に疎いからでもあるが、同時に西山さんが独自に買い集めてきた無名の種牡馬たちでもあった。そして、それらで一発当てようと目論んだのだろうが、残念ながら活躍馬は出なかった。
 私は社台的な姿勢をすばらしいと感嘆しつつも、妙にこの西山牧場の姿勢も好きだった。全部が全部社台的になってもつまらないと思ったのだ。

 当時の日高はまだまだアンチ社台も多く、いい意味での対抗心が作用していた。今じゃもう全面降伏だ。別項にも書いたが、名門藤原牧場が悲願のダービー馬を出したと言えば父はトニービンだし、しばらくGⅠ馬の出なかった千代田牧場や下河辺牧場からGⅠ馬が出たと言えば、輸入繁殖牝馬にサンデーだった。ここ十年を振り返っても日高から社台に一矢報いたのはオペラハウスぐらいだろう。

 そういう日高にまだまだアンチ社台の気運があったころ、それとはまたべつに独自の存在として西山牧場は存在していた。大活躍馬は出ないが、「ニシノ」の冠号の馬が条件戦には山ほどいて、それでもって経営は安定しているように見えた。いわば社台の「ブランド品」とは逆の「薄利多売」の感覚だった。いや社台は「ブランド品」を「大量販売」してビッグになったのだが。



 ニシノフラワーが桜花賞馬になったとき、これで西山牧場も変って行くのだろうと思った。なんといってもクラシックホースである。でもこれは血統に馴染みのない持ち込み馬だった。
 そしてついにセイウンスカイが出る。母の父はミルジョージ。日高の中村畜産の種牡馬だ。父は西山牧場の種牡馬シェリフズスター。正真正銘西山牧場が生産した馬が皐月賞と菊花賞を制した。冠号は息子の茂行さんが創案したセイウン。いかにも西山牧場のあたらしい時代の象徴にふさわしい。

 時空的には、すでにこの時点で西山牧場の経営は苦しく、繁殖牝馬も生産馬も減らしていたようだ。セイウンスカイの父シェリフズスターもこのときに整理された。そういうときに出たセイウンスカイだから、関係者にもたらした希望は大きかったろう。

 セイウンスカイが種牡馬として成功していたら、今回の売却もなかったろう。

 私が馬券を買い始めた昭和48年は、西山牧場が社台の10年連続リーディングブリーダーをストップした年である。翌年からまた社台になり、今に続いている。唯一ストップザシャダイを成し遂げた牧場だ。



 なぜか我が事のように落胆している自分がいる。これも時代の流れか。
 これから「ニシノ」馬の応援をしよう。
 思えば、条件戦にはいつもニシノの馬が出ていて、無印馬が穴を開け、人気馬がこけ、ずいぶんと振りまわされた。
 枠連しかなかった当時、中山では最高配当の7万円馬券が出た。配当を聞いて競馬場がどよめいた。片割れはニシノの馬。「また西山だよ」とみなが言っていた。あの日がなつかしい。

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