平成十九年名古屋場所覚え書き
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初日

 把瑠都、敗れる

 楽しみに早めにテレビをつけて把瑠都の一戦を待つ。負ける。それもまた脚を内側に巻き込むようなへんな形。解説の北の富士も思わず声をあげていた。なんでこんな形になるのか。相撲の基礎を教えなかった親方がわるいと思ったが、教えている暇もないぐらい基礎体力の強さで早く出世してしまったのだろう。早く出世すればいいってもんじゃないと思い知らされる。これでまた休場なんてことになったらどうしよう。なんだか把瑠都の人生も一直線とはいかないようだ。

 花道を下がってくるときこどもにサインをねだられた。気持ちよくしてやったが、そのあと右側の壁を強く叩き、悔しさを露わにしていた。どうやら古傷再発とはならないようだが……。

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 朝青龍、またも安美錦に敗れる!

 朝青龍が安美錦に敗れた。負け方は勇み足のようなものだが、雑な相撲であることに変わりはない。この初日の一敗は痛い。これで先場所からの連敗は五になった。これからどう盛り返すか。

二日目
 把瑠都、休場

 古傷が腫れているのできょうから休場とか。これで今場所の楽しみがなくなってしまった。尾上親方は「腫れがひどいのでやすませることにした」と語っている。レポーターによると、ああいう形で以前怪我をしたことが恐怖心につながっているらしい、とも伝えられた。さもありなん。同じ形なのだから。
 これでまた来場所は十両である。エレベーターになってきた。

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 ニッカンスポーツの朝青龍


朝青龍●全盛時の勢い消えた/名古屋場所

安美錦に上手投げで敗れる朝青龍(撮影・野上伸悟)
安美錦に上手投げで敗れる朝青龍(撮影・野上伸悟)

<大相撲名古屋場所>◇初日◇8日◇愛知県体育館

 22場所ぶりにそろった両横綱が、初日から明暗を分けた。朝青龍(26=高砂)は小結安美錦(28)の右上手投げに敗れ、先場所12日目から相撲 人生初の5連敗。悪い流れを断ち切ることができなかった。新横綱白鵬(22=宮城野)は小結時天空(27)を寄り切って白星発進。4度目の大関挑戦となる 関脇琴光喜(31)は、若の里(30)を寄り倒して初日を乗り切った。

 負けて怒る、かつての気迫はなかった。朝青龍は勝負が付いた直後、苦笑いを浮かべた。花道を下がるとき、飛んできた座布団が左肩をかすめたが、以 前のようににらみつけることもなく、下を向いたまま風呂場に向かった。支度部屋にもどっても激しい気性は影を潜め「先場所も負けて今場所も負けて。分からん もう、あー」と、つぶやいた。

 十分な体勢で立てなかった。相手の気迫に押されるように一瞬、立ち遅れた。必死に抵抗して左を差し、右を抱えたが、反撃の瞬間をつかめないまま、 右足が土俵を踏み越してしまった。「自分の流れでできてないことは、やはり何かがよくないんじゃない。出てしまったものはねー」と首をかしげた。

 7場所連続優勝、年間最多勝など、過去の記録を次々と塗り替えてきた最強横綱が、全盛期の勢いは失った。横綱昇進後、力相撲の若の里に連敗したこ とはあるが、関脇以下の技巧派力士に2場所連続で負けたのは初めて。北の湖理事長(元横綱)は「もうすぐ27歳だし、ここから先が大変。相撲を変えていか ないといけない時期かもしれない」と話した。

 先場所、昇進後初めて2場所連続で優勝を逃し、危機感はあった。場所前の帰郷時に「疲労回復にいい」と言われ、ゴビ砂漠からサジジュースの原液を 大量に仕入れて持ち込んだ。毎日、3リットル以上飲んで体調を整えた。けいこ量も増やし、できる限りの準備はして臨んだ。それでも状況を好転させることは できなかった。

 「まだ初日だからね。残り頑張るよ」。最後に、そうつぶやくときも、かつての殺気は感じられない。輝かしい時代は、もう終ったのかもしれない。【盧載鎭】[2007年7月9日9時25分 紙面から]


 初日に一敗しただけで「輝かしい時代は、もう終ったのかもしれない」って、いかにもアサヒシンブン系列ニッカンスボーツらしい文章だ。ニッカンの切り口には競馬等でもやたらこんなのが多い。

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 しかしこれを書いた記者の名に目をとめるとまた愉しめる。

盧載鎭(ノ・ゼジン) スポーツ部。1968年韓国ソウル生まれの35歳。杏林大卒。88年来日し、96年入社。 相撲などを担当し、現在サッカー担当。

 以前朝青龍の「このキムチ野郎!」発言が問題になったが、その対象がこの人である。要するにこれ、私怨がこまった文章なのだ。仲の悪い朝青龍が先場所から連敗しているということで嬉々として書いたことが文面からも伝わってくる。くだらん。

 張るな、白鵬!

 張り差しほど嫌いなものはない。そしてこれはモンゴル人が流行らせた。当時平幕が大関に張り差しをして行くものだから、大関に対する尊敬の念はないのかと解説陣が嘆いていたものだった。私はモンゴル人力士が好きだがこの張り差しを多用する相撲だけは容認しがたい。

 まだ下っ端でなにをやっても上に上がりたい力士がするならわかる気もする。また横綱として情けないことだが、朝青龍のように体がなく気迫だけで相撲をとっている力士が多用するのも、どう考えても褒められたものではないが、しかたないのかもと思う部分もある。
 しかし体格からも品格からも堂々とした横綱になるべき白鵬が、横綱になって毎日張り差しをしているのはどういうわけだ。いいかげんにしてくれ。
 張り差しは立ち会いいきなりのビンタだ。チンピラのけんかである。それを横綱になった白鵬がなぜ毎日やるのだ。「ああ、またきょうも張り差しだ」と嘆く日々が続く。竹葉山は指導していないのか。毎日張り差しをやる横綱なんて聞いたことがない。
 変化する琴欧洲

 なんとしても勝ちたい琴欧洲が変化したり、相撲を小さくしている。迷うのも人生だ。身体能力は高いのだから、ここを通り抜けたときまたあたらしい琴欧洲が誕生するだろう。

十日目  全勝対決は琴光喜!

 白鵬と琴光喜が全勝対決。が上手の取れない白鵬を琴光喜が土俵下にぶん投げて完勝。白鵬、みっともない。だらしない。これで先々場所からの連勝も25でストップ。今場所も全勝優勝して一気に31連勝、来場所で朝青龍の35連勝を抜くかとまで期待したこちらが甘かった。
 明日から緊張の糸が切れてしまわないかと心配だ。ま、がんばってくれ。全勝の琴光喜、一敗の白鵬、朝青龍の優勝候補の中でいちばん応援しているのが白鵬であることにかわりはない。

十一日目  朝青龍、琴光喜をぶん投げる!

同一対戦相手連勝記録

第1位  北の湖-金  城   29連勝
第2位  北の湖-荒  勢   27連勝
     朝青龍-琴光喜    27連勝
第4位  大  鵬-冨士錦   24連勝
第5位  武蔵丸-栃乃和歌  23連勝
第6位  北の湖-豊  山   22連勝
      若乃花-金  城   22連勝
      旭富士-寺  尾   22連勝
第9位 大  鵬-安念山    21連勝
第10位 若乃花-増位山    20連勝


 
朝青龍ががっぷり四つから琴光喜を転がした。琴光喜これで対朝青龍戦27連敗。いい相撲だった。琴光喜の大関昇進はまちがいないだろうが最終的に星はどうなるか。
 解説の舞の海が「ご両親が辛かったと思う」と言っていた。両親自身ではなく、周囲へ謝るのがである。なにしろ日大の田宮と言えば久島以来の学生相撲歴史に輝く最強の学生横綱である。奪取したタイトル数は久島の28に継ぐ27ととんでもない。大関、横綱になるのは既定路線だった。
 そしてあの平幕優勝があった。もしも琴光喜こと最強の学生横綱田宮に唯一の不安があるとしたら同じように活躍した久島が出世しなかったことだろう。だが琴光喜は久島の出来なかった幕内最高優勝を早々と成し遂げた。この時点で久島超えを果たしたことになる。あれが2001年だから二十五歳。あのとき三場所合計34勝と条件を満たしていたのだから大関になるはずだった。だが大関が四人もいたこともあって見送られる。このへんは不運だ。(このときの昇進見送りは審判長だった佐田の山の意図的なものという意見もある。)

 あれから六年、三十一で大関になる。学生時代から知っているあまりにも有名な駿馬であったが故、彼が「のたり松」であることがいまだに釈然としない。魁皇が二十八で大関になったとき、若貴と同期だったから、ずいぶんと遅い出世だと感じたものだったがそれよりも三年も遅い。三十をすぎて大関になったというと増位山ぐらいか。それでも評判倒れでなれなかった久島よりは遙かにリッパだ。増位山よりは自力があるからより充実した大関生活を送れるだろう。

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 豊真将が勝っていた相撲なのに焦りすぎ魁皇に土俵際で逆転された。これで二敗。
 優勝争いは白鵬、朝青龍、琴光喜の三人に絞られた。誰が残るのだろう。


十二日目  白鵬、星を拾う──ビデオ的こだわりの無意味

 琴光喜が千代大海を相手にしなかった。どっちが大関かわからない。朝青龍は琴欧洲に引き技で勝つ。これはこれで相撲勘の良さが出ていた。解説陣も褒めている。

 結びで白鵬が魁皇に「ビデオ的に」敗れる。軍配は白鵬にあがったが物言いがつく。解説の北の富士もアナも行司差し違えと口を揃えていた。しかし取り直し。持病の股関節を傷めた魁皇は相撲にならず白鵬が星を拾った形になる。

 ただこの「ビデオ的」ってのはどうなのだろう。一方的に相手を押しまくる。土俵際で身を交わされる。相撲的には押したほうの勝ち相撲だ。だがビデオを見ると押した方の庇い手が土俵に着くとき、土俵外に飛ばされた相手はまだ宙を飛んでいて地面には降りていない。ということから身を交わした方の勝ちになる。たしかに押した方の身を庇う片手が土俵に着くとき、土俵の外を飛んでいる力士の脚の裏は地面から10センチ程度上にある。だけどそれがなんなのだろう。
 協会は勝負審判の判断基準に態勢の一項目を設けるべきであろう。たとえビデオ的には不利でも、どちらが攻めた相撲であったかという審判員の感覚を重視する姿勢だ。


(BSのテレビ画面より)

 良い方の代表例が先場所の朝青龍安美錦戦だ。勝利に執着する朝青龍は異常なほど粘る。有名なのでは対琴ノ若戦での「ブリッジ」がある。あれも琴ノ若の手は庇い手で、しかも相手にのしかかり怪我をさせないための庇い手なのだから絶対に琴ノ若の勝ちでなければならない。あれで勝てないことになるなら誰も相手を思いやらずのしかかる。へたしたら怪我を通り越して死人の出る騒ぎになる。明らかな誤審だった。でも朝青龍は自分のブリッジを自画自賛していた。このへんの感覚の差ははいかんともしがたい。まあ琴ノ若の潔さと美学が引き立ったからいいようなものの、どうにも相撲協会のこのへんの姿勢は一貫性がない。これが最悪の例。

 先場所は正しい例だ。上掲の写真を見ればわかるように、それこそ「ビデオ的」には朝青龍はまだ残っている。すくなくとも物言いがついてもおかしくない一番だ。だが安美錦に軍配が上がり物言いはつかなかった。それが正しい。それを支持する。だって一方的に攻めた安美錦の相撲だったのだから。空中からの着地の瞬間などどうでもいいことだ。

 だけど今場所でも平幕でこういう形の決着になると、ビデオを参考にしているのだろう、宙を飛んでいる方が勝ちになったりしている。きょうも北勝力の一戦でそれがあった。
 相撲はそれが「どっちの相撲だったか」が大きい。着地までの0コンマ何秒の差なんてどうでもいいことだ。協会はそれを判断の基準として明文化すべきである。

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(読売新聞より)

 きょうの白鵬魁皇戦は攻めたのは白鵬だった。魁皇が土俵際で回り込み引き落とした。これも「ビデオ的」には完全に魁皇の勝ちである。白鵬の手が先に土俵に着いている。それはビデオでも確認された。なのに取り直し。これも勝負の判断基準が「明文化」されていれば、「白鵬が先に土俵に手をついていますが、魁皇の体は完全に飛んでおり、よって白鵬の勝ちといたします」と説明できる。勝負によってこんなに揺れるのではたまったものではない。明日の相撲嫌いスポーツ紙には、「優勝争いをおもしろくするために無理やり白鵬を勝ちにした」と書くところが必ず出てくるだろう。書かれて当然だ。一貫性のないのは協会の方なのだから。

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 しかし白鵬ファンの私にはもっと重要な問題がある。白鵬のへんな癖、いや致命的な缺陥といえるものがまた出たのだ。きょうの負け方のような、上半身の動きに足が着いてゆかず、土俵にべったりとうつぶせになるような形の負けである。稀勢の里との一番に多い。圧倒的に勝っている相撲なのに、土俵際で身を交わされると足が着いて行かず土俵にだらしなく寝そべってしまうのである。その負け方を何度も見てきた。あれだけ柔軟性があり反射神経もいい力士なのに不思議でならない。すくなくとも朝青龍にはあんな負け方はない。いや名力士と呼ばれた人であんな奇妙な形で星を落とす人に記憶がない。

 先場所、今場所となかったから安心していたが、きょうもろにそれがでた。相手が動きの速い力士ならともかく魁皇である。勝っている相撲で、魁皇の苦し紛れの引き技に足が着いてゆかず192センチの長身を土俵に横たえた。へんである。上半身と下半身に命令を出す神経に時差があり、下半身への命令が遅れているかのようだ。
 新入幕の頃に記憶はない。むしろ大関にあがるころから目立つようになった。175センチ68キロから192センチ156キロに急激に体を大きくしたものだから、神経の命令系統に障碍が出ているような感じである。
 この悪癖を直さない限り大横綱への道はない。

ゆっくりとした立ち振る舞いで、横綱としての風格を漂わせてきたが、ここへきて攻め急ぐ、悪いクセが再び顔を出した。「もっと足を前に出さないといけない。右のかいなを返したから、勝負だと思って体を預けた」。過去に、同様の形で稀勢の里に2度も突き落とされているが、その反省を生かせなかった。(ニッカンスボーツ)

勝負だと思って体を預けた」足がついていってないのに体を預けたらあんなふうになるに決まってる。失望するコメントだ。

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 各社、触れず

 20日の新聞は、マイニチシンブンが不可解な判定に意見を述べた以外は各社、厳しく追及はしていない。盛り上がっていたのは2ちゃんねるの相撲板のみだった。
 この一番の裁定がおかしいというのではなく、これとはまったく逆の北勝力の一戦もあったのだから、もっと勝負基準を一貫しろという視点で複数の新聞に書いて欲しかった。

十三日目  琴欧洲、白鵬を破る!

 琴欧洲がまたすこし左に変るだめな立ち会い。しかし四つになってからは力を発揮し堂々と白鵬を寄り切った。白鵬二敗。昨日実質的に負けていたから同じようなものだ。
 なんとなく今の読みでは、琴光喜が十四勝一敗で優勝するような気がしてきた。朝青龍は千秋楽で白鵬に負けて二敗である。
 だが白鵬の今の気迫のない相撲では朝青龍の勝ちか。一敗同士の決勝戦になったら朝青龍が勝つだろう。それはちょっと琴光喜に気の毒な気がする。決定戦になって二十七連敗を吹き飛ばせば物語としては最高だが。多くの琴光喜ファンはそれを願っているだろう。

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 二場所連続優勝で横綱になった白鵬だが、その間の相撲にも私は納得できないものが多かった。だからここ二場所は十両時代から応援してきた力士が日の下開山になるという最高潮のときなのにまったく熱く書いていない。毎場所一番一番にわくわくした新入幕のころとはえらいちがいだ。綱取りの場所は、恵まれた資質でとりあえず白星を積み重ねてきたが、惚れ惚れするような勝ちっぷりはすくなかった。逆に勝ちはしたが課題の残る相撲のほうが多かった。あの上半身に足がついてゆけないだらしない負けかたがある限り、この人に大横綱の目はない。なんとかならんのか。

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 魁皇の勝ち星

 魁皇の幕内勝ち星が、今場所貴乃花を抜いた。あと上にいるのは千代の富士、北の湖、大鵬のみである。大鵬まではすこし星があるが、あと一年続けられたら確実に抜くだろう。
 本人はあまりに偉大な実績の大横綱の中に自分の名が入ってしまうことに戸惑っているようである。「長くやってきただけ」と。こういう場合、照れとか謙遜とか解釈のしようはいくつもあろうが私は素直に本心だと思っている。相撲史に名を残す大横綱と優勝五回の大関の自分が並んでしまうことは、うれしさや誇り高さよりも、やはり戸惑いなのではないか。

 初土俵以来の勝ち星ではこれら大横綱の中に大潮が入ってくる。これまた無事これ名馬の典型だ。ちょいとした相撲カルトクイズをやるときの穴馬だが、いやカルトクイズをやる人にとっては逆に大潮は常識か。
 大潮は戸惑っていないと思う。誇り高く「どんなもんだ!」と思っていることだろう。序の口から積み上げ、入幕し、落ち、また入幕し、落ちても、さらにまた落ちても、相撲を取り続けて築いた記録である。優勝とも大関横綱とも無縁の、唯一絶対の誇りである。魁皇とは立場が違う。

 優勝経験が五回もある大関で横綱になれなかったのは魁皇だけである。本人がそっけなくするほどに、周囲が褒める。解説陣がアナが褒める。それが魁皇の人柄であろう。大鵬の勝ち星を抜くまで魁皇を見られるだろうか。

十四日目
 琴光喜、号泣!

 琴光喜の引き上げる花道の奥には、いつも心配げに見守る佐渡ケ嶽親方の姿があった。まあ親方と言うより琴光喜をスカウトし育てたのは先代の琴桜だから、いまの琴ノ若は齢も近いし兄弟子感覚であろう。
 勝って引き上げてきた琴光喜を琴ノ若は「おめでとう」と言って迎え、琴光喜が風呂に入って行くと自分も入っていったそうである。
 今場所は毎日かつて見たことのないほど険しい表情をしていた琴光喜だが、昨日勝ったときにはもう泣きそうな顔をしているのがわかった。長かった道である。

 そんなわけできょうはひさしぶりにいくつものスポーツ紙を読んだ。ネットではなく紙の方である。こんなときはやはり紙が必要だ。ネットの情報が紙を買ってもらうために出し惜しみしているのもわかっている。
 風呂に入った琴光喜の号泣は、風呂の外にまで聞こえてきたそうである。そこを読んでいたら目元が熱くなった。とにかく並の人ではないのだ。並の力士が努力に努力を重ねてなることもまた感激ではあろうが、学生時代に27ものタイトルを奪り、大関確定、横綱までもと期待された超逸材である。入幕も順調で、平幕で優勝までした。それからの苦節だった。万感迫る涙だったろう。
 千代大海のように若くして大関にあがり、あとはその座をじっと護るだけの人もいれば、こんな逸材がこんな遅い出世をすることもある。

 琴光喜は前半順調で後半がたがたになるのが定番だった。そのがたがたの後半にはなにをやってるいるのかわからないようなチグハグな相撲も多かった。あるいは投げやりになったような一番もあった。それがここのところぴたりと消えた。白鵬が白星だけは重ねたけれどその内容に(私が)不満であるのに対し、ここ数場所の琴光喜の相撲内容はすばらしい。なんとかこの勢いを維持して、昇進後も「クンロク大関」にはならないで欲しい。


 琴若には琴若時代があったような気がして調べたら、琴乃若時代はもちろん琴若時代もあった。怪我に悩んだので何度も解明したようだ。部外者からはも同じように感じるが、当人たちにとっては重要なのだろう。

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 白鵬、千代大海にも敗れる……

 まただらしない体が流れる相撲。千代大海に引かれ、俵の上で踊っている千代大海のまえに長々と寝そべった。うんざりする。この致命的缺陥がある限り白鵬はどうしようもない。
 新横綱のこういう課題に関して言われるのは精神的うんぬんだが、私が心配しているのは精神ではなく純粋に力士としての運動能力である。この人、これからどうなるのだろう。

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 朝青龍、一敗を守る

 朝青龍が二日目から十三連勝で琴光喜と並んでいる。この十三連勝を初日の敗戦から「輝きは消えた」と書いた「キムチ野郎」はどう思うのか。まともな社会だとこういう言いたい放題はフォローしなければならないのだが、マスコミ界は言いっぱなしが成立する。ひどい話だ。

 さて優勝だが、今の調子だと琴光喜も朝青龍も一敗を守るだろう。となると優勝決定戦か。ここで琴光喜が連敗を止めて優勝するとまさに名古屋は大フィーバーだが、負けたらなんとも言い難いことになる。
 いずれにせよ今場所は私にとって、またも把瑠都の休場で意気消沈し、勝ちはするものの白鵬のだらしない相撲でしらけた場所だった。

千秋楽  稀勢の里、琴光喜を投げる!

 稀勢の里が琴光喜に完勝した。琴光喜も見守っていた琴ノ若もしょんぼりしていたが、これは稀勢の里が褒められる一番。いい相撲だった。
 稀勢の里こと萩原は中学を出てすぐに角界入りし十代で関取になった。学士力士(といっても頭の中身はかつての輪島から今に至るまでお粗末なものだが)全盛の今、貴重な力士である。貴乃花以来か。
 稀勢の里は笑顔を見せない。いつもムスっとしている。ふてぶてしい。見るたびにいつもかつての北の湖を思いだす。十代で関取になり百万以上の給料を取る身になった彼には、親の金で二十歳すぎまで学校に通っていたような連中に負けてたまるかの誇りがあろう。学士力士とは勉強が好きで進学したのではない。プロ力士で失敗したときのための保険として進学している。安易な道を歩まなかった稀勢の里にはその誇りがある。それがあの「憂鬱なる闘士」のような笑顔のない顔だ。琴欧洲や白鵬と比すると肉体的には劣るが、あの気の強さはなによりの財産である。

 きょうも、注目の一番をとることに燃えているのがびんびん伝わってきた。そしてアウェイの立場で、琴光喜をぶん投げた。場内の失望のため息を「ふん!」とばかりに、ふてぶてしい面構えで一蹴した。

 亡父は郷土力士が好きだった。武双山の後援会に入っていた。郷土力士として早くから報道されていた萩原をいつも応援していた。稀勢の里という名前はあまり感心しなかったようだ(笑)。
 稀勢の里の活躍を見ると父を思い出す。

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 朝青龍、14連勝で優勝!

 明日のニッカンスボーツの相撲欄に「キムチ野郎」は筆を執るだろうか。なにを書くのかぜひ読みたいと思う。でもたぶんしらんふりで他の記者がさすがは朝青龍というような記事を書くのだろう(笑)。それがアサヒイズム。

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 琴櫻襲名?

 嘘か誠か琴光喜が琴櫻を襲名するという噂が流れた。祝勝会で琴櫻が口にしたのだとか。
 以前も琴欧洲が横綱になったら欧を櫻にして琴櫻洲にするとか伝えられた。

 だけど私はこの話にすっきりしない。というのは幕内時代から横綱時代までリアルタイムで見ているが、この人すこしもかっこよくないからだ。発想は「偉大な四股名をあえて伝える」らしいが、私からするとどう考えても、「おれの名前を後の世に残したい」としか思えない。
 琴光喜は琴光喜でいいではないか。その名でここまでがんばってここまで来た。志ん朝が志ん生になる必要がなかったように。

 まだガセネタの可能性もあるのでよくはわからない。ただ琴欧洲のときから話題になっていたように、あの人がとにかく「琴櫻」という名を残したくてしょうがないのはたしかである。たとえばそれが大錦、小錦のように由緒のあるものだったらわかるのだが(小錦はみな横綱である。だからあの小錦が返上してKONISHIKIになったのは当然だ)琴櫻は彼が初代である。さして意味のあることではない。ただまあそれが彼のわがままであり、琴光喜が育ててもらった恩を感じて「喜んで襲名させていただきます」となるのならそれはそれでいいのだけれど……。

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 白鵬物語

 フジテレビの「新報道プレミアA」という午後十時からのニュース番組で、「白鵬物語」をやっていた。報道番組の中の再現VTRとしてはそれなりに本格的だった。とはいえ女優と本物が頻繁に入れ替わって映るので、本物の竹葉山夫人と女優に容姿の差がありすぎてすこしつらかった(笑)。
 新横綱で優勝したらスタジオに白鵬を招いて流す予定だったのだろう。11勝4敗じゃ盛り上がらない。


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