平成十九年秋場所覚え書き
07/9/9~


初日  満員御礼

 場内は満員。昨日のスポーツ紙に「朝青龍問題ですっかり影が薄くなってしまったが秋場所が明日開幕する」と書いている人がいた。そうじゃないだろう。朝青龍問題のお蔭で相撲という存在をアピールし、満員になったのだ。なんでマスコミはこんなに寝ぼけているのか。事実客へのインタヴュウでは、「本物は迫力があってすごい。また来たい」なんてコメントが多かった。言うまでもなくこりゃ初めて来たのだ。「早く朝青龍にももどってきて欲しいよね」「国技の品格がわからないみたいだから帰ってこなくていいです」どっちにしろ朝青龍問題で来場したことが見え見えだ。朝青龍のお蔭なのである。

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 安馬、白鵬をぶん投げる!

 安馬が白鵬をぶん投げた。いい相撲だった。最後は首投げの態勢になりながら脚を絡めて掛け投げの形で決めた。モンゴル相撲の味わいである。日本ではああいう形で脚を絡めると怪我に繋がるから推奨されない。
 白鵬は初日とひとり横綱の重責から慎重になりすぎたのだろう。今まで全勝している相手でもあるし。安馬を褒めるべき一番。ほんといい相撲だった。
二日目  幕下の隆の若……
 
 先場所隆の若が十両で負け越したのを確認していた。幕下陥落である。かつて同僚の若の里と共に日の出の勢いを誇り、体格、性格、マスクもよく、誰もが讃える文句なしの未来の横綱大関候補だった。美男力士だからもてまくるのに、休日も部屋にこもってひとりで稽古をしているようなひとだった。(ただし私は江戸時代の錦絵から飛び出してきたような和風の顔立ちを始めとしして、均整のとれた体格、伝え聞くエピソードからの性格を賞賛しつつも彼の相撲に大関以上になる輝きを見いだすことはなかった。たぶんにそういう相撲以外の好意的要素が先走ってしまったのも事実だろう。)

 そんな彼が凋落し無給の幕下陥落である。力士は十両と幕下で天地の違いがある。十両には付き人がつき、幕下は付き人を務める。親方隆の里の気配りでまさか新十両あたりのふんどし担ぎはさせられていないと思うが、それがあるのが相撲界の厳しさであり残酷さだ。
 隆の里はいま何を思うのか。どこかに致命的な故障があり、それが完治すれば復活できるのか。同部屋の若の里は白鵬戦で股関節を傷め関脇から十両まで陥落したが見事に復活してきた。隆の若にそれはあるのか。
 たぶん、きっと、十両でいいとこなしに負け越していたのだから、それはないのだろう。いまも土俵にしがみつくのは釈然としない彼の未練なのだ。なんともつらい状況である。
三日目  やっと把瑠都に会えた

 把瑠都の相撲を見たいと思いつつ、中継がなかったり私が居なかったりで見られなかった。成績はチェックしていた。2連勝だ。当然である。今場所は全勝優勝でもどってきて欲しい。
 きょう三日目、午後三時過ぎからNHK総合の放送があり(いま私はBSが見られない)やっと把瑠都の相撲を見ることが出来た。三時からのニュースが終り相撲放送が始まったのは12分過ぎ、すぐに把瑠都の相撲だった。本来ならひとり横綱白鵬、新大関琴光喜とともに優勝候補として三役にいるべきひとがこんなところにいる。まこと最大の敵は怪我である。
 慎重に前に出る取り口で三連勝したが左膝を上下30センチ以上にも庇っているサポーターが痛々しい。解説の竹葉山が「前に出るのに膝は痛まないので問題はないのでしょう。幕内にもどってからも前に出られるかですね」と語っていた。へんな引き技から脚が内に折れ曲がるような形で負け、怪我をした。それが長引いている。師匠の濱ノ嶋によると恐怖心があるようだ、とか。それはもうあれだけ快進撃してきたひとが同じ形の怪我で辛酸を嘗めたらくさる気持ちもわかる。
 相手力士(名前失念、後に記入)も良い相撲を取っていた。左を差されないようにして右下手を先に取った。満点の相撲だったろう。だけどモノが違う。

 把瑠都は怪我で夏巡業を休んでいる。横綱と同じ(笑)。
 今場所は派手なことをせず慎重に勝ち進んで行くだろう。問題はあの膝のサポーターだ。若い内に古傷を負った力士は大成しない。一日も早くあのサポーターが外れる日が来るのを願っている。
 
四日目  相撲中継遅れる

 お昼、安倍首相が退陣表明ということで一斉に全局が特番態勢に入る。午後二時から首相記者会見。退陣表明。NHK総合の相撲中継は午後五時すぎからになった。まあそれは当然だし仕方ないと思う。私も相撲よりこっちのほうが重要だし興味深かったので不満はない。NHKはBS1でやっているとの思いもあろう。でもBSのない私みたいなのもいる。全国の相撲好きお年寄りのあいだでBS普及率はどれぐらいなのだろう。
 BSがあったときもほとんど見なかったがなければないでCMなしの映画や「逃亡者」再放送を懐かしく思う。
 きょうのは政治問題だったので不満はないが、これが立てこもりの殺人事件だったりすると苛つく。やはり今時BSぐらいは必要か。まあ私の場合、競馬関係なのにグリーンチャンネルをもっていないというだけで問題なのだが。
五日目  安馬、千代大海を投げる!

 今場所の安馬は充実している。龍二さん(2ちゃんねる相撲版での言いかた)も押しては引く絶妙の技術で絶好調? 北の富士が全勝の千代大海に対し、「もう押し出せるだけの力はないからね」とキツいことを言い、「でも土俵際での引きが、まあタイミングがいいというか……」と言い淀んでいた。褒める相撲ではないのだが一応勝っている力士を貶すのもやめたのだろう(笑)。
 きょうは龍二さんのそれも通じず、安馬の完勝。
六日目  把瑠都六連勝
 把瑠都が十両で唯一の全勝。まあ当然だけど。無事だったら幕内でも全勝だ。
 ふと思い立ってテレビをつけたのが三時十五分頃。ちょうど把瑠都が勝ったところ。そのあとのVTRで相撲も見られた。ついていた。

 魁皇休場
 魁皇がきょうから休場。股の怪我からまったく踏ん張れなかったからしかたない。1勝4敗。

 白鵬、感情露わ
 息が合わず立ち会いに四度の待った。白鵬のだらしない負け方でまっ先に思い浮かぶのがこの稀勢の里だ。稀勢の里にも日の出の勢いの横綱に対し分がいいという誇りはあろう。
 相撲は白鵬の完勝。なのに押し出した稀勢の里を両腕でさらに突き出すようにした。朝青龍がよくやる横綱なのに品格に缺けると評判の悪い仕草。
 穏和な白鵬だから珍しく闘志が見えたということで許されよう。

 相変わらず外国人力士の張り差し
 外国人力士のこれが嫌いでならない。なんで立ち会いに相手の顔を張って行くのか。そりゃまあ連発するのだから効果的なのかもしれないが……。とにかく見ていて気持ちのいいものではない。いや私は見るたびにはっきり不快になる。相変わらず白鵬にも琴欧洲にも出ている。なんで指導者がやめさせないのか不思議でならない。

 朝青龍に引退勧告?
 ウチダテマキコが今後の展開では朝青龍に引退勧告をするとか、元横審委員長が「復帰の初場所で13勝以下だったら引退すべきでは」と発言したとか記事になっていた。
 肝腎の朝青龍はモンゴルで泥バック治療中。食も進んでいるようでふっくらしている。政局の問題もあり、やっとテレビ局も朝青龍問題に飽きてきたようだ(笑)。
 相撲ファンとしては貴重な発掘映像が見られてうれしい相撲バブルだった。

七日目  安美錦の野望?──琴光喜効果

 安美錦は二場所連続で朝青龍を破って絶好調である。今場所は東関脇の地位で連勝中だ。きょうも勝って七連勝、幕内トップに立った。
 私は安美錦を典型的な「アレ」だと思っていた。アレとは勝負審判の紹介のときに言われたりする「元関脇(小結)××」という立場である。相撲の場合、引退後の外部的呼称は最高位になる。だからたったひと場所でもいいから三役にあがっていると後々かっこいい。大好きな佐渡ケ嶽親方も関脇を経験しておいてよ心からよかったと思う。「幕内」と「関脇」じゃ大きな違いがある。そういう意味じゃ出島や雅山のように若くして大関になり陥落したひとは辛いだろうなあと思うのだが、引退後を考えたら「元大関」はとんでもなくおおきいのだと知る。昨年九月に新たに部屋を開くための既定が大幅に変った。厳しくなった。幕内在位××場所以上、三役在位××場所以上となっていた。あとで調べて数字を入れる。たしか60場所と25場所だったか。その条件を満たしている(=引退後部屋を開く権利を有している)のは若の里、栃乃洋、とほんの数人だけだった。横綱大関経験者は無条件で許される。出島、雅山は有資格者なのだ。龍二さんは獨立するのだろうか。龍二さんにまともな弟子が育てられるか心配だ。だって「押せ、押せ! 押すのが相撲の基本だ!」と龍二さんは言うだろうけど、どうしても「でも苦しくなったら引いてもいい」と言いそうだから……。いや龍二さんの話じゃなかった、安美錦だ。

 今場所絶好調の安美錦はきょうもかって唯一の七戦全勝となった。内容も充実していてすばらしい。それでも私は安美錦はまた三役から転落し、それでも幕内にはとどまる、いわゆる旭鷲山のような「安定したエレヴェイター力士」なのだろうと思っていた。
 ところがきょうのアナの言葉で、巡業中に「この関脇の座を大関への足がかりにしたい」と語っていたと知りおどろいた。上への野望をもっていたのだ。彼はいま二十八歳である。今までの常識で考えると関脇を最高位に、十両陥落を期に三十一ぐらいで引退する典型的な「元関脇」だった。いやいまもその可能性は高いと考えている。そういう「タイプ」である安美錦がNHKアナに「大関への足がかりにしたい」と野望を語るとは思わなかった。そして現実にいま七連勝だから今場所東関脇の座確保は確実だ。このまま二桁の成績を上げ、来場所もそれが続いたら現実に大関の目が見えてくる。
 なにしろ安美錦はあの『週刊現代』でも「ガチンコ力士」として折り紙つきなのである。『週刊現代』は朝青龍15戦全勝の内、ガチンコは4番しかなくあとの11番は「注射」なのだと書いていた。眉唾物だがとにかくその4番の中に安美錦は入っていた。そういうひとのやる気だから価値がある。
 それがどこから生まれてきたかといえば三十一歳の新大関琴光喜だろう。三十一でも新大関になれるという事実は二十八でもう成績安定だけを願っていたような力士に刺激を与えたはずだ。
 長くやっていた魁皇が貴乃花、武蔵丸の幕内通算勝ち星を超えてしまった。あと上にいるのは大鵬、北の湖、千代の富士だけなのだからいかに偉大なことか。とはいえその1位である千代の富士が長く取ることでその記録を作ったひとだ。あの人が遅咲きの代表になる。
 安美錦が大関になれるかどうかはわからないけど、そういう希望を持ち、NHKアナに語るほど前向きなのは、とてもすばらしいことと思う。




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 白鵬満点!

 私は二場所連続優勝したときの白鵬の相撲を認めていない。白星は連続したがそれほどのものではなかった。だが今場所は違う。速い攻めを見せ、一気の寄りで勝つ取り口が多い。北勝力戦のように派手な投げが決まるときもあるが、対稀勢の里戦のように、速く低く寄り切る相撲が良い。安馬には負けたがあれはあれでおもしろい一戦だった。要するに勝てばもいいというものではない。勝ちかただ。内容である。このまま安定してくれるといいが。

中日  安美錦はクリスチャンか!?

 サンスポに安美錦に関するデータが載っていた。いまスポーツ紙は買わないが週末だけは買う。サンスポの競馬欄はそれだけの価値がある。
 見出しは「新関脇7連勝は昇進率100パーセント」。過去新関脇で7連勝した力士として大鵬、千代の富士、三代目若の花、琴欧洲の名が上がっている。なるほど、みな大物だ。でもこれも数字マジックだ。年齢が省かれている。二十八歳の新関脇に限ったらデータはまったくちがった色になるだろう。でも「遅れてきた大物」と呼ばれ始めた安美錦には心強いデータになる。なにしろ本人が「上を狙う」と公言したのだから頼もしい。

 またサンスポには安美錦が都内の事務で、話題のあの「加圧式トレーニング」をやっていることを報じていた。紙のスポーツ紙を読むたびに思うのは、ネットの物足りなさである。当然ではあるが紙の方を買ってもらうために情報は抑えてある。やはり買わねばならないし、買うだけの価値があると読むたびに思う。
 とはいえ相撲や競馬のないときは私にはとんでもなく割高になる。先日など阪神の連勝やゴルフのハニカミ王子の話題ばかりで私には読むところがなかった。きょうは競馬、相撲に柔道、政治面も麻生、福田の特集で読み応え充分である。

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 唯一全勝の安美錦はきょうも栃乃洋に勝って中日に勝ち越した。この調子だと二桁勝利はまちがいなさそうだ。それこそ大関の目が見えてくる。その安美錦が時間一杯となり最後の仕切の時、胸の前で十字を切ったのである。いやあおどろいた。知らんかった。安美錦ってクリスチャンだったのか!?
 世の中にはクリスチャンじゃないのにその教主の誕生日を祝ったりするおめでたい日本人がいっぱいいる。安美錦もそのひとりか? 
 十字を切ると言えば競馬のタバラというバカ騎手が馬上でそれをやったことがある。もちろんクリスチャンじゃない。アホが考えついた「かっこいいと思うパフォーマンス」である。後に覚醒剤や銃刀法所持違反で競馬界を追われた。あのころもう覚醒剤をやってたのかも(笑)。いくらなんでも安美錦がそうとは思わない。タバラと同じには考えたくない。しかし青森はヘブライという地名があるようにキリスト最後の地と言われているほどキリスト教とは縁がある??? 私はこんな話が好きでねえ。義経がチンギス・ハンになったとか。だから青森出身の安美錦がその可能性はある。というか、でなきゃ土俵上で十字は切らないだろう。

 疑問はふたつ。まず今までやっていたか、である。やっていたなら私は気づいていたと思う。いやでも安美錦の仕切前の所作にそんなに注意は払っていなかった。やってたのかも。それとも初めての幕内唯一の全勝に緊張し、つい日頃信仰している神様に頼ったのか。
 もうひとつは「これは許されるのか」である。土俵上は神道とかそういうことにこだわるつもりはないが、高見盛、北桜的パフォーマンスが流行るなら、当然最後の仕切の時に目を瞑り、神に祈り、十字を切る力士が出てきてもおかしくない。それは理事長権限で止められるのか。なんとも複雑な思いがした安美錦の十字切りだった。

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 餘談ながら、高島俊男さんの『お言葉ですが…11(=文春ではなく連合出版から出た週刊誌連載最後の一冊)を読んでいたら、平然とキリストもアサハラショウコウも同じと書いているので、同じ考えなのに小心者の私はあまりのその大胆さにびびってしまった。なにしろ個人のホームページじゃない。『週刊文春』の連載に書いたのだ。

《イエス・キリストだのその師匠のバブテストのヨハネなどの「もうじき世の終りが来るぞ」「お前たちは早く悔い改めないと神の処罰を受けるぞ」などといいふらしてまわっていた連中もそうなのであって、まともな者たちから見れば単なる変人である。小生や小生同様の無信仰の者にとっては、中山みきも北村サヨもイエス・キリストも平等無差別、同じことである。》

 しかも、同じようなものなのになぜあんなにキリストだけ世界一有名になったんだと問いかけ、正宗白鳥の『論語とバイブル』にある「総督ピラトが死刑にしてくれたおかげ」を紹介している。
《なかなか鋭いね。死刑にならなきゃせいぜい踊る神様クラスのひとりで終るところだった。》だって。すごすぎる。

 思わず信者からのいやがらせを心配してしまうのだが、その辺は世界に普及しているキリスト教だからだいじょうぶなのだろう。アサハラショウコウに対してだったら「ポア」されてしまう。イスラム教だってやるだろう。あの殺人事件の犯人はいまだに捕まっていない。
 私は高島さんと同じ考えだけど、こんな身内だけでこっそりやっている自分のホームページでさえそこまで書ききれない。公的な場で平然とそれを言う高島さんをあらためて強いひとだと憶った。高島さんはもう「長く生きすぎた」とまで言っているから、こういう発言でキリスト教狂信者に殺されるなら、それもけっこうと腹をくくっているのだろう。


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 小結という地位

 東関脇で8戦全勝の安美錦だが、まだ上位とは戦っていない。その下の小結である稀勢の里、安馬が横綱大関とばかり戦っているのと対照的だ。

 横綱大関になる大物も必ずぶつかる壁がこの小結である。そりゃあもう初日から連続して横綱大関とばかりぶつかるのだからたいへんだ。連日である。それがぽつりぽつりとだった前頭とは違う。この洗礼は強烈だ。番付通りに、初日から5連敗、6連敗と黒星が並ぶことが多い。それでも将来横綱大関になる人はそこから後半戦の下位力士との組み合わせに勝ち、8勝7敗で、なんとか勝ち越す。7勝8敗も多い。
 だが連日横綱大関と当たり黒星が並ぶプレッシャーに潰され、後半戦の今まで勝ってきた下位力士にも取りこぼしこの地位で大敗する力士は多い。3勝12敗のように。
 逆にこの序盤戦を五分に乗り切り、後半の下位力士に力通り勝てば、一気に二桁勝利になり、輝かしい大関候補の名を得る。しかし現実は誰もがここで一頓挫する。「大相撲記録の玉手箱」で過去の記録をひもとくと、どんな大物もみなここで負け越しを経験している。今度記録を拝借して、古今の好きな力士の初小結時代の成績を並べて感想を書いてみよう。

 安馬は今場所小結で5勝3敗だがすでに横綱大関戦をすべて終えている。白鵬戦の勝利を始め、上々の成績になる。これからは白星を積み重ねるだけだ。
 安美錦は8戦全勝だがまだ誰とも当たっていない。いまの勢いから10勝は出来ると思うが、勝った相手として二人の成績は大違いである。

 ところで、この「三役」あたりの智識はちょうどクイズ問題にいいらしく、「相撲の番付で横綱、大関に次ぐ三番目の地位をなんと言うでしょう」なんてのはよく出題されている。朝青龍問題で連日相撲が報道されたから、正解を言えるひとが増えただろうか。


九日目

敬老の日
 把瑠都九連勝!

 十両は把瑠都が九戦全勝。以下はいきなり三敗力士となるから優勝はもうまちがいない。興味は全勝できるかどうかだけ。豪快さは失せたが確実に勝ちに行っているから力関係からありうるだろう。十両全勝優勝二度というのは前代未聞の記録となろう。十両で全勝優勝するような異才がまた十両にもどってきたもういちどしたなんて例はないからだ。

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 安美錦に土

 幕内では安美錦が若の里に完敗した。今までの対戦成績は9戦全敗。苦手意識はないし稽古場では勝ったこともあると語っていたが完敗だった。若の里好きの私としてはいい結末だった。「意地を見せた」と語っていたようだ。そりゃ格上だったんだからね。

 きょうの千代大海戦はなんと13戦全敗。この辺にこの人の「元関脇安美錦」が限界なのではないかと思う原点がある。白鵬や琴欧洲などは軽々と「千代の壁」を乗り越えていった。いまも平幕の白鵬が千代大海をぶんなげた相撲を思い出す。あの龍二さんに13回も戦って一度も勝っていない安美錦に白ける。
 きょう負けて8勝2敗になるようだと、典型的な痩せ馬の先走りになってしまう。さてどうなるか。興味深い。
 と書いて思いだした。琴光喜、琴欧洲と3敗して脱落していったので忘れていたが、龍二さんはまだ2敗だった。すっかり忘れていた。
 朝青龍問題のとき、「入門した朝青龍が目標にしていた力士は千代大海」と流れたのはなかなか衝撃的だった。そうだった。あのころ龍二さんはもう大関だった。父と一緒に大相撲トトカルチョに参加し、日の出の勢いの千代大海をよく指名していたものだ。それに憧れていた朝青龍が優勝21回の横綱になって、そしていま……。時は流れたなあ……。

 まともに考えると優勝は白鵬だろう。盛り上がりに缺ける場所である。

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 豊ノ島、琴欧洲を投げる!

 琴欧洲の相撲がほんとうに小さくなってしまった。23センチ差を乗り越えてぶんなげる豊ノ島は最高だが、琴欧洲もここで終ってしまうのだろうか。心配である。
 以前も書いたが、解説の音羽山(貴ノ浪)が心配していた。長身で規格外の相撲を取って勝っていた貴ノ浪には、自分よりもさらに恵まれている琴欧洲が相手にあわせたちいさな相撲で負けていることが悔しくてならないようだ。だったら直接出かけて直談判して欲しい。
 かといって私は琴欧洲が貴ノ浪みたいな力士になるのはいやだ。この辺難しい。
十日目  安美錦、千代に完敗
 
 案じていたとおり完敗だった。これで14連敗か。これでは大関を狙う、が恥ずかしい。先場所の横綱を破っての活躍とは違い、今場所は下位力士に勝っての連勝だったから、さほど評価はしていなかった。それにしても千代大海に歯が立たないのではちょっと……。

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 琴光喜、脱落

 新大関の琴光喜が四敗して脱落。琴欧洲もダメ。先代は天国で嘆いているだろう。


 
十一日目  十両無惨

 把瑠都が十一連勝。それは当然として、そのあとがいきなり四敗になり、明日にも優勝決定とか。ひどい話である。
 把瑠都は横綱大関クラスの力があるから仕方ないとして、把瑠都に負けただけ、という一敗力士が何人か続かなければおかしい。
 若麒麟、若ノ鵬あたりがその筆頭らしいが大物感はない。新十両の若麒麟が師匠の大麒麟からこの名をもらい、大喜びしていたのを思い出す。そりゃあいい四股名である。うれしかったろう。それから怪我をして幕下で苦しんだらしいが、今場所は勝ち越せば幕内が見えるところまで来ている。でもなあ、この人の将来性はどうなのだろう。
 若ノ鵬はロシア出身。顔が大鵬に似ている。ハンサムだ。注目を浴びているが、きょうも八艘跳びのようなことをしていた。なにを考えているのやら。でもこの時期は誰もがいろんなことをしたがる。白鵬もあれこれやっていたものだ。だからまあそれはいいとしても、白鵬、琴欧洲、把瑠都らに感じた大物感はない。
 十両は未来の横綱大関を捜す楽しみな場なのに、それが見あたらない。把瑠都がいなかったら五敗で優勝なのか。無惨な状況だ。

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 安馬、勝ち越し!

 安美錦はきょうも対戦成績が圧倒的に悪い琴光喜に完敗。三連敗で八勝三敗となった。このあと琴欧洲、白鵬戦が残っている。ひとつぐらい勝てるのか。たとえ十勝しても威張れた成績ではない。
 安馬が勝ち越し。星は同じく八勝三敗だが、横綱大関を破ってこの成績の安馬と、下位に勝って八連勝だったが、若の里、千代大海、琴光喜に三連敗している安美錦では内容が違う。安馬の前途は洋々である。

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 白鵬、豊ノ島に完敗!

 白鵬のバカがまた張り差し。その間に豊ノ島は懐にもぐりこみ、文句なしの寄り切りで完勝した。いいかげん張り差しの品のなさに気づかないものか。ろくなもんじゃない。
 土俵上の豊ノ島は大きく見える。インタヴュウを受けるとアナウンサーのほうが大きい。170センチという以前なら入門できなかった身長だった。あれを撤廃しなかったらこの人はいなかったことになる。
 のっているひとが大きく見えるのは本当だ。

 それにしても低調な場所である。せっかく朝青龍効果で世間の目が相撲に向いているのに、これじゃ客は離れて行く。

 張り差しはやめろ!!
 20日発刊の『スポニチ』で、専属評論家の若島津が「白鵬は張り差しをすることで攻めが遅れる。あれはやめたほうがよい。本来の左上手にこだわるべきだ」と書いていた。我が意を得たりである。くだらん。ほんとうに張り差しはくだらん。それをやるのが大好きな白鵬であり、最高位になったのにいまだに気づいていないというのが、それを指摘する周囲がいないというのが、なんとも情けない。
 あの地を這うような低い左からの上手取りが出来たとき、これでもう盤石の必勝形が出来たと思った。なのにいつしかまた腰高から右張りをやっている。しょうもない。

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 薩州灘、凡愚!

 十両の解説を薩州灘がやっていた。いまの親方名は失念。でもどうでもいいや、覚える気はない。というのは、この人の解説、つまらなくて聞いていられなかったからだ。
 ひたすら波風を立てない解説なのである。これはおもしろくない。把瑠都が十一連勝した。アナが「いやあ、強いですねえ。どうですか?」と問う。すると、「そうですね、強いからまあ全勝なんでしょうけど」って、バカか。
 いやバカじゃなくて、この人には把瑠都の強さを礼賛するつもりがないらしい。あまり好きではないのだ。外人嫌いか。よいことである。だったら言いかたがあろう。「いや把瑠都もね、相撲が雑で缺点はいっぱいあるんですよ、それを突けない他の力士がだらしないですね」でもなんでもいいや、単純に礼賛する気がないならどんどんキツいことを言ったらいい。ケンカを売ってくれ。それでこそおもしろい解説だ。盛り上がる。「強いから全勝なんでしょうけど」じゃ解説になってない。
 若ノ鵬の変化に、「運動神経が良くて、こういうことも出来るんでしょうけど、この人にはもっと正面からの相撲をとってほしいと思います」と延々と憂えていたのは、なんとアナ(笑)。薩州灘はなにも言わず。解説者みたいな苦言を呈してしまうアナも困りものだが、解説者としての役をなさない解説者はゴミである。
 こういうのを見ると舞の海や北の富士の価値がわかる。NHKも評判のいい解説者が欲しいから探しているのだろうし、親方の中にもNHKのレギュラとなって目立ちたいのもいるのだろうが、なかなか適役はいないようだ。とにかくこのひとには落胆した。

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 そういえば栃東が解説がうまい。私は彼を力士としては評価していない。なんとしても日本人横綱を作りたい協会や横審に好かれ、朝青龍とも唯一対戦成績が五分だったものだから、力以上に期待を受けた人だが、勝ち越すためには平然と下位力士に対して変化したし、褒められない相撲が多かった。
 でも体がなかった分、努力家であり理論家肌なのだろう、解説がわかりやすく、味もあり、楽しませてくれる。もうすぐ父親の跡を継いで玉ノ井親方になるのか。このひとは解説の常連になるだろう。

十二日目
 きのうの乱入気違い女について

 私はもちろんこの土俵上に駆け上がろうとした物体をリアルタイムで見ていた。だがどうでもよいことと解釈しここに書かなかった。錦戸(水戸泉)や高見盛がしがみついて止めている現場も目にしている。書かなかったのは、それをよくある酔漢と思い、とるに足らぬ出来事と解釈したのだ。
 しかしけさのニュースで「女」と知っておどろいた。ブルージーンズに空色のポロシャツ、手に書類らしきものをもった、どう見てもあれは「小太りのおっさん」だった。が、女らしい。これはおどろいた。ほんとうにおどろいた。リアルタイムで見ていて女だとは夢にも思わなかった。女だとこの無礼な行為も土俵は女人禁制千四百年の歴史だからまた話が違ってくる。

 そしてあの手にしていた書類の束を、私は相撲好きのおっさんの書いた朝青龍批判でもあろうと思っていたのだが(それなら酔漢の暴挙として許せる範囲と思っていた)、あれは某男性歌手に対する意見書なのだという。誰だろうな、男性歌手って(笑)。これは週刊誌が教えてくれるだろう。つまり相撲である必要は全くないのだった。ただの気違い女である。
 ということでとりあえず書いておく次第。とにかくキチガイはところかまわず出てくるから、相撲協会は今後も注意する必要はあろう。キチガイほど怖いものはない。私も身にしみて知っている。


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 女人禁制とウチダテマキコ

 土俵に女人があがるのは厳禁という方針(元々土俵が母なる大地であることから来ている)に賛意を示すことでウチダテさんは一部から支持を得ている。「なぜあがっちゃいけないの!?」と素朴に疑問を呈すクロヤナギテツコ等とは相撲の理解度が違う、ということから女初の横審委員にまでなった。彼女の美徳は男社会のそういう取り決めに対して理解のある女、という点にある。
 『週プロ』が「プロレスラーは美しい」を連載したのも、そういうそこそこ知名度のある女として、初の本格的プロレス理解者と勘違いしたからだった。初期の時点で私も彼女を相撲やプロレスの「味方」と勘違いしていた。この不明はいまも恥じている。味方のすくない世界だからたまに毛色のちがったのがらしきことを言うところっとだまされてしまう。

 しかし現実は、その連載はひどく「わかってない」内容だったし、そっと一角にすわっているはずの横審じゃまるで古手のの牢名主のように一番言いたい放題をしている。そこで誰もが気づいたはずだ。「とんでもないのに手を出しちゃった」と。
 アラブの格言に「駱駝にテントに首を入れることを許可すると、やがてテントを乗っ取られる」というのがあるそうだ。タフであり、砂漠を行くのに缺かせない相棒の駱駝だが、ものすごく性格が悪いので、犬のようなかわいがりかたは厳禁らしい。常に厳しく接し絶対に一線を越させない覚悟が必要なのだ。もっとも犬だってきちんと上下関係をしつけないとどうしようもない駄犬になってしまうのは常識だ。人も同じか。
 相撲界というテントにウチダテマキコという駱駝を引き入れてしまった過ちは誰が贖うのか。その災いはじわじわと拡がりつつある。駱駝が自分から出て行くことはない。


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把瑠都が負けた……
 
 いやはや驚いた。きょうは十両結びの一番になっていて、もうNHK総合放送開始三時十五分から四時前のその取り組みを楽しみに待っていた。なのに若ノ鵬に負ける。半端な相撲。若ノ鵬、よろこびのガッツポーズ。解説の千田川(安芸の島)は、勝ったと思って力を抜いたのでは、というのだが、なんとも半端なひどい相撲だった。
 今場所の私の楽しみは把瑠都の史上初の二度目の十両全勝優勝だった。それが消えてしまった。優勝は間違いないとして、きょうの敗戦にはひどく気落ちする。把瑠都ってそうなんだよな、こんな「もうひとつ運がない」という敗戦が多すぎる。その辺が気になる。それがこの人の運命なのか。
 でもそれは振り払って明日からまた応援しよう。しかしなあ、しみじみガックシ……。


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 豪栄道、二敗!

 安馬が新入幕でトップを走る豪栄道を負かして関脇の意地を見せた。
 豪栄道のそれまでの一敗が子供のころからのライヴァルである栃煌山てのもいい。

 豪栄道はきょうは大関千代大海に挑む。龍二さん、負けたら赤っ恥と緊張していることだろう。きょういちばん楽しみな取り組みだ。

 豪栄道効果で私が最も期待しているのは稀勢の里の奮起である。唯一の若手日本人の星として、最年少力士として過剰な期待を背負ってきた稀勢の里は、ここのところ伸び悩んでいた。本人は同期の琴欧洲をライヴァルとし(琴欧洲もそれを認め)、名勝負を繰り広げてきたが、琴欧洲は大関に昇り、稀勢の里は前頭と三役を行ったり来たりが現状である。いつしか話題の中心から外れてきた。元々図抜けた体格で目立つわけでもなく、愛想も悪い。いつもふてくされたような顔は当時の北の湖にそっくりである。何かふっきれるきっかけが欲しいと思っていた。

 そこに豪栄道、栃煌山という同い年の連中が伸びてきた。これは稀勢の里の尻に火を点けただろう。豪栄道こと沢井は高校時に11もタイトルを取り、鳴り物入りでの角界入りだった。中学を出てこの世界に飛び込んだ稀勢の里からすればエリートだろう。それがいきなり新入幕で優勝争いの先頭に立ち連日注目を浴びている。燃えないはずがない。これからの稀勢の里に注目したい。

十三日目

 優勝はしたけれど把瑠都……

 把瑠都が片山に勝って十両優勝したが軍配は片山。物言いがついてのやっとの勝ち。原因はまたも「張り差し」。こいつら毛唐には反省という心がないのか。いや毛唐というと髪も肌も同じモンゴル人は毛唐ではないのか。それはともかく、なんでこんなに反省せずにバカのように張り差しばかりするのだ。腹が立ってならん。
 きょうも張り差しをしたため小柄な片山に懐に飛び込まれ一気に土俵際まで追い込まれる。そこでの苦し紛れの強引な上手投げ。同時に落ちる。行司差し違えではなく取り直しにすべきだった。なんともみっともない相撲。尾上の指導はどうなっているのだろう。こんな相撲を見せられてはせっかく優勝してもすこしもうれしくない。来場所に期待が出来ない。なんとか指導してやれよ、濱ノ嶋。怪我が多いのだっておまえがきちんと指導していないからだ。


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 千代大海、豪栄道を一蹴!

 きょうはこれを楽しみに待っていた。期待通りのいい一番になった。千代大海が豪栄道のあたりを跳ね返し、正面から豪栄道を押し出した。
 豪栄道の半端な立ち会いが目についた。アナは勝った千代大海を「大関の意地!」と絶叫していたが、私は解説の千賀ノ浦が言ったように、豪栄道は千代大海の変化も考慮していたのだと思う。それがあの一瞬迷ったような立ち会いになったのだろう。
 アナは千賀ノ浦にそれを指摘されると、「たしかに千代大海には、当たって引く場合もありますからね」と同調していた。
 この辺、いかに今の千代大海が周囲から認められていないか、よくわかる(笑)。
 豪栄道は大関が自分を真正面から受け止めてくれると判断し、思い切りぶつかって行けば良かった。しかしあの大関だから勝つためには平然と変化するかもしれない。そう思って見極めようと思った。それが半端な立ち会いになり、圧力で負けた。
 千賀ノ浦もまた千代大海ならそれをするかもしれないと思い、豪栄道の半端な立ち会いの心情を読んだことになる。

 私は、豪栄道は「大関は意地でもまっすぐ来る」と読みをその一点に絞り、迷うことなく思いっきり行くべきだったと思う。万が一千代大海が変化し、体に触れることなく敗れたとしても、非難はすべて新入幕の若手相手に変化した千代大海が負う。自分の評価の悪さには気づいている千代大海だ。今回はどんなに勝ちたくても変化はせず、正面から来るに違いないと、豪栄道は読みをそこに絞って勝負すべきだった。
 あの一瞬迷ったような立ち会いでなければ相撲は異なっていた。背中を見せるような展開には成らなかったろう。そうなれば明日のいきなり横綱戦がもっと盛り上がったのだが……。


 ところが読売は
 翌日の読売新聞を読んでいたら「新入幕の新鋭豪栄道は、迷うことなく真正面から大関にぶつかっていった。しかし大関は」と書いていた。この手のものがいかに相撲など見ず、「新鋭が気持ちよく大関にぶつかっていったが、大関の壁に玉砕した」というような視点で書いているかがよくわかる。新鋭、若手、迷うことなく、真正面から、すがすがしく、そういう戦う前からの思いこみだけで書いているのだ。この記者、取り組みなど見ていない。思いこみだけで書いている。もしも見ていたらもっと深刻だ。見てもなにも見えないことになる。見ていず書いたら記者失格。見ていても見えないならやっぱり失格だ。
 こういう記事、切り口にマスコミの手抜きが如実に表れている。自分の目でこの取り組みを見なかった人はこの記事からそういう一番を想像するだろう。「真正面から大関の胸に思いっきりぶつかっていった新鋭」「それをまた真正面から受け止め、はじき返した大関」。美しい汗。しかし実際は「あの落ち目大関はなにをやるかわからん」と新鋭は疑り、そこに乗じて落ち目大関はうまく勝ったのだった。そのあとの談話は「負けたときのコメントも用意してたので、勝ってよかった(笑)」だった。
 私も今までこういう「見てきたような嘘」の記事で多くの誤った智識を身につけてきたのだろうと思い、気落ちした。これが世界一の一千万部発行の新聞の実態だ。

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 若の里、琴欧洲を投げる!

 琴欧洲がまたあの大きな体で投げられた。今場所五度目か。すくい投げは四度目だ。上り調子のころの琴欧洲は、まわしをとって投げ合いになったら圧倒的に強かった。彼を負かすにはまわしをとらせないことだと言われた。それが今、四つになっても負けている。まあすくい投げだからまわしはとっていないけれど。

 明日、横綱は新入幕の平幕と取る。飛ばされたのは大関琴欧洲だ。そのことを屈辱と思わねばならない。琴欧洲が三敗力士だったなら飛ばせない取り組みだった。

十四日  把瑠都が……

 把瑠都が千代白鵬に負けた。それも引き技。当たってすぐなんの意味もなく引いている。相手に着いてこられ、簡単に土俵を割っていた。呆れた。バカか、こいつは。
 へたな引き技でへんな転びかたをして左膝を痛めた。それで上がったり下がったりのエレヴェイター力士に成り下がっている。
 十両は前に出るだけで勝てる。また幕内上位に上がったらそういうわけにも行かないだろう。課題はそのときの対策だ。ということで識者の意見は一致していた。
 なのにここでまたわけのわからん引き技をやっている。あれだけ怪我で苦しんできたのになにも学んでいないのか。
 五分の力で勝てる相手連中だ。全勝して当然なのだ。なのに……。

 把瑠都を応援する熱情目盛りが急速に下がってきた。

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 横綱対新入幕の一戦

 きょうの白鵬対豪栄道が平成七年の貴乃花対土佐の海の一戦以来ということで盛り上がっていた。さすがにこういう場合、1995年以来と言わないのが相撲のいいところ。正直私は昭和までは年号の方がわかりやすいが平成になってからはむしろ西暦のほうが楽になっている。
 ヴェテランの土佐の海が十二年前は新入幕、まだ髷の結えない新人だった。東の尾曽(武双山)、西の山本(土佐の海)は、学生時代からライヴァルであり将来を嘱望される大物だった。でもこの場合、貴乃花と土佐の海の年齢は離れていない。

 きょう楽しかったのはこれらのVTRが見られたことだった。輪島と麒麟児、琴櫻と大錦。琴櫻は新入幕の大錦に完敗していた。あのときの大錦は三賞を獨占し未来の横綱大関は確定したと思われた。もともとそれだけの期待を背負って出羽の海部屋の由緒ある四股名をもらった人である。糖尿を患って大成しなかったが。
 あらためて思ったのは、もう見るたびに思うのだが、当時の立ち会いのいいかげんさ。きょうも輪島は中腰で立っていた。というか当時はみんなそうなのだ。今の方がずっと美しい。この辺、若い相撲ファンにはやたらむかしを礼賛する人がいるがそこは一線を引いた方がよい。輪湖時代の立ち会いの汚さは目に余る。

 冷静に考えれば

 白鵬がとったりで勝った。新入幕力士に横綱がとったりってのも、いかにもモンゴル人横綱らしくておもしろい。
 アナはしきりに「二十一歳の新鋭」「若手」「若武者」と豪栄道の若さを強調していたが、横綱白鵬もまだ二十二歳。相撲歴は豪栄道の方が遙かに長い。豪栄道こと沢井が、小学生力士、中学生力士として大活躍し、末は横綱かと期待されていたころ、モンゴルにいた白鵬は日本の相撲のことすら知らない。沢井が高校生でタイトルを獲得したころ、それよりもずっと細い体で下っ端だった。
 ということを考えると、新入幕でいきなり横綱挑戦の凄さより、あっという間に横綱になり、小学生の時から末は横綱大関と期待されていた沢井の挑戦を受ける白鵬の凄さのほうがずっと上だと気づく。

 その辺のこともアナはすこしは触れるべきだろう。
 きのうの千代大海戦は、沢井が小学生の時、すでに千代大海は大関だった。だからそういう視点で語るのはいい。でも白鵬は、本来なら豪栄道、栃煌山と並んで「新入幕」「若手」と呼ばれてもおかしくない年齢、立場なのである。

 それを考えるなら私の白鵬への不満も減じるべきなのだと気づく。でもあまりに期待が大きいので、私は最近の白鵬の相撲に満足していない。いや今場所はかなり速くていい相撲が多かったが、相変わらずの張り差しとか不満も大きい。とにかく一日も早くあの「低い態勢からの左上手取り」を必殺技として完成すべきだ。

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 旭天鵬、のこった!

 安馬と旭天鵬のモンゴル勢三敗同士の対決は旭天鵬の完勝。
 車を運転しての事故で一場所休場(=全敗扱い)となり負け越したわけでもないのに十両まで落ちた。こういう「現役時代はクルマを運転してはならない」のような相撲協会の規約はすばらしい。
 もっともその厳しい処罰(私はこれを当然と思うが)に大島は不満だったようで、そのことが朝青龍批判に繋がったようだ。たしかに時分のところの力士がそれだけの処分を受けているのに巡業をサボってサッカーをしていた横綱に処罰がなければいきり立つだろう。

 そこからの復帰は見事の一語。十両での圧倒的強さを見ると、力が違うんだなあとしみじみと思った。旭鷲山もそうだったが、この人も本気になればもっともっと強いのではないかと思えてならない。ヤクザとのああいう絡みで旭鷲山が引退したのは残念だった。あの人、いったいいつまでエレヴェイター力士をやって幕内にとどまっていられるのか見ていたかった。

 敗れたが小結安馬は十勝四敗。見事な成績である。関脇安美錦はやっと連敗脱出して九勝目。関脇朝青龍も勝ち越した。
 横綱白鵬と弱い大関陣、という形から、小結関脇が安定した成績を残している。安馬の大関取りが現実味を帯びてきた。

 きょう旭天鵬が勝って三敗を護り、白鵬が千代大海に負けると決勝戦。そこで旭天鵬が勝つと初優勝だ。
 まあ順当に白鵬が千代大海をぶん投げて優勝と思うが、把瑠都のだらしなさ(十両優勝した力士にだらしないというのも酷だが)といい、盛り上がりに闕けた優勝争いといい、私にはとてもとても充実した場所とはいいがたかった。(テレビや新聞が盛り上がったいい場所と褒めているのが意外だ。)
千秋楽  白鵬、千秋楽でいちばんの相撲!

 解説の北の富士が白鵬に負ける要素はないと断言。千代大海の力も落ちているし、と。そのあと、ここまで断言していけないのかな、負けたら坊主にでもなるか、と。
 つぶやくようなひとことだったが、北の富士のことだからもしも白鵬が千代大海に負けたら坊主になったことだろう。
 白鵬、低い態勢から左上手を素早く取る。きょうは前みつ。千代大海棒立ちになる。あっさりと寄り切る。今場所初めてあの必勝態勢が出た。いちばんいい相撲。千秋楽で溜飲を下げる。くだらん張り差しなどやっていずこれに励めばいいのだ。

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 安馬、安美錦十勝!

 安馬は敗れて、安美錦は勝って、ともに十勝。安治川部屋大活躍。
 朝赤龍も勝ち越しているので三役陥落は稀勢の里のみ。来場所は豊真将が小結になるのか。琴奨菊も元気だ。安馬を破って九勝。この辺は充実している。
 ひどかったのが琴欧洲。八勝七敗。自分より小さい連中に連日ぶん投げられ、大スランプである。

 来場所は?

 四時から見たが十両優勝の把瑠都の話はひとことも出ず。いまもってきょう勝ったのか負けたのか知らない。話が一切出ないということは来場所が楽しみ、という相撲ではなかったのだろう。よい相撲だったら、把瑠都が好きな北の富士もいることだし、「来場所は把瑠都も幕内にもどってきますし、楽しみです」のような会話があったはずだ。気魄の感じられない相撲が続いていた。琴欧洲、把瑠都と好きな力士に覇気が感じられず、来場所への興味が湧かない。

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 隆の若、引退……

 幕下で四敗三休だった元関脇隆の若が引退を表明した。相撲界には残らないとのこと。
 華やかだった時代を知っているので何とも言い難いものが胸をよぎった。
 今場所負け越しの若の里には隆の若の分までがんばってもらいたい。

 ただし隆の若に関しては、将棋の眞鍋に喩えたが、外見の良さが過剰な評価を得ていたという考えを変る気はない。私は当時から断然若の里の方を支持していた。私は隆の若の相撲に未来の横綱大関と思ったことは一度もない。外見は江戸時代の錦絵の力士のようだったけれど。
 もういちどただし、この人は練習熱心なすばらしい人だった。出世して欲しかった。第二の人生が幸多いものであることを心から願う。お疲れ様でした。
 



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