11/17 | 大相撲トトカルチョ──ファイターの話 「ファイター」とはいわば大相撲トトカルチョである。力士を選んで点数を競い高得点の人には商品が出る。違法なので賞金は出ない。優勝すると7泊8日の海外旅行。10位まで豪華景品。ブービー賞、最下位賞も豪華。その他、だいたい1万人ぐらいでやっているのだが、ゾロメ賞(3333位、4444位とか)、切り目賞(1000位、2000位)のような順位賞もある。関東とか中京、関西といくつものブロックに分けているようだ。1万人とは私の参加している関東ブロックの話である。 参加費は3000円。私は今まで30場所ぐらい参加して(総額9万円!か)ゾロメ賞を二度当てている。それはともにペアでの国内2泊3日の旅行だった。一度目は時間がなくて行けなかった。誰かに譲ってもいいのだがそれもしないままだった。千葉とか和歌山とか選択地は多いが、なにしろ交通費はこっちもちのしょぼい旅行である。どうでもよかった。行く気もなかった。 しかし二度目に当たったとき、またも行っている暇はなく、行く気もなかったのだが、規定を読んで悔しさに歯がみした。なんとそれは「旅行か、または主催者のカタログにある10万円相当の商品と交換可能」だったのである。全自動洗濯機にデジタル腕時計、あと何をとったのだったか、洗濯機は母のため、父のためにもなにかとった。10万円分の商品はずいぶんと使いでがあった。そのときに欲しいと思い、でも母のための洗濯機を選んだのだが、出たばかりのPS2も35000円で入っていた。一度目に当たったとき、期日までに申し込まず旅行を捨ててしまったことに悔いはないが、10万円分の商品と交換できたのを見のがしたのは悔しかった。もったいない。ほんとにもったいないことをした。規定はよく読まねばならない。それに懲りてしっかりと規定を覚えたのだがその後まったくそれらの賞は当たっていない。二、三場所に一度、序の口賞なんてキーホルダーが送られてきたりする。 当たったのは二度とも、あまり考えずに書き、6666番とかのひどい順位がゾロメ賞に引っかかったのだった。単なる偶然である。最近は真剣にやっているので順位は235番とかかなりいいほうなのだが、それではなにも出ない。うまくゆかんものだ。最初のとき規定を知らず旅行を捨てなければ、二回ゾロ目賞に当たり、20万円分の景品を当てていることになるから、私はプラスしていることになる。 豪華な賞品を出していると言っても金はあまっている。いわばネズミ講であるから本部は全国から毎場所律儀に3000円を送ってくる愚かな連中からの金で大もうけだろう。今時海外旅行を当てたいと必死になるヤツもいない。これが盛り上がっているのは相撲ファン同士の競りあいだからである。 私が馬券狂なのに宝くじを一度も買ったことがないのは自分の推理力で当てたいと思うからだ。運任せのものには興味がない。競馬が好きなのに競輪も競艇もやらないのは(誘われて行ったことはあるが)、その推理するだけの知識を備えていないからである。今から身につける努力をする熱意もない。私はサイコロバクチなんてやる気はないから決してバクチ好きではないと思っている。外国で何度かカジノに行っているがつまらなかった。情報を与えられてそこから推理することが楽しいのだ。残念ながらその能力は人並み以下のようだが。 この「ファイター」もたとえ無料であったとしても相撲好きでなかったら関わらなかったろう。自分なりの相撲好きであるという自負、力士の成績を読めるという自信(ほとんどの場合勘違いだが)から関わっているのである。だから結果として毎場所参加費の3000円を吸い上げられるだけなのに楽しくて続けている。 なんとも世の中とは皮肉なもので、毎場所各ブロックごとに優勝者のコメントが載っているのだが、それらのほとんどが「初めて参加しました」とか「三度目の参加です」と強運の初心者であり、「相撲を詳しくないのに優勝しちゃっていいんでしょうか、なんかもうしわけない気分です」なのである。中には「10度目の参加ですが優勝は2度目です」なんて猛者もいる。日本全国で、相撲ファン歴うん十年、ファイター参加うん十回で序の口賞にも関わったこともない人が悔しさにほぞをかんでいることだろう。かくいう私の父がそうである。ひじょうにへただ。外人力士は嫌いだからと書かない。それだけでかなりのハンデになっている。でも毎場所好きな力士を書いて低得点の父を見ていると、真の応援とはこれなのだろうと思う。そういう連中の合間を縫って、相撲なんて好きじゃないすばしっこいヤツが商品をさらってゆくわけだ。 でもみっともなさでいうと、一貫して低得点の父よりも、高得点を狙っては、あっちふらふらこっちふらふらしている私が最も信念のない醜い男かもしれない。それでもさいわいにも私は、二度の国内旅行を当てているから(一度は捨ててしまったが)とりあえず収支はとれていることになる。父は9万円丸々捨てているのかと思うともうしわけなくなり、そうしてまたネズミ講は儲かるよなあとあらためて思ったりする。誰もが「たった3000円でこれだけ楽しめるんだからいいじゃない」と思って参加している。でも本部には、その3000円が何万人もの人から送られてくるのだ。その何割かを商品に回すだけで、あとは濡れ手で粟である。うまい商売だ。(今までどこで勘違いしたか「濡れ手に粟」と覚えていたが「濡れ手で粟」が正しいようだ。) 元々これは競馬雑誌『優駿』編集部で流行っていたものだった。誰がどこで見つけてきたのか。私はターフライターの吉沢譲治さんとの縁で始めた。もう何年前になるだろう。それが今まで続いているのは父と一緒に楽しんでいるからである。父には私が勧めた。とはいえこれぐらいの関係では、当時の私はこまめに外国に出ていたし、いつしか切れてしまったろう。どうやら吉沢さんの奥さんのおとうさんが仲間内の参加者を仕切っているらしい。毎場所熱心に参加用紙と、仲間内の予想をコピーして送ってくれるのである。奥さんのお父さんは仲間たちの成績もチェックしつつ楽しんでいるようだ。そのお蔭で今まで続いてきた。『優駿』編集部での始まりも吉沢さんからなのかもしれない。一時は編集部内で十数人が参加していたが今はみなやめてしまったらしい。たしかに「相撲好きが毎場所3000円の予想ごっこ」と割り切れば楽しいが、相撲を好きでもない人が「3000円で旅行や商品を狙う」と考えたら、どう考えても「儲かるのは胴元ばかり」となってやる気のなくなる遊びである。私もこれを真ん中にして父と盛り上がるから続けているのであって、自分だけなら一場所でやめていたろう。馬券を3000円買ったほうがずっといい。 二ヶ月に一度、場所前になると参加用紙が吉沢さんから送られてくる。父と二人、頭をひねって予想し、現金書留で二人分の6000円と予想用紙を東京墨田区の吉沢さんの岳父に送る。(吉沢さんは千葉在住)。おとうさんが仲間内のものを集めて国技館の近くにあるという「ファイター」の東京支店まで持参するのだそうだ。父との楽しい思い出を作ってくれたこのかたには感謝しきりである。 さて下記のものが今場所の私の予想と中日までの成績である。これから後半戦が始まる。なんともうまくゆかんものだとため息が出る。 下の表にあるように力士一覧から11人の力士を選ぶ。3点枠には横綱か大関を入れることになっている。右端は控え力士、横綱大関枠控え力士記入欄である。休場した力士がいたらそこにその控えが入る。いつだったか三人も休場してしまい、控えの二人を入れても埋まらない。三番目には誰が入るのだと本部に電話をして尋ねたことがあった。番付表から自動でスライドして入れるのだと教えてもらった。今の大相撲のいちばんの課題は力士の大型化によるケガである。休場が多すぎる。 得点は力士ナンバーでコンピュータ管理のようだ。限られた力士数だから同じような選択が数多くあり同点が多くなる。それらの順位は下位の力士をより上位にランキングしていた人が有利になるらしい。たぶん力士ナンバーの数が多くなればなるほど下位だから、力士ナンバーの合計数や並びで判断されるのだろう。
相撲ファン歴の智慧と先場所の成績を考慮して選んだのにこの結果。さんさんたるものになっている。私なりの選択の理由を書く。 その前にこれのオーソドックスな戦法を書いておく。本部も推薦している高得点を取るための常識的な方法である。 まず11点枠から8点枠のあたりは10勝をあげられるような有望力士を書く。7点から4点は勝ち越ししそうな力士。2点、1点枠は、負け越すかもしれないが金星をあげる可能性のある力士を書く。横綱を破ると10点、大関を破ると5点のプラスポイントがつく。右端の1点枠は15戦全勝しても15点でしかない。そんな力士なんてまずいるわけがない。ここに9勝6敗の力士を書いてもたったの9点でしかない。一場所全部の成績が上位に書いた力士の一日分でしかない。ところが2勝13敗なんてひどい成績でも、横綱大関をひとりずつ倒したらそれだけで15点になるのである。そうしてまた「成績は負け越しだが横綱を負かした」なんてのが毎場所必ずいる。ここの選び方はけっこうむずかしく、それだからおもしろい。 今場所の順位。若の里は毎場所決まって1位にしている。ファンであるし、とくに今場所は10勝、11勝と来て大関とりがかかっている。12勝で当確だ。うまく行けば優勝まである。なのに……。 2位の豪風(たけかぜ)は先場所13勝2敗で十両優勝。3位の隆乃若は元関脇がケガで十両まで落ちて先場所から復活。先場所12勝3敗。じつはこの二人、「ファイター」の送ってきた番付ではまだ十両になっていた。それで今場所もともに十両上位でかなりの白星を稼ぐだろうとこんなに上位に入れたら二人とも幕内だった。この幕内と十両の間にある厳然たる差は不思議だ。幕内で4勝11敗なんて負け越したて十両に落ちたのが、十両だと13勝2敗なんて成績を上げてカムバックしてきたりする。この壁は大きい。二人とも入幕していたから星が伸びないのはしょうがない。でも隆乃若は関脇で10勝あげていた大関候補なのだから12枚目でこの成績はものたりない。 旭天鵬、琴光喜、岩木山の成績には頭を抱えるしかない。旭天鵬は今年になってめっきりと力をつけてきた。三役に定着するかに見えたが、先々場所負け越して平幕に落ちる。先場所はこれは狙い目と強気にランキングした。いい相撲で10勝をあげた。返り関脇。まず9勝は堅いと読んだのだがこの成績である。なんときょうまで2勝6敗。わからん。それでも武蔵丸を破っての10点があるから救われる。 琴光喜もひどい。すでに優勝経験もあり学生時代には27個のタイトルを獲得した大器だ。それが左肘のケガで苦しんでいた。先場所、体調がよくないのは知っていたが番付も下だし、あまり期待もせずランキングした。それが優勝戦線にまで残る11勝4敗の好成績。そうして今場所、ひさしぶりに肘の調子がよく充分な稽古が出来たと笑顔だった。期待度大である。おそらく全国的にそうだったろう。なのにこの成績。1勝7敗。目の前が暗くなる。 岩木山。ごつい顔と体で前に出る相撲。しっかりと実が入ってきた。先場所はランキングしなかった。すると11勝4敗。この充実ぶりは無視出来ないとランキング。すると全敗(笑)。8日目にやっと初日が出たが、それは引退する武蔵丸の不戦勝。それでもやっとここで10点稼いでくれた。 十両の黒海(白人。グルジア出身。来場所史上初の白人幕内力士が誕生する)はランキングミス。これは今場所の十両優勝候補なのだから2位にいれなければならない。このミスも豪風と隆乃若がまだ十両という勘違いから生まれた。これは痛い。これから黒海ががんばるとミルコのように、グルジアは全国的に知られる国名になるだろう。 実力者の栃乃洋、土佐ノ海、本番で強い高見盛を、「負け越すかもしれないが金星を稼いでくれるだろう」とここにランキングしたのは予定通り。金星を稼いでくれたがそれ以上に絶好調で、上位にランキングしておけばずいぶんと違っていた。いかに私のランキングセンスがわるいかをあらわしている。 ということで、よせばいいのに、「もしも理想的なランキングを組んでいたら」をやってみた。いったい何点取っているのだろう。結果を知ってからの後追いだから意味のないことだ。それでも最低限の決まり事は守って予想してみた。成績は悪いが若の里を1位にするような基本は変えていない。それから今、琴乃若や旭鷲山が1敗で絶好調なのだが、今まで彼らを選んだことはないし、今場所もどのように頭をひねったとしても彼らの名を書くことはなかったろうから、いくら成績がよくてもそういうことはしない。同じく全敗でも岩木山や成績の悪い旭天鵬は必ず入れたろうから外せない。 若の里1位、黒海2位にして、いつもの私の感覚で、もしもベストのメンバー、ベストのランキングを組んだなら、何点になったろうという実験だ。なんとも悔しいのは北勝力だ。先場所上位に入れて期待したら4勝11敗で足を引っ張られた。迷った末今場所は消したら快進撃。8日目に敗れたが7勝1敗の好成績である。彼を入れるのに忸怩たる思いはない。それに、これから絶不調になる可能性もある。ここからの負け越しだってあるのだ。相撲は千秋楽までわからない。
するとこうなった。この点数は関東ブロック1万人中、ダントツの1位なのではないか。負けの多い力士を何人か絶好調力士に取り替えればもっと点数は上がるが、ランキングすべての力士が絶好調なんて、そんなスーパー予想者はいない。みなひとりふたりは調子の悪いのを抱えている。だいたい同じ点数に50人ぐらいがひしめきあい、微妙な順位点で差がついてゆく。 毎回優勝は730点前後。先場所優勝者の8日目の点数を見ると377点であった。今場所は武蔵丸が金星10点を5勝も計上したから合計点はいつもよりあがるだろう。詮無いことではあるがこの「理想の架空予想」をこのままつけて、自分は優勝できたのかどうか確かめてみたい。 この「大相撲トトカルチョ」の話も、ホームページを立ち上げたころから予定していてやっと書いた。ずいぶんと時間がかかっている。 結果はこうなった──11/23
優勝は栃東。その「優勝力士10点」がないが、果たしてこの架空の設定、何位ぐらいに入ったか!? |