市ヶ谷駅を降りたらもう桜が目に入る。 敗戦の日だとインチキウヨクの街宣車がいたりしてわずらわしいが、春秋の例大祭にはそんなものはいない。これが本筋。 そう思って、ここのところ靖国参拝は例大祭にしているのだが、奉納大相撲を見るのは初めてだ。 出かけるときはけっこう肌寒かったのでハーフコートを着てきたが、はやくもここでもう脱ぐことになる。春爛漫というより初夏のよう。 ※ 自販機の前で、鉄筋コンクリートのような大女が、仁王立ちでオロナミンCを喇叭飲みしていた。なんか、「ファイト一発!」のCMより説得力があった。その横で、自販機に隠れるように、制服のOLがカンビールを飲んでいた。午前10時。アル中か? ひさしぶりに都心に出ると、いろいろと珍しいものが見られる。 |
境内はもう満開。私の住む地ではまだここまで花開いていないから都心のほうが暖かいのだろう。閑かな春の日。 |
二礼二拍手一礼で英霊に感謝の挨拶をしてから相撲場へ。 力士の姿を見ると、相撲観戦の期待が高まる。 ※ テレビ局などで好きなタレントが出て来るのを待つ「出待ち」というのがあるそうだが、相撲ファンにもそんな連中がいると初めて知った。 土俵ではもう熱戦が始まっているのだが、そんなものには見むきもせず、横綱大関のような有名力士が控室に入るのを、土俵からはるかに離れた場所でじっと待っているのである。それはもう相撲が好きと言うより単に有名人好きだ。タレントの出待ちをするのは若い娘なのだろうが、力士のそれはいい年のおじさんおばさんである。女はまあ永遠に女だからわかるとして、「出待ちのおじさん」の感覚は私には理解できない。 |
おどろいたのは、とにかく外国人が多かったこと。このひとたちはフランスからの旅行者。すこし会話した。フランス語をしゃべったのは21世紀なって初めてか(笑)。いや2003年に話しているから初めてではないか。でも10年ぶりにちかい。 友人知人の前で英語をしゃべるのは恥ずかしい。長年外国に住んでいたりして、そのひとが英語がうまいことを知っていたりしたら猶更だ。自分の語彙の貧弱さや発音の悪さが笑われるのではないかと委縮してしまう。その点、その他のことばは下手であることが恥ずかしくないから割合大胆に話し掛けられる。 |
その後もぞくぞくと外国人が詰め掛けてくる。 気楽に相撲を見るつもりで出かけたら、一般ファンにはかなり規制があった。取材章を申請すればよかったと悔いた。とにかく「立ち止まらないでください」が基本だから、写真を取ったり場内の移動にはかなり制限がある。 |
場内のあちこちでブロンドを見かける。 |
アフリカ系のかたも。黒ドーランを塗った渡辺直美かも知れないけど。 |
五分の一は外国人だったろう。もっとか。どういう形であれ興味を持ってくれることはうれしい。 |
インド系のかたも。手前の人も外国人。いかに多かったことか。 ※ 相撲場に来る前、境内で北京語(支那の標準語)が聞こえた。反日のシナ人かと緊張する。 が、もしかして台湾ではないかと考えた。靖国には日本人として戦死した台湾人も祀られている。 しばらく聞き耳を立てた後、まちがいないと確信できたので、思いきって話し掛けてみた。やはりそうだった。叔父さんをなくしていると言う。大震災の時の義捐金の感謝を述べると、台湾の大地震の時に真っ先に駆けつけてくれたのは日本だったと逆に感謝された。これからも仲よくやりましょうと丁寧にお辞儀をしあって別れた。握手ではなく。 |
相撲甚句。ことば遊びなので外国人にはあまり受けていなかった。大震災にも触れて、いい内容だった。 場内では、酒類も販売されている。おでんやちゃんこも販売されている。 ビールは生ビールしかなかった。理由はわかる。このほうが利幅が大きいのだ(笑)。サーバーのメンテナンスがよく旨かった。というかこういう場合は、ビール会社の営業からサーバーをもってくるので、汚れているはずもないのだが。 しかしちいさな使い捨てカップ(300CCぐらいか)で400円だから高い。初夏のような天気なので、ぐいぐいいってしまう。暑いのでトレーナーも脱いだ。 |
ひさしぶりに生高見盛を見た。相変わらず大人気。 財布には12000円しかなかった。このままでは生ビール代でなくなってしまう。せっかく確保した場所を放棄するのは悔しいが、コンビニにビールを買いに行くことにした。 一番搾り6カンと予備にカンチューハイ2カン、ワンカップ日本酒を2カン買ってきた。場内のおでんを買って、空いている上の方にすわる。地べたにブルーシートだが、これで十分。それでもむかし行った国技館の「4人で十万円の升席」よりも土俵に近い。こんなすばらしいものを今まで見なかったことが口惜しくなった。父を連れてきたかった。 舞った桜の花びらがおでんの容器に落ちてきたりして風情がある。屋根のない相撲はいい。江戸時代はこんなだったんだな。 しかしなによりも、周囲が外国人だらけなのが新鮮だ。 私の席は、前方に後の写真で出て来る「初っ切りで笑う親子と白いコートのおばちゃん」がいただけで、両隣も後ろも外国人だった。異国にいるようである。 |
十両土俵入り。幕内土俵入りの写真はない。 そのころにはもうすっかり出来上がっていて(けっきょく買ってきた酒はぜんぶ飲んでしまった)カメラが面倒になっていた。 左隣にすばらしいフランス美人がすわったので見惚れていたこともある。これはもうフランスでも見たことのないほど美しい金髪碧眼の娘さんで、碧い目というのは、なんというかもう吸いこまれそう。あがってしまってうまく話せない。母親と一緒で、こちらもだからこそこんな娘が生まれたのだろうというくらいきれいなひとだった。ほんと、こういうのを眼福とか目の保養とかいうのだろう。 |
触れ太鼓の実演。音楽だからことばはいらない。これは外国人からも大きな拍手を得ていた。 |
初っ切りで盛りあがる! 場内が最高に盛りあがったのは初っ切り。真ん中のふたりが担当。これはいま、土俵をボイコットして売店でビールを飲んでいるところ。 屋外なのでそういう小物が使える。国技館の初っ切りよりもスケールアップしていて楽しめた。このあと土俵にもどれと追い掛けてきた行司もビールを飲みはじめて爆笑を誘う。たぶん毎年恒例のパターンなのだろう。来年はきっと今年ほどは笑えない。 それに笑いころげる三人組。母親に相撲のことをあれこれ尋ねる坊やがかわいかった。母親の応えられない質問に隣から応えたのが白いコートのおばあちゃん。だから他人。でも家族のように一緒になって楽しんでいた。 荷物になり、着てきたことを悔いたハーフコートだったが、ここにきて役立ってくれた。あまりの陽射しに暑くてたまらない。じりじり焦げるよう。コートを頭から被ったら、ちょうどいい日除けになってくれた。それでも鼻の頭は赤くなったろう。 |
散華した英霊も、空の上から大相撲を楽しまれたろうか。 酔いが回り、あらためて手を合わせて感謝したら涙が出た。 大好きな街、御茶の水の楽器店をまわり、ギター弦と楽譜を買って帰宅した。来年は妻子を連れて行きたい。 |