2012

平成24年春場所

把瑠都、鶴竜、昇進に挑む!
 初日  把瑠都の綱取り

 今場所の話題、最大のテーマは「把瑠都の綱取り」である。先場所14勝1敗で涙の初優勝を遂げた把瑠都が、欧州出身力士初の綱取りに挑む。いや琴欧洲も以前一度だけ優勝していて翌場所は綱取り場所だったから、欧州力士初、ではないか。挑むのは二人目。二度目。把瑠都は初めて。

 力士は外出時、着物を着用せねばならない。正装としてさだめられている。しかし把瑠都は短パンに帽子で髷を隠して繁華街に繰りだし、なんども問題になっている。そのこともあって今回、横綱昇進は連続優勝であり、それも13勝以上と厳しい条件が附せられていた。

 私の予想では、今場所の把瑠都は12勝か13勝で準優勝。優勝は白鵬。果たしてそれで昇進の対象になるかどうか。おそらく見送られるだろう。それでいいと思う。把瑠都にはまだ横綱になる品格がない。


初日
 鶴竜の大関取り

 把瑠都の綱取りの蔭で話題にならなかったが、今場所は鶴竜の大関取りの場所でもあった。ここまで10勝、10勝と来ている。
 もったいなかったのはその前の場所だ。12勝、10勝と来ていた。ここで11勝なら三場所通算33勝で昇進規定をクリアする。しかしここで9勝だった。
 今回は二場所で20勝だからノルマは13勝になる。いくらなんでもこれはキツいだろう。

 だから鶴竜は今場所は11勝程度。来場所が勝負と読んでいた。
 


四日目
 把瑠都と鶴竜の対決

 そんなふたりの対決は四日目。綱取りの把瑠都が4連勝なのは当然だが、鶴竜も4連勝。全勝同士のつぶしあいになった。

 好きな力士ふたりの対決のときは応援が難しい。そしてそれによって好き嫌いに結論が出る。

 把瑠都も鶴竜もふたりとも好きだが、その経緯はすこしちがう。把瑠都はもうほとんど日本語をしゃべれない金髪オカッパ頭だった序の口優勝のころから惚れこんだ。いちばん好きだったのは十両全勝優勝から新入幕のあたり。まさに怪物だった。私は人後に落ちない把瑠都好きである。

 一方、鶴竜は地味だった。顔も地味なら体付きも中型で地味。業師。私は派手好きだからすぐに好きになったわけではない。把瑠都とは対極のタイプだ。
 しかし土俵態度の立派さから次第に惹かれていった。日本語上達の速さにも頭のよさが出ている。「モンゴル人力士でいちばん日本語がうまい」とはもうだいぶ前から言われていた。
 朝青龍や日馬富士とは性格が異なっていた。大学教授の父の元で恵まれた育ちをしている。どうしても力士になりたくて、いちど審査に落ちているのだが、関係者に直訴の手紙を書いてなんとか入門し、ここまできた。



 私は鶴竜を応援した。今場所横綱になれなくても把瑠都には13勝ぐらいはして欲しい。綱は人格の形成とともにたどり着くだろう。

 鶴竜は、いくらなんでも13勝をあげていきなり大関は無理と思う。でも来場所につながる11勝か12勝はしてほしい。すると来場所の大関取りが楽になる。そのためには後半が連続しての横綱大関戦になるから、ここは鶴竜を応援する。

 鶴竜、見事な巨漢崩しで勝つ。
 世間は、綱取りの把瑠都が早くも一敗と大騒ぎ。
 

五日目
 朝青龍、来場!

 この日のトピックは、モンゴル首相と一緒に来場した朝青龍。テレビも映して、名前をあげていた。当然だけれど。以前は無視していた。触れなかった。

 後に週刊誌で知るのだが、ちょっとした問題があったよう。
 朝青龍が首相の隣を離れ、白鵬の控えを訪ねようとしたらしい。前回も日馬富士を訪ねて問題になっている。元横綱だが、今は「部外者」なのである。

 今回もそれを知った貴乃花が気色ばみ、警備担当の栃東に命じて入室を拒んだのだとか。朝青龍はいつものよう、自分を王様だと思って突破しようと思ったのだが、栃東は硬い表情で通せんぼをしたらしい。その表情を見て、さすがの朝青龍も諦めたと週刊誌は伝えていた。なんだっけ? 『週刊ポスト』か。

 拒んだ栃東も複雑だったろう。かつては唯一朝青龍と五分に闘える日本人力士として名勝負を繰り広げた仲だ。本来なら、やあやあどうもと旧交を温める場面である。しかし今は警備係だ。無表情で立ちいりを拒まねばならない。



 それは規則であり、朝青龍は現役時代も、控室に入れてはならない後援者を入れたりしていた問題児なのだが、でもなんともせつなくなる話だ。優勝24回、史上3位の大横綱なのである。円満引退なら何の問題もなかったろう。
 だからあれはやはり引退や辞職ではなく、クビ、追放なのだ。それをあらためて感じた。まあそうなるだけの悪童だったが。
 

中日
 鶴竜、稀勢の里に敗れる!

 鶴竜は7日目、把瑠都に続いて大関日馬富士を破った。7戦全勝。
 日馬富士と鶴竜では人格に大きな差がある。快哉を叫んだ。今日も勝って中日で給金を直すか。

 鶴竜が苦手としている上位力士に、20連敗をしていて、先場所初めて勝った白鵬をべつにすれば、稀勢の里と琴奨菊がいる。ああいうタイプの力士の形に入ってしまうと惨敗する。

 今場所連敗スタートだった稀勢の里は、ここまで4勝3敗。大関陣の中でも最悪の星で苦しい展開になっている。

 しかし全勝の鶴竜を相手に圧勝。相撲に合口があることがよくわかる一番だった。
 ここまで7勝1敗だから、今場所の鶴竜は12勝は出来るかも知れない。しかし大関当確の13勝は遠い記録だ。

 これで全勝は白鵬のみ。中日で給金を直す記録があり、白鵬は自分の記録を更新した。最高記録は北の湖とのこと。
 

九日目
 鶴竜、白鵬を破る!

 鶴竜は白鵬に先場所まで20連敗していた。しかし勝てないまでも、三役になってからは毎場所すばらしい相撲で善戦しており、力は薄皮一枚の差であることがよくわかった。その「薄皮一枚」がとてつもなく大きいのだろうが。
 しかし苦手の稀勢の里や琴奨菊に敗れる一番がいつも惨敗であるのに対し、白鵬とは毎場所熱戦を繰り広げての「惜敗」だった。
 そして先場所初の勝ち星になる。

 名横綱に求められるのは同じ相手に連続して負けないことだ。だが残念ながら白鵬にはそれが多い。稀勢の里にもそれを許している。

 今場所の鶴竜とはどうだろう。私は鶴竜の大関取りを応援しているのだが、今日は順当に横綱の勝ちと予想した。いつもの熱戦にはなるだろうが。

 鶴竜、堂々の相撲で対横綱戦2連勝。薄皮一枚を見事に破って見せた。

 把瑠都、白鵬を破っての8勝1敗。見事である。初めてここで「鶴竜にも優勝の目」を意識する。なら13勝、14勝は行くから、もしかして一気に大関取りも実現か。残る上位は佐渡ケ嶽の二大関のみ。負けるとしたら苦手の琴奨菊ぐらいだ。琴欧洲には勝ち越している。優勝は白鵬だとしても13勝で準優勝になれる。そうなると大関だ。
 鶴竜の大関取りが見えた一番だった。
 

十一日目
 把瑠都、2敗目、さらに連敗、綱取り白紙に!


 把瑠都が琴欧洲に敗れて2敗目。まだ13勝2敗で優勝しての綱取りの可能性は残っているが、相変わらずドタバタした相撲なので、ちょっと無理だろう。白鵬戦も残している。おそらく12勝3敗ぐらいで終り、「綱取りは白紙」になるのではないか。

 序の口優勝から熱烈に応援してきたから言えるが、とにかく雑。最高に豪快でおもしろい一番もあり、私にはそれは魅力的なのだが、摺り足の出来ていないバタ足での大味の相撲だから、白人の大関として見ている分には楽しいが、品格も求められる横綱となると話しは別。なにより危ない。大怪我をするのではないかと冷や冷やする。実際、以前にそれでしている。

 奥さんもロシア人で、母親はもう帰国して欲しいと言ってるぐらいの出稼ぎ根性だから、こういうひとは横綱になってはいけないと思う。いや、横綱引退してすぐに帰国するようなひとであったとしても、まあ5年間名乗れる親方時代は過ごすと思うが、そういう外国人力士だったとしても、品格人格があれば横綱になってかまわない。でも把瑠都にはない。どう考えても横綱の相撲ではない。それが彼には理解できないのだろう。アスリートとしての自分しかわからない。横綱の地位、立場が。
 力士としての自覚がなく、日常でも問題を起こしている。

 力士としての人格品格では琴欧洲のほうが上だ。欧州白人初の横綱が誕生するなら琴欧洲になって欲しい。奥さんも日本人だ。だけどカロヤンはカロヤンで相撲がちいさくなってしまい、相変わらず169センチの豊ノ島にぶんなげられたりしている。それでも今回は先輩大関として意地を見せた。
 いつしか琴欧洲は「最古参大関」になっている。時の過ぎるのは早いものだ。琴欧洲なら綱取り場所になっても、人格や日ごろの言動でもなんの問題もないのに、うまくゆかないものだ。

 これは2ちゃんねるの「相撲板」でも話題になっていた「土俵下に転げ落ちた把瑠都」の写真。意地の悪い写真だとあちこちに貼られている。

 今場所は、表テーマが「把瑠都の綱取り」であり、隠されたちいさな裏テーマが「鶴竜の大関取り」だった。ここで把瑠都の綱取りは事実上消滅した。
 しかし鶴竜は今日も勝って10勝1敗。大関取りのみならず優勝もしっかり見えてきた。なにしろ白鵬に勝っているのだから強い。対戦相手も楽だ。

 翌日、把瑠都は琴奨菊にも負けて3敗目。完全に終わった。本人は緊張で躰が動かないと言っているが、これで綱取りの重圧からも解放された。気楽になれるか。千秋楽は白鵬戦。そこで勝つと鶴竜の優勝の援護になる。
 

十三日目
 稀勢の里、白鵬を破る

 稀勢の里がまた白鵬に勝った。完勝だった。
 ここのところ白鵬は後半戦でよく敗れる。それをアナも解説の北の富士も指摘していた。

 白鵬は、八百長問題や大震災もあり、「たった1年で、4.5歳齢を取った気がする」と語っている。まだ27歳であり、北の富士が「私が横綱になった年齢」と言っていたように、千代の富士なんかと比べたら、これから始まる相撲人生の年齢なのだが、精神的にはまいっているのかもしれない。一人横綱だし。

 鶴竜や稀勢の里の充実ぶりを見ると、白鵬がもう自己記録の63連勝の更新はもちろん、全勝優勝、連続全勝優勝なんてことすら無理のように思える。思えばあの63連勝時は夢のようなものだった。



 鶴竜は苦手の琴奨菊にも勝って1敗堅持。優勝がぐっと近づいてきた。2敗の日馬富士も把瑠都に敗れて終った。鶴竜の優勝確率は八割りにまで上がっている。

 昨日3敗目を喫して綱取りが完全に終った把瑠都は気楽になったのか、ものすごく強い相撲で日馬富士を吹き飛ばした。
 

十四日目
  鶴竜、琴奨菊を破る! 大関確定!

 鶴竜が苦手の琴奨菊にも勝って13勝目。
 昨日12勝の時点で「三場所通算32勝」ながら、大関当確との発言が親方衆から出た。横綱大関を破って内容がよいからだ。

 相撲協会は日本人力士には甘く外国人力士には厳しい査定をする。さらには五大関とだぶついている。今日も勝って13勝にしないとあれこれイチャモンをつけてくるのではないかと心配していたが、さすがにこれだけの文句なしの戦績だから、すなおに評価したようだ。

 しかしそれで弛むことはなく、鶴竜は今日も大関を破って文句なしの数字を揚げた。あとは明日も勝って初優勝するだけだ。
 千秋楽の相手は豪栄道。ほとんどの相手を破ってしまったので、前頭6枚目で11勝をあげている豪栄道をぶつけてきた。番付的には4枚目で10勝の豊ノ島、5枚目で同じく10勝の豊真将がいるのだが、協会としては刺客として豪栄道を撰んだようだ。果たしてどうなるか。



 白鵬が先場所変化で敗れた日馬富士に勝って連続12勝以上という偉大な記録を更新した。おそらくこれは今後も更新されることのないすごい数字になる。まず休場したら出来ない数字だし、毎場所必ず12勝は難しい。白鵬でさえやっとの場所が多くなってきたように。



 把瑠都、4敗目!

 把瑠都が稀勢の里に敗れて4敗目。先場所の充実はなんだったのか。
 

千秋楽
 鶴竜、敗れる。優勝決定戦で白鵬

 鶴竜が勝って優勝を決めるはずだったが、固くなったのか、豪栄道の闘志が勝ったのか、一方的な相撲で負けた。まあこれはこれで勉強だろう。今後の糧になる。1横綱4大関を破っての13勝2敗は見事な星だ。しかし最後の最後にこんな罠が待ち受けていたとは。

 鶴竜はポーカーフェイスで喜怒哀楽を顔に出さない。朝青龍とは対照的だ。
 その鶴竜がこの一番に負けたときだけは、さすがに悔しそうな顔をした。ふだんそれがないひとだけに印象的だった。写真はその瞬間を捉えたもの。

 しかしまだ有利。今場所主役のはずだったのに4敗もしてすっかり落ち目になった把瑠都が意地を見せて白鵬を破れば鶴竜の優勝だ。白鵬が勝った場合は優勝決定戦。それに勝てばいい。チャンスは残っている。

 白鵬が把瑠都に勝って優勝決定戦になる。把瑠都は10勝5敗だった。



 決定戦は大相撲になった。完全に白鵬の相撲になりながら、土俵際で粘った鶴竜のなんと見事だったことだろう。だがそのあと、投げられてしまう。

 21時50分からのNHKスポーツニュースに優勝した白鵬とともに大関昇進確実なので鶴竜も出演した。ビデオを見ながら、「残したことでほっとして、油断したときに投げられた」と言っていた。息を吐かせなかった白鵬もさすがである。

 しかし豪栄道も白鵬も張り差し。鶴竜は連続して顔を張られたことになる。その下品な立ち合いからも、鶴竜に優勝させたかった。

 琴奨菊や稀勢の里とはちがう強い大関の誕生になる。日馬富士が11勝、把瑠都が10勝、稀勢の里と琴奨菊はクンロク。カロヤンはハチナナ。



 鶴竜に勝ち、どんなもんだという顔をした豪栄道のことを、舞の海が「豪栄道は気が弱いと思っていましたがこんな面もあるんですね」と言って周囲から反撥を喰っていた。これはへん。豪栄道なんて顔からして大阪の気の強いアンチャンである。いまごろ何を言っているのだろう。

 また優勝決定戦のあとには、「白鵬という横綱は、ここいちばん勝たねばならないときはなんでもやってきますね」と言っていた。これまたへん。なにいってんだ、このバカは、と思う。白鵬は決定戦で4勝4敗。ここいちばん勝たねばならないときに弱い横綱ではないか。朝青龍や日馬富士に「ここいちばん」でよく負けていた。

 舞の海はファンも多い代わりに大嫌いだというひとも多い。私は彼が好きな方だったが、初めてこの意見で「このひと、ほんとに相撲を見ているんだろうか」と感じた。

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 旭天鵬、友綱部屋へ

 今場所で大島親方(旭国)が定年引退になる。私はそうなるとすぐに旭天鵬が後を継ぎ、まだまだ取れるのに引退なのかと案じていた。琴ノ若のように。
 旭天鵬は大島親方の婿養子である。太田勝さんだ。大島株も譲渡されることが決まっている。

 ところが「友綱部屋移籍」になると知る。よかった。
 今場所は前頭3枚目で5勝10敗。入幕以来初めての中日まで全敗だった。大島が解説に出ていた。弁が廻らなくなっている。老いを感じた。だからすんなり旭天鵬は引退して大島親方かと覚悟していた。

 来場所はだいぶ番付が落ちるが、だからこそ確実に勝ち越すだろう。40歳幕内を実現して欲しい。それの出来る唯一の人だ。37歳。二番目は雅山の34歳だ。あ、でもいま記録を見たら、555勝600敗で負け越しているんだな。意外。

 十両では高見盛が勝ち越した。幕下に落ちたら引退だから心配していたが、よかった。35歳。10年間護った幕内から十両に落ちて4場所目。またがんばって入幕して欲しい。

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 鶴竜の品格

 前記、NHKスポーツニュースに出ていた鶴竜の話。
 勝ってもあまりうれしそうな顔をしたりしないポーカーフェイスについてアナに聞かれると、「負けた相手に失礼になるし、そういうことをするなと教えられてきました。それが相撲の基本だと思いますので」という、じつにいい答をしていた。思わず隣の白鵬が、「それは立派な考えですね」と口を挟んだほど。
 育ちがいいからか朝青龍や日馬富士とは言行がちがう。品格のあるいい大関が誕生した。
 早く奥さんをもらって家庭を築いて欲しい。




壁紙とGIFはhttp://sports.kantaweb.com/より拝借しました。
感謝して記します。

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