2008
2/1
渡辺竜王の礼儀

 渡辺竜王のブログを読んでいたら1月29日の羽生との対局のことが書いてあった。

羽生二冠とは2年4ヶ月振りの対局。お互いにタイトルを持っていて、これだけ当たらないというのも珍しいのではないでしょうか。

朝、下座に座って待っていると羽生二冠に「まぁまぁ、席次通りに」と言われ

渡辺「いやいや」羽生二冠「まぁまぁ」を2回ほど繰り返し、あまり拒否し続けるのも失礼なので上座へ移動

 まずは「2年4ヶ月ぶり」におどろく。羽生がふるえたという、あの棋王戦以来か? 
お互いにタイトルを持っていて、これだけ当たらないというのも珍しいのではないでしょうか」とは言うが、それはほぼ渡辺の責任。A級に上がってくれば毎年確実に当たる。今年もB1から上がれなかった。
 昨年はほとんどの棋戦に佐藤が登場するというすさまじさだったから仕方ないにせよ、渡辺には竜王戦以外でももっと活躍して欲しい。

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 この渡辺の席次譲りには好感を持った。現竜王だからあきらかに羽生二冠より上である。それをわかっていて渡辺は昔風礼儀で下座にいた。若いのにえらいと思う。それをあざといと思うような人とは話は合わない。

 羽生に初めて反感を持ったのがこの席次問題だった。相手は中原だったか。先に来た羽生が上座にすわって待っていたので、中原が首をかしげたのだった。
 当時羽生はタイトルを持っていて、そういうことで言うなら上座でも問題はなかったのだろうが、いわゆる前名人とか、順位戦での順位とか、人としての礼儀が色々あるわけだ。それまでの若者、たとえば谷川なら、タイトルホルダーで中原より格上だとしても、必ず下座にすわっていたろう、ということから、礼儀知らずの新人類として話題になり、将棋雑誌上で羽生が弁明する事態にまでなった。

 このことをきっかけとして席次の順番が細かく決められた。よってその後この種の問題は絶滅したわけだが、羽生が席次的に上座にいても問題はなかったとしても、その気配りが出来ないことに私は失望した。しかし羽生の世代になると「床の間を背にした方が上座で格上」なんて意識はあまりないのだろう。あるにしても、単なる右と左のちがいぐらいで、年配者に失礼とか、そこまでは気にしていない。彼がそういうことにこだわる意地の悪い人間だとは思ってないので、ここは素直に信じる。でもこの事件で私が落胆したのはたしかだった。

 席次が細かく決まったこともあり、渡辺も羽生二冠より現竜王である自分が上とはまちがいなく知っていたろうから、上座にいても今回は話題にならなかったろう。だからこそ下座で待っていた渡辺に好感を持つ。

 渡辺は、

現在の席次は

1.森内名人

2.渡辺

3.羽生二冠

4.佐藤二冠

5.深浦王位

 と推測で書き、そのあと

全てのタイトルに順番があって、序列第3位の棋聖を保持している佐藤二冠が3.羽生二冠が4でした。お詫びして訂正します。


 としていた。棋聖が竜王、名人に次ぐ序列3位とは知らなかった。こういうのも羽生問題の時、以後揉めないように細かく取り決めたのだろう。私の感覚だと3位は王将だ。毎日が名人位をアサヒに取られたとき、指し込み制を取りいれて設置された。それと讀賣の十段戦。竜王戦の前身だ。名人戦、竜王戦、王将戦が私にとっての三大棋戦になる。
 が、毎日が名人位をアサヒから取りもどし、序列1位となったときに使命を終え、ずっと下になった。元々がアサヒに名人位を強奪されたときに作られたものだ。潰すわけにも行かず、主催を系列のスポニチに押しつけた。この時点でスポーツ報知主催の女流名人戦と同格ってことか。賞金総額も7千万らしいから。そうそう、序列とはすなわち賞金額の違いだ。と金の話題になると将棋はかなしくなるからやめよう。王将位はいまずっと下のランクか。

6/17
 祝・羽生永世名人誕生!

 羽生が永世名人になった。うれしい。一時は中原の次、十七世になると思っていたが、谷川の復調を許して十七世は谷川になった。でもこれは谷川の活躍を思えば、これでいい。
 羽生が七冠を獨占した1996年。最後の一冠が谷川の保持する王将だった。これを4-0で奪われ羽生七冠獨占が実現する。ここで谷川は終ったと思われたのに、翌年羽生から竜王位と名人位を奪取する。
 阪神淡路大震災の復活と連動した谷川の復活は見事だった。このときの名人位が五期目に当たる。谷川はこれで十七世名人の資格を得た。



 しかし森内に先を越されるのは想像できなかった。森内は俊英としていつも注目されてきたが、常に羽生の後ろにいてタイトル歴がなかった。森内には森下卓に通じる善戦マンのイメージがあった。
 初めてのタイトルが2002年に丸山から奪った名人位だった。いきなりビッグタイトルである。結婚と名人位の両手に花。だが翌年すぐに羽生に取られてしまった。奪ったのは丸山から。羽生に負けたのは当然と思われた。

 そこからがすばらしい。その年の秋に羽生から竜王位を奪い、王将位を奪い、翌年春、今度は名人位も取りもどしたのだ。森内は善戦マンから脱却し本格化していた。見事な三冠だった。
 その秋、若手の渡辺明に竜王位を奪われたのはいただけないが、名人位は二年連続羽生を退け、谷川、郷田とはねのけて通産五期獲得、第十八世永世名人になってしまった。森内はそこまでの逸材であり、若いときから高く評価されてきたが、まさかこの「羽生より先に永世名人」は想像できなかった。



 願うのは、秋に渡辺から竜王位を奪っての「初代永世竜王」の座である。
 渡辺は一年のすべてを竜王戦の防衛中心に組むという。春先は調子がわるい。徐々に調子を上げ、秋の竜王戦のときにベストにするのだとか。
 しかしながら、棋界最高峰の竜王位にあり、今年も防衛したら史上初の永世竜王の資格を得る渡辺の全般的な成績は物足りない。
 全般的な勝率も物足りないが、一例として王位戦。昨年深浦に敗れてタイトルを失った羽生が今年も挑戦者になった。
 この王位戦の挑戦者決定リーグ戦。紅組の羽生は5戦全勝で進出し、白組から4勝1敗で進出してきた橋本七段との決定戦に勝って挑戦者になった。この白組に渡辺竜王もいるのだが1勝4敗である。棋界最高位の竜王としてはひどい成績だ。

 一冠だけを保持し、それを防衛することに全力を尽くすのが賢いやり方なのかも知れない。その中でも最高なのはいちばん価値があり賞金が高い竜王位だ。渡辺はそれをいま四期連続防衛している。通算七期か五期連続で永世竜王の資格を得るから、いま最も近くにいるのは四期連続防衛中の渡辺と通算六期獲得の羽生になる。

 羽生より一回りしたの世代の渡辺が初代永世竜王になる可能性は高い。
 だが上記したように渡辺は竜王位防衛以外に確たる実績がない。対して羽生は全棋戦で活躍している。羽生と佐藤が二強だろう。私は栄光の「初代永世竜王」の座を、竜王戦だけに強い渡辺明に取って欲しくない。ふさわしいのは羽生だと思っている。それは讀賣がなんとしても名人戦より上の棋戦をと、高額の賞金を出し、順位戦のシステムの缺陥を修正して竜王戦を設置したときの流れから知っている身としては、自然な感情だろう。
 
 竜王戦は順位戦を無視したシステムにより、いきなり初代竜王に六段の島朗が就くというドラマチックな始まりをした。羽生も佐藤も渡辺も、竜王戦のシステムにより、スターダムに駈けあがった。渡辺はいまだに順位戦はB1である。竜王になったときはともかく、今はもうA級になっていないとおかしい。もっとも私はすべてを決めてきたこの順位戦のシステムそのものには反対なので、どうでもいいのだが、ただこれに限らず、渡辺竜王はもっと活躍すべきだろう。

 名人、王将、王座の三冠をもつ羽生は今、棋聖戦の挑戦者になって佐藤とあらそっている。王位戦の挑戦者にもなった。
 今秋、羽生が挑戦者になって渡辺に勝つことが理想だ。まだ本線トーナメントが始まったばかり。挑戦者までの道は遠い。羽生が挑戦者になるには、このあと3連勝して挑戦者決定戦に臨まねばならない。負けることは許されない。決定戦は三番勝負。ここまで行けば誰が出て来ても勝てると思う。問題はトーナメントだ。なんとか初代永世竜王への希望を繋いで欲しい。

 でもいまのところ圧倒的に渡辺がそうなる確率が高い。あちらは一年の中でも絶好調に仕上げた力で、挑戦者と七番勝負を闘うだけだ。
 羽生が念願の永世名人になり、私の思いは秋の竜王戦に飛んでいる。
 羽生が挑戦者になれなかったら、今年の竜王戦は気の抜けたものになる。

7/15
 NHK「名人戦特集番組」のつまらなさ

 NHKが午後十時から名人戦の特集を組んでいた。一時間番組である。羽生と森内も生出演なので楽しみに見た。しかし細部では気に入らないことばかり。その辺の不満を書く。

 まずこの番組が、

7/19
羽生、棋聖位も奪取、四冠に!

 佐藤康光棋聖(棋王)に羽生善治名人(王座・王将)が挑戦してきた産経新聞社主催の将棋タイトル戦「第79期棋聖位決定五番勝負」の第5局が18日午前9時から静岡県伊東市の「わかつき別邸」で行われ、午後7時3分、114手までで後手の羽生が勝ち、対戦成績を3勝2敗として8期ぶり、通算7期の棋聖位に返り咲いた。これで羽生は2年4カ月ぶりに4冠に復帰し、再度の全7冠制覇が視界に入ってきた。また、羽生のタイトル獲得は通算70期となった。残り時間は羽生8分、佐藤1分。

 今期五番勝負は3年ぶりに羽生が挑戦して2冠同士の対決となった。羽生は第1局直後の名人戦で森内俊之名人を破って十九世名人の資格を獲得。“棋聖対名人”の頂上決戦を制した。
 羽生は埼玉県所沢市出身、二上達也九段門下。7年に永世棋聖、翌8年には史上初の全7冠制覇を成し遂げた。永世称号は竜王以外の6つを持つ。
(産經新聞より)

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 これで四冠。いま闘っている深浦から昨年奪われた王位を取りもどして五冠。秋に渡辺から竜王を奪取して初の永世竜王になって六冠。そして来年の二月、今年佐藤に奪られた棋王を取りもどして七冠達成だ。
 問題は竜王の挑戦権のみ。夢を見せてくれ、羽生。

 王位戦は深浦が4対3で防衛。まったく深浦は「羽生キラー」である。誰もに強い佐藤が羽生にだけは適わないのと対象的だ。
 このあと年末には王将戦の挑戦者となる。いま(09年1月)対戦中。1勝1敗。深浦だけに羽生も油断が出来ない。
08/8~
2008竜王戦話

 云南で知った羽生の挑戦者決定!

 羽生が名人位を奪取し永世名人になってから、将棋に関する私の注目はただひとつ、「竜王戦の挑戦権」のみだった。誰が挑戦しても渡辺が防衛し初代永世竜王になりそうだった。とめられるのは羽生しかいない。羽生が勝てば初代永世竜王なのだから、これは全将棋ファン、主催者も、みな羽生が挑戦することを願っていたろう。

 羽生が決勝トーナメントを勝ちあがって行くのを固唾を呑んで見守った。見事に挑戦者決定戦三番勝負まで進出した。あとは木村との決戦のみ。そのあと云南に出かけた。
 40日ほど滞在した間、インターネットとはまったく無縁だった。望んでではない。説明するのも面倒なほどとんでもない田舎なのである。

 一度だけインターネットカフェのある大きな町に出た。中国語しか使えないパソコンで苦労しつつ、羽生の挑戦者決定を知る。うれしかった。思わず「よし!」と声にしていた。

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 七番勝負はネットで無料中継された。アサヒマイノチの名人戦や順位戦が有料なだけに、「さすが讀賣、太っ腹!」と絶讃の声がうずまいた。私も無料で助かった口である。コンビニでプリペイドカードを買ってまで見るかとなると話は違ってくる。

 二面ディスプレイに、「竜王戦中継サイト」と、2チャンネル将棋板の「竜王戦スレ」を開く。中継サイトでもプロ棋士が解説して書きこんでくれるが、2チャンネルの将棋好き連中の意見を聞くのも楽しい。

 初戦から詳しく感想を書きたいが、いまはその気力がない。羽生が負けて、なにもかもどうでもよくなってしまった。
 10月18日に始まり、12月18日に終った。

 羽生が三連勝したときは、四連勝で奪取と思った。それがまさか三勝三敗になり、タイトル戦初の「三連敗から四連勝」で渡辺が勝つとは……。

 しばらくは将棋のことを思い出したくないほど落ちこんだ。

 よってこれも、年が明けた二月に書いた。

 今は素直に羽生に四連勝した渡辺を讃えられる。おめでとう、初代永世竜王。
 なんともドラマチックな初代永世竜王誕生劇だった。

12/28  情熱大陸不発

 28日日曜日深夜、午後十一時半から零時半まで竜王戦を扱った「情熱大陸」があった。TBS。時間はいつもの倍の1時間。前々から知っていた。楽しみにしていた。

 しかし残念ながらじつに無内容な空疎な番組だった。見終ってから虚しくなり、HDDレコーダに録画していたがすぐに削除した。あのすばらしい熱戦をあれほど空疎な作りに出来るのはそれはそれで才能か(笑)。こんなものを楽しみにしていた自分さえ虚しくなった。いかにもクソTBSらしい番組だったと言える。

 もしも羽生の4連勝で終っていたらどんな内容になっていたのだろう。あの歴史的七番勝負ですらこの内容なのだからもっとスカスカになったか。ひどい番組だった。

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 年明け、正月に「情熱大陸──立川談春」があった。すばらしい出来だった。大阪フェスティバルホール(2700人収容)で獨演会に挑む談春の心意気と、師匠談志との関係がとてもよく出ていた。
 何人ものディレクタが交代で作っているのだろう。よって、上記の言いかただと「情熱大陸」の否定のようになる。そうではなく、あくまでも「情熱大陸──竜王戦」の出来が最悪だったと訂正したい。




この将棋盤壁紙は
http://www.geocities.jp/shogi_e/haikei/backtop.html
より拝借しました。

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