名人戦アサヒへ!
将棋の名人戦主催で毎日新聞が継続強調
日本将棋連盟(米長邦雄会長)の理事会が、07年6月に始まる第66期名人戦・順位戦の主催者を毎日新聞社から朝日新聞社に移す方針を決めたことを受け、毎日新聞社は13日付朝刊の紙面で「毎日の名人戦」を継続する意向を表明した。
毎日新聞東京本社の観堂義憲編集局長名で「今回の契約解消通知は私たちにとりまさに寝耳に水でした。連盟に(契約を白紙にするという)通知書の撤回を求めます。全国の将棋ファンのためにも、名人戦を今後も将棋連盟とともに大切に育てていきたい」と継続の強い意志を明らかにした。
同記事によると、毎日新聞社は共催している王将戦と合わせて年間4億円以上を将棋連盟に支払っているが、朝日新聞社は今回、年間5億円以上を5年間支払う条件を提示をしているという。
(ニッカンスポーツより)
やはりこうなってしまったか……。
噂は聞いていた。しかしなんとか毎日にとどまってくれと願っていた。
■昭和51年事件の顛末
昭和15年から始まった名人戦は元々毎日新聞(当時は東京日々新聞)が主催者だった。「名人戦」という名跡を宗家から買い取り、将棋連盟に寄贈したのも毎日だと言われている。
だが第9期に当たる昭和25年にアサヒシンブンが金で奪い取る。以降昭和51年まで「将棋名人戦」はアサヒが主催した。
看板の名人戦を奪われた毎日が、名人戦を超えるものをと企劃したのが「王将戦」だった。「指し込み制」を導入して、有名な升田の「名人に香を引く」が実現する。
読売は「九段戦」から、グレードアップして「十段戦」を主催する。名人戦、王将戦、十段戦、これが当時の三大新聞による三大棋戦である。やがて産經の「棋聖戦」、三者連合による「王位戦」が出来て五大棋戦となるが、棋士の憧れはいつでも「名人位」だった。
昭和51年にまたもアサヒが、今度は囲碁の「名人戦」を読売から金で奪い取る。将棋と囲碁の両方の名人戦を揃えようとした。ところがその強奪費用がバレてしまった。2億6千万円である。
そのときまで将棋の名人戦にアサヒが払っていた額は3800万円だった。桁が違う。囲碁名人戦引き抜きの金額がバレて将棋連盟も気色ばんだ。
将棋連盟がアサヒに主張したのは囲碁と同列にしてくれということだった。囲碁名人戦の年間契約金が1億6千万円なら、将棋のほうも同じ額にしてくれと主張した。当然であろう。交渉が続く。それだけの金額差があっては世間のイメージが将棋は囲碁より格下となってしまう。誇りからも許せない。しかしアサヒは応じない。将棋連盟は1億3千万円程度まで妥協したがそれでも妥協しない。棋士総会も紛糾する。
アサヒと専属契約を結んでいてアサヒの肩を持つ升田、加藤一二三と他棋士のやりあいとなった。このとき米長は、将棋連盟の棋士ながらアサヒ贔屓する加藤一二三(キリスト教信者)を、「あんたはユダなんだよ!」と叫んで糾弾した。
その米長がいま将棋連盟の会長になって、今回のアサヒへの移行を先導した。米長に同じことばを投げつけたいと思った将棋ファンも多かろう。
毎日と懇意だった大山が頼み込む。すでに王将戦をもっていた毎日は、それを系列の『スポニチ』に主催させるようスライドして名人戦を引き受ける。ここで肝要なのは、毎日はこれさいわいと元々自分たちの宝物であった名人戦を引き抜いたのではなく、大山に頼まれ、苦境の将棋界を救うために引き受けたという流れである。いわば侠気だ。それからも将棋界のために最善を尽くしてきた。アサヒとは大違いである。だから今回の金目当ての移籍にも、「世話になった毎日に悪い」との意識が年配の棋士にはある。
だが米長は言うだろう。家長(将棋連盟会長)として家族(棋士)によりよい生活をしてもらおうと、よい給料の会社に移るのは当然だろうと。
(私はこのときの囲碁名人戦の数字を1億6千万と記憶しているのだが、先ほど目にした『週刊新潮』では2億6千万となっていた。となると「囲碁と同じにして欲しい」と将棋連盟が迫った1億6千万円という数字がおかしくなってくる。ただこれはまちがいない。将棋連盟が1億6千万円を要求し、受け入れられず、1億3千万程度まで妥協したが、アサヒは応じなかった。この数字は確かだ。でも私の記憶よりは『週刊新潮』のほうが正しいだろうから、アサヒの囲碁名人戦引き抜き額は2億6千万円なのだろう。ただ、今回のアサヒの5億という提示額の内訳にもあるように、棋戦そのものは1億6千万であり、一時金として1億とかの可能性もある。)
※
前記の「大山康晴の晩節」には、名人戦におけるアサヒの露骨な升田贔屓、大山嫌いの様子が克明に描かれている。升田はアサヒの専属であり嘱託だった。
名人戦で二人が対局し、升田が勝つと大宴会、大山が勝つとさっさと撤収だったという。主催の新聞社がである。いかにもアサヒシンブンの歪んだ体質が出ている。大山はその屈辱的な扱いに無言で耐えていたという。それを河口は身近に見てきた。
河口は、そういう屈辱にもじっと耐えることによって大山はますます強靱な精神力を身につけていったと分析している。蛇足ながらこの本は大山にヨイショした本ではない。むしろ勝つためにはどんな方法でもとった大山の変人ぶり、嫌われ者だったことを真っ正面から書いている本だ。だからこそ信じられる。
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私話。私は子供のころから当時の子供が誰でもそうであったように将棋を指した。戦法も囲いも知らない我流の話にならないレヴェルである。大学のとき、同じアパートの拓殖大学の学生O君が将棋に凝り、自分の研究のために私に相手をさせた。彼が本で読んだ新戦法を指すと、なにも知らない私は面白いように引っかかって負ける。彼は会心を叫ぶ。将棋に興味のない私は、さして悔しさも感じず負け役を演じていた。弱すぎてO君も物足りなかったことだろう。
何ヶ月も負け続けたある日、突如として悔しいと思った。そうして勉強を始める。ここから異様に凝った。O君も追いつかれまいと努力する。何人かの友人も巻き込み、将棋センターに通い、いつしかみな有段者になっていた。今もO君に感謝している。あれがなかったら今こうして書いていることもない。
というのが昭和50年頃なのである。競馬だとカブラヤオー、テスコガビーだ。
以後当時は「近代将棋」今は「将棋世界」を読み続けて、いつしか三十年来の将棋ファンとなっていた。チェンマイの『サクラ』で何年も負けなしだったことも懐かしい。
この昭和50年11月17日に武道館で「第1回将棋の日」が行われている。O君と一緒に出かけた。11月17日は江戸時代のお城将棋の日であった。以後もこのイベントは続いているが、今は17日にこだわらずこの時期の日曜日に開催されている。
そういうことからこの「昭和51年の大騒動」はさなかで味わっている。順位戦は一年中止になり、翌52年から毎日主催で再開された。まことに大騒動であった。前記の「大山康晴の晩節──河口俊彦著」を心から楽しめたのも、当時このことに興味を持っていた者だけが楽しめるような裏話が書いてあるからだった。
私は今、アサヒシンブンということばを聞いただけで不愉快になるほどアサヒが嫌いだが、当時はそうではない。「天声人語の英訳が入試に出るそうだから」と家の新聞をアサヒに替えてもらってから数年後である。長髪の心情サヨクだ。反体制の歌を歌うアサヒシンパだった。
だがこの事件に関しては、将棋ファンの気持ちとして、将棋界に冷たいアサヒを嫌い、毎日の温情に感謝したことを覚えている。それほどの事件だった。
■三大棋戦の変遷
将棋名人戦は昭和52年から毎日新聞主催に移った。正しくは金で奪われたものがもどったことになる。
以来現在まで、名人戦は毎日主催だった。
この間で特筆すべきことがふたつあった。
ひとつは、名人戦を手にした毎日が、それまで主催していた王将戦を系列のスポニチ主催にしたため、名人戦を超えるものとして企劃され、それまで三大棋戦のひとつとして君臨してきた王将戦の格が一気に下落してしまったことである。
それは下記の各棋戦の契約金を見てもわかる。竜王戦は読売主催のむかしの十段戦が変身したものである。「名人戦」「王将戦」「十段戦」が新聞社主催による三大棋戦だった。
「竜王戦」と名を替えた「十段戦」と「名人戦」は二大棋戦として輝いている。スポーツ紙主催のため一気に7千万円の契約金となり下落してしまった「王将戦」が哀れだ。しかしこれは売り上げ減に悩む落ち目の毎日が二つも大棋戦を主催することは無理だからしかたないことであったろう。元々自分たちのものであった名人戦がもどってきたのだ。その名人戦打倒のために企劃された王将戦の価値下落は自然だったか。王将戦が三大棋戦だった時期を知っているだけに割り切れない思いがする。
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各棋戦推定契約金(2ちゃんねるより)
竜王戦(読売新聞社)…約3億5700万円
名人戦(毎日新聞社)…約3億4000万円
棋聖戦(産経新聞社)…約2億円(※永世棋聖功労金が別に有り。契約金に充当)
朝日オープン(朝日新聞社)…約1億2000万円(他に普及協力金有り)
王位戦(新聞三社連合)…約1億円
王座戦(日本経済新聞社)…約1億円
棋王戦(共同通信)…約9000万円
王将戦(スポーツニッポン新聞社)…約7000万円
NHK杯(日本放送協会)…約7000万円
銀河戦(サテライトカルチャージャパン)…約5000万円
将棋日本シリーズ(日本たばこ産業)…約4000万円
新人王戦(しんぶん赤旗・日本共産党)…約3200万円
上掲は2ちゃんねるにあった情報通のかたの書き込み。後日、問題が進展するに従い、正規なものが発表になった。金額に若干の違いがあるが、私としては下記の正確なものより、早い時期に上掲のものを示してくれたかたに感謝したい。(4/20)
中原副会長談、契約金額
☆竜王戦(読売新聞)10~12月 7番勝負*8時間_渡辺 3億4150万円
★名人戦(毎日新聞) .4~ .6月 7番勝負*9時間_森内 3億3400万円
棋聖戦(産経新聞) .6~ .7月 5番勝負*4時間_佐藤 1億4650万円
王位戦(新聞三社) .7~ .8月 7番勝負*8時間_羽生 1億2380万円
王座戦(日経新聞) .9~10月 5番勝負*5時間_羽生 1億0960万円
棋王戦(共同通信) .2~ .3月 5番勝負*4時間_森内 1億0351万円(棋王戦のみ前期分)
☆王将戦(スポニチ) . 1~ .3月 7番勝負*8時間_羽生 7800万円
☆朝日オープン(朝日) .4~ .5月 5番勝負*3時間_羽生 1億3480万円
もうひとつは前記した「竜王戦」の出現である。部数日本一になった読売は、将棋の分野でも日本一になりたかった。それで「十段戦」を大幅にリニューアルして「竜王戦」を作った。1988年(昭和63年)である。
このとき読売の主張は、「今までの棋戦とは桁違いの賞金を出すから、名人位よりも上にしろ」であった。竜王戦の目的は名人位を凌ぐことだった。毎日はもちろん反対したが、劃期的な賞金のこの棋戦が欲しい将棋連盟はこの案を飲んだ。一応名人と竜王は並列ということになっているが、それまで将棋連盟会長と名人だけが署名する免状には、竜王も加わることになった。この時点では同格である。だが「竜王位」と「名人位」をひとりの棋士が持っていた場合、「竜王・名人」と署名することになっている。「竜王」が上なのだ。将棋連盟のホームページの「各棋戦」でも、一番上にされているのは竜王戦である。これはどんなことがあろうと名人戦を最上位とするものと思ってきた私のようなファンには、ずいぶんと大胆な改革であった。
長年最高位だった「名人」を「竜王」が超えた。なんで超えたかと言えば「金」であった。
それは一概に否定は出来ない。棋士はこれらスポンサーが出してくれる賞金を分け合って食っている。そこにかつてない大金を出してくれるスポンサーが現れ、その代わり序列を一位にしろと言ってきた。それを受け入れたのは当然だったろう。実際読売はそれだけの金を出し、名人戦のシステムの不備を修正した新システムと、竜王戦の優勝者賞金3千万円は大きな話題となったものだった。竜王戦の果たした役割は大きい。
それでも今回毎日からまたアサヒに名人戦が移ることになり、その理由が契約金だと知るとため息が出る。
アサヒは年間5億を払うという。毎日はいま4億払っている。部数減で落ち目の毎日に(アサヒも落ち目だが)5億は出せないだろうし、出さないだろう。まだ決定ではないようだが、ほぼ移行で決まりのようだ。これで毎日がじゃあ5億出しますよと言ったら、将棋連盟の値上げ闘争に利用されただけになる。前記したように、そういうスポンサーからの賞金で食っているのだから生活のために仕方ないのだが、なんともファンとしてはスッキリしない。
2ちゃんねるの将棋スレに、「(そんなに金が欲しいなら)創価学会に10億円出してもらって池田杯を創ったらどうだ」とあった。痛烈である。私もそんな皮肉を言いたい気分だ。
これはまた大山会長のやったアサヒから毎日への移行を、大山とそりの合わなかった米長会長がアサヒに変更することでもある。当時米長も反アサヒだったし、今も思想的には合わないはずなのだが、会長としてそんなことにはこだわっていられない、ということであろうか。
今回上掲の金額一覧を見て意外だった。私は竜王戦が図抜けていると思っていた。まさか名人戦とこんなに近いとは……。毎日、よく払っているな。なのにアサヒの金に将棋連盟はぶれた……。
これでアサヒが5億出したら、また名人位が最上位になるのかと思った。しかしそれは後述の毎日の記事により、アサヒが名人戦そのものに出すのは3億5千5百万なので竜王よりちょいすくないと知る。もしももっと出したなら、今度は将棋連盟は「竜王戦より名人戦の方が高いですよ」と読売に話しかけて竜王戦のアップを狙うのだろう。最高金額が竜王位序列一位の条件だから。世の中金か……。
そのうち成り上がりIT企業が……。まあ古くさい将棋には手を出さないか(笑)。
今日の『産經抄』も取り上げていた。
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産経抄
平成18(2006)年4月14日[金]
場末のスナックで、一節うなって「いよ!名人」とおだてられ、一杯ビールをおごらされた経験のあるご同輩も多いだろう。カラオケのみならず、サボりの名人も居眠りの名人も数々あるが、将棋の「名人」となるとどうも格が違うらしい。
▼江戸時代は世襲制、明治以降は終身制だった名人位を実力制に改めたのが七十一年前の昭和十年。以来、木村義雄、大山康晴、谷川浩司らがその座についてきた。米長邦雄永世棋聖は、若かりしころ升田幸三名人と口論となり、「その台詞(せりふ)は、名人になってから言え」と一喝された(「勝負師」・朝日選書)という。
▼その名人戦の主催者を、毎日新聞から朝日新聞に移管させる案が明るみに出た。将棋ファンのみならず、小欄のようなやじ馬も驚かせているが、原因はどうやらおカネのようだ。
▼毎日が年三億三千四百万円を日本将棋連盟に払っているところに、朝日は五億四千五百万円出すと提案したとか。札束で顔をひっぱたくかのごとくで、一時のブームが去り、赤字体質に悩む連盟が朝日になびくのもわからぬでもない。
▼ただし、五億を超すという額は本紙や毎日の読者は知っているが、朝日の紙面には「新たな契約条件を提示した」とあるだけ。契約金の原資となる購読料を払っている朝日読者には、いくらを提示したか知らされていない。「ジャーナリスト宣言。」をした新聞とは思えぬ秘密主義ではないか。
▼毎日の編集局長は「日本の伝統を大切にする将棋連盟が信義よりも損得を重視するのでしょうか」との批判もしており、「日本の伝統と文化」の大切さは理解されているようだ。その趣旨を盛り込んだ教育基本法改正にもきっと賛成されるだろうから、今回は毎日の肩を持とうかな。
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名人戦が毎日に移ってから、アサヒは「全日本プロトーナメント」とかいろいろ新企劃をやってきた。今はそれの発展型として「アサヒアープン」という形で、5番勝負のタイトル戦を開催している。それでも七大棋戦には入っていない。将棋に関してはあれ以来ずっと蚊帳の外だった。これは落ちたりとはいえ読売に次いで二番目の部数を誇る新聞としては異様である。将棋なんぞ我が大アサヒにはどうでもいいという意見もあったろうが、長年の読者から物足りないとの突き上げもあったろう。アサヒ嫌い&将棋好きの私は、将棋と不仲のアサヒに拍手を送っていたが……。
今回の移行で万歳を叫んでいるアサヒファンも多いのだろう。アサヒシンブン以外はシンブンでないと思っている将棋ファンは、またアサヒで名人戦が読めると大満足か。「声」に「やはり名人戦はアサヒでなくては」なんてプロ市民の投稿が載りそうだ。もう載っているか(笑)。
なにをやってもダメならと、新企劃を諦め、今回の札束で横っ面をひっぱたく奪い返し作戦に出たわけだ。かつて将棋名人戦でやり、囲碁名人戦でやったことの繰り返しだ。さすが「ジャーナリスト宣言」である。どういうジャーナリストかよくわかる。
将棋も碁も、将軍家に保護してもらって生きてきた。相撲もそうである。そういう形の「文化」である。条件のいい保護者の元になびくのは存在意義からして自然と言える。
相撲協会も人気が出たらTBSやフジからも金をもらって放送させた。NHKは不快だったろう。テレ朝にはダイジェストを放送させた。人気が落ちたらみな打ち切りになった。けっきょくNHKだけが残った。ダイジェストもやってもらっている。この辺はうまく「国技」を活かして乗り切っている。
日本プロレスもさんざん日テレに世話になっていながら、金欲しさにテレ朝と契約した。ともにゴールデンタイムの1時間番組だった。時が流れていまの惨状がある。
金で誰とでも寝る芸者と割り切れば喉につかえるものもないか。
それでもあの背筋の伸びた棋士の美しいたたずまいと、このどろどろした金のやりとりは似合わない。
どうにも気分の悪い話題だ。
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毎日新聞より記事二題
将棋:名人戦主催を毎日から朝日に移す提案 日本将棋連盟
日本将棋連盟(米長邦雄会長)の理事会は12日、東京・千駄ケ谷の将棋会館で所属棋士による棋士会を開き、2007年6月に始まる第66期以降の名人戦・順位戦の主催者を毎日新聞社から朝日新聞社に移す方針を説明した。17日には、大阪で同様の棋士会が開かれる。連盟は、5月中旬に東京で2度目の棋士会を開いた後、議決機関である同26日の総会で態度を最終決定する。決定は票決となる見通し。
出席者によると、棋士会では「理事会だけで進めていいのか。手続き上の問題もある」「もっと時間をかけてやるべきだ」との声が上がるなど、決定に対する異論も出たという。
連盟によると、3月17日に朝日新聞から名人戦の主催者になりたいとの正式な申し入れがあり、同22日に開いた理事会で8人全員一致で朝日新聞への移行を決定。同28日に毎日新聞に通告した。
棋士会には、東京所属の棋士約70人が出席。報道関係者には非公開で約2時間にわたって行われた。終了後に会見した西村一義専務理事によると、中原誠副会長が朝日新聞へ主催者を移す決定をした経緯を説明。質疑応答では、決定に対して賛否両論の意見が出たという。
西村専務理事は「理事会としては厳しい財政事情を考慮して決断したが、『毎日が気の毒』との声もずいぶんいただいた。総会で認められないとこの話は元にもどることになる」と話した。
出席者によると、朝日新聞の提示額は、名人戦が3億5500万円、臨時棋戦4000万円、普及協力金1億5000万円の5年契約。毎日新聞の現在の契約金は3億3400万円。
朝日新聞は、現在主催している朝日オープン選手権(契約金約1億3500万円)をやめる提案もしており、普及協力金などがなくなった場合、6年後には連盟の収入は約1億1000万円減る計算となる。
ある棋士は「朝日新聞の普及協力費は5年時限であることが不安。それなのに世話になった毎日から代えるのは道義的にいかがなものかと思う」と語った。
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将棋:「毎日の名人戦」守ります 編集局長・観堂義憲
日本将棋連盟は名人戦七番勝負が始まる直前の3月末、毎日新聞社に対し、「来年度以降の名人戦の契約を解消する」と通知してきました。連盟が12日の棋士会に報告して公になりましたが、ここに至るいきさつと毎日新聞社の考えを読者の皆様に明らかにしたいと思います。
将棋界で最古の伝統と最高の権威をもつ名人戦は、1935年に毎日新聞社が創設したものです。いったん朝日新聞社の主催に移った時期もありましたが、77年からは再び毎日新聞社の主催にもどり、将棋連盟と協力して運営してきました。私たちは、名人戦の単なるスポンサーではなく、将棋連盟とともに最高のタイトルを育ててきたという自負があります。
ところが、通知書の郵送に続いて来社した中原誠・将棋連盟副会長は「長い間お世話になり、感謝している。名人戦の運営には何の問題もなく、あのような通知書を出して恐縮している」と切り出しました。
なぜ契約解消なのでしょう? 中原氏によれば、朝日新聞が高額の契約金や協力金を示し、名人戦を朝日新聞にもってくるよう強く要請しているから、というのです。
毎日新聞は将棋連盟と名人戦の契約書を交わしていて、これには来年度以降も契約を継続する、と明記しています。ただし書きで「著しい状況の変化などで変更の提案がある場合は両者で協議する」となっています。
「著しい状況の変化」とは、たとえば将棋連盟から棋士が大量脱退して経営が立ち行かなくなったとか、毎日新聞が契約金を払えなくなった場合を意味し、他社の新契約金提示などの介入はそれには相当しないというべきでしょう。連盟に通知書の撤回を求めます。
毎日新聞は名人戦の契約金を将棋連盟の要請に応じて徐々にアップしてきました。このほか王将戦をスポーツニッポン新聞社と共催しており、合わせて年に4億円以上の支払いをしています。
関係者によれば、朝日新聞が将棋連盟に提示した条件は年間5億円以上を5年間払う、というものです。日本の伝統を大切にする将棋連盟が信義よりも損得を重視するのでしょうか。
30年前、朝日新聞と連盟の契約交渉が決裂しました。この時は、連盟がそれを公表したことを受け、毎日新聞は復帰交渉に入ることをあらかじめ朝日新聞に通告したうえで連盟と契約しました。毎日新聞はきちんと手順を踏んだのです。
ところが今回の契約解消通知は、私たちにとりまさに寝耳に水でした。将棋連盟から契約金の値上げなど契約の変更要請は一切なく、朝日新聞からはいまだに何の連絡もありません。長年、共同で事業を営んできて、しかもその運営には何の不満もなかったパートナーに対して、社会通念上も許されない行為と言えるでしょう。
毎日新聞は全国の将棋ファンのためにも、名人戦を今後も将棋連盟とともに大切に育てていきたいと思います。(4/14 毎日新聞より)
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ここで指摘されているように、歴史ある名人戦の主催権をとったらアサヒが今のアサヒオープンをやめるのは間違いないから、1億上積みになっても1億の棋戦がひとつ消える。長い目で見たら金額増にはならない。まして「5年間」とアサヒは時間を区切っている。5年後になにをやられることか。そのあと毎日に泣きついても遅い。移行は愚行である。
しかしこの種の問題は、こういうふうにねじれるともう元にもどれない。最初は金銭の損得で始まったにせよ、ここまで来ると米長も中原ももう意地でもアサヒに移ろうと思っている。勝負師である将棋指しは意地っ張りだ。なにがどうなろうともう後には引けない。毎日との仲もギクシャクしていることだろう。
アサヒに移るのか。棋士の信義が問われる。5月の総会で否決されることを願うが、8人の理事全員が賛成とあるから、その望みは薄い。しかしまあなんとも気分の悪い話である。
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【附記】東京新聞の大崎氏の意見
4/15日つけの東京新聞に以下の記事が載った。読売も社説の横に意見を書くし、産經も『産經抄』で取り上げ、当事者の毎日は真っ正面からアサヒに対決を挑むと、新聞界を巻き込んだ大論争になっている。それだけ意味のあることなのだ。
この東京新聞の記事には元「将棋世界」編集長で作家に転身した大崎善生氏がコメントを寄せている。「将棋世界」は民間誌ではない。将棋連盟の機関誌である。
大崎氏が編集長をしていた「将棋世界」を愛読し、彼の将棋観を信じるものとしてひじょうに心強い意見となった。彼の意見を太字にした。
基本として、心ある将棋ファンは、札束で頬をひっぱたくような方法を採るアサヒに反感を抱き、それに走る米長中原体制に批判的、といっていいだろう。
東京新聞より
『名人戦』争奪 半世紀の因縁 “盤外戦”を読む
■朝毎“盤外戦”を読む
朝日VS毎日といっても新聞紙面のことではない。将棋の名人戦主催をめぐっての“盤外の戦い”だ。第六十四期名人戦が始まった初日、第六十六期以降の名人戦・順位戦の主催者を毎日新聞社から朝日新聞社に移す動きが報じられ、毎日側が編集局長名で異例の「声明」を出した。名人戦をめぐっては一時期、朝日に主催が移り、再び、毎日に移った経緯がある。なぜ、日本将棋連盟は主催者移管を提案したのか。背景は。
十二日、東京都渋谷区の将棋会館で開かれた棋士会。マスコミには非公開で、約七十人の棋士が出席した。棋士の一人は「中原誠副会長が今回の経緯を説明。理由としては朝日の申し出は条件も良く、読者も多いため影響力もあるというものだった。その後、質疑応答で数人が発言したが、主催者移管は慎重にすべきという意見もあった。中には『毎日とは今まで付き合いが長かったのに、守銭奴みたいなことでいいのか』という厳しい発言もあった」と証言する。
経緯はどうだったのか。
将棋連盟によると、昨年夏、外部有識者の経営諮問委員会から名人戦の主催者見直しの提言があり、朝日に打診。今年三月十七日に朝日から主催者になりたいとの正式の申し入れがあったため、同二十二日の理事会で第六十六期(名人戦は二〇〇八年、予選は〇七年度)から毎日新聞との契約の更新を打ち切る方針を決定、三月末に毎日新聞に契約解消を通知したという。
出席した棋士によると、朝日が提示した契約金は、毎日の三億三千四百万円を上回る三億五千五百万円、このほか、臨時棋戦四千万円、普及協力金一億五千万円で五年契約だった。
他のタイトルは、プロになったばかりの四段でも、勝ち進めば獲得できるが、名人戦だけはA、B1、B2、C1、C2の5組にわかれて順位戦を戦い、A級の優勝者になった棋士しか名人に挑戦できない。各組の上位者が、翌年は一つ上の級に上がり、C級2組の棋士が名人の挑戦権を得るには、最速でも5年かかる。順位戦はA級昇級で八段、C級1組で五段など、昇段規定の一つにもなっている。
これに対し、毎日側は十三日朝刊で、観堂義憲編集局長名で異例の声明「『毎日の名人戦』守ります」を掲載。「日本の伝統を大切にする将棋連盟が信義よりも損得を優先するのでしょうか」「今回の契約解消通知は、寝耳に水でした。将棋連盟から契約金の値上げなど契約の変更要請は一切なく、朝日新聞からはいまだに何の連絡もありません。社会通念上も許されない行為と言えるでしょう」と厳しく批判した。
申し出を受け、朝日が“横やり”を入れたとも取れる展開だが、名人戦をめぐる毎日と朝日との綱引きは今回が初めてではない。
名人戦は一九三五年、東京日日新聞(毎日新聞の前身)主催で始まった最古のタイトル戦だが、やはり契約交渉がもつれ、四九年、毎日から朝日に移管。七六年、今度は朝日との契約交渉が紛糾し、順位戦は中断、名人戦も宙ぶらりん状態となった。
この時、朝日が最終提示した契約金は一億一千万円、プラス一時金一千万円だったが、連盟は拒否。一億四千五百万円を提示した毎日との契約を臨時総会に諮った結果、わずか二票差で毎日への再移管が決まった。
だが、朝日は名人戦奪還をあきらめず、九一年には再び朝日への移管話が表面化したが、「この時は、故大山康晴永世名人が毎日支持で動き、頓挫した」(連盟関係者)という。
九一年の名人戦をめぐる舞台裏について、当時、日本将棋連盟会長だった二上達也九段は「一つには名人戦を奪回したい朝日さんの執念があり、もう一つには、それ以前からの囲碁の方が将棋より高いという契約金の格差問題があった」と振り返る。その上で、今回の騒動について「九一年の時とはちょっと違う。朝日の執念には変わりないものの、九一年の時はちゃんと手続きを踏んだが、今回は手を尽くしたとは言い切れない。新聞社間のメンツも絡んでいるのだから、相手の顔を立てることも必要だったのでは」と指摘する。
では、朝日に移管した場合、将来的に連盟のためになるのだろうか。
■「このままでは連盟つぶれる」
「現在のままでいいと思う」という中堅棋士は、個人的な見解と断ったうえで、「もし朝日に移行した場合、毎日がスポニチと共催する王将戦(契約金七千八百万円)をやめる恐れもある。金銭面だけで言えば、朝日は朝日オープン(一億三千四百八十万円)をやめるだろうし、五年後のトータルで試算すると、現状と、ほとんど変わらない」と話す。
これに対し、連盟幹部の一人は「移管の理由に連盟の赤字が挙がっているが、単なる金銭問題ではない。これは将棋界百年の計の話。このままの状態が続けば、連盟はつぶれてしまう」と危機感を募らせる。
「新聞の発行部数が多ければ当然、将棋ファンも多い。これは大前提。さらに、海外で新聞を発行している朝日なら将棋の国際化を図れるし、テレビのメディア力も違う」と強調する。
今回の移管で、昨年就任した米長邦雄会長の影響を指摘する関係者も多い。
「米長会長は連盟の人事改革を大幅にやったように、ドラスチックな事をやりたい人だ」話すのはベテランの将棋観戦記者だ。前出の中堅棋士も「米長会長は良くも悪くも『前進』の人。しがらみにとらわれずドライ、強引な手法でもある。一方で、米長会長は子どものファンを増やすなど、棋界の底辺拡大に力を尽くしている」と話す。
その米長会長は本紙の取材に対し「契約書には『当該契約期間終了の一年前までに、通告することとし、両者協議の上実施する』となっており、それに基づき毎日と交渉中だ。契約には違反していない」と反論。「財政問題もあるが、名人戦を主催したいという朝日の熱望をむげにできなかったことが最大の理由」と強調する。朝日も「名人戦は長年にわたって要望してきた棋戦であり、弊社の考えを(連盟に)伝えております」とコメントする。
一方、「四九年の毎日から朝日への移管の際、毎日が対抗する形で王将戦を始めており、この時のしこりが今も残っている」とベテラン観戦記者は解説する。
厳しい意見も多い。
「最初に聞いた時は、経済的に苦しくなった毎日が、連盟に主催返上を願い出て、連盟が動いたと思っていた。そうでないとあり得ない話だからだ。三十年前に朝日と連盟が決裂した時、毎日が相当な高額で引き受け、以来、名人戦を傷つけることなく続けてきた。その恩をあだで返す暴挙」と批判するのは、連盟の機関誌「将棋世界」の元編集長で、作家の大崎善生氏だ。
■「今回の信義はどうなるのか」
背景に、連盟の苦しい財務事情があるとされているが、大崎氏は「本当の厳しい赤字ではない。例えば、棋士は個人事業主だが、厚生年金に加入し、連盟が積立金の半分を負担している。国民年金にすれば一億円は浮く。機関誌の売り上げは減っているが、編集部の人事は理事会が握っているのだから、彼らも売り上げ恢復のために努力する責任がある」と指摘する。
かねて好条件を提示してきた朝日は、連盟にとって「いつでも使える、おいしい延命装置」(大崎氏)だった。九一年の朝日への移管話の際には、現執行部の米長、中原両氏が「信義にもとる」と猛反対したという。大崎氏は「では今回の信義はどうなのか。自分たちのために延命装置は残しておいて、ということだったのか」とあきれる。
朝日か毎日か、の決着は五月二十六日の棋士総会。全棋士百九十六人の投票で決められる見通しだ。「羽生善治三冠などタイトル保持者の動向がカギを握る」(観戦記者)ともいわれるが、その行方は読めない。
棋士の一人は「将棋好きの子どもは将来、竜王になろうではなく、やはり、名人になろうと思う。名人戦とは伝統を持った、そういうものだ」とその重さにふれ、話した。「今回、名人戦の初日に話が出てしまったが、対局者と、対局を楽しみにするファンに水を差した形だ」
<メモ>名人戦
将棋のタイトルは7つあり、連盟の序列では(1)竜王(2)名人(3)棋聖(4)王位(5)王座(6)棋王(7)王将の順。江戸時代から名人の称号があり、1935年に終生名人制から、今の実力制になった。
<デスクメモ>
本紙連載で、二上達也九段が、江戸時代、名人の座をめぐり家元三家が争った話を披露している。争い将棋で、ともに十代の棋士が一年半にわたって指し続け、十五歳と二十歳で亡くなった。まさに死闘。「名人」にはそんな歴史の重さがある。平成時代の朝日、毎日の勝負は…。詰むや詰まざるや。 (透)
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将棋名人戦移管、毎日新聞と連盟理事会が棋士票争奪戦
読売新聞4/21
毎日新聞社が主催している将棋名人戦を、日本将棋連盟(米長邦雄会長)の理事会が朝日新聞社に移管しようとしている問題は、最終的に棋士全員の投票によって決まるため、毎日側と連盟理事会の双方が棋士の説得活動に乗り出している。
渦中の米長会長は21日午後、毎日本社を訪れ、契約解消の過程に関する「お詫(わ)び」の文書を手渡した。
毎日は、5月26日の通常総会(棋士総会)で投票権を持つ全棋士196人に北村正任社長名で手紙を出し、その内容を21日の朝刊で「一方的な契約解消の提案は到底受け入れることはできない」などと報じた。さらに毎日幹部が、影響力の大きい森内俊之名人(35)、羽生善治三冠(35)、佐藤康光棋聖(36)ら名人経験者に会って支持を訴えている。
一方、棋士8人で構成する連盟理事会は来週にも考えをまとめて全棋士に手紙を送る方針。厳しい連盟の財政状況や契約解消を申し出た手続きに触れ、理事会の考えに賛同するよう要請する予定だ。
棋士の間では、毎日側に同調する意見が多く、「総会で賛成が過半数に達する可能性は低い」という見方が強まっている。
毎日社長の手紙で「『将棋は礼に始まり礼に終る』。将棋を始める人がまず学ぶ言葉と聞いています」という文を見た中堅棋士は「それを言われては立つ瀬がない」と嘆いた。
この日東京都内で行われた棋王戦(共同通信社主催)の就位式で、森内棋王・名人は、「スポンサーとの信頼関係を大切にしたい」と理事会批判とも取れる異例の発言を行った。
若手棋士の間では、「毎日がタイトル戦から撤退すれば6年目からは明らかに減収になる」と反対する声が強く、インターネット上の日記・ブログで反対の意思を表明する棋士も出始めている。
ただし、連盟本部のある東京・千駄ヶ谷の将棋会館では「長い目で見て朝日移管に賛成を」と訴える姿も見られるなど、形勢不利と見た理事会の“反攻”が今後も予想され、票の争奪戦は激しくなりそうだ。
毎日新聞社社長室広報担当の話「米長会長から受け取った文書には『(3月28日付の契約解消の通知書は)言葉足らずで、不愉快な念を御社が抱きましたとすれば説明不足であり、お詫びしたいと存じます』とありますが、お詫びというより釈明と受け止めています」
(2006年4月21日23時24分 読売新聞)
■名人戦移行問題の興味(4/23)
この問題の興味深い点は、読売や産経を始めとする新聞社が、みな「毎日」の味方をしていることだ。
読売の、売り上げ部数一番の誇り、ライバルであるアサヒへの敵意、かつて囲碁名人戦を今回の事件と同じように金でアサヒにとられた恨み、そのことから賞金最高額の囲碁棋聖戦を開催するようになったこと、同じく賞金最高額の将棋竜王戦を開催して毎日の名人戦超えを狙ったこと、産經新聞のアサヒとの思想的対立、といくらでも生臭く勘ぐることは出来るが、これに関してはそれとはまた別問題だろう。極めて単純な日本人的情の問題と思う。
三十年前、アサヒを読んでいた長髪の学生であった私ですら、当時のアサヒの囲碁名人戦引き抜きと将棋界への仕打ちを汚いと思った。助けてくれた毎日に感謝した。今回も同じである。今の私個人は当時と違って筋金入りのアサヒ嫌いと変っているが(笑)。
要はやりかたであり体質だ。アサヒは、ホリエモン的な金銭万能の感覚を否定し、紙面にキレイゴトを書きつつ、やっていることがホリエモンなのである。
そしてまた卑怯にも、今はすっかり「あくまでも将棋連盟のほうからもちかられた話でして」と逃げの姿勢を取っている。
が、かといって私はアサヒを責める気にはなれない。アサヒが金でもって米長率いる将棋連盟を取り込もうとしたのは確かだが、やはり根源はそれに乗ろうとした「芸者」の体質だ。金に目がくらんで転ぶか、きっぱり拒むか、芸者の心意気の問題である。
可能な限りのネット上の情報を読んでみたが、将棋ファンは9割と言っていいほど毎日を支持し、アサヒと米長体制を批判している。ここまで非難されるとは米長も思っていなかったろう。
とはいえ彼は、後述するように、大崎を戦犯とし、寝ぼけたことを言っている。棋士はみな自分と同じであるかのように。
21日の毎日新聞は、「一面全紙を使ってこの問題を論じた」そうである。読んでいないので愛読者の友人からもらおう。
間違いなく輿論は毎日を正論としている。これを押し切ってのアサヒ移行はあるのだろうか。
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米長錯乱!
米長が自身のホームページで、大崎善生を名指しで批判したという書き込みを見たので出かける。2ちゃんねるの情報はありがたい。もちろん私も米長のホームページは、「お気に入り」の将棋の項にリンクしてあるが、毎日出かける気にもならない。一読してあきれ果てた。日本将棋連盟会長、ご乱心である。
勝負と偉人──米長邦夫ホームページ「まじめな私」より4/22 |
今から15年前に名人戦の移籍問題がありました。大勢は移行かと思われましたが、大山康晴先生の存在は大きかったです。二度の癌の手術をした後であり、もはや餘命いくばくも無いという状態でした。
その大山大先生。私と二人切りの場を作り、私の手を握り締めて「米長さん、頼れるのは貴方しかいない」
私と大山康晴先生の仲は、はっきり言えば悪い方です。人生観が全く違う。しかし、私の手を握った力の弱々しさ。又私にまで頭を下げねばならぬという心情を察すれば、これが最後の会話とも思われた以上は大山先生の味方になるよりありません。
中原誠も全く同じであったろうと思います。当時の西村一義理事もやはり同調しました。かくして中原、西村、米長の3人は毎日新聞社に残るべきと主張したのでした。
その時のごほうびか。私が名人の座に就いたのです。そこでお返しにやったのが「毎日新聞を10万部伸ばす運動」です。私は名人在職の一年間は毎日新聞社のため必死に働いたのでした。
それが今回このような事態を引き起こしてしまいました。辛い。しかし、正しいと信じた道は進みます。
どうかこのまま新聞社が移動しないことを念じております。
勝負と疫病神
世の中には人を不幸にする人と、人の不幸でメシを食っている人がいる。
それが大崎善生君です。
今回の騒動でも彼が火つけ役、持ち込み原稿、コメントの羅列。
名人戦移行に関しての週刊誌や新聞を読むと殆んどが大崎氏のひとり芝居であることが分ります。稼ぐね。
その結果、将棋界内部は結束が固まりつつある。
実は彼が悪く言う毎に将棋界は勝利に近づいている。恩義云々等を述べていますが、彼は永年将棋界で生活していたのです。現在将棋連盟は赤字に転落していますが、彼が月刊誌の編集長で売り上げ減に貢献したのが一因です。
大崎善生氏は5年以上前に日本将棋連盟を円満退社。もはや内部情勢を正確に知る由もなく、現体制や職員の意識改革がなされたことも知らないのでしょう。
マスコミ各社に申し上げます。
私共の説明不足による毎日新聞社への非礼はお詫びします。それを責められては甘受するよりありません。しかし、品のある有識者はいくらでも居る筈ですので、紙面にはそのような人々の声を載せるべきではと思います。
おかげさまで、理事会がなにもしなくても棋士の同意が得られそうになってきました。感謝。
4月21日の新聞記事の中にも彼が出ている。「棋士たちも自分たちの胸に手を当てて、今回の件についてよく考えてもらいたいと思います」
これを読んで、棋士も職員も笑い出したものです。
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■五年以上も前に円満退社した一職員の名を挙げ、「今回の騒動でも彼が火つけ役、持ち込み原稿、コメントの羅列。名人戦移行に関しての週刊誌や新聞を読むと殆んどが大崎氏のひとり芝居」って、狂ってるぞ米長! 連日の「毎日新聞」の社命を懸けたかのような大キャンペーンも大崎の仕掛けだというのか!?
将棋連盟会長のおまえがアサヒと結託してこれらの問題を起こしたのだろう。そのこと自体は、家長として家族によりよい暮らしをさせてやりたいとの親心からだろうし、そのことがたとえ棋士としての信義にもとる、礼節はどうなったと非難されようと、家長として家族のために高収入をねがったのだろうから、それはそれでいい。
だが大崎氏は、その件に関して、かつての日本将棋連盟機関誌「将棋世界」編集長として、今は将棋小説をきっかけとして売れっ子作家になった立場から、「毎日」寄りのコメントを出しただけだ。それだけだ。今回の事件に関して、米長会長とアサヒシンブンに反感を持った多くの中の一人に過ぎない。
それを彼の存在が今回の大事件の諸悪の根元のように言うのは、いくらなんでも無理がある。暴言妄想のたぐいだ。赤字転落原因を大崎編集長時代の「将棋世界」の売り上げ低下ってのもひどい。どう考えても大崎編集長時代の「将棋世界」はおもしろかったし、現に売れていた。今の方がよほどひどい。(現田丸編集長も好きだけれど。)まして昨年の将棋連盟の赤字転落という大問題を五年前に退社したひとりの編集長の責任に今頃なすりつけようとするのは正気の沙汰ではない。そもそも連盟の収入全体から見て「将棋世界」の存在など微々たるものだ。
これには2ちゃんねるの将棋ファンも引いたらしく、厳しい米長批判の意見が相次いでいた。誰もが大崎氏を支持している。一部の大崎嫌いですら(こういうのもひとことで言ってしまえば成功者への妬みなのだろうが)、それでも連盟全体の赤字の責任を今頃大崎ひとりのせいにする米長の感覚はまともとは思えんとしている。
私はアンチ米長ではないし、彼の才気走ったひと味違う発言には若い頃から才人だと感嘆してきた。石原都知事に重用されたときもうれしかった。園遊会での日の丸と君が代発言も、むしろ陛下のあのご発言を残念に思ったほどだった。
しかし今回の一連の行動を見ると、やはり将棋指しは世間の常識とは剥離した感覚なのだろうと思わずにいられない。それは林葉問題のとき、自宅の庭で記者会見した中原さんのときにも思ったが……。
それでも世の流れを見たら、自分たちの偏った感覚を修正できるのではと信じていた。
一斉に、まさに全マスコミが一斉にというぐらい、各社が「毎日」を擁護し、アサヒを批判する立場を取った。なのにそれら全体を見聞したうえで書かれた文がこれだ。絶望である。自分の感覚を反省するどころか、まったく見当違いのスケープゴートを仕立ててほくそ笑んでいる。心底あきれたとしか言いようがない。
(私の言いたいのは後半の大崎氏に関する部分だが、前半の大山名人とのやりとりも怪しいとは、多くの人が口にしている。死人に口なしで確認のしようもないが、大山さんが米長の手を取って……は信じがたい。)
このことに関して私は、問題が表面化したときに、棋士は勝負師であり意地っ張りだから、「米長も中原も引くまい。意地でも突っ張る」と思った。そう書いている。やはりそうなりつつある。
ホームページを始めてから、思いつくたびに将棋のことを書いてきたが、ここまで連日書いたことはない。どんな棋士のタイトル獲得、開花、凋落よりも、大事件だったことになる。三十年ぶりの大激震だ。
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