5/8  胃薬で膝の痛みは消えるのか!?

 何年か前から、朝、布団から起き上がるとき膝が痛むようになった。まあ年だし不摂生だから当然の老化なのだけど、一面で病気知らずだったからすくなからずショックでもあった。私は布団で寝たりベッドにしたり、時には健康のためにと板の間で寝てみたりと、猫的に眠る場所を変えるのだが、布団だと朝起き上がるのがつらくなり、いつしかベッド派になっていた。平面から立ち上がるときに痛むのであり、段差のあるベッドだと問題はない。

 こういう痛みというのは不思議なもので、しばらく動きまわっていると消えてしまう。オンボロエンジンが始動のときはブスンブスンとやっているがしばらく回転すると油が廻って順調になるのに似ている。なら不思議じゃないか。躰も機械も似たようなものだ。

 昼過ぎには朝痛かったのなんて忘れてしまう。毎朝一瞬だけつらいので、そのときは治療せねばと思うのだが、起きて暫く動いていると忘れる。そしてまた次の日の朝、同じ事を思う。これが立ち上がるたびに一日中痛むようになると、医者にいったり、れいの「皇潤」とか、あんなものが欲しくなるのだろう。



 朝起きるときに痛むが午前中には消えてしまうのでさほど気にならない。しかし毎朝痛むのも事実である。
 とうとうそういう持病を抱えてしまったかと覚悟していたのだが、ふと、唐突に、ここのところそれがないことに気づいた。その間になにか変ったことをしたかと考えてたったひとつだけ思いあたる。ずっと胃薬を飲んでいた。

 私の持病は腰痛と胃痛だ。ともに長いつきあいになる。腰痛は何年も出ないときもあれば、二年前のように連続して、一年の内のほとんどが寝た切り生活になり、買い物にも行けず餓死するのではないかというところまで追いこまれる時もある。さすがに二年前のあれは生涯初めてのひどさだったが。

 胃痛もまたそれこそ受験生の頃からだから長いつきあいになる。ストレスが溜まると突発的に起きる。のたうちまわるほど苦しい。でもこれはストレスのない生活をすれば出て来ない。

 もう縁が切れたと思っていたら、頻繁に外国に出かけるようになったらまた出てきた。それで、本人はさほど意識していないのだが、外国に行くこと、異国で暮らすことはストレスが溜まるのだと逆説的に知った。
 しかしこれはれいのH2ブロッカーの出現で解消された。あれは私には神の薬だった。商品名「ガスター10」で有名なあれである。外国に行くときにもってゆくのは正露丸だけだったが、以来これも常備するようになった。ほんとうに助かる。「始まるな」と予感したら、すぐに飲む。めったにないことだが、長年の持病なので予感できる。予感通り痛みが来る。でもその前に飲んでいるので、苦しみは10分ほどで治まる。一晩中のたうちまわっていたむかしを思うと、まさに神の薬だ。

 腰痛にならないよう、無理な姿勢をとらないように気をつけて、もしもなってしまったら、ひたすら安静で自然治癒に任せる。胃痛が出たらガスター10で治める。そのふたつが私にとっての病気だった。



 昨秋、気まぐれで病院に行った。歯医者以外は行ったことがないのでいつ以来か記憶にない。十数年前、父のお供で毎日のように病院通いしているとき、「ついでに」という感じで胃カメラを嚥んだとき以来だと思う。

 きっかけはささいなことで、書くのがちょっと恥ずかしいが書き始めてしまったので正直に書くと、友人が私と同じくガスター10のようなものを飲んでいて、それが病院でもらったプロ用?のガスター20だったことに起因する。なんか強烈そうだ。数字が倍である。それを欲しくなった。でもこのへんからしてまちがっている。私はドラッグストアで売っているガスター10(1200円で6錠)で確実に痛みが治まるのである。今は、その6錠で半年、いや1年は保つぐらいの頻度でしかない。数ヵ月に一度だし、ガスター10さえあればピタリと治まる。ストレスのない暮らしをしている今はめったに痛くならない。でもなんかプロ用の20がかっこよく思えた。もっと強力で、あっと言う間に効くような気がした。

 それと、「恥ずかしい」と書いたのはこのことなのだが、問診して薬をもらうだけなら保険は安い。市販の何千円分ものガスター10、いやもっと強力な20が安価で手に入る。恥ずかしいというのはそのセコさである。病院に行かずにすんでいるのは健康だからだ。そのことに感謝せねばならない。しかしまた一方で保険金を払っているのに一度も医者にかかったことがないのがもったいないというか、そんな感覚も芽ばえてくるのである。恥ずかしいのはこのセコさだ。



 行きたくない病院だが、行けばプロ用の強力なガスター20が安価で手に入るのではないかと出かけてみた。しかしまあ病院というのは、当たり前のことだが、どこかしら躰のわるいひとが犇めいているわけだから、そこにある負のオーラは半端ではなく、私は待合室にいるだけで気分が悪くなってしまった。1秒ごとに陰々滅々としてくる。健康であることがいかに恵まれているかをあらためて感じた。

 と書いて思いだしたが、父が亡くなる2004年暮れまでは毎日のように父母を連れて医者に行っていた。同じく負のオーラはあり楽しい場ではなかったが、田舎のちいさな医者であり、父のも定期検診みたいなものだったから、さほど憂鬱にはならずにすんだ。私はその間、クルマの中で音楽を聴いたり本を読んだりして待っていた。待合室にはいられなかった。

 それでもたいへんだったのに、今回のはおおきな総合病院だから、満ちている負のオーラは桁違いである。日々をここで過ごしている医者や看護師はたいへんだなと感じた。医者や看護師の喫煙率は高いそうだが、むべなるかなと思う。



 残念ながら医師は私の望む「ガスター20」はくれず、いくら効くからといって市販の薬に頼っていたら重病が進行してしまうこともあるので定期的に医者に掛からねばだめだと説教された。まあありがたくうかがったが、病院は嫌いなので今後も行かないけれど。

 そうして、朝昼晩と飲む大量の胃薬をくれた。私はもらった薬を飲まずにそのままなんてことはしないので、きちんと飲んだ。一日一食ぐらいしか食べず、それも食事は「酒の肴」みたいな生活なのだが、飯を食わない朝も昼もきちんと胃薬を飲んだ。

 それで胃の調子がよくなったかというと、べつに変りはなかった。もともとストレスが溜まったときに突発的に痛くなるだけで、ふだんは順調なのだ。それでもせっかくもらった薬だから毎日飲んだ。胃カメラも飲んだので、慢性の軽い胃かいようの傾向があると言われた。一ヶ月分が切れるとまた出かけて行き、今度はまとめて最長の三ヶ月分をくれるというのでもらってきた。それもまたきちんと毎日飲んだ。



 そして薬を飲みはじめて三ヶ月ぐらいに、「朝の膝の痛み」を忘れている自分に気づいたのである。もしかしたらもう昨年暮れには消えていたのかも知れない。すっかり忘れていた。

 私は薬は極力飲まない。唯一正露丸を常備薬としていたが、最近は五木寛之さんの「お腹の掃除だと思えばいい」に賛同して、たまにお腹を壊したときもそのままにしている。そのままにしていて暮らせるというのが会社勤めではない唯一のアドバンテージなのだから、これは活かさねばもったいない。



 支那をバスで移動するときなど、長距離バスでもトイレはなく、二時間、三時間に一度のトイレ休憩だけだから、お腹を壊したりしたらたいへんなことになる。そんなときは私は飲まず食わずで挑む。食べなければ壊すこともないからだ。山間の休憩所にバスが止まると、山岳民族が茹でトウモロコシ、ゆで卵、焙った鶏肉、竹筒入りのモチ米、もぎたての果物などを売りに来る。うまそうだ。
 それらをひたすら拒み、食べるのは持参したカロリーメイト、飲むのはコーラだけのように限定する。不粋だが、お腹を壊して何度もバスを止めたひとが、「ここの休憩所で休んで次のバスに乗れ」と深夜の真っ暗な休憩所においてけぼりにされた現場を見ているからお腹を壊すわけには行かない。次のバスは10時間後まで来ない。
 そういう体験と比べたら、日本の自室でお腹を壊し好きなときに好きなだけトイレに行けるのは天国だ。



 ここ半年の間に飲んだのはその胃薬だけだし、膝の痛みを取るために散歩したりとか毎日屈伸運動とか、なにひとつやっていないのだから、どう考えてもそれは「胃薬が膝に効いた」のである。

 クスリを飲んだことのないアフリカの原住民に 抗生物質を与えると、感動するほど迅速に効くという。クスリと無縁に生きている私の躰もそんなものなのかもしれない。

 無学な私には不思議なことだが、識者からすると当然なのだろうか。「ああ、それは、胃薬に入っている××と△△が効いたのでしょう」てなもんか。
 とにかく半信半疑だが、私の毎朝の膝の痛みは治まっていた。それは胃薬のお蔭としか思えなかった。



 そんなまあ日常的などうでもいい話をそのうちここに書こうと思いつつ書かずに来てしまったのだが、ここにきてその因果関係が明確になったので書くことにした。

 また膝の痛みが出たのである。そして、ここが重要なのだが、胃薬が切れ、私はここ一ヶ月ほど飲んでいなかった。たぶん、飲みはじめて一ヶ月で効いて膝の痛みは消えた。そして、飲まなくなって一ヶ月でまた痛みが出たのである。どう考えてももう胃薬と無縁には考えられない。



 痛くないときは忘れていたが、また出ると、膝の痛みがいかにつらいものであるかを再認識した。デスクトップ機の椅子と、横になるベッドだけで生活していると意識しないが、畳の部屋で横になって本を読むと、立ち上がるときが辛い。

 さて私はどうすべきなのか。また胃薬をもらいに行けばいいのか。有名な「皇潤」なんてのはもちろん、ドラッグストアにおいてあるものでも、この「膝の痛み」「関節痛」なんてののクスリはやたら高い。ほんとうに元価が高いのか、小銭を持ってるジジババ向けの商品だから高いのか知らないけど、とにかく高い。国保で病院からもらう胃薬で膝の痛みが治まるなら最高の方法なのだが。
   
   
   



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