04/1/15

ベイダー、『PRIDE』参戦! おそかった

 ベイダーが『PRIDE』に参戦とか。おそかった。さすがのベイダーことレオン・ホワイトも老いている。体のあちこちに負傷箇所もかかえている。
 ベイダーこそサップになるべきオトコだった。経歴も似ている。身体能力の高さも同じだ。さらにベイダーにはサップのような気の良さはない。ミルコから狙いすました眼底への一発を喰い、泣きそうな顔で沈んでいった弱さはない。気が強い。鬼になれる。まさに無敵の『PRIDE』戦士になるべく生まれてきたような男だ。だが彼の全盛期には活躍の場がなかった。すべてはタイミングなのだ。サップのプロレスの出来ない不器用さ(出来る必要などないが)を見るにつけ、あらためてベイダーの天賦の才を思う。

 売れないレスラだったレオン・ホワイトはマサ斉藤のルートで新日に来日する。ゴキブリマスクをかぶってビッグバン・ベイダーなった。(餘談ながら、ビッグバンということばを知らない山本小鉄が、ビッグはビッグであろうと、そこで切り、彼をバンベイダーと呼んでいたのは笑えたものだ。)

 たけしプロレス軍団の一員として登場したベイダーは初登場からして「帰れコール」の中にいた。あのままなら単なるその他大勢の色物レスラとしてすぐに消えていったろう。新日側としてはその能力を見抜き、第二のホーガン的に大々的に売り出すつもりだったろうが、あまりに客の感覚をつかみそこねていたため「どうですかあ、お客さ〜ん!」は空振りし、結果としては黄色のティーシャツを破り捨てて失笑を浴びた第二の北尾的なマイナスからの出発なってしまった。

 類い希な身体能力と飲み込みの早い努力家だったベイダーは、来日した外人選手としては最多のベルトを奪取しプロレスラとしての栄光は手にした。ハンセンを力で圧倒したレスラは、アンドレを別格にすれば、ベイダーだけだろう。
 しかしプロレスが記憶のものとするなら、ベルトの数とは関係なく、ハンセン、ブッチャーよりも遙かにマイナーだ。「最多のベルト」とはすなわち流浪のレスラであったことも示している。奪取したベルトの数は関係ない。それでも新日で、Uインターで、全日で、彼は輝いた。惜しむらくは相手があまりに小粒なため、いつもそこには「負けてやっている」のが見えてしまったことだろう。日本人なら全盛時の鶴田でもない限り対抗できないような手に負えない強さだった。それはあまりに彼が優れていたからであって彼の責任ではない。猪木、藤波、高田、秋山、彼は精一杯上手に負けてやった。中でもベイダーをボディスラムで投げる際に腰を痛め長期欠場となった藤波には格別の愛情を注ぎ、復帰した藤波に負けるときには、父親が幼稚園児の子供に相撲で負けてやるような心優しい負け方をしてやっていた。
 『NOAH』で秋山に負けてやったらもう彼には居場所がなくなってしまった。WJではどうしようもあるまい。これでもうベイダーは見られないのかと思っていたら『PRIDE』参戦のニュースが飛び込んできた。

 果たして、今から、拳で殴るのを敢えて腕で殴る(ベイダーパンチ)ようにしたプロレス的癖を直している時間があるだろうか。遅すぎた『PRIDE』参戦。それでもベイダーなら可能性はある。「プロレスラはほんとは強いんです」を、「強い男はなにをやっても強いんです」に置き換えて、期待したい。

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《(榊原社長の談話) 2月15日武士道で大物プロレスラのベイダーが初のシュートファイトを行います。相手は決まってきません。 》
 との発表から始まった話だったが、結局ベイダーは体調不良で参加しなかった。残念である。
04/4/24
 小川参戦の期待と不安

 グランプリに急遽小川が参戦することになった。こんなわくわくすることもめったにない。最強の日本人戦士である。よくぞ決心したものだ。しかし『PRIDE』は小川がZERO-ONEで力道山時代のプロレスを演っている間に急激に進化した。もう三年前とは違っている。

 深夜「SRS」で三年前の試合、対グッドリッジ戦、対佐竹戦を流していた。あれではもう通用しない。お粗末な試合だった。しかも青息吐息である。でもほんの三年前はあれで昂奮していたのだ。
 この急激な流れとそれに対応してきたヒョードル、ノゲイラ、ミルコと、その間力道山時代のプロレスを演っていた小川では、あまりに違いすぎる。期待するのが無理だ。25日の開幕戦は対ステファン・レコ戦だが、今の常識ではレコにパンチで倒されてしまうと読むのが正道だろう。パンチに対応する能力として秒殺された村上や永田と小川のあいだにそれほど差があるとは思えない。それようの練習をしていたならともかく、三年間プロレスを、それをむかしのどさ回り的最もくさい芝居のプロレスを演っていたのだ。


 ものの違いはあるのだろうか、桁違いの能力、はあるのだろうか。傑出した才能の小川ならストライカーのあのパンチをかいくぐり、あっという間に寝技で仕留めてしまう、とそんなシーンが現出するのだろうか。さんざん裏切られてきただけに期待しつつも、それを押さえ込もうとする自分がいる。
 小川がずっとこの道を歩んでいたならヒョードルと戦える逸材であるのは間違いない。でもあの高速カウントに代表されるひどいプロレスを演ってきたのだ。といってそのプロレスを否定しているのではない。小川と橋本の友情が大好きだし、昔風プロレス・ZERO-ONEの成功もそれはそれで楽しかった。応援していた。テレ東での二ヶ月に一度の放送は欠かさず見て録画もしている。
 でも両立は無理だ。今この時期に参戦して(といっても年齢的にも今しかないが)レコにノックアウト負けしたら救いがなくなる。小川に対する多大な期待がレコにノックアウト負けで終るのはあまりに悔しい。なんとかここを突破して三強との対戦を見たいものだ。

 『PRIDE』側もそれを計算して多額のファイトマネーを用意したはずだから小川に負けてもらっては困るだろう。『PRIDE』はタカダの試合に象徴されるように片八百長が多い。プロレス的な八百長よりはマシとも言えるが、ある意味こちらのほうが罪深いとも言える。この試合がそうでないことを祈る。
 それにしても出場予定だったプレデターがZERO-ONEとの契約云々で出られなくなったのに、なんでもっと大物の小川が出てくるのかわからん話である。
 とにかくここで小川が負け、プロレス専念にはなってもらいたくない。その可能性も高いから益々興味が高まってきた。ミルコ対ヒョードルを見られるのは真夏だろうか。

 藤田はなぜ出ないのだろう。自分を高く売ろうと計算しているとあっという間に忘れ去られてゆく。すでにミルコにもヒョードルにも勝てないと結果は出ているから小川のような未知の期待はないものの、ここは出るべきだったろう。

 戦闘竜が出る。「SRS」で見たら玉袋筋太郎より背が低かった。セントルイス出身なので戦闘竜は「セントリュウ」と読むのが正しい。ことになっている。でもこの人、埼玉生まれだ。いわゆる在留していた黒人米兵と日本人女のあいだに生まれたハーフである。その後アメリカに渡って成長した。たしかに「アメリカ本土国籍の初のアメリカ人力士」ではあるのだが、かなり日本人でもある。格闘技経験はない。相撲だけだ。勝てない。勝つ決め技がない。横綱クラスの力士ではないけれど、これでまた相撲最強幻想が消えるのは残念だ。グランプリ出場の16人の戦士の中にいきなり入れたのはやりすぎだろう。それこそプレデターやベイダー、ウイリアムスを入れてくれたほうがまだ楽しめた。
 ミルコに続くK−1からの最強ファイターはイグナショフだろうが、あれは「K−1-MMA」になるのか。『PRIDE』じゃない。イグナショフとノゲイラの試合も見てみたいものだ。どうにもいまだに同じフジで同じような演出でやっているから『PRIDE』とK−1が仲悪いという実感がない。実態は引き抜きでもめ訴訟も辞さないぐらい険悪らしいのだが。

【附記】
 藤田はK−1-MMAに行ったのだと知る。サップとやるらしい。でもこっちでやるべきだ。K−1-MMAは「K−1ロマネスク」だったか、そんなのに名前を変えていた。そりゃミックスド・マーシャル・アーツじゃ長すぎる。あちらはサップを筆頭に、イグナショフやピーター・アーツ、マーク・ハント等K−1からの持ち駒に、プレデター(彼もここに行ったようだ)、トム・ハワードのようなZERO-ONEのプロレスラを引き抜いてマッチメイクしてゆくようだ。これはこれでおおいなる楽しみである。でも今のところ、サップや藤田を負かした連中がトップにいるPRIDEが格上であることは否めない。

 総合はこのPRIDEとK−1の二つの流れになったようだ。かつての全日と新日のように、実現不可能なここのスター選手の闘いがこれからの「夢の試合」になるのだろう。「ヒョードル対イグナショフ」のように。
 しみじみとよかったなあと思うのは、サップ対ノゲイラ、サップ対ミルコがすでに実現していたことだ。していなかったら「もしも」の世界でかつての「馬場猪木」のように語られたに違いない。PRIDE-GPが待ち遠しい。(4/24記)

04/4/24  いよいよグランプリ開幕!──毎日王冠の思い出 

 地上波の放送は火曜の午後七時からになった。ゴールデンタイムで2時間だからずいぶん豪華な中継ではあるのだが、やはりこういうのはリアルタイムで見たい。サムライのPPVで2000円か。試合順に見られるし、よぶんなものもカットされるものもないし、いいなあ。と言いつつ契約しないけど。
 きょうから情報を断って火曜午後七時まで結果を知らないようにしよう。ネットからの情報はここのUP以外繋がないから安心だ。日曜のテレビも競馬中継あたりは見ても問題はないだろう。深夜のフジはもう見てはならない。他局は一切結果を伝えないからこれまた問題なし。つまりコアなファンにとっては大関心事なのだが世間的には無視されているって事か。これがプロ野球だったら二日間結果を知らずにいるにはテレビや新聞を完全にシャットアウトせねばならない。

 これで思い出すのは毎日王冠だ。何度もの紆余曲折を経て完全に能力発揮状態になった5歳(今だと4歳)のサイレンススズカがいて、それに4歳(今だと3歳)のグラスワンダーとエルコンドルパサーが挑む。サイレンスは当時5連勝(4?)だったか、ぶっちぎりの連続で最強街道をまっしぐらだった。それに挑むグラスワンダーはGT朝日杯3歳ステークスを好時計で勝ちマルゼンスキーの再来と呼ばれる逸材だった。エルコンドルパサーもGTNHKマイルカップを制していた。そしてなによりこの4歳馬2騎は無敗だった。なんでこんな豪華な対戦が実現したのか今もって不思議なほどの毎日王冠だった。ここにぶつけなければグラスワンダーもエルコンドルパサーもまだまだ無敗街道を突っ走れた。なのに、4歳の最強馬2頭が雌雄を決するだけでもすごいのに、その前に武豊を鞍上にサイレンススズカが立ちはだかる。夢のレースだった。

 私はこのGT以上の毎日王冠にどうしても行けなかった。どんな仕事だったのか、その日に限っていくつもなぜか打ち合わせが重なった。競馬場に行けず留守録にした。部屋にもどってヴィデオを見るまで結果を知るまいと思っていた。午後十時過ぎ、仕事が終り家路を急ぐ。駅売り速報のデイリースポーツも見ないようにした。今も覚えている。新宿から乗った山の手線。渋谷をすぎてもうすぐ五反田という辺り、つい隣を見てしまった。するとそこでデイリーを読んでいるサラリーマンがいて、そこにでっかく「サイレンススズカ勝利、エルコンドルパサー2着、グラスワンダー5着」と書いてあったのである。そのあと部屋にたどり着いてみたヴィデオは気の抜けたビール。こういうのも競馬場に行って観戦し、その感動を再現するために見るのならそれはそれでいいのだが、結果を知らずにわくわくしたいと思っていた身には、なんとも悔やまれるあの一瞬だった。いま思えばメガネを外していればよかった。そうすれば見えなかったのに。

 後にシンボリルドルフ以来の有馬記念連覇を達成するグラスワンダーと4歳でジャパンカップを勝ち凱旋門賞を2着するエルコンドルパサーの、サイレンススズカとのただ一度の邂逅だった。このあとの天皇賞・秋でレース中にサイレンスズカは故障を発症し予後不良の薬殺となる。あの競馬場が凍り付いた瞬間は今も覚えている。新聞は場内に悲鳴が満ちた、のように書いたが、そうではない。一瞬静まったのだ。映画等で狙撃のクライマックスのとき無音にして効果を演出したりするが、まるであれのように、10万人以上が詰めかけ歓声と怒号に満ちていた競馬場が数秒間無音になった。
 グラスワンダーはこのあと断然人気に支持されたアルゼンチン共和国杯をまたも5着に敗れて評価を下げる。それは初めて自分より強い相手に出会ったショックではなかったか。そこから立ち直り有馬を勝つ。エルコンドルパサーはジャパンカップを勝つ。フランスに渡りサンクルー大賞典を勝ち、凱旋門賞は果敢に逃げ惜しくもゴール前差されたが乾杯したのはサイレンスズカのみだった。あの毎日王冠のヴィデオ、どこにあるだろう。見たくなった。

 今は田舎住まいだからそういう偶然はまずない。日曜深夜のフジテレビを見ず、月曜にコンビニに行かずに火曜の夜を待てば大丈夫だろう。
 まあ今回は順調にヒョードル、ミルコ、ノゲイラの三強は勝ち上がる。ヒーリングも間違いない。勝ち負けが気になるのは小川とレコ戦ぐらいか。シウバと戦闘竜も気になる。
 ヒーリングと言えば、ミルコに氣魄負けして実力を発揮せぬまま惨敗した。両者に力の差はない。あれはテキサスの陽気なアメリカンとクロアチアで犯罪者を銃殺してきた者の肝っ玉の違いだ。
 ヒョードルがロシア語、ノゲイラがブラジル語(ポルトガル語)ってのもいいな。ミルコにもクロアチア語でしゃべってもらいたいのだが弱小国故英語だ。ずいぶんとうまくなった。

 ステファン・レコがクロアチア人だと知らなかった。ドイツに住んでいるからドイツ人だとばかり思っていた。そうなるとブランコ・シカティックが第一回K−1GPで優勝することから始まったこの流れは、クロアチアという国家にとっても大きな意味のあったことになる。今回もきっと衛星中継で流すのだろう。480万人クロアチア人が、母国の英雄であるミルコとレコに声援を送るのだ。それはかつての日本の力道山時代と同じだが、あれが作り物であったのに対しこれはリアルファイトである。クロアチアからはこれからもヒーローが続くだろう。
 大相撲力士・黒海の故国グルジアでは、毎場所大相撲中継を流している。これもまたグルジアでの相撲熱によりよく作用するだろう。琴欧州はブルガリアだ。これも入幕したらそれぐらいのことをやるかもしれない。

 それにしても三強プラス小川、ヒーリングが一気に見られるのだからたまらない。
 なんとか見ないままこのテンションを火曜午後七時まで保たせよう。

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