2013

『AI奨励会』体験記──三段で一息
9/3  『AI奨励会』を始めるまでの流れ

 『AI将棋』の『AI奨励会』というのをやってみた。ソフトのバージョンは17。最新は18らしい。まだ買ってない。PC用将棋ソフトはあれこれもってはいるが、もう何年も買うだけでほとんどやらない。使いもしないのに『一太郎』をVersion Upのたびに買い続けているのと同じような感覚だ。
 『AI将棋』というのは山下さんというかたが開発し、「YSS将棋」という名で「コンピュータ将棋世界選手権」にも初期のころから登場している古手のソフトである。市販品を初めて購入したのがいつかは覚えてないが、20年以上使い育てているATOKのユーザー辞書に『AI将棋2』というのが登録されていたから、そのころから指して、いや〝購入〟はしていたようだ。



 ファミコン時代からいろいろな将棋ソフトを手当たり次第に買ってきたが、みな私より弱かった。よってそれらに対する思い出は、ない。
 記憶にあるのはふたつだけ。ひとつはWin3.1時代のフロッピーディスク1枚のソフト『極(きわめ)』。これは現在の『金沢将棋』らしい。当時は選手権で優勝した優秀なソフトらしいが(それを知って買った)期待外れだった。平然と5時間、10時間考えた。使いものにならない。期待が大きかった分、ダメソフトとして記憶にある。悪い記憶。もっともあのころは将棋ソフト全体が話にならない時代であり、『極(きわめ)』を批判することは控えるべきなのだろうが、「印象的なソフト」であることはちがいない。

 もうひとつはPS2の『激指2』。これに初めて負けた。生涯忘れないソフトである。負けなしの今までのソフトと同じく一杯機嫌でへらへらとやっていたら負けた。ここまで強くなったのかと感激した。本気になって勝ったが、最強設定の四段にしたら勝てない。将棋ソフトはここまで強くなったのかと感心し、初めて、というぐらい本気になって、なんとか五分の闘いをするところまでもっていった。私は多くの将棋ソフトを購入したが、すべての思い出は[初めて完敗したPS2の『激指2』]に集約されてしまうのである。それほど初体験は強烈だった。なにしろそれまで何千回も負けたことがなかったのだから。

 『激指2』の発売は2003年だった。それからの私の実践将棋は、「ふと思い出したとき、PS2の『激指2』で遊ぶ」だけだった。『将棋世界』は缺かさず買っていたしNHK杯戦も観ていた。たまに興味深いものがあると棋書も買っている。でも将棋は指していない。その間、ソフトオタクであるから、目につくたびに将棋ソフトは買っていたが、PCの『激指7』に勝てないと判った時点でもう諦めた。弱すぎてもつまらなかったが、勝てないとなるともっとつまらなかった(笑)。
 私の「将棋ソフト対戦史」は、ファミコンの『森田将棋』で始まり、数多くのファミコンソフト、スーファミソフト、PC98ソフト、PS2ソフト、Windowsソフトを経て、「PS2ソフト『激指2』で初めて負け、Windowsソフト『激指7』でとどめを刺され、幕を下ろしたことになる。



 ところがここにきての将棋ブームである。棋戦の対局はネット観戦し、その間に2ちゃんねるの将棋板に出かけてファンの息吹に触れたりした。そこでは頻繁に『激指』による形勢判断が掲載されていた。たまに『AI将棋』もあったが、将棋ファンに市販品で最強と認められ信用されているのが『激指』であるのはまちがいないようだった。

 中でも2013年の電王戦の盛りあがりは、将棋を知らないひとまで引きずりこんで、異様とも言えるものだった。ニコ生中継の功績も大きい。この流れの中で私にもまた将棋を指してみたいという気持ちが芽生えてきた。本気で指せば今、私はどれほどの実力なのだろう。「新宿将棋センターで三段だった」が拠り所なのだが、齢を重ねることによっていかに弱くなったかは自分がいちばん知っている。待ったなしなら二級程度か。しかし本気になれば二段ぐらいはまだ行けそうな気もする。それは自惚れか。もう必死になっても逆立ちしても二級程度なのか。

 力を試すなら一番印象深いソフトの『激指』である。バージョンも缺かさず持っている。だが『激指』は、ちょっといま近寄りがたい存在になっていた。待ったなしの瞬間指し将棋だと1級設定でころころ負けた。
 私が、たるんだ将棋実力をもういちど鍛えたいと願うなら、相手は『激指』(最新版バージョン12を持っている)の「レーティング戦」が最適だった。でもなんとなく敷居が高いのである。



 と、ここでATOKが「敷居が高い」の誤用に注意と指摘してくれたので引用。明鏡国語辞典から。

 しきいがたかい【敷居が高・い】
不義理や面目のないことをしているので、その家に行きにくい。
「無沙汰をしているので、あの家は━」
◇「敷居」①が高く、その家の領域に入りにくい意から。

[注意]
(1)程度や難度が高い意で使うのは誤り。「× 高級すぎて僕らには━店」「× 初心者には━ゴルフコース」




 私の使いかたは誤用の「程度や何度が高いので遠ざける」のようだが、そうではない。正しい意味の「不義理をしているので行きにくい」になる。一番世話になり尊敬しているソフトでありながら、もう歯が立たないものだから、ほんのすこし不利になった局面で考えもせず、がんばりもせず、あっさり投げるような失礼なことをしていたのである。『激指』が師匠だったら、「だらしない将棋を指しおって!」と怒ったろうし、親友だったら、「おまえ、こんなことじゃダメになるぞ」と注意してくれたろう。だから正しい意味で、私には『激指』は敷居が高かったのだ。



 2003年にPS2の『激指2』に初めて負けて感激し、その後は初段二段相手に勝ったり負けたりしていたが、四段には勝てなかった。もちろん何度か待ったをすれば勝てる。勝てない相手ではないと思っていたが現実には待ったをしなければ負ける。あまりにポカが多い。2008年だったか、ふと正気になった。それこそ文字通りテレビに向かって正座し、待ったなしの『激指2』のレーティング戦に挑んだ。三歩進んで二歩下がる状態を経て、なんとかそれで四段のレーティングになった。以降、将棋は指していない。

 電王戦から刺激を受け、ひさしぶりに自分もコンピュータ将棋を指したいと思った。ちょうどあたらしくデスクトップ機を組み、CPUも最新最速のCore i7の3770にし、メモリも24GB積んだところだった。将棋ソフトも能力を発揮できるだろう。いや旧型デスクトップ機でも歯が立たなかったから発揮の必要はないのだが。



 さて対戦相手のソフトだ。最愛の『激指』は前記の理由で敷居が高い。同じくずっと買っている『東大将棋』シリーズは、棋戦設定とか個性的なキャラとかは好きなのだが、グラフィックが好きではない。この意見は徹底していて、十数年前のホームページでもそのことを書いている。単なる好みなのだが、私はもう十数年前から『東大将棋』のグラフィックにケチをつけているのである。そもそも名前がいやだ(笑)。その他の将棋ソフトの開発もみな東大であり、東大と無縁にコンピュータ将棋は語れないのだけど、このいかにもなソフト名は好きになれない。

 とまた脱線して、大学の将棋部の話。私が将棋に本気になった大学生のころから、一番強いのは東大将棋部だった。頭脳勝負だから日本一の大學が日本一強いのはスッキリしていてわかりやすい。米長さんや谷川会長のお兄さんが東大卒というのも筋が通っていていい。私はそのままずっとそうだと思っていたのだが、いま立命館大学将棋部が東大に伍していると知った。すばらしい。やはり私学の雄が出て来ないと盛りあがらない。

 閑話休題、言帰正伝。
 『激指』は敷居が高く、『東大将棋』はグラフィックが嫌いという時点で、そういえばむかしからグラフィックは『AI将棋』がいちばん好きだったのだと思い出した。しかし私は『AI将棋』は相手にならないぐらい弱いときしか知らない。でも『激指』と選手権で五分に戦っているのだから、もう私は相手にされないぐらい強いのだろう。当然だ。ソフトを買ってはいるがほとんど指していない。
 『銀星将棋』も持っている。これも選手権参加は古く、北朝鮮製ということで話題になった。その後、『銀星将棋』という名で市販ソフトとなっている。北朝鮮ということから距離を置いてきたが、最新版が尊敬している『BONANZA』を思考回路に挿れたということで買ってみた。といってそれを体感できるほど私は強くないし、これもグラフィックは好きではない。

 グラフィックと言えば、『3D金沢将棋』も買ってみた。いろいろ持っている(笑)。前記『極(きわめ)』の流れから『金沢将棋』は買っていない。しかしこの 3Dという発想はすばらしい。将棋ソフトにおいて唯一の物足りない点は何か!? それは立体感だった。将棋盤の厚味、駒の形状、それが見えない。すべて平面的なのだ。このソフトはそれに挑んだ。初めて起動したときは思わず「おお!」と唸ったものだった。残念ながら中身は私好みではなく、グラフィックも不満が多く、すぐに指さなくなってしまった。でもこの発想はいい。これからの将棋ソフトはこの感覚を取りいれて欲しい。『激指』や『AI将棋』に3D版が出たらすぐに買う。



 何で遊ぶのがいいかと迷いつつ、ひさしぶりに『AI将棋』を指してみた。ふつうの新規対局で三段を相手にして負けた。しかし局面分析をすると、まあしなくてもわかっていたが、序盤中盤終盤圧倒的に私が有利だった。勝ち確定の24999点プラスが何度も出ている。さらには詰みありの25000点プラスも何度も出ている。それを逃して終盤の大ポカで負けているのだった。
 まずはここで「もしかしたらおれは三段ぐらいの力がまだあるのか!?」と希望的に思ったことが一番。まあPS2の四段に負ける時でも、相手にされないということはなかった。終盤が弱くいつも逆転されるのだった。要は精神である。
 次いで、いつものことながら『AI将棋』のグラフィックが好きな自分を確認した。単なる好みではあろうが、私はこの将棋ソフトのグラフィックが好きだ。そしてもうひとつ、棋譜分析は『激指』でやってみたことがあったが、私は『AI将棋』のこれが気に入った。解説も、問題手からの指し直しもいちばんやりやすい。そしてここに『AI奨励会』という遊びがあると知った。規則は本物の奨励会に準拠しているという。興味を持った。やってみることにした。
 入会は9級から。自信のあるひとは6級からでも出来る。これまた現実と同じか。ここはもちろん6級にしてもらった。

 それから時間を見つけては挑む私の『AI奨励会』が始まった。
 そして2013年9月3日、なんとか三段になった。自分の実力からしてここが限界だろう。ここまでの流れをまとめておきたいと思った。
 そこまでの流れ、いくつかのズルについて






この壁紙は
http://www.geocities.jp/shogi_e/haikei/backtop.html
より拝借しました。感謝して記します。

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