腰痛とパソコン机



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 待望の自作タワー型パソコンが完成し、毎日何時間も椅子に座り、あれこれといじっては喜んでいたら、持病の腰痛が顔を出した。私は若い頃から俗に言う〃ギックリ腰〃をなんどかやっている。これといって体に悪いところはないが、あえて言うなら腰なのだろう。

 とまあかってに思いこんでいた。ギックリ腰とはもう十年以上も無縁だが、腰痛は、FMVデスクパワーと蜜月時代だった何年か前にも経験している。椅子に座って何時間も仕事をすると、持病の腰痛が出てくるのは仕方のないことなのだろう。そう解釈していた。
 とはいえ今回のこの痛みはかなりのもので、一時間も座って仕事をしていると腰が痛くてたまらなくなる。立ち上がったとき、「いでででで」という状態。体はくの字型に折れ曲がっていて腰が伸ばせない。それをだましだましすこしずつ伸ばし、やっとふつうの状態にもどる。腰をとんとんと叩く様は老人そのものである。

 しばらくその辺を歩き回ったりして気を紛らわし、また仕事を始める。それでも一時間も経てばまた同じ状態になる。一日中この体勢で仕事をするのだから、一時間ごとの痛みはたまったものではない。しかもパソコンから離れた後もこの痛みは続く。ここ何週間か頻繁に東京と田舎を往復していたのだが、電車の中でも腰の痛みはときおり顔を出し、私は常に〃持病の腰痛〃ということを意識せねばならなくなっていた。

 こういうときヘンな貧乏性というか、今更私が勤め人になるわけもないのだが、私は「こんな腰では、おれはオフィス勤めは出来ないなあ」などと考えて落ち込むのである。サラリーマンにはなれないしなりたくもないのに、この年になってもまだ「なれる」という意識をもっていたいのであろうか、「これではなれない」などと考えては落胆していた。我ながらヘンなヤツだと思う。


 湿布薬などで治まるものでないことは判っている。久しぶりに鍼灸治療院に行こうかと私なりにだいぶ悩んだ。こうなってくると腰痛とは無縁だった〃ラッコ状態のバイオ〃が懐かしい。でもそれからは足を洗うと決心したのだ。寝転がっては寝転がった文章しか書けない。もうあんなことをやってはいけない。あらためて自分にそう言い聞かせ、腰をさすりつつ運転をしているとき、「運転なら平気なのにあ」と当たり前のことを思った。それでまた考え込む。

 もしも本当に腰痛が持病なら、どんな時でも痛くなければおかしい。腰痛に悩む人は運転がつらくて出来なかったりする。ところが私は何時間クルマを運転しても腰は痛くならない。それは自分のクルマに限らずレンタカーでも同じだ。ここで鈍い私はやっとのこと「デスクトップパソコン机に座ったとき以外は腰痛がない」ということに気づいたのだった。その他の机でもないのである。そして思った。「おれってもしかして、腰痛の持病なんかないんじゃないか」と。

 私のパソコン環境は、以前デスクトップ型パソコンで使っていて、今はタワー型パソコン用にしている17インチディスプレイを埋め込んだスチール製のパソコン机(何段にもなっていて上段にはプリンターなどもおけるもの)と、A4ノートを置いて使う肌触りのいい木製の机(ただのフラットなもの)、それとまったく同製品で脚がない、座椅子用の机(B5ノート用)の三種類である。
 後は腹の上に乗せてラッコ状態で使うバイオである。で、合計4台。
 餘談ながら、デスクトップとはその名の通り、机の上に乗せて使うものである。私は横型平置きの文字通りのデスクトップを何台も使ってきた。今のは机下の横に置くタワー型である。単にノートと区別するための呼称だから、今まで通りデスクトップと言ってもいいのだが、せっかく作った自作のタワー型なので、この名称にこだわらせてもらう。

 腰が痛いとはいえ、そうなるのは、その中でもタワー型を使うスチール製の机に向かったときだけだと気づく。それはなぜだろう。姿勢の問題か。車を運転しているときは、後ろに反り返るような形になる。きっとそれがいいのだと思った。パソコン机に向かうときは前屈みになりがちだ。それでスチール机の前でもそんな体勢をとってみた。たしかにこれならいいような気もする。でも仕事がし辛い。困った。そうしてまた今度は、A4ノートを使っている木製机では、前屈みになっても腰が痛くならないことに思い至った。なんだそういうことだったのかと思う。やっと正解にたどり着いた。椅子なのである。


 スチール机も木製机も同じような椅子を使っている。まったくパソコン周辺機器の買い物というのは楽しいもので、どちらの椅子も秋葉原のラオックスパソコン館で、自分で何度も座り、腰に負担のない、座り心地のいいものを選んできた自信作だった。まあ感覚だけで選んだものだから、当たりはずれは付き物だ。二つ選んだ椅子の、こちらのひとつは外れだったのだろうと苦笑しつつ、私は木製机と組み合わせていた椅子を持ち上げ、スチール机の方に運ぶ。
 持ち上げて思った。ずいぶんと重い。結構この種のものには凝る方だから、たしかこの椅子も五万円ぐらいはしているはずである。自慢できるほどの高級品ではないがその辺の安物というわけでもない。この椅子、こんなに重かったんだっけと思いつつ、二つの椅子を交換した。

 そうして正解を見つけ難題は解決するはずだった。スチール机の前まで椅子を運び、座って仕事を始める。すぐに先ほどの推理が間違いだったと気づく。やはり腰が痛くなるのだ。ふたつの椅子は見た目もまったく同じだったし、座り心地も変らない。同じような製品なのだ。
 となるとこの椅子が原因とは思えなかった。腰痛は同じようにやってくる。いったいなにが原因なのだろう。腰が痛くならない木製の机の方に座り真剣に考えてみる。

 そこでふと思った。なんか違う。この机に座っていると、あっちの腰の痛くなる机と、なにか違う。これはなんなのだろう。
 そうしてやっと私は「高さの違い」に気づいた。急いでスチール机の方にもどってみる。自分の腹の辺りに印をつける。木製机にもどる。比べてみる。スチール机が、木製の机よりも十センチも近く低いことに気づいた。腰痛の原因はすべてこのスチール机の高さにあったのだ。
 賢い人、勘のいい人なら、なんちゅう鈍いヤツと笑われるだろうが、私はほんとに苦労して苦労して、やっとそのことに気づいたのである。ほんにもうしょうがない。
←私が使っているのと同じ製品。SANWAサプライ。

 私の仕事場は六畳二間である。部屋の端と端にスチール机と木製の椅子がある。真ん中にB5ノートの乗っている座卓がある。假に二人の人間が仕事をするとしたら、最も遠く離れる位置取りに二つの机があることになる。

 タワー型パソコンの配線を外し、木製机の方にもってきて繋ぎ直す。問題はディスプレイだ。平面の机の上に、あの異様に後部の長いCRTは置けない。液晶なんかよりCRT(カソード・レイ・チューブス。単なるブラウン管のことですが)の方がずっと表示能力は高く、画面も美しいのだけれど、なにしろデカい。これはちょっとパスせねばならない。そのことをもう何年も前に考えてこの埋め込み式の机を買ったのだった。斜め下に埋め込むことで、分厚いCRTはだいぶ小さく感じられるのである。

03年4月の参考画像。17インチフラット画面で正価24800円。もっともっと低性能なものを十数万円出して買っていたので、あまりの安さにめまいがする。






 CRTも信じられないほど安くなった。私のMAGの製品は、四、五年前に12万円ぐらいで買った最高級品だったけれど、今じゃ5万円ぐらいで同じO・25ミリピッチのものが売っている。先日19インチフラット画面で6万円というのを秋葉原で見かけたときは、その場で買ってしまいそうになったものだった。
 が、デカい。とにかくCRTはデカい。それに腰を痛めているときである。重たい17インチディスプレイを持ち上げ、腰痛から解放されようとあれこれやっていて、結果としてギックリ腰になったでは笑うに笑えない。

 それで17インチディスプレイは埋め込んだままとして、あまっている15インチのディスプレイを引っ張り出してきた。これはFMVデスクパワーを買ったときに付いてきたもので、私はすぐにMAGを購入したものだから(この辺もディスプレイ付きのパソコンを買っておきながら新たにディスプレイを買い直すのだからまともではないことになる)今まで全然使われていなかった。いわゆる〃新古〃というヤツになる。むかし初めて中古品ならぬ「新古品」という日本語を知ったときは理解できなかったが、こういうふうに経験すると解る。新品だけれど古物なのである。これはこぢんまりとしていて平机の上でもじゃまにならない。ちょうどいいやと思った。


 木製平机の上でタワー型パソコンを扱うようになったら腰痛は見事に治まった。すべてはスチール製机の高さが悪かったのである。ずいぶんと原因探しの回り道をした。でもまあ痛みから解放されて万々歳である。
 想えばFMVともう一歩うまく行かなかったのも、この机が原因だったのだろうなあなどと考える。買ったときからこの机に座ると腰が痛くなったから、FMVが新品の高性能パソコンだった時代から、なんとなく私たちの仲はぎくしゃくしていたのである。今じゃもう片づけてしまい、二度と触ることもない遺物だが、もうしわけなかったような気もしてくる。別れた女房に「風水が悪かった」と気づいて反省しているようなものか。

 調べてみたところ、どうやらこの机の高さは変えようがないと解る。とすると、これを再利用するには、より低くなる椅子を買ってくるということになるが、そんなものはあるのだろうか。今現在二脚ある椅子をいちばん低くしても、その腰痛になる高さなのである。木製の机、あるいは東京の住まいにあるその他の机などから考慮しても、このスチール机が使いやすい高さということを計算せずに生産された缺陥品であることはもう間違いないだろう。
 何段にもなった多機能風のかっこよさに惹かれて買ったノーブランドの品物である。こういう場合、さすがにブランド品(といっても国内のその種サプライメイカーのことだが)には、こんなとんでもない缺点はもった製品はない。社員が使用してみたりして最低限の実験をするからだろう。そういう今までの経験と信頼感が、製品を疑う前に自分の腰が悪いのだと思いこんでしまった原因だった。まあ、外国人向けに作られたものとか、パソコン環境の変化とか、この机を庇ってやるいくつかの理由をむりやり考えることは可能だが、すくなくとも171センチ、65キロというという典型的中肉中背日本人である私の体に合わない製品であることは確かだ。だって他の机じゃまったく問題はないのだから。

 値段は三万円ぐらいだったか。やはり秋葉原のラオックスコンピュータ館で、「ディスプレイ埋め込み式机」ってのが欲しくて買った製品だった。買った時はうれしかったものだ。腰痛ばかりであまりいい思い出はないが、十分減価償却してくれたと解釈してお払い箱にしよう。購入当時はまだ15インチディスプレイが全盛で、この机の謳い文句であった「17インチディスプレイ対応」というのはとても魅力的だった。でも今SXGA表示をしようと思ったらもう17インチでも狭い。そういえばあの頃はまだSVGAが全盛で、XGA表示の出来るノートはほとんどなかった。今ではだいぶ旧式になってしまったメビウスノートが未だに現役なのはXGA表示対応だからだ。高いものを買っておいてよかったと思う。

 次にもしCRTを買うとしたら、SXGA表示に耐えうる19インチ以上だろう。それにはこの机は対応していない。横幅がなくて埋め込めない。となると、ほんとにもうこの机は価値がないことになる。廢棄処分決定である。
 スチール製の大型机であるこれを組み立てるときたいへんだった。スパナを持って大奮闘したものだ。新しい環境が出来上がるのが楽しみで、わくわくしながら作業したものだった。今じゃもう慣れてしまったけど、あの時はほんとに「埋め込み式」ってのに憧れていたのだ。客観的に見て今もすぐれた方式だと思う。見下ろす形式は視点として楽である。またあちこちのネジを外して分解せねばならない。それに今じゃ、ものを捨てるにはお金のかかる時代だ。それはまあ仕方のないこととわかっているが……。

 目下の私の悩みは、目の前にある15インチのモニターがびんぼくさくてたまらんということである。17インチでSXGA表示をしていたのを、15インチでXGA表示とした。まず小さくて見づらいというのがいちばんの問題だが、それ以前に、なんのかんのいっても当時最高級品だったMAGの17インチディスプレイは、時が過ぎてもまだそれなりにかっこよく、それと比して安物大奉仕で躍進していたFMVデスクパワー付属の15インチディスプレイは、どうしようもなくびんぼくさいのである。その雰囲気自体がたまらない。

 普通の人はそんなにこだわらないのかもしれないが(誰だってそりゃあ気になるとは思うけど)、なにしろ私は夢を売る商売なので(笑)、びんぼくせえなあと思いつつさわやかな話を書くのはけっこうしんどいのである。いつもいうことだけれど、私自身はよれよれのジャージーを着たしょぼくれたおっさんではあっても、ひとたびディスプレイに向かい、架空世界の構築に向かったなら、おめめキラキラの少女に変身したりもするわけだ。現実に目に入らない家全体とか私の服などはどうでもいいのだが、仕事中に視界に入るもの、ディスプレイ、キイボード、マウス、机、卓上ランプ、珈琲カップなどは、なるべくかっこいいものであったほうが良いのである。変身の手助けのためにもだ。それが私の理屈であり、理屈通りに、よれよれのジャージーを着ていても、視界に入るものは常に新品のカッコイイもので統一してきた。このディスプレイは、その理屈に反している。

 周辺機器の充実は私にとって仕事を助ける重要な役目を持っている。つい昨日も、仕事の合間の気分転換にパソコンショップに出かけ、六千円のキイボードを買ってきた。いったい何台目のキイボードだろう。黒字に白のキーという二色のキイボードは、ノーブランド製品だったが、なんとなくかっこよく、なんだかいい気分でずいぶんと仕事が捗った。節約家には無意味な浪費と思われるだろうが、ワタシ的には十分に価値のある六千円だった。極端な話、このキイボードを一週間で飽きたとする。でもその間にこのキイボードで気持ちよく十万円分の原稿が書けたなら、それは釣り合いの取れた投資になる。実際に一週間ほどで飽きてしまったりすることもあるのだが、一年後にまた引っ張り出して使ったりなんてこともあり、それなりに気分転換の道具にはなってくれる。

 またまた餘談ながら、私の家族、親兄弟親戚は、みなしっかりしている。節約家であり倹約家であり貯金もしっかりもっている。子供の頃から私だけが浪費家で一族の異端だった。お年玉なんてのも、他の兄弟は貯めたりするのに、私はもう欲しいものが先立ち、もらってももらっても間に合わないぐらいだった。親があきれていた。子供の頃の性格というのは直らないものらしい。



参考画像。NANAOの液晶モニタ。

 というわけで、私がいまいちばん欲しいのは、このなめらかな肌触りのお気に入り木製机に似合う、17インチ液晶ディスプレイである。三万、五万のものだと躊躇することなく即決で購入し、積もり積もって毎月三十万だ五十万だというクレジットの請求にひーひー言っているのだが、さすがに十五万円以上する液晶ディスプレイは衝動買いとは行かず、パソコンショップに出かけては、美しい女性を見つめる恋人のいない男のような顔で、ずらりと並んだ液晶ディスプレイを、物欲しそうに眺めている。時々そっとさわっちゃったりもする。「かわいいねえ、ほしいねえ、ウチに来ない?」なんて囁きかけたりもする。セクハラで訴えられないからコンピュータ商品はいいね。

 来月ギャラが入ったら買おう。それよりも前に払うべき金、返すべき借金とかあるような気もするが(気もするがじゃなくてあるんだって!!)、きっと買ってしまうだろうなあ。しんぼうたまらんものねえ。かわいいよねえ、17インチ液晶ディスプレイ。ナナヨのブラックがいいなあ。ソニーもいいけど。安物はいらんよね。そのことで元気を得ていい仕事しますさかい、許してくださいね借金方面の皆様。今に借金は倍にしてかえしますけん。って、ここにはそんな人は来ていないけどね。来ていたらさすがにこんなおちゃらけは書けない(笑)。
 液晶ディスプレイ、買ったらその時にはまた報告します。新しいおもちゃを買ってはしゃぐおやじがいることでしょう。

 腰痛の話がなんだか最後は物欲話みたいになってしまったけど、本気でまたラッコ状態にもどらないと自分はもう椅子と机では仕事は出来ないのではないかと悩んだぐらいなので、腰痛から解放され、ほっとしながら書いてます。パソコンで仕事をする人は、机や椅子の周辺機器にも凝ってくださいね。人ごとじゃないですよ。(01/5/1)




 「掲示板Mone's World」に連載したものより転載。
 文中の写真はすべてイメージ参考写真です。文章に該当する製品はもうほとんど売っていませんでした。いちばんお気に入りの机の写真が現物であったことがうれしいです。

 はたしてこの腰痛の原因がすべてこの机が原因であったのかどうかは断言できません。ただ、場所の節約になるし、電磁波うんぬんでも、いいことづくめのこの埋め込み式は、今ではすっかり見なくなってしまいました。なにか問題があったのではと思っています。自分の腰痛をこの机のせいにだけする気はありません。そういう言いかたをすると「週刊 金曜日」の「買ってはいけない」のように企業テロになってしまいます。
 ただ文中にあるように、違う机に移ったらすっかり直り、その後いまに至るまでまったく再発していないのですから、限りなく黒に近い灰色であることは間違いないでしょう。(03/4/15)



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