(↓雲南の囲炉裏。ここで飲む酒はうまい。) ホームページを作って、ぼくがいちばん心配だったのは「重さ」だった。 たとえば某タイ関係のホームページがある。その人は大きな写真を掲示していることが自慢のようだ。そのことをはっきりと明言もしている。他とは違うと。 それらの写真には解説の短文が添えられている。txtの文章は軽いから先に表示される。文章を読み終り、チッチッチッとすこしずつすこしずつ表示される写真を待つ。 そうして出てきた写真が、なんというか、平凡でつまらないのである。彼の大言壮語にそれなりのものを期待していたから、これは落胆する。 この場合、写真がつまらないことはたいした問題ではない。感覚は人それぞれだ。タイ慣れしているぼくには凡庸な写真であっても、初心者の人には遅い表示を待つだけの価値あるものかもしれない。 問題は、「時間が掛かって、それでつまらなかった」ということの、「時間がかかって」の部分なのである。自分も持っているようなありふれた写真なら、さっさとそれを知りたかったという苛立ちだ。 ぼくのホームページもつまらないと感じる人は大勢いるだろう。それはわかっている。仕方がない。ただし、というかこの場合は、だからこそ、か、表示に時間が掛かり、「もったいぶらせやがって」といわれて嫌われたくはない。合わない人には「あ、ここはおもしくろない」とさっさと去って欲しいのである。それはこちらの望むことでもある。もしもぼくの写真を気に入り、もっと鮮明に見たいという人がいたなら、それは個人的にメイルのやりとりをして、大きなファイルの写真をあげればすむことだ。 とにかく、さらりと流して見てもらいたかった。そのために軽く作るというのは最重要課題である。 なのに実験的にアップして、わくわくしながら見たぼくのホームページは、致命的に重いのだった。遅いのである。どこもかしこもチッチッチッチの連続だ。それが写真の多い色っぽさそうなページでもあれば、チッチッチにも期待が湧くが、そんなのは無関係なただの目次ページが重いんじゃたまらない。 それでぼくは公開を数日延期し、すべての構成ファイルを軽くすることに全力を尽くした。面倒な作業だったが、丹念にひとつずつファイルをチェックし軽くしていったのである。 ページの容量を調べる。200kあるものを写真サイズを小さくしたりして110kまで落とす。さらに100以下にならないかと調べる。ロゴが30kある。それを作り直して18kにする。そんなことまでやった。 『ホームページビルダー』には、通信速度による表示時間を示す機能がある。28kという基本的な(かつてのだけどね)スピードだと2分30秒かかるなんて出ていたページが、45秒ぐらいになった。まだまだ重いとも思うが、一ページに三枚写真を使ったものとしてはこの辺が限界だろう。そうして見切り発車をした。 ぼくは自分の接続スピードがアナログであり、今や世間的にかなり遅いものであることを知っていた。申し込もうにも、この田舎では速いのをやっていないのだ。 ホームページアドレスを連絡するのは旧知の友人ばかりである。ぼくは彼らがどこに住んでいるか知っている。みな都市部だ。ぼくより田舎の人はいない。最遅のぼくでこれぐらいだから、友人に、ぼくより遅い人もいまい、迷惑を掛けることはあるまいという読みもあった。 そうしてアップした後、掲示板に以下の文章を書き込んだ。 みなさまへお願い 投稿者:kamezo 投稿日:11月12日(月)06時26分43秒 いまいちばん教えていただきたいことは、このホームページが重いかどうかです。 私と同じアナログ接続であるため、すこしずつすこしずつ写真が出てくるあの遅さに、パソコンをぶちこわしたくなるほど苛立っているのか、それとも高速接続をしているので、どんなページも一瞬で開いているのか、どうかみなさまの接続環境とその辺のことをお聞かせください。よろしくお願いします。 【油来亀造 YUKI KAMEZO】 ■すぐにchikurin7号さんが書き込んでくれた。それはぼくにとって圧倒的内容だった。すべてのページの表示が一秒以下なのだという。思わずぼくは、目を閉じ、自分のホームページをすいすい見ている自分を想像し、うっとりとしてしまった。 訂正 投稿者:K 投稿日:11月13日(火)00時12分21秒 重くない、じゃなく、感動的に速いです。 ■サミーも書き込んでくれた。他のホームページよりも速く感じるというのは、これまた努力が認められたようでうれしかった。ぼくの尋ねた「みなさんの環境を教えてください」ということに関してはなにか勘違いしているようだが、彼は来日してまだ日が浅いのでしょうがない。 表示スピードのこと 投稿者:サミー・ザ・ミノタウロ 投稿日:11月13日(火)01時26分58秒 ホームページの表示は速いと思います。写真の入ったページも、他のHPより速く感じます。 ■どうやらいちばん遅くて苦労しているのはぼくであり、みんなに迷惑は掛けていないようだ。安心して以下のことを書き込んだ。 そうでしたか……。 投稿者:kamezo 投稿日:11月13日(火)03時47分37秒 みなさまへ そうですか、重くないんですか。chikurin7号さんのADSLで一瞬ですか。私のアナログは45kですからね、ハハハ……(泣いている)。ですからそりゃ重いですわね。彼我の差に茫然です。 なにごとも自分を基本に考えてしまうのは人の常ですが、私は公開前に、みなさんを不快な目に遭わせたくないと、一ファイル200kぐらいあったものを、写真を小さくしたり品質を落としたりして65kぐらいにする作業をちまちまとやっていました。かなり面倒でした。たいへんでした。 元々一枚65kの写真というのは35万画素レヴェルですから(私は異国で写真を撮るときも、ホームページで掲載することを考えて低画素で撮っていました)画質が悪いのに、それを28kぐらいに落としたら、はっきりいってもう写真じゃありません。 高速接続の人に一瞬で見てもらえるのなら、もとの写真サイズでよかったかというのが今、正直なところです。このホームページの作成意図は、私の写真を見てもらおうという気持ちが大きいですからね。 パソコン環境でいうなら、私の大枚はたいて作った自作パソコン「mone一号」以上のものを持っている人はいないと思います。これをクルマにたとえてみると、私のパソコンがポルシェなら、サミーの安物パソコンは耕運機です。ですが周囲に田圃のあぜ道しかない私のポルシェは、ぬかるみでスタックしており、サミーは高速道路を耕運機でふっとばしているということになります。 東京の街中を時速60キロで走るポルシェを見るたび、ポルシェがかわいそうだ、もっと総合環境を考えて買い物をしろといつも思っていましたが、いつしか私も同じ事をやっていました。 とはいえパソコンの能力と通信速度は関係ありません。私は高性能パソコンと高性能ソフトPhotoshopで凝った画像を作り、みなさんによいものを提供すればいいわけです。多機能ではあるけれど、それゆえに重いソフトの代表であるPhotoshopの使い心地は、まさにCPUの能力に依存します。私はストレスなく画像を作り、みなさんはストレスなく見るということでめでたしめでたしです。問題は、自分のホームページをいらいらしながら見ねばならない私だけなのですね。とほほです。 というわけで、読んではいるが連絡はくれていない人の中にも、ぼくより遅い人はいないはずだから、ファイルの重さに関してはとりあえず問題なしのようである。ぼく自身を基準にして、我慢できないものを作らないようにして行けば、みなさんに迷惑を掛けることはないだろう。 通信速度に関して、今まででいちばんいらいらしたのは、チェンマイのインターネットカフェである。こういうところは一回線に二十台ぐらいパソコンを繋いでいるから、安いとはいえ、あまりにひどい状態になっている。ぼくのが遅いといっても、ちょっとこれらとは比較対象外になる。 Hot mailに繋いでメイルチェックするだけなのに、そのHot mailに繋がるまで、あの下部に現れる接続状況を示すバーが、チッチッチッチと十分経ってもまだ半分ぐらいしか来ず、腹立って帰ってきたことがある。こういうところは一時間10バーツ(30円)という安価だったりするのだが、ぼくとしては五分もかからず終る作業だから--いやいや、無事原稿が届いたという確認だけしたいときなど一分もかからない--、時間こそ最も大切なものという考えのぼくは、一分100バーツでもいいから速くしてくれと言いたくなる。これが一時間60バーツのところになると、それよりはかなり速いから、やはり値段にはそれなり意味があるのだろう。 いつの日かこのホームページを一般公開したら、「重い」という抗議が来る日があるのだろうか。それはどこからだろう。やはり今のところ本命は、チェンマイの安物インターネットカフェのように思う。ジャンルとして「タイ関係の旅行記」に登録するつもりだから。いやいや、そんなところから繋ぐ人は、のんびり感覚だから、ぼくのように苛立ったりはしないのかもしれない。そういう安いインターネットカフェで仕事用の接続をして苛立っているぼくが異端なのだとも思う。 ところで、遅いことが楽しいわけもなく、まして基本的に新しい物好きだから、高速接続に興味がないわけではない。なのに割合恬淡と書いているのは、それだけぼくがネットに興味のないタイプだからだろう。 これは以前から何度も書いていることだが、パソコンユーザーは大きく二つに分かれる。ぼくのような文章書きや写真加工などの道具として使うタイプと、ネットというコミュニケーションの道具としてつかうタイプだ。今では圧倒的に後者が多いことは言うまでもない。パソコンが普及し始めたころは主流であったぼくのようなのは、いつしか少数派になってしまった。それだけ世界が変ったことになる。まあぼくもこうしてお粗末ながらも自分のホームページを作ったりしているのだから、時代についてゆけないわけでもないとは思っている。 ぼくはパソコンを使い始めて二十年になるというのに、後藤さんに誘われて関わるほんの二年前まで、自分のパソコンに電話線を繋ぐことを頑なに拒んできた男である。今では化石のようなパソコン使いになる。この「電話線好き」と「電話線嫌い」の差は、人生観としてもかなり異なっている。それはぼくの天敵である(笑)「流浪人」というのが、パソ通歴の長さを自慢する、ぼくとは正反対のタイプであることからもわかる。 速いものに繋ぎたくても繋げない環境でこういうことをいうのは不本意なのだが--ごまめの歯ぎしりになっちゃうからね--ぼくには遅くて不便な環境がけっこう気に入っている部分もある。「作業日誌」に書いた「常時接続で常にパソコンと一緒という世界はいやだ。パソコンの電源を入れてパソコンに接する。電源を切って関係を切断する。そんな関係でいたい」というのが本音になる。これは常時接続というものに対して、パソコンを通じて、自分の部屋がいつでも世界に繋がっていると誇らしく思う人と、いつでも誰かに覗かれているようで不安だと感じる人の差なのだろう。 遅くていちばん不快なのは、ソフトウェアのダウンロードに時間が掛かることである。InternetExplorerなどバージョンアップするとすぐ最新型をダウンロードするのだが、いやはや時間のかかることかかること。でも、と決してごまめの歯ぎしりではなく、夜中に仕事をしつつ、その裏側でしこしことダウンロードされている環境というのが、ぼくは嫌いではない。大きなソフトだと三時間ぐらい掛かったりする。その合間、仕事をする。そうして「ジャン」というダウンロード終了の音が鳴ると、「もう三時間経ったのか。そろそろ終るか」と仕事を切り上げるひとつのめどにしたりする感覚がけっこう好きなのだ。 いくら田舎とはいえ、とんでもない山奥、過疎とか、そんなところではないので、一年以内にADSLが通じるだろう。その時、この文章を読んでどう思うのか、それもまたそれで楽しみである。 今、よかったと思うのは、「みなさん」ではなく、「ぼくが遅かった」ということである。もしもぼくが都市部に住み、高速接続ゆえに好き勝手な重いページを作ってしまい、遅い接続の友人から、とても重くて見られないと抗議を受けたなら、これはかなり気が滅入っただろう。上が下を心遣うのはむずかしい。健常者には足の不自由な人にとってどんなに日本の町が意地悪であるかは見えない。下からなら見える。ぼくが遅くて良かった。以前のよう東京品川が住まいの中心だったなら、新しい物好きのぼくは間違いなく最速のものを導入していた。ADSLでなければ見られないものを作っていたはずである。立場が逆で助かった。(01/11/13) この文章を書いたのは、ここにある友人とのやりとりが無料掲示板上だったからである。掲示板の文章はいずれ消えてしまう。過去にも、消えてしまい悔やんでいるものがたくさんある。かといってこまめに保存するほどまめな性格でもない。こういう形で残しておきたかった。(01/11/13) 「すこしでも軽くするため200kのファイルを削りに削って100kにした」なんて書いてある。それはいい心がけと思うが、次第に凝ったペエジを作ることのほうが楽しくなり、今じゃ「チェンマイ日記トップページ」なんて650kある。その重さでいちばん被害を受けているのはかくいう自分自身である(笑)。とてもじゃないが重くてあんなもの見ていられない。全表示されるまでも遅いが、表示されてからもせっかくのRollOverの反応が鈍くてなんの効果もない。現れない。忘れた頃に写真が変って驚いたりする。ひどい状態だ。それは速い人に楽しんでもらおうと割り切っている。私自身は制作している『ホームページビルダー』上で、十分に速いレスポンスを楽しんでいる。 02年の秋に私の住む田舎町でもADSLが可能になったようだ。最新型ではない8Mだが、今のものより桁違いに速いのは間違いない。なのに申し込まなかった。なぜか興味がないのである。 いまのところインターネットでやっているのは、自分のホームページのアップ以外にはたまに調べものをするぐらいだ。 そのアナログ回線の速さにべつに不満はない。ぼくには十分である。速さが必要なのは画像を多用した重いホームページを閲覧したり、動画に関わるときなのだろう。共に興味がないので無縁である。遅くていい。 さすがに、たまにWin2kのアップデートや8メガ程度のソフトウェアをダウンロードするなんてときには遅くていらつく。どういう理由か不要ファイルで肥大してしまったホームページを全削除し、全送信するときも5時間、6時間の大仕事になるから煩わしいとも思う。 それでも二年前に前記したように、そういう遅さを楽しんでいる自分が、まだ、いる。そのうちいなくなるかもしれないが(笑)、とりあえず、まだ、いる。 苦労して作ったホームページだから、それらのファイルが一瞬で送られてしまうより、一晩の大仕事になって当然だと思う、それに充実感を感じる自分がいる。 これは「インターネット論考」に書くテーマだが、インターネットのいちばん怖ろしい点は、こちらが多大な時間を費やして書いたものでも一瞬にしてコピー&ペーストが出来ることだろう。それに対する反発から生まれてきている感情なのかもしれない。 ともあれ当分、ADSLにすることはないようだ。(03/4/18) |