インターネット論考


    ■無知の恥

 ネット上での私に関係あること(ほとんど全部悪口)を懇切丁寧に教えてくれる「おせっかい君」がいる。今後もこのコーナーは彼が教えてくれた情報を元に展開することになる。まあコマメな人である。

 きょう《『お言葉ですが…』論考》トップに貼った「マッサージ げんき」という写真を見ていたら、ふいに一年以上前に彼が教えてくれたことを思い出した。



 れいによって2ちゃんねるの個人誹謗中傷話なのだが、当時、そこで「風」さんがやり玉にあげられていたらしい。彼はなぜかそれを私に知らせてくれた。風さんはバンコクのジュライホテルをテーマにしたホームページを開いている。タイ好きということから共通点を感じたのだろう。なのに私がぜんぜん興味を示さないものだから、わざわざそのファイルを送って寄越した。「こんなことが起きている、看過できないだろう!」と。

 そこではれいによって汚いコトバで風さんがやり玉に挙げられていた。なぜそんな目に遭うのかわからない。ジュライホテルに反発を抱く人の仕業か、逆にジュライのことを風さんに書かれてやきもちを焼いているのか。
 この2ちゃんねるには、私も後藤さんもやられたことがあるし、風さんはチェンマイで会ったことのある人だ。まさかお節介君は私と風さんが会ったことがあるとは知らないだろうが。
 そんないきさつもあり、おせっかい君が送ってくれたファイルを読んでみた。

 一読して、あまりにくだらなく、こりゃ心配するほどのこともないなと思った。だいたいがあの種のものは、こちらの書き込みをコピーして貼るしか能がない。でもあれも、いちいち書かねばならないとなったら面倒だ。果たしてどれだけのヤツがやるだろう。簡単にコピー&ペーストが出来るからこその問題でもある。
 そんな中に、思わずむふふと笑ってしまうものがあった。



 そのころ風さんは、「風」とは別に「サラパオ」というハンドルを使い始めていたらしい。彼のホームページをまったく覗いていないので知らなかった。私は、ジュライ、楽宮、台北にもちろん泊まっているし知っているが、それほど興味はない。チェンマイで出会った先輩方もみなバンコクを知っていて、チェンマイでもジュライ好きと楽宮好きが対立しているのはけっこう笑えた。みな数年のヤワラー時代をもっていた。私は一年もない。ヤワラーの汚さよりもチェンマイのこざっぱりさのほうを好んだ。
 その2ちゃんねるのスレッドで、風さんに絡んでくるヤツが、「風よ、サラパオってのはどうせタイ語で風って意味なんだろうけどな、だいたいおまえは」のように書き込んでいたのである。一瞬「えっ?」と思った。すぐに「風? 風ってタイ語でロムだろ。サラパオってまんじゅうだよな」と思い直す。風さんを誹謗中傷する投稿なのに、これじゃ風さん、餘裕でわらってるなと思ったものだった。

 風さんは、「風」ってハンドルがかっこよすぎるから、すこしかっこわるく、太めの自分の容姿に忠実な「サラパオ」を第二案として思いついたのだろう。その考えはとてもよくわかる。ぼくもジジーになってからも使えるようにと「亀造」というかっこわるい筆名を考えたのだ。
 サラパオとは、タイ語でまんじゅうである。風さんの意図したのはその後にムーをくっつけての「ブタマン」だったと思われる。
 風さんに反感をもっているのなら、せめてそれぐらいは調べてから批判すればいいのに。これじゃまるっきりタイ語を知らないと自分から白状していることになる。そんな無知に何を言われてもこたえないだろう。なんともかっこわるい。

 無知は恥ずかしい。よけいなことはしないほうがいい。そう思った。

 以上でネットとの関連話は終り。以下はこのことを書こうと思ったきっかけ。



 
 ふいに一年以上も前のそんなことを思い出したのは、左のマーサージ屋の写真を、「タイ文字、日本文字、英文字」の三つがあるものとして、先日「『お言葉ですが…』論考」のトップページに加えたからだった。

 この看板を見た日本人なら、誰でも「どのタイ語が〃げんき〃なのか」と思うだろう。思わない人もいるかもしれないが、すくなくとも私はそう思う。それで「やっぱりいちばん上の赤字かな」と結論する。一行目が「げんき」、二行目の緑がマッサージだろう。これがいちばん自然だ。それで「げんきとはタイ文字でああ書くのか」と思いこむ。

 ところがこの看板、赤字は「ヌアット=按摩」であり、その下の緑字は「ペン・ボラン=古式」である。ひらがな「げんき」の下の緑字は、「サバーイ サバーイ=快適」だ。マッサージというカタカナの上に同じ緑色で書かれていたら、このサバーイ サバーイも「マッサージ」というタイ語だと思う人は多いだろう。

 この看板に日本語の「げんき」という店名を書いたタイ文字はないのだ。
 だけどそれはタイ文字が読めなければわからない。
 なんでそんなデザインにしたのだろう。タイ文字でも「げんき」と入れるべきと思うが。だってこの看板じゃ、タイ人は、なんて名前の店なのかわからない。

 この場合は「無知は怖い」じゃなくて、「読めてよかった」の話になる。タイ文字が読めるから、いちばん上の赤字のタイ語を「げんき」と書いてあると勘違いしないで済んだ。
 そのことにほっとしていたら、「サラパオってのはタイ語で風のことだろう」と、知らないのに知ったかぶりをした人のことを唐突に思い出したのだった。かっこわるい。

 以前、日本の田舎で、数キロ離れた郵便局に行った。田舎のちいさな郵便局だ。子供の頃から利用していたが東京に出てからは疎遠になっていた。何十年も前から見慣れていたおじさんが引退し、三十代の男が局長になっていた。話しかけてみると息子だという。私は言った。「そういえば目元のあたりが似ていますね」。彼は応えた。「いえ、あの、ぼくは婿なんですけど」
 かっこわるい。消え入りたい。「サラパオってのはタイ語で風って意味なんだろうけど」と書き込むかっこわるさもこれに通じる。

 不思議だったのは、タイ関係の人はけっこうしったかぶりするのに、その後、誰もサラパオの意味についてこのスレッドで指摘されていないことだ。ということは、タイ語に詳しい人は2ちゃんねるのそういう見知らぬ人の悪口を言うような場には出入りしていないってことか。なるほど。

 しかしまあよけいなお世話だけど、この看板ではタイ人は店の名前を覚えようがない。だよなあ、これじゃ片手落ちだと思うよ。うわあ、ATOK、差別語の「片手落ち」が出ないようになっている。 片手だと出る。落ちがくっつくととたんに出なくなる。すごいな。



 この写真を撮ったのは01年の6月。サトシとカズヤがチェンマイに来たときだった。もうすぐ2年か。早いね。彼らと一緒にいるとき、この看板を見かけた。
 興味があったのでチェンマイ大学近くのこのマッサージ屋に入っていって質問してみた。どうやら日本人が、タイ人の奥さんに始めさせた店のようだ。日本人旦那は日本にいるらしく留守だった。そう思えば、このデザイン、白地に赤い日の丸である。「げんき」が黄色いのも太陽光でなかなかだ。

 でも日本人の来るような場所じゃないしね。今はどうなったのだろう。当時はインターネット代が安かったのではるばるチェンマイ大学近辺まで出かけたりしたが、今じゃ街中でも安くなったのですっかり行かなくなってしまった。(03/4/14)



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