インターネット論考


    ■メイルの信憑性

 無料で設定してくれるパスワード・サーヴィスを発見し、『作業記録』にCGIによるパスワードを設定したのが03年6月13日。 サトシやカズヤを案じる文を書き始めた。書き上げ、さあ送ろうと思ったとき、インターネット・セキュリティシステムが点滅しつつ警告していることに気づく。何事かと読んでみる。

この宛名は、メーリングリストである可能性が高いです。
メーリングリストの参加者全員に届きます。

 そんなわけでこれは偉大なセキュリティシステム将軍様の勘違いだったようだ。なんじゃらほいと肩の力が抜けたが、これはこれでいい経験だった。果たしてパスワード設定に原因があるのかどうか、とにかくそれ以降セキュリティシステムの警告がやたら多くなったのは事実である。ぼくはパスワード設定後、ほとんどインターネットをやっていない。毎朝六時に接続してファイルをアップし、スポーツ紙を読んで切るだけだから30分も繋いでいない。それなのに今アタックがあったがブロックしたと何度か報告があるのだからかなりのものだ。


 前々からの読者にパスワードを送り、毎日二つ三つ届くパスワード希望のメイルから、礼儀正しいものには返事を書いて(=無礼なものは無視して)一息ついたある日、奇妙なアドレスのものが来た。タイトルは「こんにちは」。差出人はoriental noiseである。「東洋の雑音」だ。なんと怪しいハンドルであろう。
 しばしそれを見つつ考え込む。いま思えば考え込んだだけで不思議だった。そういう怪しいハンドルのものは頻繁に届き、中にはただの案内状なんてのもあったろうが、迷うことなく一瞬で削除し、「受信拒否。今後のこのアドレスからのすべてのメイルを受信拒否する」に設定する。相当数この処理をしている。後にパソコン雑誌を読むと、ぼくの削除したものの中に悪質なウイルスがあったりしたのも確認した。正しい方法だったと胸をなで下ろす。

 今も印象的なのはチェンマイ在住の女性fさんが知らない内にばらまいたウイルスである。ぼくはfさんからのメイルと知りつつも、なんか奇妙な感じがして開かずに置いた。文字化けみたいな奇妙なタイトルだったのだ。数日後に「とんでもないことになって皆さんに迷惑をかけたようだ」というCCメイルが届いた。ウイルスがfさんの業務用パソコンに侵入しfさんのメイルアドレスすべてにウイルスを送りつけたらしい。友人から抗議があって気づいたのだろう。ぼくはさいわいにも開かなかったから感染せずにすんだ。以後も怪しいと感じたものは削除している。

 そういう経験がありながら、なぜそれは削除せず悩んだのか。もしかしたら心の奥、いや脳みその奥に、oriental noiseをどこかで見たという記憶があったのかもしれない。

 とにかく悩んだ。今までメイルの受信でこんなに悩んだことはない。いつものよう削除して以後受信拒否にしようと思う。でもどこか心の一部から「これは削除してはならない」と聞こえるのだ。
 シミュレーション・ゲームをやっていると──といきなりゲームの話になってしまうが──敵なのだが話しかけると味方になってくれるキャラってのがある。それは敵の装いをしていてもほんのすこしだけ色合いが違っていたりする。そりゃまあ作るほうがそう気遣っているのだから当然だ。あらかじめ攻略本を読んでいないとこんなことは気づかない。なんとなく気になりつつも、大勢の中のひとりだから乱戦になり闘い殺してしまう。一度クリアしてから攻略本を買って読むと、それはある条件下で話しかければ頼もしい味方になってくれるキャラだったりする。彼を味方にしなければ手にいれられない貴重なアイテムもあったりする。なんだそうだったのかとリプレイする。攻略本はこういうふうに楽しむべきで最初から揃えてはつまらないというのがぼくの考えだ。
 このハンドルoriental noiseを前にして悩んだ気持ちは、この「話しかければ味方になるキャラなのかどうか迷った時」の気分に似ている。

 思い切って開けることにする。假にスパムメイルだったとしても最新のノートンがついている。一瞬にしてデータを破壊されるなんてことはあるまい。そう思い、それこそ気合いを入れて開けた。
「こんにちは。浦野です」
 最初の一行を目にして脱力する。なんだ、浦野さんか。そうか、oriental noiseってのはチェンマイの無料情報誌「ヴィアンチェンマイ」のメイルアドレスだった。なんだっけ、発刊元がoriental noise社だったのかな。どこかで見たような記憶、というのもあながち間違いではなかった。浦野さんとはチェンマイに行くと飲み屋でよく会っていたが、メイルをもらったのは初めてだった。また浦野さんがぼくのホームページを読んでいるとは知らなかった。もしもチェンマイで会ったとき、そう言ってくれたなら、oriental noiseでこんなに悩むこともなかった。そのアドレスとと浦野さんの連想がもっと早くできたろう。知り合ってからもう十二年になるのだ。

 メイルを読めばそれが本物の浦野さんであることがわかるからなにも問題はない。すぐにパスワードを送り近況を書いた。「最近来てないの?」と問われたから、今年(03)の一月に浦野さんと「三軒茶屋(チェンマイの飲み屋の名前)」で会ってからチェンマイには行っていないと応える。
 それは浦野さんがバンコクに出かける直前に書かれたメイルで、「バンコクについたらまた書きます」とあり、翌日にまたパスワードの礼を言うメイルが届いた。そこにはまるでこちらの気持ちが通じたかのように、タイトルのところに「浦野です」と書いてあった。一通目にこれを書いてくれればパソコンの前で頭を抱えることもなかったのだが(笑)。

 パスワード設定と浦野さんは無関係ではない。ぼくがこんなオロカなことをするハメになった原因の変質者は「ヴィアンチェンマイ」編集部にも、文章の内容が気にくわないと乗り込んでいるのだ。つまり、浦野さんはぼく以前にそいつの害毒に遭っていることになる。顔も見ている。ぼくはそいつに会ったことはない。名前も知らない。そのことを伝えると「あいつが原因だったのですか」とおどろいていた。印象は「不潔なデブという以外、記憶にない」とのことだった。変質者の容姿として「不潔なデブ」はまことに似合っている。そいつは「ヴィアンチェンマイ」の編集長交代を自分がそうして乗り込んだからであろうと誇っているようだが、そんなの関係ないよね(笑)。やはりビョーキの人ってのは勘違い自意識過剰が多い。

ヴィアンチェンマイホームページ
http://www.chiangmai.jp/%7Eviang/

 このことでふと思ったのは、今まで開かずに削除していたメイルの中に、もしかしたらまともなものも何通かあったのではないかということだ(笑)。もしもそうだったらその後送っても受信拒否にされて困ったろう。でもこれは気にしない。そういう書きかたをするってことに問題があるし、本当に連絡を取りたかったらなんとかするだろうと思うからだ。掲示板だってあるし。すくなくともniftyやso-netのようなメジャなプロバイダのメイルを受信拒否にした覚えはない。

 今までもメイルでいやな目に遇ったことはほとんどないし(全部を開いていたらどうなったかわからないけど)、その後もとどこおりなく過ぎている。現在のパスワード制はきわめて快適だ。

 ところでメイルをくれる人にお願いしておきたいのだが──といってもこれは今のところ、すでにパスワードを持っている人にしか公開しないファイルだからここにこんなことを書いても意味はないのだが(笑)。
 「鈴木といいます。パスワードをお願いします」というようなメイルにぼくは返事を書いていない。しかもアドレスはフリーメイルだ。今後も書く気はない。その理由を説明する気にもならない。いくらなんでも失礼だろう。もともとこのパスワードなんてのはどうでもいいものであって、その変質者と縁が切れれば設定の必要もないのだが、そのことと「人としての礼儀を知らない」はまた別になる。よって、礼儀や常識がこちらとかけ離れている人とつきあってもいいことはないと無視している。
 ぼくは筆まめである。ぼくにメイルを書いて返事が来ない人は、自分の側の問題を考えて欲しい。とまあ強気に言い切れるのも、ここを読んでいる人はみんな返事を書いた人だからだ。
(書き始め03/7/1。仕上がり7/29)




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