チェンマイ日記2k秋





 門の近くで「ユキ!」と呼ばれた。振り返る。ナンだった。網を張っていたのだろう(笑)。二年前、深夜のタクシーで実家に連れて行かれて以来の再会になる。

 客待ちの運ちゃん四、五人と、いつものようぶっこわれた机と椅子を道路に並べ、即席の飲み場所をこしらえて飲んでいる。土方の宴会のようだ。
 メコンのソーダ割り。昨日ホテルに着いたときから、何人ものメイバーンやフロア係に声を掛けられ、私が来たのは知れ渡っていたから捕まるのは時間の問題だった。
 近場の屋台でつまみを買って仲間に加わる。これはまあ参加せざるを得ない。


(この台が宴会のテーブルに変身します。)

 いろんな人が次々にやってきて面白い。タクシーの運ちゃん、ガードマン、送迎ワゴンの運転手。 ロットリー(宝くじ)売りが来た。ナンに買ってやるか。おしゃれだね(笑)。でも一枚が95Bと知り高いなあと思う。日本円換算では300円だがタイの感覚なら一枚三千円の宝くじである。高いよね。ナンにプレゼント。当たったらいい思い出になるだろう。

 仕事があるからと席を立つのもいれば、よおよおと新たにやってくるのもいる。互いに名前を名乗り、日本のこと、仕事のことなどを話す。次に来たときには話しかけてくる人がまた増えるだろう。楽しい飲み会だ。


 笑ってしまうのは、こういうとき、必ず英語で話しかけてくる人がいることだ。
 今回も頭の禿げた60歳ぐらいの人がそうだった。ぼくがタイ語で話しているのに彼は英語で話しかけてくる。語彙の少ない下手な英語なので、ぼくに聞きたいことの単語が浮かばず四苦八苦している。タイ語で訊けばすぐに通じるのにだ。世の中に面白い人がいる。どこにでもこのタイプはいる。時間が過ぎる。酒がなくなる。ナンに165Bのタイ製ウイスキーを買わされる。なんて名前だっけ、「金の鷹」だったか、タイ語でなんとかトンである。忘れた。


 まずいウイスキーで悪酔いしたくなかったので部屋に胃薬を飲みにもどる。こんな時のために今回はキャベジンを持ってきている。フロントにファクスが届いていた。後藤さんからだ。ナンのところにもどり、ファクスの返事を書いてくるのでしばらく中座すると言う。

7:45から8:20ぐらいまでかかる。検索エンジンのgooのこと、「雑記帳」が読めてしまうことなど、状況を細かに後藤さんに伝える。プリンターが無事動いてくれてほっとする。印刷も出来た。やはりインク切れだったか。よかった。



 飲み会の場にもどると雨がパラついていた。解散になる。ナンと二人、向かいの市場に行く。
 ビールにしようと思っていた。安ウイスキーは体に悪い。新種のアムステルビールというのが出ていた。赤いラベルカラーと同じ色合いの服を着た可愛い娘が、アムスビールの注文者にだけテーブルを巡回してお酌をしてまわっている。タイ版バドガールだ(笑)。キャンペーンの一環だろう。


←アムスビア

 カンボジアのプノンペンを思い出す。あそこにはビールやワインのキャンペーンガールが店中に何人もいて、それを見ているだけで飽きなかったものだ。

 彼女と話す。ラーマカムヘン大学の一年生で愛称はメオ(猫)だと言う。ロゴ入りの赤いTシャツに白のミニスカート、ストッキングに黒の皮靴。素足にサンダル履きが多い小汚い市場でのキャンペーンガールだから妙に浮き立って可笑しい(笑)。で、掃き溜めに鶴だから、めちゃくちゃ目立つ。しかも私が異邦人だからか、他のテーブルよりもこまめにお酌に来てくれる。うれしい。でも美しい娘が近寄って来て、私の目が輝いているのが解るからナンはおもしろくないと、楽しめる要素がてんこ盛りである。

 メオに聞くと、アムステルビールはその名からも解るように、オランダのハイネケン廉価版らしい。廉価なビアチャンの攻勢に、王者ビアシンも系列会社から廉価なビアレオを出して対抗した。ハイネケンも廉価版のアムスを出したということはビアチャンの攻勢は続いているのだろう。がんばれビアチャン。





 見たことのあるおばさんが子連れで加わってくる。今回プリンスに来た時、最初にユキと声を掛けてきたメイバーンだ。ノイという名と知る。忘れていた。

 だいたいがナンの名前ですら忘れていて、声を掛けられてから、誰かが彼女の名前を呼ぶまでじっと話しかけずに待っていたほどなのだ。名前を覚えているのと忘れているのでは再会の印象にだいぶ違いがある。名前を忘れていて彼女に不愉快な思いをさせたくなかった。たれかがナンと呼ぶのを聞いてから、当然のようにぼくもナンと呼びかけたのだった。

 ノイと話している内に、そういえば以前よく焼き肉屋でご馳走した顔だと思い出す。

 ノイには十歳の息子と六歳の娘がいる。種違いだ。息子の父親は日本人。交通事故で死んだという。色白のハンサムな少年だ。娘の父親はタイ人だが、これも死んだという。死因は話さなかった。ノイは色白だが娘は黒い。亭主の黒が出てしまった、ついてないと娘の前で平然と言う。教育上よろしくないのではとこちらが気にする。もう男はこりごりだと言っている。男運が悪いのだろう。

 そういえば、さきほどのホテル門前での飲み会には乳飲み子を抱えた48歳のメイバーンが参加していた。孫かと思ったら彼女の5人目の子だという。元気な人もいる。

 ナンは亭主とプリンスホテルの同僚として知り合い、十年間の結婚生活で二人の子を作って別れた。二年前、乳飲み子だった娘が今、可愛い盛りで駆け回っている。
 ナンが好き勝手に注文し、子供達にも食わせて、アムスビアを三本飲み、可愛いメオに何度もお酌してもらって550B。午後11:00になったので解散とする。続きをナンの部屋でと誘われたが、明日から中国だからとやんわりと断る。

 さあて、明日からは景洪だ。


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