チェンマイ日記2002秋

TGのシート
のシート


 成田空港。
 どこに行くにもaisle seatを頼み断られたことがなかったので、いつでもリクエストすれば叶えられると思っていた。特に中国やタイでは假に席を指定する人がいても窓際希望が多いからまず通路側は坐れる。飛行機に乗り慣れてくると、トイレに行ったり、足を投げ出したりするのに通路側のほうが楽であり、こちらを好むようになるのは理の自然である。
 ないと言われる。中央席のさらに真ん中と、大嫌いな最悪の席になった。これはチェックインが遅れたせいだろうか。出発が11:00だからチェックイン開始は9時、恥ずかしいことに通い慣れた駐車場に行く道を迷ってしまい(書いていても赤面する)駐車場の受けつけに着いたのは九時四十分ぐらいだった。チェック・インしたのは十時ぐらいか。かなり遅い。時間に餘裕を持って家を出ていたし、不便で有名なかの空港まで想像を超えて近いので(かなり羨ましがられる環境だ)遅れはしなかったが、これが時間のないときだったらどうなったことだろう。あらためて病的な方向音痴だと知って落ち込む。

 aisle seatが取れなかったのはそのせいだろうかと考えていたら、以前後藤さん(ホームページ「チェンマイのさくらと宇宙堂」主催者)が予約の段階で席まで指定すると言っていたことを思い出した。とにかく行き当たりばったりで生きてきたので一切そんなことをしたことがない。通の人がよくやるようにスチュワーデスと向かい合いになるドア近くの前列とかそんなことまではともかく、せめて通路側ぐらいは指定してもよいのではないかと最悪の席になってから思った。そういうときのための一年オープンチケットである。
 それでしばらくご無沙汰している後藤さんに電話する。

 妻の査証が不交附になったことを心配してくれている後藤さんは、その後も法務局内部に詳しい人に状況を訊いてくれたりしたらしい。なんでも中国人の密航と犯罪が激増しているため、特別な推薦がある場合はともかく、私のような一般的な申請はとりあえず一回目は落とすことにしているらしい。今になって自分の書類の書きかたを反省しているので落ちたことに関しては、書類の書きかたにこちらにも非があったなと思っているのだが、これを聞いてさらに楽になった。それが事実であるのか、私を励まそうとした後藤さんの作り話なのか、そんなことはどうでもいい。心遣いがうれしい。ともだちとはありがたいものである。



 私の場合つらいのは、妻がそういう事情を理解しがたいことである。日本では中国人犯罪が激増し、いま中国人が日本に来るのはとても難しい状況になっているのだというような諸事情を私なりに中国語とタイ語をごちゃまぜにしつつ、一所懸命乏しい言葉で説明しても妻には正確な状況の把握ができない。一通り説明を聞いた妻に言われた。「こっちのテレビでも日本人は悪いことばかりをしている。みんなは日本人を悪い人だと言う。でもそれはあなたと私には関係ないことだ。だからあなたも中国人を悪い人だと思わないで欲しい」と。

 それはわかっている。その通りなのである。妻の言っているのはテレビドラマの話だ。極悪人の日本兵隊が中国人を殺し回っているところに正義の中共軍が現れ助けてくれてめでたしめでたしという、かつてハリウッドが得意としていたインディアンと騎兵隊のようなドラマ(今は反省したらしく一切しなくなったが)、あるいは極悪のドイツ軍を連合軍がやっつけるような映画を、中国では今も毎日のように流している。日本人は極悪人なのだ。妻の家族と一緒にいるときにそういう場面になり、あちらが気を遣ってくれて気まずい思いをしたことも一度や二度ではない。
 しかもそれがいかにも中国らしい作り話なのである。支那人にはつい最近まで人食いの習慣があった。天安門事件の時も問題になっている。それを日本人にもあてはめて作り話をする。過日読んだ中国人が書いた本に、「中国では宦官を作るときに玉を取るが日本では竿を切る。果たしてどっちが残酷であろうか」なんてのがあった。日本にそんな習慣はないって(笑)。一緒にしないでくれ。

 今度は支那を庇うような言いかたをするが、かといって私は人食いの習慣を否定はしない。そういうのも〃文化〃だと思う。殺した相手の肝臓や心臓を食い、その勇気を体内に入れる、あるいはあまりの憎しみのあまり食ってしまう、それはそれで民族それぞれのやりかただろう。ただ彼我の差を無視して自分らのそれをいかにも日本人もそうであるように押しつけられるのはごめんだと思うのである。中国の戦争をテーマにした安っぽいドラマを見ていて思うのはそういうことだ。

 それでも私の場合は、じいさんが日本人に殺されたような記憶のある漢民族ではなく、戦争に参加していない少数民族なのでまだまだ気楽なのであるが、それはともかくとして。
 妻の言っている中国人と日本人に関する正論と、私の今言っている「こんにちの日本における中国人の犯罪激増、査証交附の難儀」は別問題である。だがここのところの「悪い中国人」という意味が妻にはちょっと難しい。「両国とも仲良くしましょう」の基本論しかわからない妻とこれ以上の話は出来ない。新宿あたりの中国人極悪犯罪や、世話になった人を平気で殺して行く支那人の人非人ぶりを説明するには、私の語学力は足りないし、假にそれが十分であったとしても、田舎の農民である妻には理解しがたいことだろう。困ったものである。来日すればわかることだが。

 中国や韓国の教科書を見ると愕然とする。あんなことを小学生の時から刷り込んでいたら日本と仲良くやることなど永遠に出来はしない。日本の小学校の教科書に『裸足のゲン』を載せているようなものだ。私は義理堅く礼儀正しい韓国人が大好きなので、どうにもあの国の政策が残念でならない。仲良くなれないよ、あんな教育をしていちゃ。逆に言えば、あれだけの反日教育を子供の頃から仕込んでも、それでも日本に憧れる若者が数多くいて、親しくもしているのだから、まともな政策になったら両国はどんなに仲良くできるだろうと思う。ただ歴史的に、長兄(親)の中国に対しては服従しても、そこの知識を教えたやった弟の日本に屈辱を強いられた意識のある兄の傷は永遠に癒えないだろうが。
 中国人(この場合、正しくは支那人)は感覚的に日本人とは別物と認識しているのでどうでもいいが、韓国人は大好きなのであの教育方針にはどうにも納得できない。



 TGの椅子席について書こうと思っていたのに日本と中国の話になってしまった。本題にもどって。

 いやはやこの飛行機のシートが酷かった。最悪である。今までにずいぶんとひどい飛行機に乗ったが私的には最悪になる。
 3−3−3配置の中央席の真ん中であった。TGの国際便であるからして機体は古くない。飛行機に詳しい人に教えて欲しいものだ。これはなんという機種であり、このようなデザインになったのはいつからなのだろう。席が狭い。それはまあエコノミーだからしかたないとしてもシートデザインが最悪だった。シート自体は真新しい。これの枕の部分、ヘッドレストとでも横文字を使ったほうがいいのか、これが出っ張っているのである。だから狭いシートで普通に座っていたらそのヘッドレストにアタマを押されて前屈みに、つまり猫背になってしまうような感覚なのだ。頭は後ろに倒したほうが快適だ。それが倒すどころかヘッドレストに押されて、ただすわっているだけで前屈み状態なのである。

 このふかふかの出っ張りヘッドレストは、それこそファーストクラスあたりのフルフラットシートでもあったなら快適な枕になるのだろうが、リクライニングすることすら難しい狭い狭いエコノミー席では無用の長物どころかマイナス効果である。可能な限りリクライニングすればいくらかはマシだったかもしれない。でも前席の人が倒してこないので私もしなかった。

 安定飛行になるやいなや思いっきり倒してきて、食事の時でも起こさない無神経な人がいる。やられていやなことをするなが私の基本なので、前席の人がしないのに、私だけ後方の人に迷惑を掛けることは出来ない。よってこの六時間のフライトは猫背のように前屈みになったままの最悪の時間となった。俯き加減で本を読んでいるときはまだいい。食事の時や、すこし眠ろうかと思ったときが酷い。なにしろ背筋を伸ばして坐った状態で前屈みなのだ。うとうとすら出来なかった。真ん中の席ゆえ、二度トイレに行ったが、そのときも隣の席の人に立ってもらい(あまりに狭く、前をまたぐことが出来なかった)通路に出るのが申しわけなかった。いつも通路側なので私が譲るほうである。譲ってもらうより譲るほうがずっと気が楽だ。

 これでこの後もそれが続いたなら私の入手できる飛行機席の環境がその程度なのだとで諦めざるを得ないのだが、それは違っていた。チケットはチェンマイ直行便のような形だったのでバンコクで一時間ほど待ち、チェンマイへの国内線に乗り換えた。この国内便は今までのTGと同じように快適だったのだ。席は3−4−3配置の4の左端だった。なんの不満もない。さっきまで乗っていたのより足元も広いし、いやなヘッドレストもない。リクライニングはしなかったけど猫背になるようなこともなかった。それは私の大好きなTGのシートだった。やはり今回初めて経験した成田バンコク便のシートがヘンだったのである。しかもそれが新しいのが問題だ。つまり、今後それに統一されるおそれがある。



 この後、チェンマイから景洪(じんふぉん)へバンコクエアウェイで飛ぶ。上掲写真のプロペラ機。席は2−2である。小さなプロペラ機を見ると不安になる人がいるがそれは違う。万が一のときプロペラ機は滑空できる。その点ジェット機はなにもできない。まあ飛行機は、万が一の場合は最悪のことを覚悟すべきだが、それでもジェット機よりはプロペラ機のほうが遙かに助かる確率は高い。なにしろジェット機はなにかあったらもうただの鐵の固まりでしかない。プロペラ機は紙飛行機のようにいくらか滑空できる。セスナ機のほうがずっと安全である。そんなわけで私はかなり小さなバンコクエアウェイのプロペラ機に不安になることは全くない。
 この飛行機の席もよかったのである。なんの不満もない。やはりどう考えても今回乗った国際線TGがイヤなシートだったのだ。



 次回のチケットも成田・チェンマイ直行のTGチケットを買った。いつものように夜便である。このときちょっと逡巡した。帰りもあのシートなのかと不安になったのだ。それを思うと今から憂鬱になる。確かなのは、私が今まで気に入っていた機体よりも、あれのほうが新しいことだ。快適だったバンコク・チェンマイ間のシートが今後不快なあれになることはあっても、逆はありえない。
 それにしても不愉快である。あのようなものを設計する人間は、実際にエコノミー席に長時間座って確認したのだろうか。今までよりも厚みのあるクッションのヘッドレストを作り、それでサービス向上のつもりかもしれない。でも現実には狭いエコノミー席で前屈みのような状態にする非現実的なデザインでしかない。

 もしも今後TGの席がこれに統一されて行くのなら私はもう乗らない。バーツ下落以降、目に見えてサーヴィスは落ちている。私の場合、元々サーヴィスなんかどうでもいいほうである。重要なのは「いやなことをしてくれるな」であり、不愉快でさえなければそれで満足なのだ。最低限くつろげる足もと空間と、六時間座って居眠りが出来るシートがあればそれだけでいい。おいしい食事やワイン、美しいスチュワーデスの笑顔を望んでいない。逆に何が揃っていようと席が基本を満たしていなかったら最悪になる。今回のTGはそれだった。今後あれに統一されるのだろうか。
 悪い予感が当たらなければいいが……。(02/10/3 景洪)




 帰りの飛行機は、チケットはTGだがスターアライアンスだったかなんだかにそんな名前の相互乗り入れをしている全日空機だった。このシートにも不満はなかった。やはり行きのTGだけが不快だったことになる。
 近いうちにまた行かねばならない。買ってきたチケットはTGであり時間も同じである。またあのシートだったらイヤだなと今から憂鬱になっている。乗れる日を楽しみにしてわくわくしていたTGに対してまさかこんな感情が芽生えるとは夢にも思わなかった。きっとまたあれだろうなあ……、ため息が出る。

 帰国するときまたチケットをチェンマイで買ってくることになる。好みの時間帯はTG以外ではJA.Lしかない。これはちと高い。いやほとんど同じかな。安くて好みの時間にはエア・インディアがあるが、どうにもこの齢になるとあのインド大好きのチャラチャラしたアンチャンネーチャンと同席するのは気が滅入る。耳輪や鼻輪、舌輪を見ると「おまえは牛か」と言いたくなる。似合いもしない金髪を見ると、扁平な顔を金髪はより扁平に見せてしまってみっともないのに、センスのないやっちゃなと思う。染髪を否定しているのではない。おしゃれは自分をよりよく見せるためにするものだ。扁平顔のモンゴロイドに金髪は似合わない。

 人間は年を取れば誰でも気むずかしくなり好みがうるさくなる。気に入ったものでなければ満足できなくなる。そのために年を取ればそれが可能なだけの収入を得られるように世の中はできている。気むずかしい年寄りは快適な環境のファーストクラスで行く。細かいことを気にしない貧乏な若者は安チケットのマイナーエアラインで、それでも意気揚々と行く。それで釣り合っている。
 年を取って気むずかしくなったのに、それを満足させられるだけの収入がなく不似合いな場にいなければならない人間が不快な目に遭うのは仕方のないことなのだ。と自分を納得させつつ激しく落ち込む(笑)。ビジネスクラスでもちと財布にきついものなあ。ファーストクラスは遙か彼方。
 問題は遭わざるを得ない「不快な目」のどれを選択するかだ。今の私なら、あのシートに坐るならエア・インディアのほうがまだいい。それぐらいイヤな思いをしたシートだった。
(02/11/14 日本)




 02年12月に同じくTGでチェンマイに来たらいぶさんから、「ほんと、あれひどいですね」との感想を聞いた。ヘッドレストが出っ張りすぎで、らいぶさんもスチュワーデスに、これは外せないのかと抗議したそうである。私だけの感覚ではないのだと確認できてほっとした。
 その後、私は運良くその形のシートに座ったことはない。もちろん坐りたくはない。あれ以来、飛行機に乗るとき、まさかあんなのではないよなと座席に対して脅えるようになってしまった。実際に坐る人の気持ちを考えず、あんなものを作った人の罪は深い。
(03/2/10 秦皇島)


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