週末の下見──2004/4/1

 いかにも春らしいのどかな午後。週末にドライヴ旅行でこちらに来るらいぶさん一家と遊ぶための下見に出かける。
 まずは水郷十二橋巡りの乗り場の確認に行く。以前父と教え子一家との交遊の際についていって乗ったことがあった。水郷がいちばん華やぐアヤメ祭りの頃だった。出かける前、父に「あの遊覧船はあの時期だけではないか」と言われて不安になる。たしかにまだ船に乗る陽気でもない。

 潮来に向かう道すがら、たんぼの菖蒲を見て妻に質問される。端午の節句の菖蒲湯用に栽培している菖蒲だ。たった一日限りの出荷が勝負(あらダジャレに)だがいい現金になるらしい。これまた金になるからとみんなが作ったら値崩れし、かといって翌年止めたら続けていた人がよい値で売ったとなり、勝負度合いが難しいようだ。
 父母の親しい人から売れ残りをもらい毎年菖蒲湯に入る。東京にいたときは無縁だったし、田舎に帰るようになってからも五月の連休時は毎年チェンマイだったから、この十数年で入ったのは二三回か。それも近年だ。元々ぼくの外国通いは盆と正月、五月の連休に兄一家が帰ってくるので居場所がなくなるということから始まったものだった。
 果たして妻にうまく端午の節句と菖蒲湯を説明できたかどうか。菖蒲湯はほのかな菖蒲の香りが楽しいが、入浴感としては、あの葉はかたくチクチクしてワイルドである。
 端午の節句といえば女性差別だと廃止するよう働きかけている団体がある。桃の節句はいいそうで、なんだか壊れたのが増えてきた。都会で菖蒲湯を楽しむ人の感覚を称えたい。

 水郷巡りの船は今も動いているのを確認した。しかし高い。一艘5人乗りで7000円ほど。時間は50分ぐらい。観光地だからそれほど高くもないのか。どうも安い国での感覚が身についている。
 土手の桜が七分咲き。きれいだ。去年妻はきょう、四月一日に帰った。ぼくが日本の大好きな風景として前々から語っていた日本のさくらを見られなかった。二月三月になると一斉に桜特集の本が出る。妻は咲き誇る見開きのカラー写真を見ながらまだ見ぬ風景に憧れていた。昨年はずいぶんと今年より寒かったのだろう、というか今年が異様な暖冬なのだが、残念ながら桜は見られなかった。それが昨年唯一の心残りになる。初めての日本、ストレスもたまっていてその辺が滞在の限界だったから仕方がない。今年はもう丸四ヶ月を超えたが、定期的なぼくとのケンカを除けば、しっかり日本になじんでいる。そのケンカもつまらないことですねて泣いて喚いて、それがおわればスッキリしているからガス抜きとしては有効なのだろう。むしろ尾を引くぼくのほうが問題だ(笑)。
 今年、妻と一緒にやっと念願の桜が見られた。こんなうれしいことはない。

 とりあえず、この潮来の船遊びをしっかり下見すれば、あとの鹿島神宮案内、大洗、水族館、水戸の偕楽園と、この辺は目をつむっても案内できるぐらい詳しいから問題はない。これで一安心。



 らいぶさん一家とドライヴ旅行@──2004/4/3
 昨夜の大嵐がやみ、なんとか晴天になった。ほっとする。
 8時に東京を出発、10時頃潮来着かと思っていたら、道が空いていたとかでらいぶさんからもうすぐ着きそうだと連絡が来て焦る。父母の布団を干したり洗濯をしていた妻もあわてている。あわててはいるがたまのお出かけだから中国から持ってきた一張羅を着て出かけたいらしく着替えに時間がかかる。
 待ち合わせ場所の「道の駅 いたこ」に着いたのは10時10分頃。らいぶさんもゆっくり走り10時頃についたというからたいして待たせずに済んだようだ。「道の駅」で待ち合わせてよかった。下調べのお蔭である。これが「高速の出口」で待ち合わせたなら(10年前のM先輩一家のときがそうだった)もっと焦った。

 「春爛漫、船上の父と息子」

 「道の駅 いたこ」でひさしぶりの奥さんと子供たちに挨拶。昨年のディズニーランド以来一年ぶりになる。
 まずは鹿島神宮に参拝。雨上がりの杉古木がうつくしい。

 水郷十二橋巡り。観光地ズレしていて頼んでもいない記念写真を撮ったりする姿勢を嫌い、最短の4500円30分コースを選ぶ。意外に子供たちも喜んでくれ、あとで6500円70分コースでもよかったかと話す。
「猿女、桜に上る」
 近くにある湖畔の桜並木で記念写真を撮る。スカートにハイヒールの妻はそれでも難なくするすると木に登り、得意満面のポーズを決める。まさに野生の猿。彼女が満開の桜に触れる機会はしばらくなくなる。この写真は貴重だ。
 大洗。海水浴場のフィールドアスレチックで子供たちが遊ぶ。妻は一緒に遊びたいのにスカートでハイヒールなのでできない。だから私はズボンにしろと言った。こんなところに来るとわかっていたらそうしていたとふくれている。
 水族館に着いて4時。水族館に入ろうと思ったら5時閉館とのことなので明日にする。入館料はひとり1800円もするし呼び物のイルカショーももう終っている。
 マリンタワーに登る。春曇りで期待していたほど見晴らしはよくない。妻はより高い六本木ヒルズ(最近回転扉の事故で話題になっている)を先日経験しているので思ったほどよろこんでくれなかった。
 夕方から急激に冷え込んできた。浜辺に行ったが風が強く、とてものんびりと遊べる情況ではない。自然に強い野生の妻が物陰に逃げ込んでしまったほどだ。これもおしゃれの薄着が響いた。

 ファミリーレストランで食事をして7時半解散。
 先日の『週刊文春』『お言葉ですが…』に高島さんが書いていたファミレスをホームレスと同様にファミリーが「レス」の意味だと思っていたという話は、それがたくまざる批判になっていて笑った。本物のファミリーがあればファミレスには行くまい。
 と言いつつ行ったのは、大洗の名物は磯料理──単純に言えば生魚──であるがタイ人の常としてらいぶさんの奥さんがそれを好まないからであった。私の妻も好まない。タイ人とはいえバンコクに住む日本人とつきあい慣れたオネーサンなんかには刺身大好きがいるらしいが現実はまだほど遠い。私が云南に住んでいちばん飢えるのがこれであることもまた間違いない。気が狂うほど恋しがるだろう。考えるのはやめよう。

 春休みであり最後の週末ということもありホテルはどこも一杯。飛び込んで断られたホテルで「どこも一杯だと思いますよ」と言われ焦る。本来私の家の離れに泊まってもらうつもりだったが急遽兄夫婦が来たためふさがってしまったのだ。
 なんとか観光協会で民宿を探してもらいそこに行く。ほとんどやけくそだったが案に相違してこの民宿は部屋数の多い新築家屋で値段からは考えられないほどのよい環境だった。私が一昨年の能登旅行で泊まったところにこんなリーズナブルなところはなかった。
 帰宅8時半。明日朝は9時に民宿に行く予定。

 


 らいぶさん一家とドライヴ旅行A──2004/4/4
 昨夜は帰宅して10時就寝。これはもう前日がほとんど徹夜だったのですぐに前後不覚。目覚ましをかけ午前1時に起きてプロレスを見る。そのあと上記のようなダウンロードをやっていたのでまたほとんど徹夜になってしまった。完全夜型の生活が尾を引いている。昼に起きて朝に寝るのと違い(これは単なる生活逆転)朝に起きてその日の夜眠らないと(これがほんとの徹夜)疲れる。これでは体が持たないと朝6時にもういちど休む。まして命を預かる運転をせねばならない。預かる命とは妻ばかりではない。睡眠不足で事故を起こしたなら他人を巻き込んでしまう。それがクルマの怖いところだ。またこちらが正しくてもあちらがそうでない場合もある。それに即座に対応できるためにも睡眠時間は必要だ。
 8時に起き9時にらいぶさんの待つ大洗の民宿に行く予定だった。目覚めたらもう8時半。これはあまりに疲れているようだからと先に起きていた妻が起こさなかったのである。妻にとって友人との約束の時間をきっちり守るより亭主の体のほうが大事なのだ。それはやさしさではあるが大事な用件のときこれをやられたらたいへんなことになる。このへんはきっちり教えねばならない。

 9時にらいぶさんの民宿に電話をし遅れる旨を伝える。もう出かける用意をしていた。申し訳ない。10時にしてもらった。餘裕を持っての時間設定のつもりだったが春休み最後の日曜日と小雨模様となり道路が混む。大洗近辺は他県ナンバーで渋滞と呼ぶほどの情況になっていた。待ち合わせ場所の大洗水族館(え〜とアクアランドとかそんな名がついている)に着いたのは10時10分過ぎだった。

 春休み最後の日曜日とあって場内はたいへんな混雑。まして昨日と一転して雨交じりの冷たい風が吹く悪天候。磯では遊べない。ここしかない。ここがあって助かった。
 10時半に入場し、ゆっくりと見て回る。水槽のガラスが球面体になっている。睡眠不足の私は無理矢理ケント・デリカットのメガネをかけさせられたようでめまいがする。頭が痛くなってしまった。こんなこともめったにないので気になる。病気知らずはほんのすこしの不調でおろおろする。

 12時からアザラシとイルカのショー。早くも11時半から順番待ちの列に加わる。らいぶさん一家にもよい席を取ってやろう。と書くと気合いが入っていたようだがケント・デリカットのメガネで気持ち悪くなってしまい見て回るどころではなかったのである。

 写真は空中回転ジャンプをしたイルカの姿を撮った平凡なものだがタイムラグのあるデジカメだから取り損ないがいっぱいありうまく撮れた珍しい一枚。ジャンプを見てシャッターを押すのではもう遅いのだ。写るのはイルカの消えた波立つ水面だけである。飛び上がりそうだというときにもうシャッターを押さねばならない。とはいえ広い水槽のどこから飛び上がるかわからない。ファインダを覗きながら、そろそろこの辺か、と思うあたりで勘で押す。なかなかうまくゆかない。いま確認したら20回ほどシャッターを切りイルカが写っていたのは2枚だけだった。撮れただけでよしとしよう。

 雨が降り寒いので偕楽園等をすべてあきらめて屋内で遊ぶことを考える。ひどい天気になった。
 雨模様の中を1時間ほど走り、私の地元のファミレスに行って食事。田舎の食堂(大洗は観光地なので別格)に食うべきものはない。ラーメン等もその辺の食堂に入るなら「どさんこ」のようなチェーン店に入ったほうが安心できる。なんでもそろっていて便利ではあるが外国からの冷凍素材を解凍するだけのお粗末な場所であるファミレスも田舎では名所になる。春休み最後の日曜は家族サーヴィスの順番待ちで大にぎわい。ノートに記入して順を待つ。なさけない。でもらいぶさん一家と楽しく食事をできるのはこの田舎町ではここぐらいしかない。このまま待つのもあまりに惨めなのでその間、評判のよいそば屋などを見て回るがどこも満員。しかたなく待つことにする。まあファミレスと言うだけあって子供のいるときには便利だ。

 田舎のボーリング場に行く。十数年前にできたここに来るのは初めて。なにしろ田舎でボーリングをやるなんて三十年ぶりぐらいだ。かつての大ボーリングブーム以来になる。妻は初体験。これは《千妻一遇──云南妻話》に書こう。
 学生時代かなり凝り、200UPは毎度のアベレージ180まで行き自信をもっていた。それが二十数年ぶりにやったらガータ連続の70点でしかなく、あまりの悔しさに気が狂ったようにチェンマイで猛練習し(一ヶ月間毎日10ゲーム以上投げ続けたのだからバカである)最高222点までもどった腕前は、三年後のきょう、ごく普通の120点になっていた。でも70点のときのようには悔しくない。練習すればもどるのがわかっているからだ。チェンマイの定年餘生組にも70歳過ぎて上手な人が何人もいる。ボーリングはゴルフと並んで年寄りでも遊べるようだ。
 妻と卓球をした(笑)。これも別に書こう。
 ガータ防止柵が両サイドについているレーンが空くのを待ってらいぶさんの子供たちも遊ぶ。
 遊技場だから100円コインで遊べるゲームがたくさんあるのだがらいぶさんの子供は決してそれをねだったりしない。しつけがよい。

 風呂に入りに行く。海の見えるスパ施設がある。あの「ふるさと創生資金」で作ったのだったか。数少ない成功した施設になる。私が行くのは二度目。できたばかりの頃以来。ここは喜んでもらえる自信があったので最初からコースに入れていた。残念ながら雨降りになってしまい露天風呂からは暗い海が見えるだけだ。それでも温かい室内風呂から館外の露天風呂に行き、冷たい雨にふるえながら温かい湯に入っていると、山峡の山猿のような気分になりなかなか乙であった。ここはらいぶさん一家も妻も喜んでくれたようだ。天気に恵まれたならもっともっとよかったのだが……。

 スーパーマーケットで食料品とビールを買い込み我が家へ。離れに泊まってもらう。
 奥さんと子供さんがドリフターズが大好きと聞いていたので、ドリフはないが志村けんのヴィデオがあったことを思い出し部屋のヴィデオラックから探して持ってゆく。喜んでもらえたようだ。志村けんは外人に最も人気のあるコメディアンである。ドリフもらいぶさんの奥さんや子供たちが涙を流して笑い転げていたというからわかりやすいのだろう。そういう形で見直す人もいる。

 9時に解散として母屋の自分の部屋にもどる。スパで暖まっていたし、ひさしぶりにビールも飲んだし、ここでぐっすり眠れば明日は順調だったのだけれど、どうしても昼間さわっていないパソコンに手が伸びてしまう。またも夜更かし。寝るのは明け方になっていた。




らいぶさん一家とドライヴ旅行B
──2004/4/5

 9時出発。晴天。今回のらいぶさんの旅行日程である三日間の中では最高の天気。
 父母にらいぶさんが挨拶。父が見送ってくれる。まったく我が父ながらえらいひとである。なにしろ歩くのに不自由するぐらい体は弱っているのだ。それが門まで歩いてクルマに手を振ってくれる。

 銚子の犬吠岬灯台へ。クルマの中にいるとぽかぽかとしたのどかな天気なのだが房総の突端は風が強すぎて灯台に登るところではない。
 ここは子供の頃から馴染んだところで大好きな景色になる。子供たちと一緒に灯台に登れなかったことが残念だ。(と思っていたらのちに妻かららいぶさん親子が登ったことを聞く。そういえばこういう写真を撮っているとき見失った空白の時間があった。)

 九十九里有料道路へ。通称波乗りサーフィンロード。今回が二度目。最初に走ってからもう十数年か。先日J-Waveにここのことを書くときは走ったことがあるのが役立った。
 ここは高速道路ではない。単なる有料道路である。よって対面通行。でも海岸沿いのまっすぐな道だからみな100キロ以上で走る。高速ですれ違う対面通行は怖い。タイの田舎の日本の高速道路よりも広くて別車線の普通道路を思った。タイをドライヴ旅行したいものだ。ひさびさの外国への憧れ。

 途中すこしだけ海辺で遊ぶ。とにかく風が強すぎる。寒い。それでも、土曜日の大洗もそうだったが、らいぶさんの子供たちがなんてことないありふれた貝殻を拾って喜び、大事そうに持ち帰るのを見ると心が和む。なんでもそろうチェンマイの都市部に住み実際お父さんのお蔭でなんでももっているけれど、それとはまた違う感性を子供は持っている。ほのぼのする・
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